IS~ISと忍術と復讐と~   作:狐の面

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第29話 理由

 

Side マドカ

 

  時刻は夜の11時。1時間前に門限が近くなったのか、生徒たちが続々と部屋に戻り始めた。織斑千冬もどうやら復帰したらしく、門番として立っていた。今は部屋の明かりが消え始めており、動く時が来た。

 

  「さて、そろそろだな。ちょっと待ってろ」

 

  そういって無月は屋上から消え、少しすると戻ってきた。

 

  「一体何をしに行ったのだ?」

 

  それは気になる。すぐに戻ってきたのを見るとまだ接触はしていないようだが。

 

  「なに、ちょっと術をかけてきただけだ。俺たち以外は工藤の部屋の前には近づけない。そこに部屋はないのだからな」

 

  意味がわからないが、どうも特定の範囲に入った者の認識をずらす術らしい。工藤優子の部屋を別の場所と錯覚するようだ。

 

  「なら近づかれる心配はないということか」

 

  「そういうことだ」

 

  そして無月は探知結界というものを張る。どうやら巡回はまだいないようだ。そして私達は無月につかまり、部屋の前に飛んだ。

 

 

 

  「やっぱりノックか?いや、突き破るべきか?」

 

  扉の前で無月が悩むがアーデルハイドが提案した。

 

  「ここで優子を試す、というのはどうだ?」

 

  アーデルハイドの言うことも一理ある。工藤優子が元傭兵とはいえ、力は未知数だ。戦力にならないのなら必要はない。

 

  「面白そうだな。それで行こう。俺はいったん屋上に戻る。2人で工藤を襲撃してくれ。もちろん加減はしろよ?アーデルは元々生身では俺より強いし、マドカも急激に武道の実力は上がったんだからな」

 

  「ああ、わかっている」

 

  そういって無月はクナイをアーデルハイドに渡すと姿を消した。機を見て部屋に現れるそうだ。部屋は巡回のために鍵は開いている。同居人は無月の催眠眼で今はトイレで寝ているはずだ。

 

  「私がドアを開ける。マドカは抜き足で優子に近づいて木刀で襲え。私も援護する」

 

  「わかった」

 

  そして私達はドアに近づいて行き、アーデルハイドがドアをゆっくりと開ける。部屋は暗くなっており、起きている気配はない。ベッドの盛り上がっている部分に工藤優子が寝ているはずだ。

 

  パチン

 

  部屋の照明が灯されると同時に私は木刀で切りかかった。

 

  ボフンッ

 

  どうやら外したらしい。

 

  「誰じゃ!お主らは!」

 

  工藤優子は木刀を避けて飛び起きるとどこから取り出したのか、短い木刀を2本持って構える。こいつは強い。構えに隙はないし、気迫がものすごい。

 

  「・・・答える義理はない」

 

  そういって木刀で襲いかかり、工藤優子の木刀と私の木刀がぶつかろうとした瞬間。工藤優子が後ろに飛び退いた。その場所にはクナイが刺さっていた。

 

  「新手か!?」

 

  そういうと工藤優子は近くにあった鉛筆を数本とり、そちらに投げる。かなりの速さで飛んでいった鉛筆だが、全てたたき落とされていた。

 

  「お主は・・・アーデルハイド!」

 

  「久しぶりだな、優子」

 

  やはり知り合いというのは本当らしい。だが、友人というより戦友といった方が良いのか?傭兵である以上、敵になることも当然ある。その区別はしっかりとできているらしい。それにかなりの腕前と言うのは本当みたいだ。

 

  「何の用じゃ!お主はイラクで傭兵をしていたはず。今更わしに何の用があるというのじゃ!」

 

  殺気を隠すことなく、アーデルハイドに向かい合う工藤優子。全く怯んではいないようだ。

 

  「まあ、武器を降ろせ。別に襲いに来たというのではない。それにもう傭兵は辞めた。今日はお前に話があってきた」

 

  そう言ってアーデルハイドが構えを解く。私もアーデルハイドに倣うと、それを確認した工藤優子も木刀を降ろした。

 

  「お主が傭兵を辞めた?それに・・・わしに話じゃと?」

 

  アーデルハイドから出た言葉に驚いたのか、工藤優子は困惑している。しかし、美少女というのだろうか。肩まで伸ばした茶髪に二重の大きな緑の眼。そして顔立ちは整っている。

 

  「それは俺から話そう」

 

  そして無月が現れた。機を見て、とは言っていたが、タイミングが良すぎるぞ?窓の外から見ていたのか?

 

  「き、霧雨・・・無月・・・くん?」

 

  工藤優子は口をパクパクさせている。それもそうか。どこか謎の組織に攫われたはずの無月が目の前にいたら驚くだろう。

 

  「ああ、俺が霧雨無月だ。学園祭以来だな、工藤優子」

 

  「そ、そそ、そうじゃの。は、話とは一体なんじゃ?立ち話もなんじゃ、お主らも適当に座るとよいぞ」

 

  そういっていそいそとキッチンに向かう工藤優子。なんだか様子がおかしい。しばらく待っているとコーヒーにお茶菓子が用意され、テーブルに腰をかけた。

 

 

 

  「ひ、久しぶりじゃの。お主はどこかに攫われたという話じゃったが、無事なのか?」

 

  「ああ、あれは政府の嘘だ。俺は学園を抜けただけだよ」

 

  無月と工藤優子が2人で話をしている。しかし、なにか気になるな。さっきまでと様子が違いすぎる気がするんだが。それに距離が近い。無月の隣に座る工藤優子の顔は不思議と真っ赤だった。

 

  「―――それでどうしてお前は力を隠していたんだ?それにアーデルの話では傭兵をしていたというじゃないか。どうしてIS学園に入学したんだ?」

 

  「力を隠していたのは目立ちたくなかったからでの」

 

  目立ちたくないとはどういうことなのか?

 

  「どうしてだ?」

 

  「専用機持ちでもないのに素人のはずのわしが強ければみんな疑うじゃろ?そんな面倒くさい状況はお断りじゃ」

 

  それもそうか。もし力の片鱗でも見せれば根掘り葉掘り聞かれるだろう。それは確かに面倒くさいな。

 

  「なるほどな。じゃあ、どうしてIS学園に入学したんだ?お前は既に国家代表並の実力があるはずだ。今さら入学する理由はないだろう?」

 

  アーデルハイドの話では突然IS学園への入学を決めたらしい。それなのに力は隠したいという。

 

  「そ、それはじゃな・・・」

 

  顔が赤くなっていく工藤優子。指を合わせてもじもじしており、無月の方をチラチラ見ている。まさかな。

 

  「どうしたんだ?」

 

  無月が首をかしげて工藤優子をのぞきこむ。さっきよりも顔が近くなった工藤優子の顔はさらに赤く染まっていった。いや・・・まさかな。そして工藤優子は大きく深呼吸をして言った。

 

  「それは、お主と学園生活を送りたかったからなんじゃ!」

 

  「「「はっ!?」」」

 

  黙って聞いていたアーデルハイドも思わず声を上げた。私たち全員が呆気にとられた。

 

  「つ、つまり、どういうことだってばよ」

 

  無月、それを私に聞くのか?私は答えたくないぞ?それになんだその口調は?

 

  「つまり優子が傭兵を辞めたのは無月と一緒の学校に通うためだったということか」

 

  アーデルハイド、少しは空気を読め。みなまで言ってやるな。うんうん、と1人納得しているアーデルハイド。やばいな、話題を変えなければ。

 

  「ゴホンゴホン。無月、お前の要件を伝えたらどうだ?」

 

  「・・・・・・ああ。そうだ。そうだったな」

 

  工藤優子の言葉にフリーズしていた無月だったが、ようやく覚醒した。

 

  「工藤優子、俺はお前をスカウトしに来たんだ。俺の仲間にならないか?」

 

  「なるぞ!お主のいない学園には居る意味がないのじゃからな!」

 

  開き直ったな。というか目的を聞かなくてよいのだろうか?

 

  「それはありがたいが、いいのか?俺達は世界を相手に戦争をする。最悪、死ぬかもしれないんだぞ?」

 

  「もともと傭兵だったのじゃ。世界を相手にするのも何ともないぞ。死ぬのが怖くて傭兵はできんしな。それにわしはもうお主について行くと決めたのじゃ!」

 

  決意のこもった眼をする工藤優子。覚悟は持っていたということか。

 

  「そうか、ならよろしくな、優子」

 

  「ああ、よろしく頼む。む、無月君!」

 

  がっちりと握手をする無月と優子。新たな仲間を歓迎するべきなのだろう。だが、やはりこの光景を見ているとムカムカする。しかも工藤優子は間違いなく美少女。心なしか無月がデレデレしているような印象を受ける。

 

  「どうしたのだ、マドカ?何かオーラが出ているぞ?」

 

  「い、いや、なんでもない。気にするな」

 

  アーデルに声をかけられてはっと思考を元に戻した。

 

  「じゃが、拠点はどうするのじゃ?世界を相手にするとは言ったが、本拠地がないと作戦すらままならないぞ?」

 

  「ああ、それなら問題はない。最近できたユーゴスラビア。あそこは俺達が作った国でな。そこを本拠地にしている。今はメンバー全員が訓練で力をつけている途中だ」

 

  そして無月が陣営の概要を話している。しかし、これで10人目か。無月が言っていた人数は揃った。戦力集めも一段落だろう。思った以上に早く進んだ上に戦力としても申し分ない。

 

  ただ相手にするのは世界にある全てのIS。単純計算1人あたり40機に勝たなければならない。これは本格的に鍛えなければならないな。

 

 

 

  「さて、優子。いつ出発する?俺はいつでもいいが、お前の都合もあるだろう?」

 

  無月達の話もひとまずは終わったようだ。時間はもう夜中だ。アーデルハイドはすごく眠たそうにしており、瞼が落ちかけている。

 

  「わしはいつでも良いぞ。じゃが、ちょっと待って欲しいの。荷物をまとめる」

 

  そういって優子は段ボールに荷物を入れ始めた。だが、入れているのは本ばかりで服などは一切入れていない。そんなに大事な本なのか?

  その間に無月はアーデルハイドの相手をしており、眠そうなアーデルハイドの写真を撮って遊んでいた。私は優子の荷物が気になり、見せてもらうことにした。

 

  「優子、少し中を見させてもらうぞ」

 

  そういってページをぱらぱらとめくろうとする。

 

  「だめじゃ!マドカ!止めるのじゃ!!」

 

  優子がこちらに気づいて荷物を入れるのを止めてこちらに飛んできたがもう遅かった。

 

  「こ、これは」

 

  「マドカ、無月君には秘密じゃぞ」

 

  優子は無月に気づかれないような声でひそひそと言った。それもそのはずだ。本は全て無月の写真で埋められていたのだ。私が見たのは学園祭の写真集で無月が優子を抱きかかえていた。

 

  「まさか、これ全部か?」

 

  優子は無言で頷く。鞄に入っている本は20冊余りある。

 

  「どうやって集めたんだ?」

 

  「写真部の先輩が無月君の写真を売ってくれるのじゃ。織村一夏が人気なのじゃが、わしは無月君の写真を買い続けたのじゃ。それで気付いたらこんな風になっておった」

 

  だが、待てよ。無月は9月で学園からいなくなったはず。半年でこの数ということはどれだけ撮られていたのか。だが、私も気になっていた。

 

  「優子。お前のお気に入りはどれなんだ?」

 

  そして私も混ざって観賞会が始まっていた。撮っていたのが写真部ということもあり、どれもなかなかの出来だった。

 

優子のお気に入りは学園祭の1枚で、さっき見た無月に抱きかかえられるものの別バージョンだった。確かによく取れており、お気に入りというのも納得の1枚だった。

 

  「・・・優子。この写真を焼き回してくれないか?」

 

  そういって私が指差したのは無月が天牙を持って映っていた1枚だった。日付的には臨海学校の時だろう。どうやって撮ったのか不明だが、躍動感あふれる1枚で、天牙を持つ無月が映っていた。

 

  「マドカ・・・お主もか」

 

  優子は私に同類を見る目を向けてくる。

 

  「いやな、こうして見ると写真というのがなかなか良くてな」

 

  「仕方ないのう。じゃが、お主も見る目があるのう。わしもこの1枚はお気に入りじゃ。自分が映っていなければこれが1番のお気に入りじゃからな」

 

  実を言うと私も学園祭の1枚を持っている。これで無月の写真は2枚目だ。しかし、写真というのもいいかもしれんな。

 

  そして荷物をまとめ終わると時間は2時を回っており、無月もアーデルも眠っていた。さっきの件で仲が良くなった私と優子は置いてあったカメラで無月を撮影し、データを抜き取った。

 

  そして話し合いの結果、後日、優子を無月が迎えに行くことになった。私達は一度ユーゴスラビアに帰ることにした。

 

  そして数日後、工藤優子はIS学園から退学届を出して失踪した。IS学園にも非常に少ないが、退学者は存在する。このおかげで私たちの関与が疑われることはなく、退学後に工藤優子が失踪したという結果のみが残された。

 

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