Side 無月
2日後、モンド・グロッソ決勝戦が行われた。大会史上初の同国同士による決勝戦は大会史上最長の戦いとなった。ただの長期戦ではなく、お互いにありとあらゆる手を尽くして戦った。
近・中距離戦から遠距離戦の距離を問わない攻撃の応酬、瞬時加速を連続で行う超高速戦闘。手に汗握る戦いに会場は大盛り上がりとなった。
そして僅差で勝利を収めたのはスコールだった。マドカも大健闘したが、スコールがマドカを上回り、2大会連続でヴァルキリーの称号を得た。
「まあ、あれだ。惜しかったな、マドカ」
「くそ!もう少し早くビット攻撃を当てれていれば・・・」
試合終了直後、マドカは悔しさのあまり試合の反省ばかりして自分のミスを嘆いていた。確かにスコールにビット攻撃が当たる直前にマテリアル・ハイの攻撃を受けエネルギーが切れたのは惜しかったと思う。こういうマドカは珍しい。
「ほら、元気出せ。あそこのアイスを買ってやるから」
女の子の励まし方というのはいまいちわからないな。
「・・・物で私を釣ろうというのか?」
じと目でこちらを見るマドカ。
「おかしいな。アーデルは喜んで買いに行くんだが」
マドカにこの手は通用しないらしい。アーデルに対しては100%の成功率なんだが。
「まあ、いつまで嘆いていても仕方がない。無月、バニラ味で頼むぞ」
「アイアイサー。おじさん、バニラ2つで」
「あいよ!」
何とかなったな。俺は自分の分とマドカの分のアイスを買い、食べ歩きをしながら部屋へと戻って行った。
「さて、スコールの優勝とマドカの準優勝。アーデルの優勝を祝ってカンパーイ!!」
「「「「かんぱーい!」」」」
俺達はユーゴスラビアに帰国し、雑誌のインタビューなどを終え、一段落したスコール達の祝勝会を行っていた。
「ウオッカ持ってきてー」
ナターシャさんが最初から飛ばす。当然、俺の財布の中など気にしていない。今さらなのでもう言うことは何もなかった。
「無月くん、憐れじゃのう。また灰になってしまうのか」
「店は探しているから多少はマシになったと思うが」
「無月が灰になった写真はどんどん増えているな。毎回バージョンが違うのでこれはこれで面白いが」
何かいろいろ言われている。だが、気にしたら負けだ。
「アーデル、カメラを貸してくれ。3人の映った写真を撮る」
「ああ、頼む」
アーデルからカメラを受け取った俺は、3人の写真を撮った。ふむ、3人とも容姿がいいためなかなか絵になる。ちょっとしたアイドルみたいだな。その後、アーデルにカメラを借りて全員の写真を撮っていくことにした。
「おい、3人娘。お酒は20歳になってからだぞ?」
「いややなー、無月さん。わかってますよ」
サラ、お前が一番ノリノリだったぞ。全く、酒も煙草も年齢制限があるのは理由があるからだろうに。しかし、そんなことは問題ではない。俺の本音はこれ以上、酒飲みが増えてほしくないだけだ。主に財政的な問題で。
「あー、あたしわかったよ!無月さん、これ以上、ナターシャさんみたいな酒豪が増えてほしくないんでしょ?」
「さ、さあ、どうなんだろうな」
ティナめ、読心術を身につけたのか?
「どもりましたね、無月さん。これで正解でしょうか?」
キラリとマリアの目が光る。最近、可愛げなくね?前はもう少し、尊敬の眼差しを向けてくれたはずなんだが。
「あらあら、ひどい子ね」
「「「姐さん!!」」」
ここにきてナターシャさん登場。ちなみにナターシャさんは飲み会の時、3人から姐さんと呼ばれている。理由は言わずもがなだ。
「聞こえてたわよ?無月くん?」
「ナターシャの姐御。どうしたんで?」
俺の脳内では警報音が鳴り続けている。ここから一刻も速く逃げださないと。
「はいチーズ」
カシャという音と共にシャッターを切る。そして次の場所に行こうと席を立とうとしたが、叶わなかった。
「どこに行くのかしら?寂しいことするわね」
「いえ、次のシャッターチャンスが俺を呼んでるので・・・」
俺の肩をガシッと掴み、満面の笑みを浮かべたナターシャさん。絶対に酔ってるよね?
「まあまあ。まだ始まったばかりよ。ここでゆっくりしていきなさい」
「・・・はい」
逃げられないと悟った俺はナターシャさんに捕まってしまった。そこから2時間ぐらい拘束され、ナターシャさんにお酌をしながら過ごした。
「や、やっと解放された」
ナターシャさんから解放された俺は少し風に当たるといって、外に出た。夜風が気持ちよい。目の前には明かりに包まれた街がある。
「災難だったな」
突然、後ろから声をかけられ、振り返るといつもの3人が立っていた。
「マドカ、アーデル、それに優子か。どうしたんだ?」
「無月がいなくなったので探しに来たのだ。カメラを持って行ってしまったからな」
「ああ、悪い。ありがとうな」
俺は持っていたカメラをアーデルに返した。返し忘れるとは不覚だったな。
「・・・こんな時間もあとわずかかのう?」
優子がしみじみと言う。
「そうだな。だが、計画が終わればまたこの時間が戻ってくるさ。この何気ない日常が」
「この時間に戻るために戦う意味もあるというものだ。それに私は今が好きだ。研究所ではこんな楽しい生活なんて想像できなかった」
アーデルは人生のほとんどを研究所で生活してきた。俺たちにとっての日常がアーデルにとっては非日常なのだ。この暮らしが気に入ってくれたなら何よりだ。
「私もだ。ファントム・タスクにいた頃はかごの中の鳥と同じだった。それだけに今という時間が好きだな」
「あら?それは私たちもよ?」
後ろを振り返れば暁のメンバーが全員集合していた。
「ちょうどいいな。みんな聞いてくれ。モンド・グロッソも終わり、全てが落ち着いた。これから俺達は動き出す。俺達は必ず勝つ。また、ここに戻ってこよう」
全員が頷く。頼もしいな、全く。世界を相手にする集団としての面子は申し分ない。
「お客さん!お勘定がまだだよ!!」
ふと現実に戻される。そうか、途中で出てきただけで、誰も会計をしていない。
「今、行きまーす!!」
俺は慌てて走り出す。そして背中からは笑い声が聞こえてきた。この日常に戻ってくる。俺は密かに心の中で誓った。