Side マドカ
私とアーデルハイドとスコールはアメリカに来ていた。もちろん入国許可など取っていない。
「戦争が始まって5日。ヨーロッパはほとんど落ちたも同然ね」
「そうだな。主戦力はほぼ潰したし、逃げ延びた者ももうヨーロッパに戻ってはこないだろう」
2人が状況の整理をする。戦争開始後、まずはヨーロッパを襲うこととなっていた。EU全体の保有数でようやくアメリカに並ぶぐらいの戦力だ。全体がバラけているため各個撃破を狙いやすい。
それにモンド・グロッソ後の奇襲で主力のIS部隊は半壊しており、有利に戦況を進めた。ドイツは対応が早く、ヨーロッパでは勝ち目がないと判断し、精鋭と呼ばれるシュヴァルツェ・ハーゼを部隊ごと日本に送った。
一般市民にとっては恐ろしいニュースだろうが、私達はISの関係者しか襲撃しないと決めており、一般市民に被害が出ることはない。そのため、どこか遠い世界の出来事と思っているのか、あまり戦争の影を感じている様子はない。
ヨーロッパのIS部隊は数日で壊滅もしくは撤退をしており、スコールの言うように落ちたも同然の状態だった。
そして私たちの任務はアメリカへの強襲。無月は私達の身元がばれた時に備えてユーゴスラビアの防衛を。優子、ナターシャ、オータムはロシアを襲い、マリア、サラ、ティナが中国を襲撃する。
連携は取られないように攻撃は同時に仕掛け、私たちもバラけて戦う。反撃の恐れはこれから出てくるがほとんどない。なぜなら私達は特定の国土を持たない集団だ。
私たちの動きでユーゴスラビアが疑われるだろうが、そのために無月はユーゴスラビアに残った。ミラージュも防衛部隊は存在しており、容易には落ちない。しかももう1人の国家代表は既に襲ってあるため、アリバイは可能だ。
そもそもユーゴスラビアを襲ったところで私達には痛くもかゆくもない。元々ダミーの国家だ。それに暁との関連を示す物は何一つ出てこない。何も知らない世間からすればなぜ、味方同士で争うのか、と無用な諍いの元にもなりかねない。
「アメリカも無策ではないはずよ。本命は日本だけど、気を引き締めてかかるようにね」
「ふっ、誰にものを言っている。元とは言え私は傭兵だ。万が一もない」
「さて、行くか。特に心配はしていないが」
私が東海岸、スコールが西海岸、アーデルが遊撃という役割でアメリカへの襲撃を始めることにした。今回は無月から影分身を渡されているので長距離の移動が一瞬で可能である。
今回の戦争に備えて、無月はISが配備されているであろう場所には術式を残してきているので、移動にかかるエネルギーは節約できる。
ズドオオンッ!!
襲撃開始から2時間。10個目のコアを手に入れた。アメリカに存在するコアは40個。他の2人と合わせてあと半分ぐらいと言うところだろうか?
ISは各地に配備されており、敵が連携しても2,3機。技量も問題にならない程度だ。通常兵器は削減のあおりを受けて出撃は少なく、自国の領土内なので大規模な攻撃もできない。
例えミサイルが飛んできてもISには無意味。加えてこちらは飛雷神の術により一瞬で移動するため、敵がこちらの位置を捕捉して向かってくる間に片付けて次の場所に向かう。敵が援軍に駆けつけてもこちらはもういない。だが、11機目に向かったところで久しぶりに聞く声が聞こえた。
「私が相手だ!霧雨マドカ!」
「・・・イーリス・コーリングか」
モンド・グロッソで戦ったイーリスのようだ。だが、前に見た機体とは少し違うようだ。
「てめえが襲撃犯って情報は本当だったらしいな。ということは今回の戦争はユーゴスラビアが主犯か?」
「どうだろうな?ユーゴスラビアの代表も襲われたそうだが?」
「まあ、そんなことはどうでもいい。ここで借りを返すことができるんだからな!」
オータムみたいな奴だ。だいぶ好戦的な性格らしい。
「機体が違うようだな」
「まあな。アメリカの試作機、第4世代を目指して製作したIS、ファング・ストーム。性能は段違いだぜ」
情報であったがこれがそうか。アメリカが国家の意地をかけて作り上げた第3.5世代型IS。コンセプトは装備の換装無しでの全領域・全局面展開運用能力の獲得。篠ノ之箒が完成形を持っているが、その一歩手前にあると言われている。
「もう前みたいにはいかねえ!」
イーリスは雄たけびと同時に突っ込んでくる。こちらも様子見と行くか。ビットでレーザーを放ちフレキシブルで曲げる。レーザーはイーリスに向かって行ったが、拳で叩き落とされた。
「へっ!その程度かよ!」
そういって展開したのは刀。刀を振ると同時にエネルギー刃が飛び出した。私はその全てを避ける。
「はっはっは!避けているだけじゃ勝てないぜ!!」
バカみたいに斬撃を飛ばしてくるが、さすがに競技用リミッターを外しているだけあってエネルギー切れを待つのも望み薄だ。しかし、私はあることを感じていた。
「お前は弱くなったな。モンド・グロッソの時の方が強かった」
「はっ!そういうのは勝ってからいいな!現にお前のビット攻撃なんて当たらない!お前こそがっかりだぜ」
機体に浮かれてか、はたまた私相手に有利に戦っていると思いこんでいるせいか、私の言った意味を理解できていないらしい。
「・・・そうか」
そういって私は8機のビットからレーザーを射出。その全てをイーリスに向ける。
「バカ一つ覚えかよ!」
イーリスは曲がりながら向かってくるレーザーを落とそうと刀を振るう。私は迎撃態勢に入ったのを見て8本のレーザーの向かう速さを変えた。
時間差で異なる方向から向かってくるレーザーに対し、イーリスは6本を落としたが、最後の2本が直撃する。
「くそっ!こざかしい真似を!!」
イーリスが苛立つ。私は間髪を入れずに再びレーザーを放つ。次はイーリスの直前で速度を上げ、迎撃しようとした刀に当たる前にイーリスに直撃させる。
「くそ!なんでだ!前回までの差は機体差で埋まっているはずなのに!!」
「・・・バカが」
あくまで私のレーザーを落とすことに執着するイーリス。今の奴に変幻自在のレーザーを撃ち落とすことは不可能だ。私は次々にレーザーを放ち、イーリスに向かわせた。
私が磨いてきたのはレーザーを自在に操ること。フレキシブルで方向を変えることだけがゴールではない。私はそこでレーザーの速度を操れないかと考え、ずっと技術を磨いてきた。
私は近接戦闘の腕を磨いたが、それはあくまでビット攻撃を生かすための手段に過ぎない。私の戦闘スタイルはいかにレーザーを生かすか、ということの1点に絞ってきた。
モンド・グロッソでのイーリスは近接戦闘で私に挑んできた。私の周りには近接戦闘においてイーリスより遥かに上の力量を持つ者達がおり、そいつらと戦い続けたためイーリスとの戦闘には苦労しなかったが、相当の力量であることは確かだった。
だが、今のイーリスにその面影はない。なまじ全距離に対応したISを持ってしまったがためにイーリスは自分のスタイルを捨てた。
国家代表レベルにもなると全ての武装に関して一定水準以上の力量を持つ。そのため、イーリスのようなISを持つと状況に応じた武装の使い分けをするため、戦闘スタイルは必然的に全距離対応型になる。
イーリスはボクシングスタイルの近接戦闘で相手を叩きのめす戦いを得意としていて、距離をとっていても自分の得意距離に持ち込もうと常に目をぎらつかせていた。それが私にとっては警戒すべきもので、怖さがあったのだ。
「お前はそのISを生かそうと全距離に応じた戦い方にしたのかもしれん。だが、お前の本来の戦闘スタイルは近接戦闘。それを曲げるべきではなかったな。IS乗りがISに乗られているのだ、笑えないな」
もうそろそろ終わりだろう。私はスター・ブレイカーを展開し、エネルギーを最大まで充填し、狙いを定める。
「これでさよならだ」
「くっそおおおおお!!!!」
スター・ブレイカーから放たれた特大のレーザーがイーリスに直撃する。イーリスのISはシールドエネルギーが切れ、ISは解除された。
私は瞬時加速でイーリスの後ろに回り、後頭部を小突いて気絶させて待機状態となったISを奪った。次の場所に向かおうとした時に通信が入った。
『マドカ、アメリカはもういい。5機がユーゴスラビア強襲のために出撃し、残りは日本に向かった。お前たちはそのまま日本に向かってくれ』
「そっちはいいのか?」
アメリカの事だ。報復などと言って都市の無差別破壊程度はやってきそうだが。
『ミサイルはミラージュの迎撃システムで全て迎撃する。攻撃を感知したので国民を守るためにやったとな。ISは大西洋上で迎撃する』
ミサイルに投資をしなくなったアメリカだ。いくら最新鋭とはいえ、この状況を想定してきたミラージュからすれば問題なく処理できる。世界がISにのみ投資をしたことが裏目に出た。
「そうか、なら問題ないな。抜かるなよ?」
『誰に言ってるんだか。今日はご苦労だったな、マドカ』
「ああ、また日本でな」
無月相手に5機は無謀だろう。私もダメージを与えることはできるが勝つことは出来ない。それはスコールもアーデルも同じだ。攻防自在の忍術に群を抜いた戦闘技術。これが組み合わさると恐怖でしかない。
私の場合は相性が悪い。レーザーが無効化されるのだ。私の速度を操る技術も無月の使う術のインターバルを狙うために磨き上げたものだった。
私は無月の変化したをブレスレッドを2回叩いて飛雷神の術を使う合図をする。そして景色が一瞬で変わり、日本にある拠点に着いたのだった。
Side 無月
ユーゴスラビアを防衛した俺は日本に来ていた。日本にヨーロッパ戦線やアメリカ戦線から逃れてきたISが集中していることもあり、なかなか粘ったが、俺達相手では何もできなかった。
奴らは潰走したが、追撃はしていない。なぜなら俺達が日本に集結したのは理由があったからだ。
「最後にIS学園を落とす」
「本当に追撃はしなくていいのかしら?情報では北海道の自衛隊基地で戦力を整えているらしいけど」
ナターシャさんの懸念は最もだ。だが、奴らを放っておいても問題ない。逃げた奴らを確認したが、目ぼしい戦力はいなかったからだ。むしろ問題はIS学園にある。
「いや、潰走した奴らよりIS学園の方が気になるな。専用機持ち達もそうだが、問題はIS学園に入った面子だ」
「更識楯無にキャロル・ミラーね。あとはドイツのシュヴァルツェ・ハーゼ。なかなか良い面子じゃない?」
国家代表クラスの上位に入るであろう実力者がIS学園に入っていた。俺達が攻めてくるのを予期していたのだろう。
それに逆転の目があると考えているのなら専用機持ちが集うIS学園しかないと考えてもおかしくはない。自衛隊基地の方に専用機は数機しかなく、あとは量産機。単純な戦力比でいえば学園の方が上だろう。
「これで全てが終わる。だが、油断はするな。まだ奴が残っている」
「・・・篠ノ之束じゃの」
奴がまだ動きを見せないのはどういうことだろうか?
「ああ、だが奴は学園襲撃の時に必ず姿を現す」
最終目標は織斑千冬の断罪。それに学園には織斑と篠ノ之束の妹がいる。織斑千冬に加え2人を捕えれば必ず救出しようと出てくるだろう。
「さて、襲撃は3日後だ。全員、それまではゆっくり休んでいてくれ。ここで解散だが、スコールとナターシャさんは残って欲しい。質問はないか?」
その後、いくつか質問をされた後、2人を残して全員が部屋から出て行った。
「それで、私達を何で残したのかしら?」
ナターシャさんがいつになく真剣な表情で聞いてくる。
「懸念事項を伝えようと思っています。2人は俺がいない時の暁のまとめ役ですからね」
俺がいない時は2人が指揮を取ることになっていた。年長者で冷静な判断が下せるからだ。特にスコールは亡国企業でもそのような立場にいたため経験は豊富だ。
「・・・一体何のことかしら?さっきの会議でも言えないこと?」
「ええ、1度しか言いませんからしっかり聞いてください―――」
俺は2人に懸念していたことを伝えて、その場を解散させた。
翌日、俺は世界に向けて発信をした。
ISを軍事利用はせず、宇宙開発に利用するべきだということ。ISはこの世界を誤った方向に進めており、それを正すこと。もちろん俺は男尊女卑を望んでいるのではなく、平等を求めることを宣言した。
そして全ての始まりは織斑千冬と篠ノ之束が引き起こした白騎士事件であると。
暁はこの戦争で民間人に被害を与えておらず、被害を与える気もなく、死者も出していない。手段として戦争を選んだが、交渉は拒否されたことも伝え、それは大国の傲慢であるとも併せて伝えた。
これがどのような影響を与えるかは未知数だが、少なくとも大義名分は掲げた。後は相手の出方次第だが、降伏するとは思っていない。最後まで戦おうとするだろう。
そして最後の夜を迎えた。
「いよいよだな、無月」
「そうだな。こうしてお前と話すのも何回目だろうな」
俺はマドカに誘われて屋上に来ていた。季節は秋の中ごろ。少し肌寒くもあるが、気にはならない程度だ。
「復讐か。成し遂げたらお前はどうするつもりなんだ?」
復讐後か、あまり考えたことがなかった。しかし、思っていたことがあった。
「うーん、宇宙の果てを見たいがその前にやることがあるな」
「なんだ、それは?」
そう、俺が生前にやり残したことでもある。
「彼女を作ることだ」
「ブッ」
マドカが飲んでいたコーヒーを吹きだした。
「そんなにおかしいか?」
「ゲホッゲホッ・・・なんでそうなる?」
マドカが苦しそうにしながら話を続ける。
「いや、だって俺って今までずっと復讐しか考えてなかったから、浮ついたことをしてみたいんだよ。宇宙の前に彼女作りだ」
「・・・当てはあるのか?」
当て・・・だと?
「・・・ないな」
「・・・・・・」
沈黙が空間を支配する。そういえば俺って知り合い少ないな。当てなんてとてもない。どうすればいいんだ?
「大丈夫、大丈夫。なんとかなるだろ・・・たぶん」
「・・・はっ!お前らしい」
吹き出しながらマドカが言う。
「そうか・・・そろそろ戻ろうか」
Side マドカ
無月が戦争後にしたいことを聞いた時は驚いた。まさか彼女作りとは思わなかったからな。しかし、当てがないだと?言ってくれる。
この場で答えれば私が安っぽく思われてしまう。それはプライドが許さないので足りないと答えておいた。
油断はしないが、私達はおそらく勝つだろう。そして無月は世界の側との妥協点を見つけるとも言っていた。内容は宇宙の共同開発。あくまで対等に、という扱いをする。
軍事利用に気を取られているのは宝の持ち腐れだ。ならば人類の発展のために世界で協力できる体制を作り上げるという考えだ。ISの本来の利用方法でもある。
宇宙とはどんな場所なのか、夢みたいな話をし、普段と変わらない話をしていた。だが、私には1つ気になったことがあったので無月との別れ際に言うことにした。
「―――そろそろ戻ろうか」
「無月、その前に言っておくことがある」
「なんだ?」
ドアに手をかけていた無月が、その手を離して振り返った。
「死のうとするなよ」
無月の表情はいつもとは違っていたのだ。まるで何かを決意したようなものだった。どこか遠くに行ってしまいそうな、そんな顔だった。
「・・・死なないさ」
無月が真っすぐこちらを見る。
「絶対だぞ?」
「当然だ。俺はまだやることが多いからな。こんなところで死のうとするはずがないだろう?」
けらけらと笑う無月。それはいつもと変わらない姿だった。
「・・・彼女作りか?全く。言いだすことがそれとは」
「それもあるが、みんなでまた飯を食いに行きたい。あの時間が一番好きなんだ」
「私もだ」
ナターシャが豪快に飲み、スコールが続く、オータムは酔っ払い、ひたすら飯を食べ続けるマリア、サラ、ティナ。優子は無月に絡み、私もそこに混じる。アーデルハイドは写真について語りだし、無月が最後に灰になる。なんてことはない。いつも同じ流れだが、それがまた心地よかった。
「さあ、明日が勝負だ。もう寝るか」
「・・・ああ」
そして決戦の朝を迎える。