IS~ISと忍術と復讐と~   作:狐の面

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第34話 決意

Side 無月

  

3月も後半に差し掛かり、そろそろ春の気配がする昼下がり、俺はマドカとひと仕事を終えた後の休憩時間を過ごしていた。

 

「なんとかなったな」

 

「ああ、なるようになるものだ」

 

スコールとアーデルの国籍変更問題はクラウスの協力もあってか思ったほどスコールへの好奇の目による追及は少なかった。まあ、予想より少ないと言うだけで当然パパラッチのようなものは来た。

 

だが、俺はそいつらを全て感知して締めておいたので、今ではスコールに関わると大変な目に会うと言うことで誰も来なくなった。国家代表に関しては出来レースのようなものでスコールとアーデルはすぐに就任。もう1人は公募とした。

 

意外だったのはマドカの問題がすんなりと片付いたことだった。

 

「名字を変えたのは正解だったな。織斑だと勘繰られるが、別の名字だとこうもあっさりとそっくりさんで終わるのだからな」

 

勝ち誇ったように言うマドカ。この作戦を考えたのはマドカだっただけにいつもより得意げな顔になっている。だが、俺には1つ気がかりなことがあった。

 

「だからと言って、霧雨はないだろう?霧雨は俺の名字だろうに」

 

「まあ、そういうな。過程はどうであれ得られた結果に変わりはない。これで私は国家代表になれたわけだからな」

 

それもそうか。マドカはミラージュに所属していたパイロットであり、今回、ユーゴスラビアの国家代表となったという筋書きで話が進んでいた。モンド・グロッソのために政府が頭を下げた、ということにしてある。

 

もう1人の国家代表は元々いた旧ユーゴスラビアの代表の中から選んだ。こちらには専用機ではなく、量産機を与えてある。ただ、量産機と言ってもいろいろ改造はしてあるので専用機と言ってもいいのだが。

 

ただ、見た限りの実力はマドカ達には遠く及ばないのでモンド・グロッソに出ることは無理だと思われた。

 

「この後はどうするんだ?モンド・グロッソまで4カ月。暁は本格的に動き出すのだろう?」

 

そういってあるからな。それにプランはもう描いていた。

 

「まずは安全保障理事会の非常任理事国から狙う。そこでISを奪いながら少しずつ暁の名前を売る。非常任理事国が保有しているISは1機ではない。少し奪っても隠蔽しようとするからな。動きやすい限りだ」

 

現代はISが主流の兵器のような扱いを受けており、従来型の兵器は衰退した。といっても全くないわけではない。規模が縮小されただけでどの国も保有している。

 

ただ、不思議な世界だと思う。ISの軍事利用は禁止と条約を結んでおきながら軍がISを保有・開発しているのだ。何かがあれば条約に関係なく投入する、ということだろう。

 

そのため、国家間のパワーバランスもISの保有数で決まる。IS保有数はアメリカ、日本、ロシア、中国、ドイツ、イギリス、フランスの順で多く、当然、ISを保有していない国も存在する。

 

それらの国は開発するだけの技術・資金がないためで、地域間での軍事同盟に加わることでISの力を享受している。その分、負担はあるようだが、自国で1から開発することを思えばずっと安上がりだ。

 

企業もISを保有しているが、国家から借りる、という形を取っているので、結局は企業のものではないと言える。

 

ミラージュも日本から拠点を移す際には苦労したようだ。最終的には現地法人を残す、という妥協点に落ち着いた。ミラージュの技術はそれだけの価値があると判断されためだ。まあ、残してあるのはどうでも良い技術ばかりだそうだが。

 

「私達はどうするんだ?」

 

「マドカとアーデル、スコールは主に訓練だな。他の顔を知られていない面子で今回は動く。マドカ達が暁だと漏れると計画に支障が出る」

 

最初から大攻勢に出るわけではない。各国が暁の存在を認知すれば今回の目的は達成されたと言える。今の実力から言えばそれほど難しいことではない。

 

「そうか。では無月はどうするんだ?」

 

「俺はちょっとIS学園の卒業式に出席してくる。約束があるんでな」

 

気がつくともう楯無さんの卒業する時期だ。IS学園を再び訪れないといけないだろう。

 

「IS学園と言えば暮桜が出てきたようだな」

 

「ああ。この間の専用機持ちのトーナメントでまた無人機が出たらしい。無人機は10機だったようだが、専用機持ち達では止めきれずに織斑千冬が出張ったようだ。まあ、さすがに鈍っていたらしいがな」

 

篠ノ之束も懲りない奴だ。一体何がしたいのか。イベントのたびに襲撃されていたらたまらない。IS委員会も重い腰を上げて、真相の究明に乗り出したと聞く。まあ、世間一般には犯人が不明の襲撃事件だ。真相は闇の中だろう。

 

そして暮桜。やっとか、という印象だ。だが、織斑千冬がかつての輝きを取り戻すのは時間がかかるだろう。数年間ISに乗ることがなかったのだ。いくら元・世界最強といえども鈍りはつきものだ。

 

元の能力が高いだけに他のものに比べて早く勘は取り戻すだろうが、奴にその時間があるかどうか。まあ、俺としては嬉しい限りだ。生身の織斑千冬を倒すのは簡単だが、それでは面白くない。織斑千冬を暮桜ごと粉砕することで俺の目的は果たされる。

 

篠ノ之束に関してはやはり関係者の誘拐が有効な手段に思えた。隠れ家から引っ張り出すことができればやりようはいくらでもある。誰か小間使いのようなものがいれば情報を抜き取って襲撃をかけれるのだが。

 

「卒業式に行くということは前に会いに行った楯無というやつにまた会いに行くのか?」

 

「そうだが、それがどうかしたか?」

 

何か気になることでもあるのだろうか?

 

「・・・その先輩の事が気になるのか?」

 

「一応在学中にお世話になった先輩だからな。まだマドカ達に会う前だったし、それなりに気をかけてくれた人だったからな」

 

楯無さんの事は嫌いじゃないしな。

 

「・・・そうか。じゃあ、帰って来たら私とご飯を食べに行かないか?この間、良い店を見つけたのでな」

 

「マドカが言う店なら間違いはないだろうしな。わかった。帰ってきた翌日に予約を頼む」

 

マドカは店を見つけるのが上手い。なんでも俺が無一文にならないような店を探し続けてくれた結果、安くておいしい店を探すのが楽しくなったそうだ。よくアーデルや優子と一緒に出かけている。

 

「任せておけ!」

 

「期待しているぞ」

 

さてと、俺は卒業式に行く準備でも始めようか。そう思い、3日後に行われるIS学園の卒業式に向けて準備をすることにした。

 

 

 

IS学園の卒業式は日本で行われる卒業式と同じ形式で進められる。違うことと言えばスカウトをするために多くの企業や研究者が待ち構えていることだろうか?

 

学年でトップ10に入るような生徒の大半は既に進路先が内定していると聞く。このIS学園は世界中からIS適性のある学力・実技共に優秀な生徒が多い。いうなれば世界中のエリートたちだ。

 

例え学年トップクラスの生徒ではなくても優秀な人材と言えるため、あらかじめリストアップしておいた生徒に卒業式後に声をかけてスカウトするという方法が一般的である。

 

スカウトたちは座っているお目当ての生徒に声をかける準備で忙しくしているが、スカウトに関係がない俺は学年主席である楯無さんの卒業生を代表した言葉を聞いていた。

 

楯無さんは堅いことが嫌いだと言っていたが、卒業式は真面目に話をしている。話の要点をしっかりとまとめているため非常に聞きやすい。楯無さんの挨拶が終わると盛大な拍手が送られ、中には泣いている生徒もいる。

 

次は在校生代表の話か。通例では次期生徒会長が挨拶をするらしい。誰が出てくるのかと思えば、次期会長として織斑が出てきた。

 

しかし、織斑が生徒会長か。生徒会長は学園最強の証だと言っていたな。だとすれば織斑が最強か・・・面白い。

 

そう考えているうちに織斑の話が終わり、卒業式も終わりに近づいた。楯無さんは進路をどうするのか聞いていないが、本格的に更識家当主に専念するのだろうか?いつ接触をしようかと思ったが、待っていればいい。

 

それにおそらく俺がいることに気付いているだろう。何度かさりげなく目線をこちらにやっていたので間違いはない。

 

そして卒業式が終了し、卒業生が退場していった。会場が一気に慌ただしくなり始めたのを見て俺も会場を後にする。俺に気付いているので1人の時間を作ってくれるはずだ。それまでは学園見学でもしていよう。影分身を作り、鳥に変化させて楯無さんにつけておくことにした。

 

 

 

「楯無さん、卒業おめでとうございます」

 

「ふふふ。ありがとう。でも堂々と入ってきてたわね。あなた自分がどんな立場だか理解してるの?」

 

友人や織斑達との話を切り上げた楯無さんが1人になったため、俺はそこに飛んで常套句を述べていた。

 

「さあ、忘れました。でも驚きましたよ。次期会長が織斑なんてね」

 

「彼もそれだけ成長したってことよ」

 

うんうんと満足げに頷く盾無さん。

 

「なら、近いうちに挨拶でもしないといけないですね。ここに来る用事ができてしまいましたよ」

 

ここは全寮制のはずだ。いつ来てもいいのだろうな。新会長に挨拶をしておかないとな。IS学園最後の生徒会長に。

 

「本気で言ってるの?」

 

「さあ、どうでしょうか。それより食事に行っても大丈夫ですか?彼氏がいないようですが?」

 

約束では彼氏がいたら行かないという内容だったな。

 

「・・・なかなかできないものなのよ。まあ、いいわ。私を1年も前から誘ったんですもの。ちゃんとエスコートしてくれるんでしょう?」

 

そういって腕をからませてくる楯無さん。主導権を握られてしまったな。それにわざとなのか腕に胸を押し当ててくる。これがハニー・トラップなのか?

 

「じゃあ、行きましょうか」

 

時間は17時か。まあ、概ね予定通りだ。あくまで平静を装いながら俺は楯無さんを連れて飛雷神の術で飛んだ。

 

 

 

朝日がまぶしい街が見える部屋の中に俺達は立っていた。ここはフランスの首都・パリ。ここは朝を迎えたばかりだ。

 

「ここはどこなの?」

 

「花の都、パリですよ」

 

ここはミラージュが所有している、小さなビルだ。俺の移動用として賃貸してもらった。まあ、さびれたビルを借りたのでずいぶん安かったはずだ。

 

「どうやって移動したの?信じられないわ」

 

「信じるか信じないかは別にして、行きましょうか。少し早めの食事ですがいいですよね?」

 

呆気にとられる楯無さんを連れて俺は予約をしておいたレストランへと向かい、店員に来店を伝えると奥へと通された。

 

「あら?なかなかオシャレなところじゃない」

 

「ありがとうございます。今日は無理を言って開けてもらいましたからね」

 

ここはマドカと見つけた店だった。本場のフランス料理がおいしい店はないかと探した結果ここに辿り着いた。しかも今日はこの日のために貸し切りにしてあった。

 

「それにこの時間帯は貸し切りにしてあるんじゃない?なんとなく文字が読めたからわかったけど」

 

「・・・この日のために頑張りましたから」

 

マドカに感謝しないといけない。イベントの度に無一文になる日々。そんな中でやりくりをしてここを貸し切りにできたのはマドカの店を探す努力のおかげだった。しかし、ナターシャさんはよく飲むなあ。スコールとの飲み比べとかもう・・・あれ?目から汗が

 

「深い事情がありそうね。でも嬉しいわ」

 

「喜んでもらえるだけで涙が止まりませんよ。それでは、楯無さんの卒業を祝って乾杯!」

 

「「かんぱーい」」

 

チンっとグラスを当て、俺達は料理を食べ、他愛のない話をしてこのひと時を楽しんだ。

 

 

 

「ねえ、霧雨くんの思いは変わっていないの?」

 

食後の紅茶を飲んでいる時に盾無さんがふと切り出した。

 

「ええ。そのためにこの1年半準備をしてきましたから。ここから俺は動きます」

 

悲願、と言ってもいい。そのためにそれだけを考えて今まで生きてきた。準備はすべて整ったと言っていい。ただ、あの天災がどう動くかが、読み切れない。ある程度の想定はしているがそれを超えてくる可能性は捨てきれない。

 

「・・・もう止められないの?」

 

止まることなどもう頭にはない。俺は無言で楯無さんを見る。楯無さんはそれで悟ったらしい。それ以上、この話題は会話の中に出なかった。

 

 

 

「今日はどうでした?あと、俺からの卒業祝いです」

 

食事が終わり、俺は楯無さんに卒業祝いのプレゼントを手渡した。

 

「ありがとう。ずいぶん気が利くようになったわね」

 

感心したように楯無さんが言うが、気を使わないと生きていけない日常生活だった、ということだ。みんな厳しいからな。

 

「さて、もうお開きにしましょうか。送って行きますよ。まずは日本に帰らないといけませんが」

 

「なら捕まらないとね」

 

そういうと楯無さんは来た時と同じように俺と腕を組んできた。

 

「楯無さん。当たってます。俺が勘違いしたらどうするんですか?」

 

「あら?おねーさんを好きになってくれてもいいわよ。恋人募集中だもの」

 

また、この人は。こういうのが得意なんだからな。

 

「ははは。冗談きついですね。どんな男も楯無さんならイチコロにできますよ」

 

何を考えているのかわからないところはあるが、容姿端麗、スタイルがよくて、何でもできる、楯無さんがその気になれば恋人なんて掃いて捨てるくらいできるだろう。

 

「ふふふ。なら霧雨くんはどうなのかしら?」

 

「俺ですか?色恋は全てが片付いてからですね。さあ、行きましょうか」

 

話を切り上げて俺は飛雷神で飛んだ。俺は日本中に術式を置いているため、基本的にどこでも移動が可能だ。楯無さんの家は術式から離れてはいたが、チャクラを使って走ればすぐに行ける距離だったので楯無さんを抱えて走った。

 

楯無さんの家はさすが対暗部用暗部の当主の家だけあって日本家屋の大きな家だった。一体、何坪あるんだか。

 

「さよならですね、楯無さん。もう会うこともないでしょうし」

 

「そう、もう会えないのね」

 

空を見上げる楯無さんだったが、しばらくすると俺に向きなおった。

 

「私はあなたを止める。復讐なんてさせないわ」

 

決意に満ちた目。俺は始めて楯無さんと対峙した時のことを思い出していた。

 

「俺は楯無さんのその目が好きでした。どんな相手にも屈することなく向かってこようとするその目が・・・受けて立ちましょう。俺は2人を断罪する。楯無さんは俺を止める。そうなればいつか会う日も来るでしょう」

 

また厄介な敵を作ってしまったな。力だけではない。実に戦いたくない敵である。

 

「・・・ならこれが私からの宣戦布告よ」

 

そういって俺にゆっくり近づいてきた楯無さんは俺の唇に‘キス’をした。突然の出来事に頭が真っ白になるが、すぐに意識を元に戻す。

 

「また、そういうことを・・・最後に忠告です。ISのコア・ネットワーク。あれは外しておいた方が良いですよ」

 

「・・・どういうこと?」

 

「これは仮説に過ぎませんが、信憑性は高い情報です。篠ノ之束はISにつけられているコア・ネットワークを介してISの制御権を奪い取ります。最悪の場合、篠ノ之束はISを暴走させてくる可能性があります。ゴスペルはこれで暴走させられたそうです」

 

ゴスペルはこの方法で制御権を奪われ、暴走させられた。奴は再びこの手を使う可能性がある。

 

「・・・信じがたいけど、あなたが言うなら信じるわ。でもこれは公にできない話ね」

 

「そうですね。楯無さんの胸の中に秘めておいてください。それじゃあ、楯無さん、また」

 

「ええ。またね、霧雨くん」

 

会う気はないが、いつか会うことになる、という予感がしていた。そして俺はユーゴスラビアに帰国したのだった。

 

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