Side 楯無
「ふふふ、頑張ったわね。でももう終わりよ」
準決勝第2試合、スコールが優勢に試合を進めていた。私にはマテリアル・ハイを突破できる武装がなかったことも大きい。ガトリングによる波状攻撃も試みたが、火力が足りなかった。
考え得る限りの戦法を試みたが、全て跳ね返されている。前回大会と比べて比較にならないほどスコールは洗練されていた。もうエネルギーもわずかしか残っていない。だが、まだ諦めるわけにはいかない。
「まだまだよ!」
「話に聞いた通り、良い目をしているわ」
八百長防止のためにプライベート・チャンネルは審判室に聞こえるようになっているが、一般の観客には聞こえないようになっている。だから、スコールは私に話しかけてきている。
スコールの言った目とは、私の目のことだろうか?かつて私に目について語った人間は覚えている限り1人しかいなかった。
「1つ良いかしら?」
私は攻撃を継続しながらスコールに話しかける。
「話によるわ。負けてほしいなんてお願いはなしよ?」
「あなたは、彼と関係しているの?」
私の目について話したとすれば霧雨くんしかあり得ない。だとすれば、スコールは霧雨くんと関係を持っているということでもある。
「・・・さあ、彼って誰のことかしら?」
スコールがおどけたような口調で言う。言うつもりはないようね。なら聞きだすだけ。
「なら、私が勝ったら知っていることを話してもらうわよ!」
「あなたにできるのかしら?」
そういってスコールが右手をかざす。また見えない攻撃が来る。
「っ!」
スコールは同時に小型のレーザーライフルを撃ってくる。速射性に優れるこの武器は、マテリアル・ハイと併用されると非常に避けにくい。私は水の盾を展開しながら銃撃と衝撃を防ぎつつ、ナノマシンを仕込む。
これ以上の長期戦は不利だ。ならば一気に勝負を決めに行くしかない。そう考えた私は『ミストルテインの槍』を展開した。
通常時は防御用に装甲表面を覆っているアクア・ナノマシンを一点に集中、攻性成形することで強力な攻撃力とする一撃必殺の大技でもあり、自らも大怪我を負いかねない諸刃の剣。だが、これを使わなければ勝てる相手ではない。
「これは諸刃の剣・・・槍だけどね。これで試合を決めさせてもらうわ」
仕込みは終わった。後はこれで決めるだけだ。スコールは1度動きを止め、両手を前にかざす。どうやらこちらの槍を受けて立つらしい。
「最強の矛と最強の盾。どちらが強いか決めましょうか」
今まで確認できなかったマテリアル・ハイが盾のような形に形勢されているのがわかるほど、高密度の空気の歪みが見える。あえて受けて立つ必要もないのに、相当の自信があるようだ。
「さあ、いらっしゃい」
スコールが軽く笑いながらこちらを挑発する。
「ずいぶん自信があるのね。後悔しなさい!」
私は瞬時加速の勢いをつけて、スコールの盾があるであろう場所に全力で突っ込んだ。
ドカアアアンッ!
大きな音と共に衝撃が競技場に響き渡る。ミストルテインの槍は私の中の最強武装。これで破れないようだと勝率は限りなく0に近くなる。
「くっ!」
防御用のナノマシンもほとんどを攻撃に回す。スコールに笑みはない。だが、焦りも見えない。こちらの槍はもう少しで操っていた水がなくなってしまう。
おかしい。この槍を受ければ現行のISでは防ぐことはできないはずだ。私は自分が焦り始めたのを感じた。そしてなぜ、スコールが焦っていないかがわかった。スコールはマテリアル・ハイを盾に重ねていたからだ。
「そんな方法が!?」
「私の最強の盾は『フルート・ヴェレ』。津波のように何重にもマテリアル・ハイをかける。一瞬でもマテリアル・ハイで止められた武装はこの防壁で止められるわ」
唖然とするような防御法。削ってもその場から回復していくスコールの盾に対し、私のミストルテインの槍は水流の圧縮回転に限りがある。私は力を振り絞って槍で盾を破ろうとするが、ついに回転が止まった。
「くっ!」
ミストルテインの槍は止められた。しかし、まだ終わりではない。
「ほら、まだ残っているんでしょう?クリア・パッションだったかしら?」
「全部、お見通しってわけね。なら食らいなさい!」
パチン、と指を鳴らすとあたりが爆発に包まれた。これなら、と思ったが、甘かったようだ。
「なかなかの威力だけど、破るまでの威力はなかったようね。もうあなたも終わりよ」
スコールは自身からの周りをマテリアル・ハイで囲み、爆発から身を守ったようだった。だが、ここまでが想定した展開だった。
「待っていたわよ。この瞬間を」
「・・・何のことかしら?」
スコールはマテリアル・ハイに覆われている。これまでの戦闘で判明したことは、スコールも自身のマテリアル・ハイによって動きを制限されるということだ。つまり、現在、スコールはマテリアル・ハイのバリアーの中から動くことができない。
先程のクリア・パッションはスコールの近くにあるナノマシンで起こしたものだが、スコールも周囲にナノマシンを漂わすための煙幕に使った。そしてスコールのマテリアル・ハイの中にナノマシンを入れることができた。
ほんの少量しかないが、密閉された空間で爆発が起きれば威力は先ほどと大差のないものになる。クリア・パッションは限定空間でその真価を発揮する。
「これで最後の攻撃よ」
私は先程のように指を鳴らし、クリア・パッションを使おうとする。
「・・・し、しまっ―――」
ドゴオオンッ!!!
スコールが最後まで言葉を発する前に爆発が起き、マテリアル・ハイがなくなったのか、周囲に爆発の煙が漂う。
「これで・・・私の勝ちね」
さすがにこの爆発を食らって無事ということはないだろう。しかし、この一瞬の油断が間違いだった。
「―――惜しかったわね」
スコールの声が聞こえると同時に私の周囲が見えない壁に覆われた。
「・・・そんな、ありえない。どうやってあそこから」
あの爆発から逃れる術などないはずだった。しかし、実際問題、スコールのエネルギーはまだ切れていない。
「レーレ・シュトース」
「がっ!」
突然上から、壁のようなものが私の頭部に激突し、大きな衝撃を受けた私はそのまま下まで墜ちて行き、そこで意識が途切れた。
目を覚ますと医務室で私は寝かされていた。試合を観戦しに来てくれていた簪ちゃんや織斑君などの学園の専用機持ちが私のお見舞いに来てくれたが、そこまで長い時間意識を失ってはいなかったようだ。
コンコンコン
「入ってきていいわよ」
ドアがノックされ、医務室から出て行く準備をしていた私は訪問者を部屋に入れた。
「あら、元気そうね。安心したわ」
「・・・スコール」
訪問者は先程の対戦相手のスコールだった。そこで私はどうやって爆発を防いだのかと尋ねたところ、爆発の瞬間に全身を覆うようにマテリアル・ハイを体に密着させて防いだらしい。あの一瞬でそこまでやってのけるとは予想外だった。私の完敗と言っていい。
「なんでわざわざ来てくれたのかしら?」
それだけが腑に落ちない。スコールが手の内を明かす必要はないし、見舞いに来るような仲でもない。
「あなた、聞きたいことがあったんでしょう?あなたの健闘を称えて、質問に答えてあげようと思ったの」
少しムッとするいい方だが、この際問題ではない。
「あなたはどうして彼の仲間になったの?」
「そうね・・・彼は私に再び生きる目的を与えてくれたからよ」
どういうことなのか?私はスコールの言葉を待つ。
「第2回モンド・グロッソ。確かに私は優勝したけど、誰も認めてくれなかったわ。お前は本当の優勝者じゃないって何度も言われた」
その噂は聞いていた。織斑先生の棄権によって優勝したスコールだったが、優勝者としての扱いは受けることができなかった。そしてしばらくしてスコールは失踪したという。
「私は誘われるがままある組織に入ったわ。けど、彼がその組織を潰して私を誘ってくれた、というのが彼の仲間になった理由ね」
「生きる目的って何なのかしら?」
「再びヴァルキリーになることよ。そのために私はユーゴスラビアに国籍を移してモンド・グロッソを戦っているわ。本当のヴァルキリーであると認めさせるために。彼がいなければ私は今も何の目的もなく生きていたでしょうね」
恩人、というのだろうか?少なくともスコールは自分の意思で従っているらしい。
「なら、彼の目的も知ってるんでしょう?」
「復讐よ・・・それがどうかしたのかしら?」
こともなさげにスコールは言う。それを見て私は怒りが湧いてきた。
「なんで彼を止めようとしないの!?復讐なんて何も生まないわ!また新しい憎しみの連鎖が続くだけなのよ!」
「・・・彼はたまに空を見上げているわ。とても悲しい顔で。何故だかわかる?」
スコールは何が言いたいのだろうか?
「彼は全てを失った・・・あの2人のせいで。そしてその両親を殺したといってもいい人間は何食わぬ顔で生きている。何の責任を感じることもなく、裁かれることもない」
全てを失う・・・言うのは簡単だが、重い言葉だ。そして織斑千冬と篠ノ之束が霧雨くんの両親の死に関わっていることは霧雨くんも言っていた。だが、証拠がない。証拠がない以上、2人を裁くこともできない。
「彼はそれを許すことができない。当然よね。目の前で両親が亡くなったのよ?当時の彼はまだ7歳の子ども。生きるためにはその道で生きるしかなかったといっていいわ。それが彼の支え」
「なら、誰かが、彼を支えてあげればいいじゃない!私にはそれが無理だったけど、あなた達は仲間なんでしょう?」
私は彼に復讐に生きてほしくなかった。しかし、私は彼の支えになることは出来なかった。今となってはそれがたまらなく悔しい。
「そう・・・私達は仲間・・・けど、止めることだけが仲間の役目じゃないわ」
スコールはふっと笑い、私を見る。
「彼の復讐に協力するということなの?」
「さあ、どうかしら?・・・あら、もう時間だわ。お大事にね」
スコールは立ち上がり、部屋から出て行こうとする。
「ちょ、ちょっと待ちなさい!」
だが、スコールは歩みを止めるまでもなく、部屋から出て行く。私はスコールを追って扉から飛び出すが、既にスコールの姿は消えていた。
「・・・霧雨くん」
私のつぶやきは誰もいない廊下で響き、消えていったのだった。
Side 無月
「喋りすぎだ、スコール」
スコールが医務室に向かうのを見て俺もそれを追い、話の内容を聞かせてもらっていた。そしてスコールが出てきたのを見計らって、飛雷神で飛んだのだった。
「あら?盗み聞きは紳士のすることじゃないわよ?」
スコールは顔に笑みを浮かべて言う。
「はぁ、まあいいさ。とりあえず決勝進出おめでとう」
「ふふ、ありがとう」
「あと一歩でヴァルキリーか。マドカも決勝まで進んだ。どちらかを応援するわけにはいかないが、後悔だけはしてくれるなよ」
予想通り決勝はマドカとスコールとなった。俺は立場上、どちらかの応援をするわけにはいかない。それにどちらかを応援したとしたら後から怖い。
「・・・ついにここまで来たのね。先にお礼を言っておくわ」
「おいおい、まだ早いだろう?今のを聞いたらマドカが怒りだす。それにここまで来たのはスコールの実力だ。最後のクリア・パッションを防いだのもな。だが、マドカは強いぞ?」
スコールはマテリアル・ハイの扱いがさらに上達し、瞬時に展開することも可能だ。そしてそれはスコールの努力に他ならない。
「それは十分知ってる。でも負けないわ」
スコールは自信ありげに言う。お互いに手の内を知り尽くした者同士、白熱した戦いになるだろう。
「これが終われば動きだすのね」
「そうだな。もう計画は練ってある。動くといっても大会に出た3人はまだ待機だ。最後の最後で動いてもらう」
マドカ、アーデル、スコールのISは今回で多くの人間に認知された。この3人が動けばユーゴスラビアの関与が疑われる可能性もあるので、しばらくは待機してもらうことにしてある。
「私はあなたを止めないわ・・・暁のみんなもね。あなたは自分の信じた道を進んで」
「・・・ああ」
モンド・グロッソ終了後、暁は本格的に動き出す。俺は空に目を向けて、今後の事に思いを馳せた。