Side 無月
「霧雨無月くん。君を迎えに来ました」
白騎士事件から3年。俺の家に突然の来訪者が訪れた。年は生きていれば俺の両親と同じくらいであろうか?整った顔立ちをしており、目には力があった。
「話の意図が見えませんね。目的はなんです?」
ここに来た目的がわからない。そして突然迎えに来たという。こんな人は見たことがないし、俺を連れていく意味もわからない。俺は警戒レベルを上げる。
「私は北条雪人。3年前に亡くなったあなたの御両親の親友です」
「っ!?」
どういうことだ?父と母さんは確か研究者だったらしいが、仕事の内容を詳しく聞いてはいなかった。それにこの北条さん。親友とは一体どういうことだ?俺は一度も会ったことがない。
「わかりました。とにかく上がってください」
俺は詳しい話を聞くために北条さんを家に上げることにした。
「―――そうだったんですか」
「ええ」
父は最先端科学の研究を目的とする研究所・ミラージュの所長だったそうだ。相当な規模を持つ研究所らしく開発した技術の特許を用いて研究費は自分達で稼ぎ出していたようだ。
「それで、なんで俺を迎えに来たと言ったんですか?」
「春斗と優菜から君は特別な能力を持っていると窺ったことがあります。君ならばISが動かせるかもしれないと我々は考えております」
ISは女しか動かせないとされている。だが、特別な能力を持っている俺なら、と考えたそうだ。そしてそれは正しい。だが、知らない振りをするべきだろう。
「それはわかりませんが、どうして俺なんです?」
「私達は春斗と優菜を慕っておりました。あのような事件で亡くなったのは心が痛む。その忘れ形見であるあなたをずっと気にしていたのです」
「・・・もし動かせなかったら?」
「それでも構いません。ただ、我々はあなたを放っておくことができないのです。だから私たちの所に来てくれませんか?」
父と母はここでも慕われていたらしい。ならばついて行くしかないと思う。俺も北条さんには不快な思いは抱かなかった。
「わかりました。行きます」
「では参りましょう」
俺は北条さんが差し出した手を取った。俺も専用ISが手に入れたかったからこの申し出は渡りに船だ。引越しの手続等は任せていいようだ。と言ってもあの事件以来学校にも言っていない俺の荷物なんてたかが知れているが。
そして俺は北条さんが乗ってきた車に乗り込みミラージュに向かった。
◇
Side 無月
車に乗ること3時間。連れていかれたのは、田舎も田舎の山間部だった。そして田舎には場違いのような大きな建物があった。
「あそこがミラージュの研究所です」
「・・・すごく大きいです」
田舎だからだろうか?東京ドーム何個分かという広い敷地だ。中に入ると偉い?人達に挨拶をした。どの人も父さんと母さんのことを慕っていたと言っていてなんだか嬉しかった。
早速ということで試験用のISがある部屋に連れていかれた。
「では無月さん。触れてみてください」
目の前にあるISをみる。色はグレーで全体的にごつごつしている。これは第1世代の試作機・雫。量産機のモデルとなったISだ。俺はそっと雫に触れようとする。
キュウウウンッ
「おお!これはまさに」
見ていた研究員が一斉に声を上げる。当然だ。俺はISを起動させ装着しているからだ。女にしかできないとされたISの装着。研究者から見れば歴史的快挙だろう。俺はISを解除する。こんなところで飛びまわるわけにはいかないからな。
「無月くん。やはり起動できましたね」
「ええ、俺も驚いています。ただ、このことは公表しないで頂けますか?政府のモルモットになるのは嫌なんで。政府は死ぬほど嫌いですから」
男でISを機動できたとなれば飛びつく輩は多いだろう。非合法の手段を用いてやってくるかもしれない。あれから相当修業をしているとはいえまだ安心できない。
「わかっています。我々もそのようなことは耐えられませんから。それでは専用機を作り始めてもよろしいですか?」
「ちょっと待って下さい。これから俺の能力をお見せします。その能力の使用を前提としたISを作って欲しいんです。それと専用機を完成させるのは俺が14歳になるまで待って下さい」
「・・・どうしてまた?」
これはずっと考えていたことだ。IS学園。おそらくあそこが本来の物語の舞台となるはずだ。でないとISに乗れても仕方がない。わざわざ各国の干渉を受けない云々と謳っている場所だ。きっとそこから物語が始まる。
「俺はIS学園に行くつもりです。その1年前に作っていただければ学園での試験稼働という名目もできます。それに俺の能力はたぶん・・・いえ、必ずみんな研究したがります。それを応用した技術を開発して役立てて下さい」
「いいのですか?これは実験データを取られるということに関してですが。言い方は悪いですが、無月くんが先ほど言っていたモルモットと相違ないように思えますが」
確かにそうだ。しかし、能力を思う存分使える実験は俺の力の向上にもなるし、最初から見せておけば隠れてこそこそ修業しなくても良い。死ぬような実験をされなければ俺にデメリットはない。
「問題なしです。それに俺がISを動かせることや能力を持っていることを隠しておいてもらえるなら喜んで実験をしますよ」
「わかりました。今日はもうお疲れでしょう。明日からデータを取らせていただきます。情報については安心してください。でなければ最先端の研究などできませんからね」
北条さんに言われ、俺は研究所の中にある個室に案内された。1人部屋にしては少し大きいが、ここで生活することになるそうだ。
「・・・あれが、ISか」
あれが飛びまわるとしたら途方もない兵器だ。だが、感じたのはそれだけではない。さきほど雫に触れていたのは一瞬だったが、なにか伝えてくるような鼓動を感じたのだ。
コアの数には限りがあると聞く。ならば俺の専用機には雫のコアを使ってもらうことにしよう。あのコアが俺に何を伝えようとしたのか興味がある。もっと修業して写輪眼を極めれば精神世界に連れて行けるだろう。
◇
Side 無月
こっちに来てから1年ほど。今日は第1回モンド・グロッソの決勝戦だ。俺は修業を早めに切り上げてテレビを見ていた。
「対戦カードは織斑千冬とキャロル・ミラーか」
まだ実際の戦いを見たことはないが、モンド・グロッソ決勝戦。2人とも弱くはないのだろう。2人の紹介をTVで見ていると試合が始まった。
試合自体はあっさりとしたものだった。お互い牽制していたかと思うと織村千冬が見たこともないような加速を見せ、一刀のもとにキャロル・ミラーのISを切り裂き、エネルギーを0にした。
第1回優勝は織斑千冬。表彰台で相手と握手し、首から金メダルを掛けられていた。だが、俺にとってはどうでも良かった。
「・・・白騎士」
そう織村千冬の一連の動きは白騎士そのものだった。白騎士事件でミサイルを次々と落とす様はTVで中継されていた。そしてそれはDVDにもなるほどの人気だった。
白騎士は俺の復讐の対象。俺はそのDVDを買いディスクが壊れるまで見続けた。写輪眼で輪廻眼で。その時に見た動きは今でも忘れない。織斑千冬の動きは白騎士の動きにそっくり・・・いや、そのままだった。
体に染み込んだ技術はどのような時でも反映される。武術の達人などはその1つ1つが洗練され、独自のものへと昇華させる。その動きが同じということは織斑千冬が白騎士であるということに他ならない。
「・・・やっと、やっと見つけた」
白騎士は正体が不明とされており、北条さん達にも正体はわからなかったそうだが、白騎士事件自体は篠ノ之束によるマッチポンプであったと囁かれているそうだ。
しかし、白騎士か。やっと見つけた。俺の両親を殺した原因の1人。篠ノ之束は行方不明らしいがこいつはここに存在している。
「暢気なものだ。こんなところに出てくるなんて」
白騎士なんてただのテロリストだ。ミサイルを発射させた篠ノ之束はもちろんそれを撃ち落とした上に各国の戦闘機を破壊して回り、篠ノ之束に協力した織斑千冬も同罪だ。そして奴が迎撃し損ねたミサイルで両親が死んだ。
だが、まだだ。まだ焦るな。俺はまだ専用機がないし、世界を相手取れるほど忍術を極めていない。まだ時間はある。全てはIS学園に入学してからだ。それまでに俺はこの思いを内に秘め牙を研ぎ続けることにしよう。
翌日から俺の修業を兼ねた実験はさらに苛烈を極めるものになっていった。