Side 無月
モンド・グロッソが明日に迫り、マドカ、アーデル、スコールは本戦に向けた準備に追われていた。俺達は全員が日本入りをし、3人以外は情報収集をしており、それなりに忙しく動いていた。
「しかし本命のいない大会とはよく言ったもんだな」
「そうね。アメリカからイーリスが出るみたいだけど、スコールやマドカちゃんには敵わないと思うわ」
今回の大会は2大会に出場し、世界中から優勝候補の筆頭と目されていた織斑千冬は欠場している。そのため、本命が不在の大会と言われていた。そして練習風景や国内予選を見た限りでは、出場者の実力は拮抗している。
ヨーロッパ予選を圧勝したマドカとスコールだが、IS大国の6カ国には及ばないだろう、というのが一般的な論調だった。スコールに関しては行方不明だった期間中、何をしていたか不明だったため、実力が低下している、とされていた。
「しかし、更識前会長が出てくるとはのう」
「それは意外だったな。マドカとスコールを除けば優勝候補だろう。ロシア予選では少し苦戦したらしいが。それに、ISの性能は厄介だ。不意打ちも得意だし」
ナノマシンを見切ることは難しい。クリア・パッションを使われたら、爆発寸前に避けるしかない。写輪眼を使えば見切ることは可能だが、できるのは俺だけだ。
「キャノンボールはアーデルハイドの圧勝じゃろうな。速度が段違いじゃ」
「ああ、ぶっ飛ばしてるからな。今回のブースターもアーデルじゃないと使いこなせないだろう。なんせ速すぎる」
格闘部門とは異なり、キャノンボールはアーデルが圧勝すると言うのが大方の予想だ。ミラージュが今回から参戦し、アーデルのバックにつく。それにキャノンボールにおいて、アーデルのヴォーダン・オージェは強力な武器だ。
対抗馬としてクラリッサというドイツの選手が挙げられているが、こいつもヴォーダン・オージェ持ちだろう。それにドイツのIS部隊、シュヴァルツァ・ハーゼの副隊長という話だ。ただ、アーデルの敵ではないだろうな。
「まあ、やってみないと何とも言えん。俺達は情報を集めるだけだ。実際に敵対する相手を自分の目で確かめておくのも悪くない」
再び俺達は散って、自分の目で出場者の力を把握する作業に移った。
「マドカは決勝まではいけそうだな。スコールは準決勝で楯無さんか。ここに気をつければ大会史上初の同じ国家による決勝戦になるな」
大会当日。格闘部門の組み合わせが発表された。順調に行けばスコールは準決勝で楯無さんと。マドカは準決勝でイーリスと当たる。それ以外に目ぼしい者はなく、日本からの出場者も織斑千冬と比べて見劣りする。
「それまでは退屈そうじゃのう」
出場者は28名。うち4人がシード。マドカはAブロック、スコールはCブロックになった。格闘部門では1回戦は1日に4試合、2回戦から1日に2試合、3位決定戦と優勝決定戦は1日ずつの計12日間かけて行われる。
格闘部門は花形競技なので大祭の最終日に合わせて行われる。制御部門やその他の部門は大会の始めの方に行う。前座的な位置づけになってしまってはいるが、仕方がない。ISはやはり戦闘だ。
「まあ、そういうな。4年に1回のお祭りだ・・・最後のな。俺たちも楽しんで行けばいいさ」
「そうじゃのう。ではあっちの店も回ろうではないか!」
会場付近は既にお祭りモード全開で所狭しと各国の料理を取りそろえた屋台が並んでいる。ないせ会場は超がつくほど満員だ。チケットの取れなかった人のためのモニターもあり、会場外でも人は多い。
「優子。マドカの応援しなくてもいいのか?」
それだけが気になる。しかも優子は観戦に徹すると言っていたのではなかったか?
「かまわんよ。見なくても結果などわかる。信頼の証じゃと思ってくれ!―――それにこんな時じゃないと2人で回れんしのう」
最後の方はよく聞き取れなかったが、まあ、いいか。あの2人が1回戦負けなんてありえない。
「なら、行くか。どこから回る?」
「こっちじゃ!」
満面の笑みを浮かべた優子に手をひかれて俺達は屋台街へと出かけて行った。喜んでくれるならこういうことも悪くない。
夜、俺は正座をさせられていた。
「・・・無月、何か言うことがあるんじゃないか?」
マドカだ。無事1回戦を突破したのでお祝いを言いに行こうとして部屋に入った瞬間、『正座しろ』との言葉に逆らうことができないまま、現在に至る。
「・・・はい。マドカさん、1回戦突破おめでとうございます」
にこりともしないマドカ。観戦しなかったのはやはり相当まずかったらしい。
「当然だ・・・そんなことより何で会場にいなかったんだ?応援してくれるのではなかったのか?」
マドカ、試合に集中しろ!俺を探す暇があるくらい弱い相手だったのか?相手は一応オーストラリアの国家代表なのに。
「それはその信頼の証と言いますか・・・マドカさんが負ける姿なんて想像できないものがありまして・・・はい」
「そうか・・・なら明日は私もオフだ。屋台で御馳走させてもらおうか。信頼の有無は別にして応援をしなかったのは事実だからな」
にやりと笑うマドカ。怒っていたのは見せかけだというのか?しかし、断ることは出来ない。俺に非があるのに変わりはない。
「かしこまりました。マドカお嬢様」
「うむ、それでいい・・・みんな、明日は無月の奢りだそうだ」
マドカの声と共に別の部屋からわらわらと暁の面々が出てくる。モンド・グロッソ出場者には高級ホテルの1室が大会期間中の居住スペースとなる。当然、ここにはリビング以外にも部屋はあった。
「当然よね。私の応援もしなかったんだから」
「スコール!?」
今日はスコールの試合もあった。当然、それにも行っていない。現在の俺はヒエラルキーの最下層に位置する。逆らえる道理などないのだ。俺・・・一応、暁のリーダーなんだけど?
「こら!無月!お前はどこをほっつき歩いてたんだ!スコールの試合だぞ!」
「無月さん、マドカ様の応援をしてください!」
オータムが怒る。うん、この2年で情緒面は落ち着いたけど、スコールとは仲良くやっている。それにマリアも元気だ。サラとティナも同調して頷く。
ん?みんな?はて、優子もいるのか?優子は共犯じゃないのか?ふと顔を上げてメンバーの方を見るとアーデルの陰に隠れて顔を少しだけ覗かせて手を合わせる優子がいた・・・優子。何故お前がそっち側にいる?お前はこっち側だ!
「ふふ、屋台でおいしそうなお酒を見つけたのよね。ちょっと高かったから遠慮しておいたのだけれど正解だったわね」
ナターシャさん、勘弁して下さい。
「そんな無月を写真に収めるのが私の役目だな」
そういってアーデルはカメラを構えてシャッターを切った。本当にカメラが好きだな。最近は自分の給料で新しいカメラを買っているらしい。趣味があるのはいいことだ。
「しかし、アーデルはキャノンボールで圧勝だったよな。つまらなかったんじゃないか?」
「いや、そんなことはない。他の5人から集中的に狙われるのはなかなか面白いものだったぞ?」
アーデルはキャノンボールでまさしく圧勝していた。
キャノンボール・ファストは24人が出場し、予選として6人1組の4レースを1回戦として行い、各組上位3人が2回戦に進み、再び6名に振り分けられて2レースをする。決勝は準決勝の各組上位3名ずつで行う。
予選の2回戦ともアーデルはぎりぎりの勝負をしつつ、最後に加速して1位をもぎ取って行った。そして決勝戦では出場者全員がアーデルを落としてしまおうという作戦を立てたようで、アーデルVSその他の出場者という前代未聞のレースとなった。
アーデルはその攻撃を全てかわし、逆に反撃を加えると言うレースを展開した。ミサイルの嵐に国家代表による高精度の射撃。それを避けられた上に、反撃を受けるのだ。相手にとっては悪夢でしかない。
5人をあしらいつつ、最後も予選と同じように加速して1位。タイム自体は大会記録より若干劣るが、内容は圧倒的だった。こうしてアーデルはキャノンボール史に歴史を残したのだった。
「まあ、仕方ないか。手加減はしてくれよ?ここで使うと大会後の食事のランクが落ちることになる」
「・・・そうだな」
そうマドカは言う。ああ、やはりマドカは俺の財布事情をわかってくれている。
「だが、今回は財布の中に余裕があったな。最近節約しているのを知らないとでも思っていたか?」
「っ!?」
マドカは俺の懐事情を知り過ぎている!ああ、節約してイベントに備えようとしていたんだが。まあ、みんなに奢るんだから同じか。
「はあ。マドカ・・・お前は良い主婦になるよ」
こうして観念した俺はメンバーと屋台を回って暁のATMとなった。見事に節約分を使いきられてしまい、俺はマドカの手腕に舌を巻くとともに今年の忘年会で真っ白な灰になることが確定し、目の前が真っ暗になったのだった。
「マドカは決勝進出か。まあ、順当だな。けど決勝進出、おめでとう」
「ああ、次も勝つ」
大会は予想通り、マドカとイーリス、スコールと楯無さんが準決勝に上がってきた。先程、マドカの試合が終わり、イーリスに勝利したマドカが決勝進出を決めたのだった。
「しかし、予選からビットとライフルしか使わなかったのはこのためとはな。恐れ入る」
「最初から決めていた作戦だ。ぎりぎりまで剣術は見せずにフレキシブルを中心に戦う。相手からすれば近接戦闘が苦手な相手に映るだろう?加えてイーリスは近接戦闘が得意な選手。近距離に持ち込もうと動くのはわかっていたからな」
マドカは予選の時からビットとレーザーライフルしか使っていなかった。もともとビットの扱いは上手かったし、ミラージュの改造で8機にまで増えたビット兵器による攻撃は脅威だ。
それにフレキシブルによって攻撃を曲げてくる。大抵の相手は避けるのに精いっぱいとなり、撃墜される。初見ではやりにくい相手だろう。フレキシブルも精度が高いため避けるのは難しい。
直撃する寸前に回避するか盾で防ぐ。またはブレードで弾くしかない。マドカの戦い方を研究してきた者は、なんとかマドカが苦手な接近戦に持ち込んで、隙を見出せれば勝機が見えると思っていたのだろう。
イーリスはまさにそのタイプだ。技量は高く、専用IS、ファング・クエイクの機動力を生かした格闘戦が得意だった。フレキシブルの攻撃を浴びつつも、その大半を手に纏ったエネルギーの塊で弾き、マドカに迫った。
だが、それは誘い。マドカは雷切をラビット・スイッチで展開し、イーリスを迎え撃った。マドカの刀に対し、イーリスは拳。いくら格闘戦に優れていようと、リーチの差は埋めがたい。
そしてマドカは近接戦闘のスペシャリストである優子との模擬戦をこの1年で数え切れないほどこなしており、イーリスのようなボクシングスタイルの相手にも戸惑うことはなかった。
なによりマドカは最近では近接戦闘の方が得意なのでは?と思うくらい戦闘技術が上がっていた。優子には劣るがそれでもイーリスよりは確実に上だった。
マドカの近接戦闘力はイーリスにとって完全な不意打ちとなった。スピードを乗せた初撃を防がれたイーリスはそのままマドカと近接戦闘を開始する。
当然マドカもダメージを受けるがイーリスにもダメージを与えていく。激しい近接戦闘が続くかと思われたが、突如、後ろからイーリスにビームが直撃した。
マドカは近接戦闘をこなしながらビット兵器も操る技術を身に着けていたからだ。操れるビットはまだ4機だが、それでも十分脅威だ。
後ろから思いもよらぬ攻撃を受けたイーリスの動きが止まった瞬間を逃さず、マドカがビットも交えた激烈な攻撃を行う。イーリスはマドカの剣を捌きつつ、ビットの攻撃も避けなければならないという状況に追い込まれた。
そして猛攻に対処しきれなくなったイーリスはそのままエネルギー切れを迎え、マドカに敗北したのだった。
「次はスコールと楯無さんか。どっちが勝つかな?」
「普通に考えればスコールだな。楯無は試合に勝利こそしているが余裕があるようには思えない」
確かにそうなのだ。楯無さんは試合にこそ勝って準決勝まで進出してきている。だが、試合内容は良いとは言い難い。シーソーゲームを制してここまで上がってきているのだ。
勝負所を見逃さない試合の流れを見る目はさすがだが、スコールに勝つには及ばないだろう。スコールの技術も向上しているし、マテリアル・ハイはますます強力なものとなった。
楯無さんが勝つ確率は限りなく低いと言ってもいい。だが、勝負は始まってみないとわからない。スコールには満足のいく戦いをしてほしいし、楯無さんも同様だ。ただ、悔いだけは残してほしくない。
「おお、ここにおったか!ほれ、コーラとポップコーンじゃ。他にもいろいろ買ってきたぞ」
「ありがとうな、優子。まあ、みんなで応援するとしようか」
俺達は席に座り、盛大に盛り上がる競技場に目をやった。
Side 楯無
「スコール・ミュラーか。いよいよね」
私はモンド・グロッソ、格闘部門準決勝まで勝ちあがり、前回の覇者・スコールと戦うことになっていた。出場国はドイツではなく、ユーゴスラビア。国籍を変えた理由は不明だが、ユーゴスラビア、ということに私は引っかかりを覚えていた。
ユーゴスラビアにはあの、アーデルハイドが所属している。白銀の戦姫とまで言われた孤高の傭兵が所属することになったのだ。
大部分の人間はスコールが国籍を移したことに目を取られていたが、アーデルハイドを知る一部の人間はアーデルハイドが国家に所属したことに驚きを覚えていた。
傭兵であり続け、どんな大金を積まれても決してどこかに所属しようとしなかったアーデルハイド。そして私はその発表がされる前に一度彼女に会っていた。
アーデルハイドは1年半前にIS学園に現れて無人機と戦った。私もその場にいたのだが2機の無人機の攻撃を防ぐのが手いっぱいで、倒すことは出来ないでいたが、アーデルハイドはあっさりと無人機を撃破し、去っていったのだった。
その後、現れた霧雨くんに関係を尋ねても明確な答えは得られなかったが、私はアーデルハイドが彼の仲間になったと考えていた。
襲撃の際にまだ5機の所属不明ISが現れてそのうち4機は無人機をそれぞれ撃破して消えたと聞いている。最悪、その4機も彼の仲間ということになる。
そしてアーデルハイドはユーゴスラビアに身を寄せた。つまり、ユーゴスラビアは彼とのつながりがある可能性が高い。だとすれば、今から戦うスコールも関係がある可能性もあるし、霧雨マドカという操縦者も同様である。
「更識選手、ゲートに入ってください」
私の名前がアナウンスされ、思考はそこで中断し、カタパルトの用意されたゲートに入り、ISを装着して試合開始を待つ。
「3・・・2・・・1・・・ゴー!」
準決勝第2試合。私は彼の情報を得るためにも決して負けられない戦いが始まった。
Side マドカ
「スコールのマテリアル・ハイの展開速度は異常じゃの」
「ああ、速いな。私もあれを破るのは一苦労だ」
優子が言い、アーデルハイドが同調する。
スコールはこの1年半でマテリアル・ハイを準備動作なしで展開できるようになっていた。気付けば目の前に壁があることもしばしばだった。アーデルハイドも言うように破るのは一苦労だ。
特に斬撃系の攻撃がなければ、一方的に負けることだってあり得る。ナターシャは斬撃系の攻撃はないが、マテリアル・ハイに飽和攻撃をぶつけることで破ることもあるが、そんなことができるのはナターシャのゴスペルがあってこその攻撃だ。
単発の攻撃でマテリアル・ハイを破ることは難しい。それこそティナのようにナノマシンで威力を増幅させた爆発を当てるぐらいの威力がいる。現に楯無のガトリングはスコールに届いてすらいない。
逆にマテリアル・ハイを変形させた見えない攻撃を食らい、ダメージを負っていた。あの攻撃は威力こそ低いが、見えないというプレッシャーに加えスコールが実弾ないしはレーザーの見える攻撃も織り交ぜてくるため、回避が難しくダメージのみが増えて行く。
「しかし、会長は防戦一方じゃが、水の盾の使いどころが上手いの。あれで大ダメージだけは避けておる」
「ああ、だが、あのままではいずれ負ける。攻撃をしなければ勝てないからな」
優子とアーデルハイドは講評を続ける。私は周りを見渡す。
「いけー!スコーーール!!」
相変わらずオータムは騒がしい。ナターシャは冷静に間食をしながら試合を観戦し、ティナ達は3人で試合の展開を話しあっていた。
無月は一言も発せずじっと試合を見つめていた。写輪眼を発動させているあたり、マテリアル・ハイも見えているのだろう。
「無月、マテリアル・ハイはどのように配置されている?」
決勝戦の時のためにもスコールの配置パターンは知っておいた方がいい。
「ああ、今は壁に1つと楯無さんの後ろあたりに1つだな。だが、そろそろ試合は動く」
「スコールが勝ちにいくのか?」
試合を見た限りではスコールが圧倒的に有利だ。
「いや、楯無さんが動く」
「・・・例のナノマシンか?」
楯無のISはナノマシンで水を操ると聞く。そしてナノマシンを空気中で一斉に熱に転換し、対象を爆発させる『クリア・パッション』という技がある。
「ああ、ちょうどナノマシンを漂わせ始めた。だが、あの技は空間を限定させる必要があ機体の残りのエネルギー的にも勝負に出るだろう」
ならば、これからが本当の勝負か。クリア・パッションの威力は高いと経験をしたオータムも言っている。ならば試合をひっくり返すことも十分あり得る。私はこれまで以上に集中して試合を見ることにした。