Side クラリッサ・ハルフォーフ
最近、世界各地できな臭い情報が流れていた。黒い外套に赤い雲、という格好をした暁と名乗る組織が世界各国のISを強奪する事件が起きているらしい。
各国の軍事力の核となるISを正体不明の組織に奪われたということは国家の恥であり、諸外国から付け込まれかねない事態だ。各国とも被害を公表しようとしないため、事件の真相は伏せられたままになっていた。
ISを強奪する事件が起きたらしいという報告を受けて、このシュヴァルツェ・ハーゼでも警戒を強化していた。しかし、何やら外が騒がしい。確かに今日は隊長の新しい写真を部下に渡したのだが、さすがに騒ぎ過ぎだ。
「おい、うるさいぞ、少しは静かに―――」
私が執務室から出ようとした瞬間にドカンッという音と共に扉が吹き飛び、何かが壁に叩きつけられた。それと同時に部下が飛び込んできた。
「大尉!大変です!何者かが、隊舎に襲撃をかけてきました!」
何だと?仮にもここはドイツ最強と言われるIS部隊、シュヴァルツェ・ハーゼの本拠地。そこに襲撃をかけるなど正気の沙汰ではない。
「それで被害は?」
「襲撃の報告を受け、シュヴァルツェア・ドリットが応戦を開始。ですが、その後は連絡が途絶えました!」
「バカな!?」
ありえない。シュヴァルツェア・ハーゼには隊長の機体を含めて5機のISが配置されている。今は、取引で得たという2機が整備を受けており、隊長はIS学園にいるため、2機しかないが、それでもどの国にも劣らない自信はあった。
そして連絡が途絶えたということは、すなわち敗北したとしか言いようがない。この襲撃は噂の暁かもしれない。
「状況は?」
「現在、ドイツ空軍に援護を要請中。残る人員は、固定式のIS兵器で応戦をしており・・・きゃあっ!」
私に報告中の部下が、衝撃波のようなものを受けて飛ばされて壁に叩きつけられた。そして吹き飛んだ反対側の方を見ると人影が現れた。手には刀を持っており、客ではないというのは明らかだった。
「・・・クラリッサ・ハルフォーフだな?」
声が低い。どうやら男のようだ。顔は片眼だけ穴のある仮面で隠しているのでわからない。
「黒い外套に赤い雲・・・貴様が暁か?」
しかし、どういうことだ?男でISが扱うことができるのは織斑一夏と数年前に行方不明になった霧雨無月のみのはず。ここに襲撃をかけるにはISがいるはずだ。ならば仲間がいるのか?
「・・・さあな」
男が刀を振り上げた瞬間、私は寒気を感じてISを展開し、飛んだ。
ズバンッ!
男が刀を振り下ろした瞬間、私がいた場所にあった机が真っ二つになった。もし、あのまま突っ立っていたら死んでいただろう。
「目的は知らないが、貴様は拘束する!」
そういって私は眼帯を外し、ヴォーダン・オージェを発動させる。どういう手を使ったかは知らないが、この敵は油断ならないということを感じていた。
「そうか・・・だが、それは無理なことだ」
男が左手をこちらに向け何かをつぶやいた瞬間、ISの制御ができなくなり、男に引き寄せられるように動く。
このままではまずい。もうレールカノンの展開は間に合わないのでプラズマ手刀を展開し、カウンターの要領で切りつけようと構えた瞬間、男は先ほどと同じように刀を振るった。
「がはっ!」
斬られたような衝撃が私を襲う。そして何度かその斬撃を受けた後、私は衝撃波を受け、吹き飛ばされた。何が起きたかわからないままだったが、この場に留まるのは危険だと判断し、飛び立とうとした瞬間、青白くバチバチと電気を帯びた雷獣が視界を覆い、記憶が途切れた。
Side ラウラ・ボーデヴィッヒ
「―――なんだと?それは本当か?」
「はい、申し訳ありません。むざむざと敵にISを奪われるとは」
私は部下のクラリッサから襲撃の報告を受けていた。悔しさで体が震えているのだろう。クラリッサは何度も言葉に詰まりながらも状況を克明に話した。
「被害はどうだったんだ?」
「ツヴァイクとドリットが敵に強奪されましたが、幸い死者は出ていません。負傷者もいますが、私を含め、全員が軽傷です。隊舎は3分の1ほどが破壊されましたが、すでに機能は回復しております」
幸い・・・本当にそうなのだろうか?クラリッサは気絶させられてISを奪われたらしい。殺す気があれば楽に殺せたのだろう。つまり相手にはその気がなかっただけだろう。
「敵の特徴は?映像もないのか?」
「カメラは全て破壊されており、敵は映っていませんでした。敵は黒い外套に赤い雲、暁の一員であると思われます」
最近、情報が流れ始めた暁。奴らは同じ服装で行動する。モンド・グロッソの前から動いていたようだが、最近になって動きが活発になっていると聞く。
ただ、奴らの構成人員も目的も一切不明。2年ほど前から亡国企業の活動が止み、壊滅したともいわれているが、こちらも真相は不明。そしてこのタイミングで現れたISを強奪していく謎の組織、暁。なんとも無気味な組織だった。
「どんな状況で戦闘したんだ?」
まずは敵の情報を知ることだ。敵の事はクラリッサが一番わかっているだろう。
「はい。突然、敵が入り込んできて、そのまま戦闘に移行しました。敵は男。日本刀のような刀を持っており、攻撃が見えませんでした。その後、電撃のようなものを受け意識を失いました・・・それに」
「それに、なんだ?」
不可視の攻撃、なんとも厄介な相手だ。
「はい。敵はISも使わず、生身でISに挑み、私は敗北しました」
「なんだと!?」
「はい、さすがにこれは上層部に報告できませんでしたが、間違いありません」
常識的に考えればあり得ない話だ。だが、私はそんな常識はずれなことができる相手には心当たりがあった。
「・・・クラリッサ」
「はい。どうしましたか、隊長?」
あり得ない話ではないが、証拠がない。だが、懸念事項は伝えておくべきだろう。
「これはまだ確証のない情報だが、その敵というのはおそらく霧雨無月だ。生身でISに勝てそうな人間など、そいつぐらいしか私は知らん。それに奴のISは待機状態でも性能を発揮できるものらしい」
「そんな!?霧雨無月はIS学園を襲撃した後に行方不明になったのではなかったのですか?」
確かにそうだ。霧雨無月の足取りは一切つかめていない。だが、奴は一度学園に姿を現していた。
「表向きはな。だが、最近・・・といっても数か月前だが、学園に現れた」
「突然来た目的はなんだったんです?」
「わからん。嫁への挨拶だと言っていたそうだが、何を考えているかは理解ができん」
同級生だったといってもそれは1年生の事、しかも半分しかいない奴だった。私の暴走の後に話をしたこともあるが、喧嘩別れのような形で終わっていた。
「しかし、一体なぜ暁に?」
「わからん。だが、敵であるということは認識しておけ。私もあと半年で卒業する予定だ。それに霧雨の情報は学園にいれば集められる気がする。新型の2機が配属されるはずだ。配属され次第、訓練に入れ。軍同士の連絡は密に取れ、警戒を怠るな」
「はっ!」
そういって私は通信を切った。しかし、奴は何を考えている。今回は奴の仕業と見て間違いはない。だとすると暁に奴は所属していることになる。しかし、何故?目的は教官への復讐のはず。一体何を考えている?
わからないことだらけだが、こちらも備えるしかない。
Side 無月
ある日の昼下がり、俺はミラージュの屋上で景色を眺めていた。雲1つない青空に明るい太陽。実に良い天気である。
「ここにいたか、無月」
「ああ。マドカか」
マドカが屋上にやってきた。屋上で日差しを受けるのはよくないだろうと思い、俺達は場所を移した。
「IS大国への同時襲撃。まさかこのタイミングで仕掛けるとは思っていなかったが」
「まあ、でないと奇襲の意味もないさ。俺はドイツ、オータムはイギリス、優子はアメリカ、マリアは日本、ティナはロシア、サラはフランス、ナターシャさんは中国。全員成功したようだ」
優子には負担をかけさせた。1人でアメリカに襲撃をかけてもらったのだ。ISの質と量で他国を圧倒するアメリカへの襲撃は優子しかできないことだった。
マドカ、アーデル、スコールは動けないし、ナターシャさんにアメリカ攻撃は酷だ。ならば実力的に襲撃が可能なのは優子しかいなかった。
ただ、襲撃と言っても大規模な攻撃ではない。せいぜい、ISを2,3機奪ってくるだけの話だ。
「だが、これで国際IS委員会が動くのか?」
「ああ。今は躍起になって俺達を追っているだろう。IS大国まで同一と思われる組織に襲撃されたんだ。IS委員会は間違いなく今回の事件を議題に挙げるだろう。そこで交渉を持ちかける」
するとマドカは呆れたように言う。
「お前の条件を飲むはずがないだろう?」
「最初から期待してないさ。交渉決裂と同時に宣戦布告をする。それと同時に暁で仕掛ける。後で段取りを伝える。先手は打った」
俺は帰ってきていたメンバーに作戦を伝達し、3日後に行われるIS大国の委員による緊急の委員会に潜入することにした。