Side 無月
6月。モンド・グロッソの予選は楽勝だったと言っていい。スコール、マドカは力を隠したまま完勝。アーデルは圧倒的な速さでキャノン・ボールの予選を勝ち抜いた。
本戦は7月の中旬から日本で行われる。そして俺達が動き出す時も確実に迫っていた。普段の訓練にも緊張感をもって臨んでいる。
かねてからの計画通り、IS大国に準ずる国家のISを強奪する事件を起こしており、暁の存在は密かに囁かれるようになり始めた。ただ、国家が非合法組織にISを奪われることは恥である。
どの国家も公表することはせず、独自に暁を追い始めているようだ。ただ、尻尾をつかませる真似は誰1人していないので、暁に関する情報は噂が1人歩きしている状態になっていた。
「無月君。そろそろ休憩にせぬか?」
「ああ、ずっと動きっぱなしだったからな。午前中の訓練はこれで終わるか」
俺は優子とISの模擬戦を行っていた。写輪眼でも追いつくのがやっとのラビット・スイッチを持つ優子との近接戦闘は緊張感に満ちていた。少しでも優子の扱う武器への対処法を誤ると流れを持って行かれかねない。
「いつ日本に行くのじゃ?」
モンド・グロッソに出場するマドカ達を応援するために俺達は日本に行くことを決めており、観戦チケットも手に入れていた。それに今回は出場者の力量を実際に見るまたとない好機である。
戦争に出て来られると厄介な者を調べておいて、さっさと襲撃してしまうのも考えている作戦の1つである。こちらは数で劣る。何も正々堂々と戦う必要はない。勝利すれば目的は果たされるのだ。
「大会の2週間前に入国して情報を集め始めるつもりだ」
「わかったぞい。わしらもやるべきことをやらねばのう」
今の会話で思い出した。俺はその前に日本に行く用事があったな。正式に日本に行く前にその用事を済ませておくか。
俺は午後の訓練は早めに切り上げて日本へ飛んだ。
Side シャルロット
一夏が生徒会長に就任し、僕たち3年生の専用機持ちは全員が生徒会に所属することになった。今は授業が終わり、一夏達と生徒会室に向かっていた。ラウラとセシリア、鈴はアリーナで訓練をしているはずだから、今いるのは僕と一夏、箒と簪だった。
「―――じゃあ、織斑先生は今回のモンド・グロッソには出場しないの?」
「ああ。千冬姉は選手としてはもう活動はしないらしい。暮桜も緊急時以外は起動させないそうだ」
織斑先生は昨年度の終わりに無人機が襲撃してきた時に暮桜を起動させていた。行方不明とされていた機体は織斑先生が持っていたようだ。
そして無人機達をわずかなダメージを負っただけで撃破していった。現役時代を彷彿させる動きだったが、1ヶ月後に日本で行われるモンド・グロッソには出場しないらしい。
今回のモンド・グロッソは新興国のユーゴスラビアがダークホースとしてあげられていた。行方不明だった第2回モンド・グロッソ・ヴァルキリー、スコール・ミュラーがユーゴスラビアに国籍を移したことは大きな話題となった。
スコールはヨーロッパ予選を圧倒的な強さで通過し、それに織斑先生に似ていた霧雨マドカという選手も同じくユーゴスラビア代表であり、こちらも予選を圧勝していた。
しかし、霧雨、という名前には苦い思い出がある。前代未聞の生徒による学園襲撃事件を起こし、復讐を宣言して学園から姿をくらました世界で2番目の男性操縦者の名前だったからだ。
僕たちは6人がかりで1つもダメージを与えることが出来ずに敗北。織斑先生は1カ月意識不明の重体となり、復帰までに2カ月かかった。
それに彼から告げられた衝撃の内容により、僕たちは動揺した。特に一夏の精神は不安定になり、箒も自分の姉が起こす事件に塞ぎ込んでいた。
僕たちは何も声をかけることができなかったが、前生徒会長の楯無さんが黙々と訓練に励む姿を見てみんな時間はかかったが、立ち直っていった。そして一夏が生徒会長を目指すきっかけとなった。
その後、一夏は実力を伸ばし、生徒会長に就任することとなった。一夏は楯無先輩の在学中に生徒会長の座を奪えなかったことを悔しがっていたが。
「今回はユーゴスラビアが強いな。ISについては新興国らしいけど、どうしてなんだろうな?」
一夏が箒に話しかけていた。
「あのスコールという存在が大きいのだろう。前回のヴァルキリーだしな。しかし、あの霧雨は気になる。高校生ぐらいの千冬さんにそっくりだった」
「ああ。でも、千冬姉も知らないらしい。それに本人も血縁に関しては否定しているし。世の中似ている人間が3人はいるらしいしな。そのうちの1人なんじゃないか?」
どうやら話題は霧雨という選手の事らしい。
「簪。楯無さんはモンド・グロッソに出場するんでしょう?」
「・・・ロシア代表で出るみたい」
簪はこの1年で最も実力が伸びた1人だ。多くを話そうとはしないが、1年の終わりにあった無人機襲撃事件が大きく関係しているらしい。
楯無さんは自由国籍でロシア代表でもある。IS大国は出場枠があるため予選は国内で行う。残りの枠をかけて各大陸で予選が行われる。決勝戦は苦戦したようだが、楯無さんはロシア代表としての出場権を確保していた。
「しかし、今日も書類が溜まってるな。シャル、何時に終わるんだろうな?」
「うーん、8時までには終わらせたいよね」
生徒会というのは意外とやることが多い。学園の運営に関する発言権もある。また、生徒からの要望書も多く、裁く書類は膨大だ。
一夏は鍵を取りだして生徒会室の扉を開け、明かりをつけると、誰かが、生徒会長の椅子に座っていた。
「遅かったな。あやうく寝てしまうところだったぞ」
聞き覚えのある声だった。でも、どうしてここに!?
「お前は・・・霧雨無月!」
一夏が殺気立つ。織斑先生が倒れて以来、やり場のない怒りを溜めこんでいたのだ。
「久しぶりだと言うのに物騒な奴だ。それで後ろにいるのが楯無さんの妹か。初めましてだな」
一夏のことなどまるで意に介さず、彼は簪に挨拶をした。
「お前は何の目的があって来たんだ!学園でお前が何をしたのか覚えていないのか!?」
彼は学園でお尋ね者になっている。当然だ。地下研究所を破壊し、ISのデータを盗み、織斑先生を重体にしている。
「新しい生徒会長への挨拶だが?前生徒会長の楯無さんにはお世話になったからな。しかし、お前が生徒会長か。是非手合わせをしたいものだ」
一夏を値踏みするような目で見る霧雨無月。
「もう一夏は君にやられた時とは違う。甘く見ない方が良いよ」
一夏は学園最強と呼ばれる生徒会長になったのだ。2年前とは実力も全く異なっている。
「そうか。だが、残念ながら昨年は対処できなかったそうだな。さすがに10機の無人機は無理だったか?」
「っ!」
その件は学園の機密事項。完全に部外者となっている彼が知っていていい情報ではない。
「・・・なぜ、それを知っているの?」
簪が聞きたいことを代わりにいってくれた。
「さてね。風の噂とでも言っておこうか。それに機密事項だから外部には漏れていないとでも思っていたか?それは大間違いだ、と言っておこう」
どうやらこの学園を探る方法を持っているらしい。
「そんなことはどうでもいい。お前の目的は何だ!」
「さっきも言っただろう?新生徒会長への挨拶だ。楯無さんの後任だ。気になるだろう?どんな素晴らしい人物が就任したのか、ってな」
にやりと笑いながら言う霧雨無月。
「・・・千冬姉を狙いに来たのか?」
そうなのだ。彼の目的は織斑先生と篠ノ之博士への復讐。ここに現れたということは織斑先生を狙いに来たのかもしれない。
「さあ、どうだろうな?ああ、聞いていなかったな。お前はあの殺人者をかばうのか?」
「お前のいうことは信用できない。それに千冬姉を狙うなら俺が千冬姉を守って見せる!」
一夏の言葉を聞いて、無月は深いため息をつく。
「・・・その様子だとまだ本人から真相を聞いていないのか。お前達は目をそむけているだけさ。お前は姉が世界最悪のテロリストだという事実から。姉は自分が2人の死の片棒を担いだという現実からな」
誰も言葉を発することは出来ない。さらに彼は続ける。
「行為には結果が、結果には責任が伴うとかつて言ったな。まさに俺が言いたいことだ」
「・・・・・・」
一夏は黙ったままだ。
「まあ、お前が奴をかばおうが知ったことではない。死とは理不尽なものだ。ある日突然誰かの上に降り注ぐ。俺の両親はあいつら2人の遊びに巻き込まれて死んだんだからな。それがお前にも振りかかる程度の問題だ」
そう言って彼が遠くを見るような目をする。どこまでが本当のことなのか。
「―――遅れてすまない、一夏・・・っ!お前は霧雨無月!!」
ラウラが生徒会室に戻ってきて無月を見た瞬間にレールカノンを展開し、狙いをつける。
「・・・どうやら邪魔が入ったようだ。もう帰ることとしようか」
「逃がすと思ったか?」
ラウラが逃がさないという口調で迫るが彼は銃口を向けられても動揺1つ見せない。
「いや、帰らせてもらうさ。それにお前達が全員でかかってきたところで返り討ちにあうだけだ。無人機もまともに倒せないお前たちではな」
「・・・試してみないとわからない」
簪も荷電粒子砲・春雷を展開し、箒は雨月と空裂を僕はアサルトカノンを展開する。
「千冬姉とは話し合うさ。だが、どんな結果になろうとお前が千冬姉を狙う限り、俺が千冬姉を守ってみせる!」
一夏も雪片を展開し、無月に向けた。
「・・・へえ」
そう言って口元を緩ませる霧雨無月。そして次の瞬間。一夏の目の前に現れ、刀を振り下ろす。
ガキッ!
「くっ!」
それをギリギリで一夏は受け止めた。
「何を!」
ドドドドッ!
僕達は構えた武器を一斉に放つ。
「残念。はずれだ」
撃った先に彼の姿はなく、天井に逆さまに立っていた。そして一回転して再び目の前に降り立った。
「まあ、いいさ。俺は織斑千冬と篠ノ之束は許さない。お前がその2人を守るというのなら戦うだけだ。俺は帰らせてもらう。じゃあな、IS学園最後の生徒会長」
「待て―――」
一夏が真意を問いただす間もなく、ヒュッという音と共に彼は消えた。もう気配は感じない。一体どんな方法で消えたのだろうか?そして一夏は外を見たまま立ちつくし、唇を噛みしめていた。
「・・・一夏」
「悪い、みんな。少しの間、1人にしてくれ」
一夏が普段見せることのない暗い表情で僕たちに告げた。そして僕たちはその言葉に従って生徒会室から出た。
「くっ!あいつは今さら何をしに来たんだ!」
箒が壁をドンッと殴りつけながら言う。
「僕もわからない。でもあの口調からすると学園で起きた事件は把握しているみたいだったよ」
「それに最後に言った言葉も気になる。一夏が最後の生徒会長とはどういう意味だ?」
最後の、という言葉をそのまま解釈すればもう一夏以外の生徒会長は現れない、ということである。
「・・・IS学園を潰すということ?」
「わからん。だが、そんなことができるとは到底思えん」
何から何までわからないことだらけだった。彼がこのタイミングで訪れた意味も目的もその言動も。織斑先生と篠ノ之博士に対する復讐心が変わっていないことを確認できただけだ。
「一夏は大丈夫なのだろうか?」
一夏は再び精神を揺すられてしまった。
「嫁は強い。大丈夫だろう」
「・・・私もそう思う」
彼の行動は気になるが、考えても仕方のないことか。今は一夏のことを心配していよう。そう思い、僕たちは解散した。