本編には特に関係ないので読み飛ばしてもらって構いません
Side オータム
「ちくしょう。無月のヤロー思いっきりやりやがって」
暁の結成から1月。私は訓練に明け暮れる日々を送っていた。今日は無月やアーデルハイドとISを使わない戦闘訓練をしていた。
私は格闘術に多少の自信はあったが、あの2人は異常だ。力・速さ・技の全てが抜きんでている。まだISの方が戦えたとは思うが、常にISが使えるとは限らないため、メンバー全員が必修科目として学んでいる。
先ほどは無月自身もやり過ぎたというぐらいのクリーンヒットを顎に受け、一瞬意識が持っていかれてしまった。ったく、あのヤロー。
「しっかし、平和すぎんだろ」
ここはユーゴスラビアの首都、ベルグラード。ISが登場して以来初の男女平等の国家とされている。女の特権は自分にとっては有利だったが、特に不自由もしないため問題はない。
スコールもいるし、訓練さえしていれば特に命令されることなく何ら不自由ない生活が遅れている。時には胸糞悪い任務をやらされた亡国機業とは待遇面でも雲泥の差だ。
しかし、1つだけ不満がある。生活が退屈すぎるのだ。根っからの戦闘好きである私は任務での戦闘の刺激が1つの楽しみだった。
スコールも楽しそうにしており、他のメンバーにも不満は一切ないと言っていい。実際に1年後
の戦争のために力を蓄えているが、やはり、実戦の空気が吸いたかった。
「なんかおもしれーことはないのかよ」
時刻は12時を回った頃か。しゃーない。あそこのデパートでメシでも食うついでに買い物でもして行くとするか。
「へー、小さいくせに意外といろいろあるんだな」
ここのデパートは首都の中でも比較的小さいが、服の各種ブランドも取りそろえてあり、大型のデパートにも引けを取らない規模だ。スコールがお洒落であるため、私も隣にいるならそれなりの格好はしないといけないと思っているので、服にはけっこう気を使っている。
スコールは暁の中のファッションリーダーであり、常に流行の最先端を走っていたりする。加えて、容姿もいいので、ミラージュでファッションショーを開いているのだった。私もそこに駆り出されることもあるが、主に出るのはスコールとナターシャである。
そんなスコールとデートする時は服屋には必ず寄るため、話について行けないと困ってしまうのだ。だから自然とプライベートの時でも寄って行くようにしている。
「お客様、大変お似合いですよ」
「そうか。じゃあ、これもらっていく」
いくつかの店を回ったところで私は新しいスーツを買った。前に着ていたスーツはIS学園を襲撃した時にボロボロになってしまい、新調していなかったのだ。
あの時の屈辱は今でも忘れない。いくら楯無の援護があったとはいえ、一度倒した織斑一夏に反撃を許したのは屈辱だった。
しかし、もう一度戦うとどうだろうな?確かにあの時は負けたが、私の実力はあの時よりも確実に上がっている。だが、それはあくまで訓練での話。早く実戦に出てみたい。
「ありがとうございました」
「おう、またくるぜ」
なかなかいいものを手に入れることができた。フラフラしている途中で男がナンパしてきたが、一睨みしたら帰って行った。この根性無しめ。
「もう帰るか」
そう思った時、
パアンッ!!
「てめえら!そこを動くんじゃねえぞ!!」
一発の銃声と共に黒服を着た集団が乗り込んできた。テロリストか?強盗か?ここで人質になるのも面白くないので、私は近くの時計屋に入った。
デパート内に設けられた1階の広場にデパート内にいた人間が集められている。人質は数十人。犯人達は広場にいるのが10人ほどと各フロアに2、3人と。
一度冷静に状況を見てみる。デパートは5階建て。犯人は20人ほどでほぼ全員が自動小銃を所持ってとこか。するとリーダー格と思われる人間が大きな声で話し始めた。
「まだ要求は通らんのか!?」
「はい、リーダー。向こうから交渉担当も来ていますが、はぐらかされているそうです」
「なら条件に追加だ。紛争で捕まった仲間を全員解放しろ。要求を飲まない場合は30分ごとに人質を1人ずつ殺していくとな」
どうやらユーゴスラビア統一紛争の反政府側の人間か。無月が主要メンバーは始末したそうだが、まだ生き残りがいたか。
さすがにISを使うのはまずいな。となると使える武器は限られてくるか。おもしれえ。久々に腕が鳴るぜ。
「誰かいるのか?」
「っ!」
不意に後ろから声がかけられる。見つかったか?仕方ねえ、まずはこいつからやるか。と思って物陰から声をかけた人間を見ると、テロリスト側ではない男がいた。
「そこにいるなら聞いてくれ。俺は奴らの仲間じゃない。顔だけでも見せてくれないか?安全に関わることだからな」
本当だろうか?迂闊に信じると痛い目を見るのは亡国企業で嫌というほど見てきた。だが、いざとなれば片付ければいい。そう判断して姿を見せることにした。
「誰だ。てめーはよ?」
すぐにハンドガンを展開できるようにしながら、男の前に姿を現す。立っていたのは身長が190はある筋肉質の男で、ハリウッド映画の警察官役で出てきそうな武骨な顔の奴だった。
「すまない。俺はユーゴスラビア治安維持部隊、特別警備部のジョン・ハワードという。あんたの名前は?」
特別警備部って、確か無月が半年前に設立したっていう超エリートの集まるユーゴスラビアのFBIって言われてるやつか?しかし、本名を教えるわけにはいかないな。
「・・・巻紙礼子だ」
またやってしまった。なんでこの名前を選んじまったんだ!?
「そうか。俺は奴らを鎮圧する。あんたはここで終わるまで大人しくしていてくれ」
ジョンと名乗った男は私に大人しくしていろと言ってきた。
「っは!こう見えても私もある組織にいてな。戦闘訓練はそれなりに積んでる。あいつらは私がブッ潰してやるさ!」
「だが、一般人を巻き込む負けには・・・」
ジョンは困惑するが、そんなものは関係ない。
「心配なんかいらねえよ。それより奴らの情報を教えろ。てめーも仕事みたいだから共同戦線といこうぜ」
「・・・わかったよ」
後で上司にどやされる―――と言いながらジョンはしぶしぶ私に奴らの情報を教えてきた。
奴らは『ホワイト・スネーク』という反政府軍の最大派閥を誇った連中で一番の過激派らしい。ただ、統一紛争の結果、壊滅に追い込まれたようだ。今回のテロを起こしたのはその残存勢力らしい。
「なら私が4階と5階の連中をやる。お前は2階と3階の連中をやれよ」
「そう簡単に言うが・・・ちょっと大雑把すぎやないか?」
「うるせえよ。それとも何か?自信がねえのか?」
尻込みするジョンに発破をかけてやる。こうでもしないと私が面白くねえんだよ!
「わかった。ただ、一度で決着をつける。この作戦にあんたも協力しろよ」
「ちっ!しゃーねーな」
ジョンは立てた作戦という奴を私に話した。が、これはこれで面白い。乗ってやるか。
「じゃあ、俺は行く。あんたの実力は知らないが、まあ、大丈夫だろ。しくじるなよ。でないと俺のクビが飛ぶ」
「っは!誰に言ってんだ。てめーこそしくじんじゃねーぞ!」
「そうか、健闘を祈る」
私が動き出すのはジョンが動き出してからだ。私はハイパーセンサーを使って周囲を確認し、非常階段で5階へと登って作戦開始を待つことにした。
「おい!2階の奴らと連絡がつかないそうだ」
「なんだって!?」
どうやらジョンは動き出したらしいな。ここでも連中が集まって焦ってやがる。そろそろ行ってやるか。私はテロリストの前に姿を現してやった。
「なんでか教えてやろうか?」
「誰だ、貴様は!?」
そう言って銃を構える。ここにいるのは3人か。ならこいつらを潰せばこの階はクリアってわけだな?
「教える必要はねえよっと!!」
「ぐう!」
駆け出し、思いっきり顔面を殴ってやる。呆気に取られて動けない2人を尻目に奪った銃で殴った奴の後頭部を一閃し、意識を奪う。
「仕方ねえ!撃て!!」
「おっと」
ダララララッ!
銃声が響くが、横に跳んでそれを回避する。今度は油断して来ないだろうな。しかし、ISを使うわけにもいかねえのは面倒だな。
こんなところで暁の戦闘訓練が生きるとは思わなかったが。私は物陰に隠れながらISから木刀を展開する。
普段の訓練で使う得物は様々で、訓練用の木刀は容量も大きくないので常にISに装備されている。そして敵の位置を探る。
「お前は向こうを探せ!俺はこっちを探す。そう遠くには行っていないはずだ」
「わかった」
有難いことに敵は二手に分かれて私を探し始めた。好都合だな。
「どこに行きやがったんだ?」
息を殺して棚の陰に潜んでいると辺りをキョロキョロしながら敵が近づいてくる。私が隠れている棚の前に通りかかったところで一気に飛び出す。
「ここだよ!オラァ!!」
「い、痛え!」
木刀で銃を持つ手を殴る。その痛みに耐えきれず銃を落としたところで腹を思いっきり突いてやる。鳩尾を突かれ息が思うようにできなくなったところで顎を打つ。すると男は棒のように倒れた。
これで2人目っと。もう1人はどこにいるんだ?ここは雑貨屋のようでちょうどロープがあったので、この男を動けないように縛り、もう1人の行方を捜す。
するともう1人は近くの宝石店にいるようだ。私を探すことはそっちのけで宝石を盗んでいる。完全に宝石の事にしか頭にない男に近づく。
「ったくよー。テロしてえのか強盗してえのかどっちかにしろよ」
「あっ!お前は―――ぐふぅ」
銃を構える余裕もなく、男は木刀で後頭部を打たれて気絶した。
「任務以外のことに手を出すとロクなことにならねーのによ」
歯ごたえのない相手に悪態をつきながら1人目の男も合わせて縛り、一か所にまとめて転がしておいた。次は4階か。
◇
「女のくせになかなかやる!」
「てめえこそ男のくせになかなかやると思うぜ!」
「言ってろ!」
4階にいた2人は5階にいた連中と同じように一瞬で片がついたが、残った1人が手強かった。こだわりがあるのか、銃は使わず、真剣を使って挑んでくる。まるで日本にいたっていう侍だな。
1合2合と打ち合ったところで、相手が私の喉めがけて突いてきた刀を木刀でいなして鍔迫り合いになる。こいつは確かに強い。たぶん今の私よりも。思いっきり木刀で押し返して一度距離を開ける。
激しく打ち合いをしていたのでお互いに片で息をしているので、お互いに呼吸を整えた。
「・・・1ついいか?」
「なんだよ」
相手が声をかけてきたので応じてやる。ただ、油断を誘おうとしているかもしれなかったので、気は抜かない。
「お前は何者だ?」
「・・・通りすがりの謎の美女だよ」
「・・・・・・そうか」
「そうだよ」
「・・・・・・」
なんだよ!この微妙な空気は。私は何か間違えたか?
「あーゴホンゴホン。てめえはテロリストどもの仲間じゃねーみたいだが、てめーこそ何者だ?」
こいつは仲間であるように見えたが、どうも他の連中とは微妙な距離があった。それに着物のようなものを着ていて格好も違う。亡国企業時代に見た雇われ兵士と同じような扱いをされているように見えたのだ。
「俺はこいつらに雇われてここに来た。まあ、傭兵に近いものだと思ってくれて構わない」
「そうかよ」
どうやら正解だったらしい。
「私にも時間がない。次で決めようぜ」
「いいだろう」
こいつとの戦闘に時間がかかり過ぎている。そろそろ決めないと援軍が来ては面倒くさい。私は腰を落として居合いのように構え、真っすぐに敵を見つめる。相手も真剣を上段に構えて私を迎え撃とうとする。
ダンッ!!
相手が先に踏み込み、それに合わせて私も動く。奴は真っすぐに刀を振り下ろす。ただそれだけのことだが、その動きは滑らかでこちらを圧倒するものがあった。
私は腰から木刀を抜き放って横一閃、相手の刀を弾く。そしてそのままの流れで頭上に構え、相手の頭に真っすぐと振り下ろす。相手は避けられないと悟ったか、襲い来るであろう衝撃を予感し、目をつぶった。
「・・・なぜ打たない?」
私はこいつを打たず、木刀を頭上で寸止めした。男はなぜ打たないのか、と抗議のしているようだ。私はそれを意に介さず、木刀を降ろす。
「勝負は私の勝ちだ。それでいいだろ」
「だが、俺はお前の敵。打つのが普通だろう?」
何だこいつは?面倒くさい奴だな。
「お前はあいつらに雇われてんだろ?いくらでだ?」
「・・・1仕事100万ほど」
こんだけのリスクを背負わせといてそれは安くないだろうか?私は懐からある通帳を取り出した。
「ここに500万ぐらいある。お前、私に雇われないか?」
「・・・なぜ?」
なぜって言われてもな。
「お前は相当強いだろ?たぶん私よりもな。なら私の訓練相手になれよ。あと、この事件の解決に協力しろ」
「・・・だがな」
うーん、と私の提案を渋る男。煮え切らない姿勢に私はだんだんイラついてきた。
「あーもう。グダグダうっせーな!てめーに拒否権はねえんだよ。傭兵だろ?このまま捕まりたくなかったら従っとけ!」
「・・・わかった。俺もここが潰れたら行くところがない。言う通りにしよう」
「それでいいんだよ。で、お前の名前は?」
「・・・木下宗吾」
名前からして日本人か。無月もアーデルも私よりも遥かに強い。訓練相手としては良いが、やはり手に汗握る戦いがしたいのだ。木下を雇ったのはそう言う理由だ。
「そうか、木下。もうすぐもう1人ここに来る。お前はその手伝いをしてもらうからな」
「わかった。えーと「巻紙礼子だ」巻紙殿」
またやっちまった!まあ、いいか。表の偽名はもうこれにしておこう。
◇
「すまない、少し手間取った」
5分ほど経ってからジョンが4階にやってきた。
「おせーよ!」
「巻紙殿。そちらの御仁は?」
そういえばそうか。木下はジョンを知らないな。
「えーと、ジョン・・・ジョンだ。特別警備部の人間だそうだ」
「そうか。ジョン・ジョン殿。先ほど巻紙殿に雇われた木下宗吾だ。よろしく頼む」
あれ?そんな名前だったか?ジョンは不満気にこちらを見るが知ったことではない。
「・・・ジョン・ハワードだ。巻紙、どういうことだ?」
「木下を使ってさっきの作戦を実行する。3人でかかればすぐに終わるだろ?」
「それもそうか」
ジョンは木下を一瞥した後、納得という表情を浮かべた。どうやら実力者であることを一目見てわかったらしい。
「作戦?」
意味がわからずに目を丸くする木下にジョンが今回の作戦を説明する。数分後、それぞれの役割分担が決まり、テロリスト壊滅へのカウントダウンが始まった。
◇
「リーダー殿。暴れていた2人を捕えたので連れてきました。なかなかの手練で手こずりましたが」
木下は私とジョンをロープで結び、リーダーの元へと私達を連行した。というか木下。お前、雇い主の名前も知らないのか?それは私でも覚えるぞ?
「ふん。雇って正解だったようだな」
顎に髭を蓄えたいかにも悪人面なやつだ。私達を値踏みするように見る目が非常に不愉快だ。
「えー・・・リーダー。こいつらたぶん政府側の人間ですぜ。見せしめに殺したらどうです?」
近くにいた下っ端が進言する。お前も名前を知らないのかよ!?この組織は一体どうなってんだよ!?するとリーダーは面白い、とでも言うように顔を歪めた。
「ほう、それはいいな」
少し怯えてやればいいのだろうが、生憎そんな気はない。
「おい、ジョン」
「どうした?」
私は隣にいたジョンに話を振る。
「こういう時ってお前らはなんて言うんだ?」
「そうだな・・・俺達はこう言う時は『ジャッジメント』と言うな」
決め台詞がジャッジメント。つまりは断罪者か。ちょうどいいな。
「おい、何を勝手に話してやがる!!」
リーダーが憤る。そりゃあ、捕まった人間がペラペラ話していたら私でもキレるだろうな。だが、今は立場が逆だ。
「そうか。さて、てめーら。覚悟はいいか?ジャッジメントだ!」
「なんだと―――ぐはっ!」
パッと木下が手に持ったロープを緩めると同時にロープが解けた私達3人が暴れ始める。
「木下!殺すんじゃねーぞ!!」
「承知!」
私は木刀で、木下は峰打ち、ジョンは拳でテロリストを鎮圧していく。10人いたはずのテロリストはあっという間に数が減っていく。
「オラァ!3!!」
「せいっ!2!!」
「よし!1!!」
「「「ゼロ!!!」」」
最後のテロリストには私達3人からの打撃というプレゼントを与えてやった。
パチパチパチ
捕まっていた人質達から拍手と歓声がわきあがる。そういえばこうやって応援されたのは初めてかもな。亡国企業時代は仕事柄、悲鳴しか聞いてこなかったが、こういうのも意外と悪くない。
「危ない!巻紙殿!!」
「は?」
突然、木下から声がかけられ、突き飛ばされた。
パアンッ!
「キャーーーー!!」
1発の銃声と悲鳴が響き渡る。そして私を突き飛ばした場所にいた木下が撃たれて倒れた。
「こいつ!!」
「ぐえっ!」
銃を撃ったのはリーダーだった。だが、すぐさまジョンによって鎮圧される。
「おい、木下!大丈夫か!!」
倒れた木の下をすぐさま起こす。
「ま、巻紙殿・・・ご無事で?」
息も絶え絶えに木下が言う。
「ああ、私は大丈夫だ。それよりすぐに手当てだ!すごい治療ができる奴を知っている!!」
容態はよくわからないが、無月の治療術ならば木下を救えるはずだ。無月に電話をかけるがこんな時に限って出ない。あのクソリーダーが!!
「ま、巻紙殿・・・済ま・・・ぬ」
木下は演技でもないことを言い、がっくりと力が抜けた。
「おい木下!木下ーーー!!」
ゆさゆさと揺するが返事がない。まさか死んだのか?私のせいで?こんなことが・・・。
トントン
「・・・ジョン」
私がリーダーを確実に仕留めておけば木下は死なずに済んだのか?などと考えていた私の肩をジョンが叩く。くそっ!慰めなんていらねーのによ。
「巻紙。そいつは死んでないぞ」
「・・・は?」
そう言われ木下に目を落とし、脈を取る。すると木下の脈はしっかりと動いていた。
「コラ、木下」
ビクッ!と動く木下。間違いない。こいつ、死んだふりをしてやがった。
「3秒以内に起きろ。死にたくなかったらな」
ハンドガンを展開し、安全装置を外して構える。
「カウントダウン開始~。オラ、3」
パアンッ!!
「ちっ」
「巻紙殿!2と1は!?それにその舌打ちは一体?」
バッと起き上がって銃弾を回避する木下。私をからかった奴は死ね。
「おい、コラ。どういうことかきっちり説明しろ」
木下の口の中に銃をねじ込む。話だけは聞いてやることにした。
◇
「ふーん。防弾チョッキをつけていたことを忘れてたと」
「・・・はい」
「それで撃たれたと錯覚して死んではみたものの、やっぱり生きていたと」
「・・・はい」
「で、私が本当に死んだと思っているみたいだから気まずくて起き上がれなかったと」
「・・・はい」
ふむふむ。大体の事情はわかった。
「・・・木下」
「・・・はい」
「やっぱり死ね!コラァ!!」
「落ち着いてくだされ!巻紙殿!!」
残っていた銃弾を木下に向けて発砲する。火事場の馬鹿力と言うやつだろうか?木下はあり得ないほどの俊敏性を発揮して銃弾を回避し続ける。
「巻紙。そのくらいにしておけ。ここで殺すと隠蔽が難しい」
「ちっ。仕方ねーな」
「ジョン殿!?」
隠蔽ができないのは難しいな。仕方がないので木下狩りを一時中断して解放されていく人質を見ていた。中には手を振ってくる子どももいたが、気恥かしくて目をそむけてしまったのは秘密だ。
「ジョン。ご苦労だった」
「いえ」
そういって入ってきたのはジョンが所属する特別警備部の上司らしい。どこかの軍曹のような口髭をしており、額から顎にかけてに走る刀傷が威圧感を増している。
「そちらの2人は、さきほどの?」
「ええ」
「・・・なるほど」
私と隣にいる木下を順番に見る軍曹。何がしてーんだ、こいつは?
「君たちは類まれな実力を持っているとジョンから聞いている。もしよかったら特別警備部に加わらないか?」
「・・・んだと?」
特別警備部に加われだと?
「いや、もしよければ、と言うことだ。強制ではない。ただ、君たちが加入すれば大きな戦力になると考えているんだ。そっちの君はどうだ?」
軍曹は木下に話を振る。
「俺は巻紙殿に雇われた身。巻紙殿が行くならそこについて行く」
確かにそういう話だったな。意外に義理堅い奴だな。
「そうか。なら巻紙くん。君はどうだ?」
特別警備部、か。ジョンがここに潜入していたところを見るとこういうミッションも多いのだろうな。私は今日起きた出来事を思い返してみる。久々に生きている、という感覚を味わえたな・・・よし、決めた!
「通常の勤務はできないかもしんねーけど、それでもいいなら入ってやる」
「ふむ・・・いいだろう。木下くんもそれでいいかね?」
「巻紙殿に従います」
「決まりだな。巻紙くん、木下くん。我々特別警備部は君達を歓迎しよう。国の治安を守る重要な役目だ。これからよろしく頼む。」
「ああ」
そして私と木下は特別警備部へと加入することになった。
◇
「へー、お前が特別警備部にね」
「なんだよ」
無月にこのことを報告していると意外、という顔をして私の報告を聞いていた。
「いや、ほら。お前ってそういう感じじゃなかったじゃん?正義の味方?反吐が出るぜ!みたいな感じじゃなかったか?」
「お前は私をどういう目で見てたんだよ?まあ、いい。いいのか、入っても?」
「訓練に支障の出ない範囲なら好きなことをすればいいさ。それにお前はストレスが溜まっていたみたいだからな。特別警備部で発散できるならいいと思うぞ?」
加入を決めた最大の理由を見事に当てられた。よく見ている奴だ。しかしこれで許可も出た。
「なら加入するぜ。特別警備部って無月が作ったんだろ?訓練には支障が出ないようなシフトにするよう手をまわしてくれよ」
「ああ、わかった。やっておこう」
「頼むぞ」
そう言って部屋から出て行こうとする。
「待て、オータム」
「なんだ?」
「木下宗吾ってお前の‘コレ’なのか?何やらお前が木下を随分と気にかけていたという話で持ちきりな」
そういって親指を立ててにやにやと振る無月。コイツ、どこまで知ってやがる?しかも大きな勘違いをしてやがる!?
「何を言ってやがる!あいつは部下だ、部下!」
「・・・つまんねーの」
「ったく。シフトはやっておいてくれよ。じゃーな」
「はいよー」
全く。私にはスコールがいるってのに。そういえば今日は木下と実戦形式の試合をする予定だったはずだ。さっさと行かないとな。それに特別警備部での最初の仕事はジョンを殺すことになりそうだ。
こうして私は特別警備部として働くことが決まり、ちょうど良い訓練相手も見つかった。まあ、こういう日も悪くはねーな。
◇
「巻紙殿。司令部から合図がきました」
「ああ。行くぜ、木下。ジョン」
「「了解!!」」
敵のアジトに潜入した私と木下。それにジョンは作戦司令部からの突入の合図を待ってテストの前に躍り出た。
「何者だ!」
こちらに気付いたテロリストが声を上げる。だが、そんなことは意に介さず私は任務時の決め台詞を声に出す。
「さて、てめーら。覚悟はいいか?ジャッジメントだ!」
こうして私は特別警備部の一員としての戦いを始めたのだった。