IS~ISと忍術と復讐と~   作:狐の面

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第30話 好敵手

 

Side 無月

 

  年が明け、年末の忘年会と新年の新年会が終わった。俺は相変わらず真っ白な灰になっていた。

 

  「のう、無月君はいつもああなるのかの?」

 

  最近仲間になった優子が言う。仕方ないよね?ナターシャさん本当に容赦ないから。しかも10人分は負担が大きい。

 

  「まあな。最近は宴会が続いたからな。私もカンパしたが基本はああなる」

 

  「おーい、生きているか、無月」

 

  そういってカメラで写真を取るアーデル。前に渡して以来カメラが気に入ったようだ。クリスマスには一番いいデジタル一眼レフカメラを買って渡しておいた。

 

  「いつまで寝ているんだ?専用機も全員分渡し終えたんだ。あと2年間ずっと訓練をするというわけではないだろう?」

 

  マドカに言われて体を起こす。

 

  「まあ、そうだな。特に3人娘には実戦を経験させたい。計画としては1年後から着々と進めていく。それまでは主に訓練だな。全員がヴァルキリークラスぐらいになってもらわないと戦争もできん」

 

  今、ヴァルキリークラスにいるのは俺、アーデル、スコールの3人。国家代表クラスにマドカ、ナターシャさん、優子、オータム。代表候補生クラスがマリア、サラ、ティナ。

 

  3人娘は特に鍛えなければいけない。国家代表クラスの4人はこの1年でヴァルキリークラスに到達するだろう。

 

  「どうするのじゃ?中東で傭兵でもやらせるのか?」

 

  それについては考えがあった。

 

  「いや、IS学園を監視する」

 

  これがおそらく一番手っ取り早い。

 

  「なぜじゃ?」

 

  「あそこには度々襲撃してくる奴がいるんでな。次の専用機持ち達のタッグマッチで何か起こるだろう。そこに3人娘を投入する」

 

  篠ノ之束。これまでは大人しかったが、次は何らかのアクションを起こしてくるだろう。あわよくば情報を得たい。

 

  「そうするんだ?3人を次のタッグマッチに乱入させるつもりか?」

 

  マドカの疑問は最もだ。

 

  「いや、また潜入だよ。それで襲いかかってき次第、その戦いに介入する」

 

  奴の手駒は無人機だろう。つまり勢い余ってやりすぎても問題はない。それに無人機を手に入れておきたい。今後のためにも。

 

  「だが、敵の敵は敵だ。味方なんてありえない。3つ巴になるぞ?」

 

  紛争地域での経験がそう言わせるのだろう。だが、それも問題ない。

 

  「構わない。むしろ大歓迎だ。本来戦場とはそういうものなのだろう?最終的に俺達が生き残れば勝ちだ」

 

  「確かにあの3人は学園の専用機持ちと遜色ない実力なのじゃが、そうなると荷が重いのではないかの?」

 

  優子が言う。戦力分析としては間違っていないし、荷が重いのも承知している。

 

  「フォローには入るさ。最悪、トンズラすればいい。目的はあの3人に実戦を経験させることだ。この実戦で一皮剥けるだろう」

 

  「そうか、あの3人以外誰が行くんだ?」

 

  そこなのだ。さすがに全員を連れて行くのは難しい。

 

  「わ、わしは無月君について行くぞい!」

 

  「私だってこの手のイベントにはついて行く」

 

  「私もだぞ?無月は私を守ってくれるらしいからな」

 

  3人とも来る気満々だよ!?というか隠密行動って言葉を知っているのか?飛雷神どうしようか?一回だけならいけるか?ここで揉めるのも面倒だ。

 

  「仕方ないな。3人とも行くか。水分身なら一回だけ飛雷神で飛べるはずだ。ただ、1人ずつ3人のフォローをしてくれよ」

 

  ちょうど3人いるから問題はないだろう。

 

  「わかった。だが、どのタイミングでいけばいい?」

 

  「ISが解除される寸前までだ。顔は晒したくないからな」

 

  これで作戦は決まったな。また潜入工作をしないといけないな。そこら辺は北条さんの力を借りるしかない。他国の研究者と入れ替わってもいい。

 

  「さて当日までは3人を揉んでやらないとな。無人機が可愛く見えるくらいは」

 

  さて、せっかく専用機を持った3人だ。どこまでやれるか楽しみだ。

 

  マリア達には作戦の概要を伝えると実戦に出る喜びを表した一方で訓練の強化と聞いてからは一気に青ざめていた。そしてタッグマッチまで約1カ月。3人はフラフラになりながら訓練をこなした。

 

 

 

  「しかし、本当に襲撃されるのか?今年度に入って3回目だろう?少し多すぎるのではないか?」

 

  当日になり、俺達は前回と同じようにIS学園に潜入した。確かに事件は多い。信用問題に関わりかねない事態だ。

 

  「ないならないでいいさ。ほら、あいつらはしゃいでいるだろう?良い息抜きになる」

 

  「そうじゃのう。アーデルハイドも一緒にはしゃいでいるのは触れない方が良いのじゃろうな」

 

  アーデルも3人と一緒になって屋台を回っていた。やはり祭りというものが好きなようだ。写真もひっきりなしに撮っている。

 

  少しすると全員帰ってきたので、人が多い場所から離れ、巻物から水槽を取り出す。。

 

  「水分身の術・・・そして、変化の術」

 

  水分身を6体作り、全員をブレスレッドに変化させて全員に渡した。

 

  「ほう、意外とオシャレなものだな」

 

  アーデルがブレスレッドとつけながら言う。このブレスレッドはこの日のために俺が修業した成果でもある。このブレスレッドは1回だけ飛雷神の術が可能なのだ。

 

水分身を変化させ、その状態で飛雷神を使わせるのは難しい術だったが、なんとか完成させた。

 

そのためには予めチャクラを浸透させた水を用意する必要があるのだ。水辺の水を使う普通の水分身ではここまではできない。

 

ただチャクラを多くした分、水分身が移動可能な距離が広くなるし、準備が面倒な分のメリットは十分にある。

 

  しかし、この術は意外と使用頻度が高いかもしれない。俺がいなくても1回だけならその場からの移動が可能なのだ。緊急時の逃走用としては役に立つだろう。ただ、使用後すぐに水に戻るのが欠点だった。

 

  「さて、すぐに会場に入ろう。もし襲撃があればその場から一度離れて乱入だ」

 

  「無月さん、あたし達はIS学園側に立つんですか?」

 

  ティナが首をかしげる。確かにこの言い方では学園の味方ととられなくもない。

 

  「いや、どちらも敵だ。お前たちはどちらを攻撃しても構わない。学園の奴らと組んで敵を倒してもいいし、逆もしかりだ。とにかく戦い続けろ。ヤバくなればマドカ達がフォローに入る。今回はお前達が実戦経験を積めればそれでいい」

 

  こんな機会は滅多に作れない。倒されそうになればフォローに入ってもらえるのだ。本来の戦場でそんなことはないだろう。

 

  「お前たちはこの1カ月で地獄を見たはずだ。もう昔とは実力も違う。自信を持って戦え。せっかく専用機も手に入れたんだ。ここで使わないでいつ使う?」

 

  3人はそれぞれ自分の待機状態のISに手をやる。

 

  「無月はどうするのだ?」

 

  「ああ、俺は適当に様子を見てる」

 

  さて、どうなることやら。

 

  そして観客席に全員が着くと、タッグマッチの組み合わせが発表された。第1試合は楯無さん・篠ノ之束の妹VS織斑・楯無さんの妹だった。これから選手が入場するという時にアリーナに衝撃が走った。

 

  ズドオオオオンッ!

 

  「やはり来たか。全員頼むぞ。数は・・・7機か。まあまあだな。形状が以前と変わっている。おそらくより強化されているはずだ。油断するなよ」

 

  そういうと全員が動き出す。マドカはマリアと、アーデルはサラと、優子はティナと動きだした。俺は避難する人間に紛れて学園の様子を一望できる場所に移動し、戦場を観察することにした。

 

  「ティナは軍人と負け犬の所か。サラは猫と金髪。マリアは織斑と楯無さんの妹のところか。それで篠ノ之束の妹と盾無さんは2機を引き受けていると。残りは2・3年生の所と教師どもが相手をしているか」

 

  上手くバラけたな。どう動くか楽しみだ。

 

 

 

 Side マドカ

 

  「マリア、どう動く?」

 

  私達は織斑一夏達の戦場に加わる気でいた。マリアはどう動くのだろうか?

 

  「はい、まずは無人機を相手にします。その後は専用機持ちを狙います」

 

  まあ、妥当な線だろう。

 

  「そうか、好きに動け。危なくなったらフォローは入れる。その間に飛雷神で避難しろ」

 

  「わかりました。行きます、パイロ・クイーン!」

 

  マリアはパイロ・クイーンを展開して飛び立った。その名の通り炎を武器に戦う。無月の炎を参考に作ったISだ。手に持ったサラマンドラという剣で高温の炎を発生させて相手を焼き切る。

 

  加えてマリアはどの距離でも一定水準以上の戦いが可能だ。器用貧乏とも言うが、距離を問わず戦うことができるのは大きい。

 

  武器はサラマンドラだけではなく、火龍を打ち出す銃を持ち、ナノマシンで水素・酸素の濃度を上げ、相手を爆発に巻き込むことも可能だ。分析力に長けるマリアにはうってつけの機体といえる。

 

  「誰だ!お前は!!」

 

  織斑一夏が声を上げる。敵か味方かわからない第3の勢力の乱入。戸惑うのも無理はない。だが、それにマリアが答えることはなく、無人機に向かって行った。

 

 

 

 Side マリア

 

  私は無人機を視界に捉えて飛び出した。無月さんに教えられた時とは形状が変わっている。右腕の大きなブレードに左腕のレーザー。無人機であるから遠慮する必要はない。

 

  「誰だ!お前は!!」

 

  あれは織斑一夏?情報ではセカンド・シフトしているようだが、さっき見た限りでは苦戦していた。それにもう1人いる。これは誰だかわからないが織斑一夏のパートナーだろう。

 

  私はサラマンドラを展開して炎を出す。刀身が高温の炎に包まれる。まずは近接戦闘を挑む。

 

ガキンガキン

 

無人機のブレードと打ち合うが、重い。無月さんやアーデルさんのような鋭さはないが、その分一撃の重さがあった。隙をついて腕を斬りつけるが、思ったようなダメージは与えられない。

 

「・・・硬い」

 

確かに傷はつく。だが、腕を斬るまでは至らない。このままでは埒が明かないので一度距離を取る。と、その瞬間、無人機から巨大なレーザーが放たれた。

 

「っ!」

 

慌てて避けるが、少し掠ってしまった。エネルギーが減少する。だが、まだ負けたわけではない。私は落ち着いて火龍を放つ銃・ボルケーノを展開する。

 

だが、織斑一夏とその仲間が2人で近接戦闘を挑みに行った。この2人は私の味方ではないと聞いている。私は構わず撃った。

 

ボルケーノは込めるエネルギーによって威力が変わる。今回は並の威力で火龍を放つ。この火龍は目標を追尾する誘導機能がついている。途中で火龍の接近に気付いた織斑一夏達は慌てて回避する。

 

「簪!危ねえ!!・・・この龍は!?お前は霧雨の関係者か!」

 

織斑一夏は青い髪の女を抱きかかえて火龍を回避する。火龍は無人機に直撃したが、やはり装甲に阻まれているようだ。

 

 

 

「・・・邪魔」

 

「なんだと!?」

 

織斑一夏が声を上げる。さっきから無人機の周りを動かれて狙いがずれるため邪魔なことこの上ない。先に始末してしまおうか?

 

「一夏、私が」

 

そう言って隣にいた青い髪の毛の女がこちらに向かってレーザーのようなものを放つ。弾速は速いが避けられない速さではない。私は射撃を避け、火龍をそちらに向けて放つ。

 

「それは俺が!」

 

間に割り込んできた織斑一夏が盾のようなものを展開する。盾に当たった火龍はなぜか消滅した。

 

「エネルギー攻撃が効くと思うなよ!」

 

そういって瞬時加速をしてくる。

 

ガキンッ!

 

織斑一夏の剣と打ち合う。シールドを直接削る零落白夜。直撃するわけにはいかない。私は無月さんとの訓練通りに動いた。

 

 

Side 簪

 

突如乱入してきた赤いISと織斑くんの戦闘が続く。だが、私には気になることがあった。

 

「・・・攻撃が読まれてる?」

 

そう、織斑くんの繰り出す攻撃は相手には当たらず、逆に攻撃を受けている。おそらく読まれている。でなければあんなに正確な回避ができるはずがない。

 

『・・・織斑くん!そっちに無人機が!』

 

2人の戦いをじっと見ていた無人機がそちらに向かって突撃し、戦いを始める。それぞれに攻撃をし合い、三つ巴の様相を呈してくる。私が何とかしないと。

 

『・・・織斑くん!離れて!』

 

プライベート・チャンネルで通信をし、私はとっておきと展開した。

 

山嵐。48発の高性能ミサイルによる一斉射。赤いISの目的はわからないが、攻撃してきた以上、敵だ。だが、本当の敵はあくまで無人機だ。

 

数十枚のウィンドウを確認し、20本の指を使うマニュアル制動。難しいがいけるはず。

 

「・・・行け!」

 

ドドドドドドッ!

 

山嵐から48発のミサイルが飛び出し、相手に向かって行った。

 

 

 

Side マリア

 

「厄介な・・・!」

 

青い髪の女は数十発のミサイルをこちらに向けて放ってきた。私は次々と迫りくるミサイルをボルケーノで迎撃する。今の私の腕前では防ぎきれないだろう。

 

だが、女は無人機に狙いを集中しているらしく、私の方には申し訳程度しか来ない。見たところマニュアル制御。狙うなら今か。

 

「簪!」

 

無人機も同じことを考えていたようだ。レーザーで女を狙うが、それは織斑一夏の零落白夜の盾で防がれる。あのレーザーに迷わず突っ込むとは・・・私は素直にその姿勢を称える。だが、今は敵。これは致命的な隙になる。

 

あの盾はおそらく零落白夜の一部。つまりは対エネルギー兵器に対する脅威。しかし、その楯の部分以外ならどうだろうか?無人機は爆風に晒されながらまだレーザーを放ち続けている。

 

私はミサイルのダメージを受けながら、爆風に紛れてボルケーノから火龍を最高速で放った。織斑一夏はレーザーを防ぐことに、青い髪の女は無人機にミサイルを浴びせることに意識を取られている。

 

「よし!防ぎきった―――があっ!」

 

「・・・織斑くん!?」

 

無人機のレーザーが防ぎきった瞬間、織斑一夏のがら空きとなった右側に火龍が直撃した。

 

「このうちに無人機を!」

 

青い髪の女はダメージを受けた織斑一夏に駆け寄る。ならば先に無人機を・・・。

 

それに先ほどのミサイルの弾幕のほとんどを受けていた無人機はコアが露出していた。

 

 

私は再びサラマンドラを展開し、接近戦を挑む。無人機は機械であるため、人間離れした動きをする。先のダメージは甚大なはずなのに、こちらの攻撃に怯まずに向かってくる。私もダメージは受けているが、直撃は避けている。

 

無月さんの攻撃を回避し続けたことが生きていた。無月さんの攻撃は速く、そして正確だ。それに比べればまだ余裕があった。そして私の仕込みが完了した。

 

切りかかるふりをして瞬時加速で距離を取る。無人機は私を追撃するためにレーザーを撃とうとしている。私はそれを確認してボルケーノを最速で放つ。狙いは露出したコア。

 

火龍は威力がない分スピードを増して飛んで行き、放たれたレーザーとぶつかる。その瞬間に周囲を巻き込む大爆発が起きた。無人機の周りに撒いた酸素と水素に爆発が反応したためだ。

 

「・・・これで終わり」

 

大規模な爆発を受け、動きが止まりかけている無人機。まだ動いているとはコアが残っている証拠。

 

私は瞬時加速で勢いをつけて、サラマンドラで無人機のひびの入ったコアを貫いた。

 

コアを貫かれた無人機は動きを止め、完全に停止した。初の実戦に勝利した。喜びたいのだが、それは後でいい。まだ敵は残っている。エネルギーは心もとないが。

 

『マリア、よくやったな。お前はもう限界だろう。飛雷神の術で撤退しろ。無理に織斑達の相手を無理にすることはない。戦いの反省は後からだ。反省点をまとめておけ』

 

無月さんから連絡が入った。

 

「このまま継続して交戦したいのですが」

 

今回の目的はより多くの実戦を経験すること。まだ青い髪の女は残っているし、織斑一夏も残りわずかだろうが、エネルギーは残っている。

 

それに無人機に止めは刺したとは言え、コアを露出させたのはあの青い髪の女。それだけに対抗心が燃えている。

 

『そうか・・・仕方がない。10%になるまでなら交戦を許可する。10%以下になったら必ず撤退しろ、いいな』

 

「了解」

 

私は青い髪の女がいるところまで向かった。

 

 

 

「・・・何の用?」

 

青い髪の女は織斑一夏の前に立ち塞がるような体勢でこちらを見据えてくる。

 

「私と戦ってもらう」

 

サラマンドラを展開し、青い髪の女に斬りかかる。青い髪の女はそれを薙刀で受けた。

 

「簪!」

 

「・・・織斑くんのエネルギーはもう少ない。ここは私がやらないと―――」

 

今にも飛びだしそうになっていた織斑一夏を青い髪の女は制止した。こちらにとっては好都合だ。私と青い髪の女の戦いが始まった。

 

 

 

Side 簪

 

私と紫色の髪の女の戦い。戦闘の腕前は若干、相手の方が上のようだ。だが、私も負けるわけにはいかない。お互いにダメージを受けながら戦いは続いていた。

 

「・・・春雷!」

 

距離を取り、荷電粒子砲・春雷を展開し、撃つ。相手も火龍を打ち出す銃を展開し、放った。

 

ドオンッ!

 

春雷のエネルギーと火龍が激突し爆発が起きた。山嵐は隙が多いので1対1には向いていない。お互いに遠距離攻撃は決定打に欠けているだろう。なら接近戦しかない。相手もそれがわかっているのか刀を展開する。

 

相手は織斑くんや無人機との戦いで消耗しているはず。ならエネルギー的には私が有利なはず。そう思い、薙刀を持つ手に力を込める。よし、と思った時、相手の動きが止まった。一体どういうこと?私はその様子を窺うことにした。

 

 

 

Side マリア

 

『マリア、10%以下になったようだな。約束だ。撤退しろ。』

 

戦いが一段落し、これから、と言う時に無月さんから通信が入った。

 

『そうですが・・・でもあと少しだけでも!』

 

相手の技量も大体わかった。私の方が若干上だが、相手もなかなかやる。初めて味わう対等な戦いは私に高揚感をもたらしていた。

 

『マリア・・・2度目はない』

 

無月さんの口調が厳しくなる。ここは従うしかない。

 

『わかりました』

 

もう少しだけ戦っていたかった。それだけが心残りだ。

 

『お前が戦いを楽しみにしている気持ちはわかる。対等な戦いは初めてだろうし、初の実戦の空気を肌で感じているのだろう?だが、目的を忘れるな。これは組織のリーダーとしての命令だ』

 

『はい』

 

無月さんは組織のリーダー。常に全体を見ている。私が本来の任務を外れて勝手な行動をしては組織の全員に迷惑がかかる。これはマドカ様も常々言っていたことだ。

 

『マリアはよくやった。亡国企業時代のお前ならここまでは戦えなかったはずだ。お前もちゃんと成長しているよ』

 

確かにそうだ。亡国企業時代の私ならここまで戦えていないだろう。無月さんに言われて、強くなっている、という実感が少しだけ湧いてきた。

 

『わかりました。撤退します。ですが、名乗る機会をください』

 

『ダメと言ってもやるのだろう?本来なら避けたいが・・・許可しよう。だが、それを終えたら必ず撤退しろ』

 

『ありがとうございます』

 

そこで通信を切り、私は目の前にいる女に話しかけた。

 

「私はマリア。あなたの名前を窺ってもよろしいでしょうか?」

 

「・・・更識簪」

 

更識簪は、小さいが、はっきりと聞こえる声で名乗った。

 

「あなたの名前、覚えておきます」

 

「・・・私も忘れない」

 

用は終えた。そろそろ撤退しようか、と思い、ブレスレッドに手を伸ばす。

 

「お前は、霧雨とつながっているのか?」

 

織斑一夏がこちらに向かって飛んできた。だが、答えることは何もないのだ。

 

「・・・言うことは何もない」

 

「逃げられると思ってんのか?」

 

零落白夜を展開して織斑一夏が構えるが、私はブレスレッドを2回叩き、術を使う合図をする。その瞬間に風景が変わり、いつもの広間に戻ってきた。

 

 

 

「「マリア!」」

 

サラとティナはもう戻ってきていた。

 

「何とか勝ったわ。サラとティナはどうだった?」

 

「あたしも危なかった。最後は何とか千鳥で貫けたけどね」

 

ティナが使うISは電気を操って戦う。最後は瞬時加速を使ったランスによる突撃で勝ったのだという。

 

「私もやな。カミキリは切れ味がええんや」

 

ティナのISは風を操る。伸縮自在のカミキリというレーザーブレードで地道に削っていったらしい。

 

「私たち、強くなってるのね」

 

さっき無月さんにも言われたことだが、こうして終わってみると改めて実感する。

 

「でも、まだまだだよね。あたし達は1機が限界だけど、無月さんやアーデルさんはもっといけそうだし」

 

「ほんまやなあ。1機でええ気になっとったら無月さんにこってりと絞られてしまうで?」

 

そうなのだ。この組織にはまだ上がいる。いつかあの人たちと肩を並べたい。だが、それ以上に・・・。

 

「・・・更識簪」

 

初めて出会った好敵手。無月さん達と同じくらい強くはなりたいが、それ以上に、更識簪には負けたくない。今度の訓練はいつも以上に厳しくやろう。

 

無月さんの計画通りに進めば決着をつける場面は必ず来る。今日は私たちにとっての初の実戦であるとともに、私にとっての目的ができた日でもあった。

 

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