IS~ISと忍術と復讐と~   作:狐の面

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第33話 密約

 

Side 無月

 

  時刻は夜の10時。ドイツ首相、クラウス・フィッシャーは連邦首相府に戻ってきていた。40代で首相になった若きリーダーだ。人望があり、頭が切れる人間だと聞く。

 

  俺は首相秘書が自宅に戻ろうとしたタイミングで捕まえた。家族には遅くなると連絡させたので、問題はないだろう。俺は影操りの術を使った。

 

 

 

  「どうしたんです?今日はもうお帰りになられたのではないですか?」

 

  銃を構えたSPに首相府に入る前に止められ、質問される。

 

  『首相にお伝えすることがある。今入った連絡なので、至急お伝えしなければならないんだ』

 

  「仕方ありませんね。どうぞ、お入りください」

 

  操られているとも知らないSPは俺を首相府へと入れた。警備は多く、気の緩みも見られない。ただ、秘書が身内だろうか?警戒を向けられはしなかった。俺は2,3挨拶をしつつ、首相のいる執務室に辿り着いた。

 

  コンコンコン

 

  『首相、夜分遅くすみません。至急お伝えしたいことがあって参りました』

 

  「わかった。入りたまえ」

 

  そういって中へ通される。大きな執務室の中、クラウスは1人、椅子に座っていた。ブロンドの髪に精悍な顔つき。こちらをちらりと見ると、再び書類に目を通し始める。

 

  『実は大変な事態が発覚いたしました』

 

  「大変な事態だと?」

 

  クラウスは目を通していた書類を置き、こちらを注視する。そこで俺は大きく息を吸って影操りの術を解除する。

 

  「はあ、首相!大変です!突然拘束され、体の自由が利かなくなり・・・」

 

  秘書が息も絶え絶えに話す。ただ、動揺している秘書とは違い、クラウスは落ち着いていた。若くても度胸は座っているのだろう。

 

  「・・・貴様は誰だ?ここに侵入するとはいい度胸だ」

 

  俺の目的を問いただそうとするクラウス。目は燃えており、引き込まれそうな強さがある。

 

  「私は‘トビ’と申します。・・・ユーゴスラビア大統領・アーノルドの特使としてやって参りました」

 

  「・・・ユーゴスラビアの特使だと?ならば外務省を通すはずだろう?証拠でもあるのか?」

 

  まあ、そうだろう。俺はあらかじめ用意していた書簡を秘書に渡す。それを首相が読む。内容はいたって普通だ。俺を特使に任ずる、という内容だ。疑いの目を向けながらもクラウスは一応俺の話を聞いてみる気になったらしい。

 

  「国際舞台に出てこないユーゴスラビアが一体何の用でドイツに来た?それもこの時間に来るとはな。非礼もいいところだ」

 

  「大変申し訳ありません。内容が内容なもので。誰にも覗かれたくないというのが我が国の意思です。私達だけでなく、あなた方にとってもですが」

 

  「・・・なんだと?」

 

  クラウスの興味がこちらに向いた。さて、ここからだ。

 

  「単刀直入に申しましょう。スコール・ミュラーとアーデルハイド・ローゼンベルグの国籍をこちらに移すのを邪魔しないでいただきたい。それだけのことです」

 

  「スコール・ミュラーとアーデルハイド・ローゼンベルグを渡せ、というのか?2人がドイツにとってどのような立場にあるのか知って言っているのか?」

 

  やはり知っているようだ。スコールはともかく、アーデルの事も知っているとはな。

 

  「もちろんです。スコール・ミュラーはドイツに見放されドイツを捨てた悲劇のヴァルキリー。アーデルハイド・ローゼンベルグはドイツの非合法研究、アドヴァンスド計画の犠牲になった不幸な少女。2人から聞かせていただきました」

 

  「それをわかって言っているのだな。ならば、よし、と言うとでも思っていたか?」

 

  すんなりと渡す気はないか。

 

  「何もタダで、と言っているわけではないですよ。一方の条件のみを押しつけるのは交渉ではない。脅迫です。私は交渉しに来たのですから」

 

  「・・・ほう?」

 

  言っている意味がわかったようだ。

 

  「2人はISを所持しておりました。そしてこのまま国籍を移せば、我々はドイツから貴重なISコアを2つ。強奪した形となります。世間に知られていないアーデルハイドはもとより、スコールのISは有名です。それに貴重なコアを奪われたとあれば軍が黙っていないでしょう?」

 

  「・・・確かにそうだ。2人とももうドイツには戻ってこないだろう。だが、ISごと持って行くとなれば話は別だ。ドイツとして受け入れることは出来ない」

 

  もう戻ってこないという考えならば話は上手くいくだろう。

 

  「その通りです。ドイツに割り当てられたコアは10個。そのうち2つがないのです。受け入れがたいのはその点があるからでしょう?コアに比べれば2人の問題など、小さな問題なのではないですか?」

 

  「・・・何が言いたい?」

 

  さすがに言質は取らせないか。まあ、いい。

 

  「我々の国にはISコアが4つあります。そのうちのコア2つをお渡しします。その代わり、2人の国籍の変更を認めて頂きたい」

 

  まさか、コアの交換条件にしてくるとは思わなかったのだろう。2人が言葉を失う。

 

  「・・・条約に違反するぞ?」

 

  「それはコアの譲渡に関して規定されたもの。今回はコアの交換。どちらか一方が得をするわけでもないですし、想定されてもいないでしょう」

 

  するとクラウスは考え込む。条約に違反はしないまでも限りなくグレーに近い。決断をしかねる、という部分はあるのだろう。

 

  「なりません!もし発覚すれば首相の立場が危うくなります!」

 

  秘書がこの取引をなくそうと動く。まあ、側近としては当然だな。だが、ここで決断してもらわないとな。

 

  「それならば構いません。このお話はなかったことにしてもいいのです。私たちにとってはデメリットしかないのですよ?せっかく2人が亡命してきてコアが2つも手に入る機会を私達は棒に振るのです。それにこの話をあなた方にする必要があったとお思いですか?」

 

  秘書は黙る。この話は破格ともいえる話だ。2人を手放す代わりに2つのコアが手に入る。しかもその2人はドイツから逃亡しており、2度と戻ることのなかったコアなのだ。

 

  「それにこちらも条約すれすれの事をしているのです。他ならぬドイツのために。我々にとっても貴重なコアなのです。それを手放す決断をしたのは誠実を重んじる我らが大統領の判断があってこそ。おわかり頂けますか?」

 

  「・・・もし断ればどうするつもりだ?」

 

  やっと首相が口を開いた。

 

  「なんてことはありません。コアはドイツに譲渡せず、2人はこちらに正式に亡命する、それだけのことですよ」

 

  「・・・どちらにしても2人は持って行くと言うのか。ならばなぜ、この話を持ってきた?国益から見ればするべき行動ではない」

 

  確かにそうだ。だが、これはユーゴスラビアを国際社会に復帰させる足がかりにするという名目で行うつもりだ。

 

  「我々は内戦を追え、経済も内戦以前より発展いたしました。ですから次は国際社会への復帰を目指しております。ここまで言えばわかっていただけますか?」

 

  「ドイツの力添えが欲しい、と言ったところか」

 

  さすがに思考が早い。

 

  「その通りです。我々は国際的に女尊男卑撤廃を訴えていくつもりです。クラウス首相が目指している政策が我々に近しいものだった。ですから今回の話を持ってきた、というわけです」

 

  「・・・少し考えさせてくれ」

 

  クラウスは昨今の行きすぎた女尊男卑を是正するという政策を掲げ、大衆の支持を得て首相の座に就いた。だが、世界でこの流れはごく一部。世界中に女尊男卑を正当化させる政党・団体が乱立し、今の流れを作っている。

 

  国際社会で女尊男卑の是正を訴えようものなら即座に男尊女卑主義者・女性蔑視のレッテルを貼られ、非難の嵐にさらされる。

 

  ユーゴスラビアは今まで国際社会に出て行ったことがほとんどない。それを国際社会に復帰させるきっかけとなるのはクラウスにとって悪いことではない。

 

それにユーゴスラビアは世界で唯一と言っていい男女平等を政策に掲げ、実現している国家だ。そしてその国家がドイツと同調すればクラウスの説得力が増す。しかもコアが2つも手に入るのだ。断る理由はないと言っていい。

 

「・・・わかった。君たちの要求を飲もう。ただし条件がある」

 

「それは嬉しいのですが、条件とは?」

 

一体どんな要求をされるのか。出せるであろう要求は限られている。そこら辺のシュミレーションは北条さんやスコール達とも行っている。

 

「ユーゴスラビアにはミラージュが拠点を持っている。ミラージュと我が国のIS開発企業との合弁会社をドイツに作ってもらいたい。今回のISコアはミラージュとの共同開発、という形で作らせてもらいたい」

 

やはりか。ミラージュはどの企業とも組んだことがない。そして技術は世界でも屈指。どの国も望んでいる技術でもある。

 

「ドイツは今回の取引で多大な利益を得るはず。それ以上を望みますか?いささか横暴ではありませんか?」

 

「確かに君の言うとおりだ。だが、合弁会社である以上、こちらも資金を提供する。君はユーゴスラビアが保有しているコアは4つと言った。そして今回こちらは2つのコアを得る。それを用いた技術開発も可能なのだ。コアが不足している現状では君たちにも利益はあるはずだ」

 

普通の国では利益なのだろうが、ミラージュは俺を含めて10個のコアを保有している。さらに亡国企業が持っていた分などを含めるともっと多い。コアは現状十分にある。

 

ただ、表に出せないコアばかりだ。今回の要求では技術流出の恐れがあるが、出せない技術を出す好機とも言えた。もちろん提供する技術は制限するが。

 

「わかりました。ですが、2人への批判は可能な限り避けるように動いてください。特にスコールへの非難は大きいでしょう。そしてアーデルハイドを捕えようという動きは止めて頂きたい」

 

「いいだろう。その件に関しては可能な限り手を打とう」

 

「では交渉成立ですね。こちらがコアです。合弁会社の件については近いうちに関係者を送ります。ミラージュとの交渉次第ですが、上手くまとまるでしょう」

 

そして俺は懐に用意していたコアを2つ秘書を介して首相に渡した。

 

「私の話はこれで終わりです。この件はクラウス首相の働きかけの結果、ということにしてくださって結構です。その方が国民の支持を得やすいでしょう」

 

「いいのか?君たちの国にとっては損失そのものだ。国民としては面白くなかろう?」

 

「いえ、我が国は男女平等の世界を求めています。クラウス首相の影響力が増すことは我が国にとっても喜ばしいこと。国民も理解してくれることでしょう」

 

実際にコアが4つあることを国民は知らない。ミラージュがコアのうち2つをユーゴスラビアと共同保有することで国家代表を作る。

 

その国家代表もモンド・グロッソの予選に出すがスコール達がいるため本戦には出場できないだろう。

 

「それでは失礼いたします」

 

そういって俺は退出し、廊下に人気のないことを確認してミラージュに帰還した。

 

 

 

  「終わったの?」

 

  スコールが全員を代表して聞く。メンバーにはこの時間帯に会議室にいるように伝えておいたので全員がこの場に揃っている。

 

  「ああ、これでスコールとアーデルはユーゴスラビアの国家代表となる。モンド・グロッソに出場できるのはあと1人だが、この場で決めよう」

 

  全員が集まる機会はそうないため、さっさと決めておきたい問題だった。俺としては誰が出ても構わないが。

 

  「私は出るぞ」

 

  まず立候補したのはマドカ。まあ、ずっと出ると言うことは言っていたから当然だろう。

 

  「マドカか。他はいないか?」

 

  周りを見渡すが他に立候補するものはいないようだ。

 

  「他はいないのか?優子はどうするんだ?迷っていると言っていただろう?」

 

  「わしは出なくてよいぞ。マドカはずっと出たいと言っていたからのう。わしは観戦に徹することにしたのじゃ」

 

  まあ、そういうことならいいだろう。当人が納得している話だしな。

 

  「わかった。じゃあ、暁から出すもう1人の国家代表はマドカに決定する。今日の要件はこれでおわりだ。明日、スコールとアーデルは訓練ではなく、俺の所に来てくれ。国家代表になる手続きや亡命に関する話し合いをしたい」

 

  「「わかった(わ)」」

 

  「よし、今日は夜遅くに悪かったな。解散にする」

 

  これで国籍問題は解決だろう。後はマドカの件に関してだな。織斑千冬と顔が似ているという問題を解決しなければならない。

 

  以前と比べて表情が柔らかくなったことで似ているという印象は薄らいだが、一般人が見てもわからないだろう。加えて名字が織斑となれば話題性が一気に高まる。マスコミが喜びそうな話だ。

 

  避けては通れないことだけに早めに措置を取るべきだろう。対処策をいくつか考えながら俺は自室に戻ることにしたのだった。

 

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