Side 無月
「よし、3人は勝ったようだな。マドカ、アーデル、優子、集まってくれ」
今いる場所はアリーナの屋上。ここから眼下にはまだ続く戦いが目の前で繰り広げられていた。少ししたら3人がやってきた。
「あいつらの反省会は後からだ。まあ、良くやってくれたと思う」
反省点はいくらでもあるが、それは後でいい。フォローなしで勝利した、という事実が大事だった。
「案外やるもんじゃのう」
優子が感心したように言う。確かに追い詰められ後の粘りは見ものだった。
「この後はどうするのだ?まだ4機残っているぞ?」
「行っても良いが、私はまずいだろうな」
確かにマドカはサイレント・ゼフィルスを使っている。今行けば間違いなく金髪との戦闘になりかねない。それは手間だった。
「そうだな。行くとしたらアーデルと優子か。マドカ、悪いが今回は我慢してくれ」
「仕方ないな。次回はやらせてもらうぞ?」
マドカも納得してくれたようだ。まあ、諦めたと言った方が正しいか。サイレント・ゼフィルスは近く、改良するため、似ている、というレベルで落ち着くだろう。
「もちろんだ。優子はどうする?あそこの無人機に行ってくるか?」
「そうじゃのう・・・よし、行ってみようかの」
そう言って指をさしたのは教師達が戦う1機の無人機。3機で囲んではいるがだいぶ苦戦している。有効なダメージが与えられていないように見える。
「ああ、専用機の試運転でもしてきてくれ。終わったら速やかに離脱。まあ、問題はないだろうな」
「了解じゃ!」
そう言って優子は飛んでいった。
「私はどうすればいいのだ?もう無人機の相手はいいのか?」
「いや、あそこの2機の無人機の戦いに介入する予定だ。1機じゃ面白くないだろう?お前の実力なら2機相手でも問題がないだろうしな」
楯無さんは苦戦しているようだ。確かに腕は上がっている。だが、篠ノ之束の妹を守りながら戦うのは容易ではないらしい。
「さて、優子が戦い始めたようだな」
そういって優子の方に目をやる。優子は近接戦闘の達人だった。ラビット・スイッチを完全に極めており、戦いながら次から次へと武器が変わっていく。
「近接戦闘で相手にはしたくないな。離れても近づく術を持っている」
マドカが苦々しく言う。優子は近距離に長けてはいるが、他が苦手なわけではない。武器全般の扱いが可能だ。そして距離を置いて戦っていてもいつの間にか距離を詰められ近接戦闘に持ち込まれるのだ。
無人機の装甲は確かに堅い。だが、一撃で装甲を破壊できなければ何度も仕掛ければいい。もちろん火力の高さは必要になるが。
『こちらは終わったので一足先に帰らせてもらうぞい。あの無人機は対IS兵器を持っているようじゃ。無月君も気をつけるのじゃぞ』
優子から通信が入る。掠った程度にしか見えなかったが、対IS兵器によるものだったらしい。通常の武器ではなく、対IS兵器となればその程度でもダメージは大きい。
「わかった。早めに帰るさ」
『待っておるぞ。あと、その・・・帰って来たらお茶でも行こうかの』
「ああ、了解した。だが、その前に食事だな。全員で何か食べに行こう」
ナターシャさんとスコールがいなければ何とかなる・・・はず。でもこいつらよく食うんだよな。まあ、いいか。今月は余計な出費を避ければ何とかなる。優子はその後、通信を切り帰還した。
「さて、後はあの2機か。アーデル、行ってきてくれるか?」
「承知した!」
そういってアーデルが飛び出していった。こちらは見なくてもすぐに終わるだろう。あの無人機は総合力では国家代表に近い実力があるが、操縦自体はせいぜい国家代表候補生程度。装甲の硬さと無人機特有の不規則な動きで強く感じるだけだ。
「アーデル。1機は首を飛ばすだけでいい。機体を回収するんでな。それとコアだけは潰しておいてくれ」
『もうやっている!』
制御自体はおそらく頭を中枢としているはずだ。首を飛ばせば動かなくなるだろう。俺はアーデルの言葉を聞いて影分身を使い、カラスに変化させて無人機の近くに飛ばす。
ちょうどそのタイミングでアーデルが無人機のコアを斬ったのでカラスを無人機に乗せ、飛雷神の術で飛ばした。飛ばした場所はユーゴスラビアにある地下研究所。ネットワークも独立させているため、ハッキングの心配もない。
これで発信機があっても俺達を追えないはずだ。首も後から回収させてもらおう。
「マドカ、お前は3人の戦いを見てどうだった?」
3人の教官役をしていたマドカだ。何か思うところはあるだろう。
「正直、倒せるとは思っていなかった。だが、あいつらは無人機を倒した。成長というものを感じるな」
しみじみというマドカ。おいおい、お前はまだ若いぞ?
「ならマドカは3人に負けそうか?」
「バカを言うな。負けるはずないだろう。それに私が倒したいのはお前だぞ?」
自信を持って言うマドカ。倒したいのが俺というのは意外だったな。
「俺だってそう簡単には負けてやらないぞ?でも最近は危ないよな。お前も十分ヴァルキリークラスに近づいているぞ?」
マドカは近接戦闘を戦いに組み込みだしてから戦術の幅が広がった。ビットとレーザーライフルのみの時とはまるで違う。
「だが、まだまだだ。お前はその遥か上にいる。ヴァルキリークラスで満足していたら終わりだろう?これからのためにもな」
「・・・そうだな」
マドカは常に先を見ている。ヴァルキリーの実力で満足するような奴でもない。あくなき向上心。マドカは強くなるために大切なものを持っている。
「もうアーデルも終わりだな。マドカ、俺は楯無さんと少し話をしてくる。アーデルと先に帰っていてくれ。食事の店を任せてもいいか?」
「わかった。だが、今さら何の話があるというんだ?」
マドカは首をかしげる。
「ちょっとした世間話さ。なに、すぐに戻る」
「そうか。まあ、店は任せておけ。お前の財布事情は誰よりも知っているからな」
ほんと、頼りになる奴だ。
「何だかんだで良い奥さんになりそうだよな、マドカは」
「き、急に何を言い出すんだ、お前は!」
さっきとは打って変わって怒りだすマドカ。
「本当のことだ。まあ、頼んだぞ、マドカ」
「さっさと帰ってこい。でないと店がグレードアップする」
それはまずい!
「努力する。アーデル、先に帰っていてくれ。できれば無人機を連れ帰ってほしい」
『わかった。では先に帰っておく。お前も早く帰ってこい』
そう言ってアーデルはアリーナから消えた。残ったのは呆気にとられる楯無さんと篠ノ之束の妹だけだった。さすがに2機同時に相手にするのは難しい。
特に今回は対IS兵器を搭載した新型。一撃のダメージが大きことが2人を見てよくわかった。俺が周りを見渡すと他の無人機は撃墜されたようだ。今回は被害が大きい。
楯無さんはおそらく生徒会室に戻る。その時に会いに行けば余計な邪魔は入らないだろう。そう考えた俺は、楯無さんが生徒会室に向かったのを確認して生徒会室の前に飛んだ。
コンコンコン
「どうぞ」
楯無さんの声が聞こえて入室が許可され、俺はドアを開けて生徒会室に入った。そして俺を見た楯無さんの目つきが鋭くなる。
「お久しぶりですね、楯無さん」
「霧雨くん・・・何の用かしら?会いにきてくれたのは嬉しいのだけれど、事と次第によってはおねーさん、あなたを捕まえないといけないの」
にこやかに言うが目が笑っていない。いつでも戦闘態勢に入れるということか。
「まあ、落ち着いてください。久しぶりに後輩が来たんですよ?ゆっくりお茶でもしませんか?それに無人機との戦いで消耗している状態じゃ俺を捕まえるのは無理ですし」
「・・・あなた、どこまで知っているのかしら?まあ、いいわ。あなたの言う通りよ。少しお茶でもしようかしら」
それを聞いた俺は以前、生徒会室に来た時のようにポットでコーヒーを入れ、楯無さんと向かい合った。
「大変でしたね。楯無さん」
「そうね。やることが山積みよ。あの無人機は篠ノ之博士の差し向けたものなの?」
いきなり本題に入る楯無さん。それだけ情報が欲しいのだろう。俺も話していいところまでは話すつもりでいる。
「おそらくは。あんな技術は世界にありませんし、以前来たものと形状が酷似しています。狙いは変わってないでしょうね」
織斑と篠ノ之束の妹に実戦経験を積ませること。それが狙いだろう。いずれ死人が出るようなやり方だ。
「頭が痛いわ。じゃあ、戦いに介入してきたのは敵なのかしら?」
「楯無さんの顔には答えは出ていると書いてありますが?」
このタイミングで俺が出てきたのだ。関連付けるのは当然といえる。
「まあ、いいわ。あなたは裏では一応指名手配されているのよ?あなたには意味がないことでしょうけど。それよりあなたはどこで生活しているの?痕跡すらつかめないなんて」
「まあ、世界は広いですから。今回の要件はこれだけですよ。せっかくIS学園に来たんです。お世話になった先輩の顔を見たくなるでしょう?それにこんなに美人の先輩ですし」
少しは冗談を飛ばしてみる。まあ、流してくれるしな。
「ふふふ。お世辞が言えるようになるなんて。少し変わったのかしら?」
くすりと笑う楯無先輩。
「そうですね。人間変わるみたいですよ。少しずつ、ですが。でも楯無さんのその目は変わらないでいてほしいですけど」
「あら、告白かしら?」
「またまた冗談を。じゃあ、俺はこれで帰ります」
早く帰らないとマドカが店をグレードアップさせてしまうからな。
「・・・そう。次はいつ会えるのかしら?」
「楯無さんが卒業する時に会いに来ますよ。その後、食事でもどうです?」
楯無さんが在学中にIS学園に来ることはないだろう。ただ、楯無さんの卒業は祝いたいと思っていた。
「デートのお誘いかしら?でも彼氏がいたらお断りよ?」
「期待しないで待ってますよ。それじゃあ、楯無さん。また会いましょう」
そう言って印を結び、飛雷神の術で帰還した。その後は、夕食までに反省会をしつつ、参加したメンバー全員で食事に行った。しかし、どこから聞きつけたのか、スコールとオータム、それにナターシャさんまでついてきた。
とっさにマドカの方を見る。するとマドカは力なく首を振り、俺の財布の運命が確定した。今月の給料日、いつだったっけ?
そして相も変わらず俺は真っ白な灰になるのだった。
Side 楯無
「・・・全く。こっちの気も知らないで」
彼が去った生徒会室を見渡す。生徒会長用の机には無人機襲撃に関連した報告書が山積していた。
結果から言うと無人機は侵入してきた7機全てを破壊した。結果から言うと撃退に成功と言うことになる。しかし、問題はそこではない。
第3の勢力の介入があったのだ。そのうち4人は無人機を破壊して姿を消し、もう1人は白銀の戦姫。普通に推測するならその5人全員が霧雨くんの仲間。
しかし、断定はできない。裏付けのない推測は判断を誤らせる原因だ。このことは私の胸にしまっておいた方が良いだろう。
「・・・いい顔していたじゃない」
自分が指名手配されていることにすら興味を示さずにお茶をしていった彼は、学園にいた時とは少し様子が違っていた。どこか穏やかな顔をしていたのだ。
学園にいた時は常に回りを警戒しているようだったし、他人に対する態度も刺々しかった。私もあんな顔を見たのは数回しかないと思う。ただ、それだけにどこか悔しいとも思う。
彼を少し変えた人間がいるということだ。そしてそれは私じゃなかった。私は生徒会長にして対暗部用暗部の当主。そして彼は学園に害を為した私の‘敵’。
それが私を苦しめている。しかし、個人の情は国家や学園にとってはどれほどの価値があるというのか?それは更識家当主になる前にも散々言われたことだ。
「・・・ばか」
バカは彼なのか私なのか。ふと口から出た一言だが、誰に対して言ったものか私には判断できなかった。
「・・・私が止める」
それがどういう結果をもたらすかは分からない。ただ、私にできるのはそれしかないと、そう感じていた。
気付くとすっかり日は落ちて、綺麗な満月が浮かんでいた。
Side 無月
IS学園の無人機襲撃事件に介入してから数日後。ユーゴスラビアの首都・ベルグラードにあるミラージュ本社の中にある俺達専用の会議室に俺はメンバーを招集した。
「全員集まってくれたか?」
そういって円卓を見渡す。俺を除いた9つの席が埋まっており、全員がそろっていることを示している。
「今日は訓練が中止で会議って言うんだもの。みんな来てるわよ」
そうナターシャさんが言う。昨日、今日の訓練は中止にするという通達を出し、その代わりに今回の会議を開いたのだ。
「今日、集まってもらったのは他でもない。組織名を決めておこうと思ってな」
「そういえば決めてなかったわね。名前がなくても困らないけど、あると便利ね」
スコールが思い出したように言う。他の面々もそういえばそうだと思いだしたようで、あれやこれやと話しだす。
「実を言うともう決めてあります!」
じゃあ、なんで会議なんだ?という目を向けてくるのが大半だが、気にしない。
「どういう名前なんだ?」
マドカが諦めたように言う。まあ、付き合いが長いからな。言っても無駄だと思ったのだろう。
「‘暁’だ」
これが良いと思うし、組織を作る時から決めていたものだ。
「ふむ。夜明けとはの。なかなか良いのではないか?わしらがやることも夜明けのようなものだしの」
目的はISを回収し、宇宙開発のみに使用すること。つまりISを世界から奪う。女尊男卑の象徴たるISを世界から奪えば、権利関係が正常な世界に戻るだろう。少しは反動があるだろうがそれはこの10年余りのツケだ。
その後も口々に何か言っているが、反対意見ではないようだ。
「さて、決まりだな。今、この瞬間から俺達は『暁』を名乗る」
全員の顔を見渡す。みんな俺を見てゆっくりと頷く。
「ちなみにこれが装束だ」
そう言って俺が口寄せしたのは、黒地に赤雲の模様が描かれた外套だ。これで外見は整っただろう。
「暁として動く時はこれを着て動く」
全員が外套を着たのを見て、俺は宣言する。
「我々暁の目標はISを世界から解放することだ。俺についてきたこと、決して後悔はさせないと約束しよう。1年間、力を蓄え、本格的に動き出す」
俺は織斑千冬と篠ノ之束に復讐する。それが暁の結成理由であり、俺の最終目標でもある。必ずこの手で奴らを。
マドカ、ナターシャさん。スコールにオータム。マリア、サラ、ティナ。そしてアーデルに優子。予想をはるかに上回るメンバーがそろった。そして北条さんをはじめとするミラージュ。全員が俺についてきてくれる。
会議はそこで終わり、俺達は来るべき時に備えて本格的な準備を始めたのだった。