Side 楯無
日本のIS部隊が暁に敗れてから2日、暁のリーダーと思われる仮面の男が世界に向けて自らの方針を示した。
白騎士事件について触れてはいたが、それよりも演説が女尊男卑によって利益を享受してきた女性にとっては面白くない内容だろう。事実、私が身を寄せているIS学園でもそんな論調だった。
「女尊男卑の弊害ね・・・実際とんでもない風潮でしょうに」
思わずため息が出る。この差別思想はISに乗ることができる者ほど強い。ISを自分の力だと勘違いしているためだろう。
「お姉ちゃん、ため息ばかりだね」
「そうね、簪ちゃん。悩みは尽きないものよ。さあ、早く食べないと授業に遅れてしまうわよ?」
ここに身を寄せたのは私とシュヴァルツェ・ハーゼの他数名。全員、学園が実質的な最終拠点と考えての行動だった。
事実、IS大国と呼ばれる国家はほぼ全てのISを失い、日本にいた部隊も北海道まで撤退しており、ここが敗北すれば世界はISを失う。
「うん、1時間目は織斑先生だから早く食べないと―――」
ウーウーウー
簪ちゃんが言い終わる前にサイレンが鳴り響いた。非常事態を告げる警報音だ。
「一体何が!?」
まずは情報を手に入れることだ。まずは何をすべきかと考えていたところに放送が入った。
『暁だ。IS学園にいる全ての者に告ぐ』
「っ!」
まさかもう攻めてきたのか?ならば放送をするのはなぜだ?何を言ってくるのかわからないが、一言も聞き逃さないように聞き耳を立てる。
『本日の正午よりここに襲撃をかける。これは戦争だ。本来ならこのような放送をする必要はない。だが、俺は殺戮主義者でもない。一般生徒、ならびに教職員は正午までに避難することだ』
まだ生徒が残っていた食堂がざわつき始める。
『俺達の目的はISだ。それ以外に興味はない。だが、向かってくる者に容赦はしない。残っていれば巻き込まない保証はない。すみやかな避難を勧める。IS持ちは逃げても構わんが、逃げ切れるとは思わないことだ』
その言葉と同時に放送が切れ、食堂のざわつきが一層大きくなった。
「うるさいぞ!指示は追って伝える。各自、食事が終われば自室に戻って待機しておけ!」
織斑先生が現れ、生徒達を黙らせた。生徒たちは食事を続け、織斑先生は私達の方へ向ってきた。
「更識簪。専用機持ちを全て集めて第1会議室に行け」
「はい!」
簪ちゃんが走って食堂から出て行く。それを見送りながら織斑先生の方を向く。
「今の放送。お前はどう思う?」
「来るでしょう。実際に大国を次々と潰していますし。それにここを失えば私達は負けです」
「・・・そうか」
織斑先生は実際に来ると思っているのだろう。それを私に確認しに来たということか。
「お前はあいつが霧雨だと思うか?」
「ええ・・・ほぼ間違いなく」
仮面の男は霧雨くんと考えて間違いないだろう。声は仮面ではっきりと聞こえはしないが、彼のものだ。それに仮面の男にやられたと話していたクラリッサが受けた攻撃は彼特有のものだという話だ。
「・・・いよいよ来るか」
彼の目的はぶれていない。織斑先生と篠ノ之束に対する復讐で動いている。今回話した戦争の目的も本当かどうかは定かではないが、彼はここに現れるという予感だけはあった。だが、私は彼を止める。そう誓ってここまで来た。負けるわけにはいかないのだ。
「さて、私たちも行くぞ、更識」
「はい」
私は織斑先生と共に今回の作戦司令室となる第1会議室に向かった。
「生徒たちは避難させた。お前たちはどうする?」
ISを持たない生徒及び緊急時の対応に当たる教職員以外の人間は全て避難させることが決定した。今、会議室にいるのは学園の専用機持ちに学園に身を寄せた人間。そしてISに乗る教師のみだった。
シュヴァルツェ・ハーゼはここの技量が高く連携も慣れているため、訓練機に乗る予定になっていた。今、ここで問われているのは戦うか戦わないかだ。
私はもちろん戦う。だが、それは私個人の思いがあるからだ。学園の一生徒である専用機持ち達に強要することではない。戦わない選択肢もあるのだから。しばらく誰も話そうとはしなかった。
「・・・俺は戦う」
沈黙を破って織斑くんが話しだす。
「あいつらが何をしたいのか俺にはよくわからない。だけど、俺はIS学園の生徒会長だ!学園を敵から守る!」
彼も1年生のころと比べると心身ともに成長した。今では立派に生徒会長をこなしているらしい。人の成長は早いものだと思う。
「私も戦うぞ。ドイツでは私の部隊がコケにされた。やられっぱなしでは気がすまん」
ラウラが続き、他の子たちも戦う意思を示した。
「・・・奴らはIS大国を全て破った化け物たちだ。後悔はないな?」
「ああ。必ず勝つ!」
ここにIS学園が徹底抗戦をすることが決まった。ある程度、学園の設備が壊れるのは仕方がない。そして単独行動を避けて必ず複数で敵に当たることなど、いくつかの注意事項があった。
「奴らがどこから襲ってくるかはわからん。正午まであと2時間だ。先程決めた場所に各組で散れ。そして奴らを発見し次第、情報を共有しろ」
「・・・本当に来るのかな?」
「彼は来るわよ、簪ちゃん・・・間違いなくね」
私は簪ちゃんと組むことになり、第3アリーナに向かっていた。織斑くんは篠ノ之さんと、シャルロットとラウラ、セシリアと鈴音で組むこととなった。
織斑先生は指揮を執り、シュヴァルツェ・ハーゼは遊撃部隊として、キャロルは教員たちと動く。考え得る限り最善の布陣だった。
「・・・霧雨無月ってどういう人だったの?」
簪ちゃんが思い出したように言う。あの仮面の男が霧雨くんである可能性を会議では述べられていた。
「そうね。別に普通の子だったわよ?けど・・・」
「・・・けど?」
「悲しみを抱えていたわ。とっても深い悲しみを」
彼の頭には復讐の事しかなかった。受け答えはしてくれる。そして気配りのできる子だった。しかし、片時も復讐を忘れることはなかったように思える。
時計を見ると正午が近づいていた。
正午となった。だが、まだ暁は現れない。わざわざ宣言しに現れたのだ。時間に遅れるような真似はしないはずだ。
ドゴオオンッ!!
すると近くの校舎の一部が突然爆発した。
『楯無さん!』
織斑くんから通信が入る。
「こっちは大丈夫。けど派手に来たわね」
敵はまだ確認できない。だが、すでに襲撃が始まったとみて間違いはないだろう。私達はISを装着し、戦闘に備え始めた。
「お姉ちゃん!あれ!!」
簪ちゃんが指差した方を見ると2つの影があった。
「・・・スコール・ミュラー」
敵の1人はモンド・グロッソ準決勝で当たったスコールだった。もう1人は誰がかわからないが紫色のロングヘアーをしていた。
「ふふふ。モンド・グロッソ以来ね。元気だったかしら?」
「おかげさまでね」
「・・・スコール・ミュラー?そんな・・・ヴァルキリーがどうして!?」
スコールが敵側にいるのは教えられていたが、実際に見るのと聞くのでは訳が違う。簪ちゃんが驚くのも無理はない。
「あら?あなたの妹さんかしら?何故私がこっち側にいるか・・・そんなことは聞く必要がないわ。だってここであなたはやられるんだもの」
スコールにさっきまでの笑みはなく、真っすぐとこちらに視線を向けてくる。その瞬間にゾクッと寒気がした。これが歴代最強と言われるヴァルキリーの本気の闘気。正直に言って笑えないわね。
「簪ちゃん。呑まれてはダメよ」
「・・・大丈夫。お姉ちゃんはスコールをお願い。私はマリアを」
簪ちゃんがスコールの隣にいる人物をキッと睨みながら言う。マリアとはたぶん隣にいる彼女のことだろう。
無人機ではなく、今度は人間が乗っている。しかも現役のヴァルキリーが相手だ。しかし雰囲気に呑まれてしまっては勝ち目などない。だが、心配はいらなかったようだ。簪ちゃんももう一人前のIS乗りだ。
「勇敢ね・・・けどそれは蛮勇・・・マリア。あの子を頼むわ。私は楯無の方を終わらせるから」
「はい」
マリアと呼ばれた少女が銃を展開する。
「更識簪・・・私はあなたの事を忘れたことはない。初めての好敵手。簡単には墜ちないでくださいね」
「・・・負けない!」
簪ちゃんは春雷を展開し、それと同時に砲撃を行い、戦いが始まった。
Side 鈴音
「ふざけた連中ね。あんな奴らなんかに負けないわ!」
「その通りですわ!」
私達は運動場の方に来ていた。ここは見渡しが良いため、すぐに敵を感知できる。そして私は近・中距離タイプでセシリアは遠距離タイプ。相性も良いため、ちょっとやそっとじゃ負けない自信があった。
ドゴオオンッ!!
爆発音が聞こえると同時に指令室にいる山田先生から更識姉妹が交戦状態に突入したと通信が入った。しかも相手はスコール・ミュラーらしい。
「なんでヴァルキリーがあいつの味方をしているわけ!?」
「ですが情報が正しかったことがわかりましたわ」
情報ではユーゴスラビア代表でモンド・グロッソ格闘部門優勝のスコール・ミュラー、準優勝の霧雨マドカ。制御部門優勝のアーデルハイド・ローゼンベルグが暁に所属しているらしい。
『鳳さん、セシリアさん!そちらにISが2機向かっています!!』
山田先生が感知した情報を伝えてくる。ステルスモードも使わず堂々と来るとは、舐められたものだと思う。
「あんた達が暁ね・・・ってその機体は!?」
2人のうち1人は濃い紫色の機体をしていた。あのISは見たことがあった。忘れもしない。あれは1年生の2月にあった無人機襲撃の時に現れた機体だった。
「覚えてくれとるんは嬉しいな。けど、2人とも諦めるさかい。うちらには勝てんからな」
紫色のISの操縦者がからかうような口調で言ってくる。
「言ってくれますわ!その口をすぐに閉じさせてあげましょう」
セシリアがスター・ライトを撃つがそれは炎でできた龍で相殺された。
「その技は!?あんたも無人機の時に来ていた奴ね」
一夏と簪の所に現れた霧雨と同じ炎の龍を使う赤いISだった。
「あたしはティナ、こっちはサラ。本来なら名乗る義理はないんだけど、どうせ最後だし、名乗っても構わないといわれているから」
ティナと名乗った女は淡々と話す。
「言ってくれるじゃない!」
私は双天月牙を展開し、構えをとる。
「先手必勝!!セシリア、援護を頼むわよ!」
「わかりましたわ!」
その声を聞くと同時に私は飛びだした。
Side シャルロット
「始まったみたいだよ!僕たちも行こう!」
「わかった!」
各組が交戦を始めていた。僕たちは第2アリーナにいた。ここから近いのは簪達の場所だ。そちらに向かおうとする。
「危ない!シャルロット!!」
「なっ!?」
ラウラの声と同時に僕は盾を展開して向かってきた攻撃を防ぐ。簪達の方に完全に意識が向かっていたため、ラウラの声がなければやられていただろう。
「ありがとう、ラウラ」
「気にするな・・・見ろ。敵が来た」
アリーナの観客席。そこに僕を攻撃してきた者の姿が見えた。
「霧雨マドカ!?それに・・・ナターシャさん!?」
2人はこちらに向かって飛んできて顔がしっかりと確認できる位置まで来た。そして僕は驚愕した。そこにいたのは霧雨マドカとナターシャ・ファイルスだった。
「ナターシャ、知り合いか?」
「昔にちょっとね。けど、それだけよ」
事前の情報があったから霧雨マドカがいるのはまだいい。だが、なぜナターシャさんが?
「ナターシャさん・・・どうしてあなたが?」
わからない。フランスからナターシャさんは『銀の福音』を守って死んだ英雄にされていると聞いていたからだ。
「そうね・・・彼への恩返しもあるけれど、今回は私の私怨でもあるわ」
「恩だと?どういうことだ!?それに私怨とは何だ!?」
霧雨無月に恩がある?彼は感謝されるような人間ではないという印象しかない。するとナターシャが語りだした。
「この子は篠ノ之束によって暴走させられたわ・・・あの事件の時にね」
あの時とは1年の時の臨海学校の時だろう。彼の言っていたことは本当だったのか。
「彼はこの子を助けてくれたわ。そして私はこの子を弄んだ篠ノ之束に報いを受けさせると誓った」
「けど戦争なんて間違ってる!!」
「間違っているのはこの世界だろう?それに正義とは立場によって形を変える」
今まで黙っていたマドカがしゃべりだした。
「お前たちのどこに正義があるというんだ?やっていることはテロリストとなんら変わらん」
「先日の演説は聞いていたか?ISの登場もテロだったと思うがな。それとなんら変わりはない。世界が変わる瞬間は反逆ばかりだ。そして勝てば反逆は正義となり負ければ悪だ。逆に聞くがお前たちは何を守ろうとしているんだ?」
僕達が戦おうとしているのは学園を守るためだ。それ以上でもそれ以下でもない。
「これ以上話すことに意味はない。行くぞ!」
僕はどんな状況でも対応できるよう相手の出方を見る。マドカはモンド・グロッソ準優勝でセシリアと同じフレキシブルを使う。ナターシャの『銀の福音』は一度戦っている。
「来たぞ!」
「こっちも行こう、ラウラ」
シルバー・ベルが戦闘の口火を切り、僕たちは空へと飛び出した。
Side 一夏
「始まったようだな」
俺達が来ているのは屋上。あちこちで戦闘が始まっているのが目視できる。一刻も早く援護に行きたいが俺達の任務はここを守ること。勝手に出て行くわけにはいかない。
「くそっ!なんであいつはこんなことをしようとする!?」
霧雨無月。あいつは復讐だと言っていた。だったら何故みんなを巻き込むような真似をする?
「わからん。だが、相手が仕掛けてきた以上戦うしかあるまい」
相手が仕掛けてきた以上、戦うしかない。俺は生徒会長だ。学園を守る責任がある。
「そうだな。必ず勝つぞ、箒!」
「その意気だ、一夏!」
俺は拳を箒と合わせる。白式と紅椿は相性がいい。エネルギーを補完しあえる箒とのタッグならばほとんど負けない自信があった。
「それは無理だ」
「誰だ!・・・ラウラ?いや、違う。お前はアーデルハイドか!?」
銀髪を靡かせながら姿を現したのはモンド・グロッソ制御部門優勝者、アーデルハイド・ローゼンベルグ。そしてもう1人は茶髪の美少女だった。
「わしの事は知らんようじゃの。一応元IS学園の生徒なんじゃが」
「誰だ、貴様は!」
箒が声を上げる。
「工藤優子・・・といっても1年生の時に退学したがの」
「なんで退学したお前が暁にいるんだ?」
意味がわからない。一体どういうことだ?
「ある人物に誘われての。元々学園に来る必要もなかった。その誘いについて行っただけじゃ」
「まさか・・・霧雨に誘われたのか?」
それしか思いつかない。しかしなぜついて行ったのか?
「お主ならわかると思ったんじゃがの。篠ノ之箒」
「私にわかるだと?あんなテロリストのことなどわかるはずないだろう!?」
その瞬間に殺気を感じた。
ガキンッ!
そして箒と工藤が刀を合わせていた。
「そうじゃな。お主にはわからんよ。テロリストはお主の姉じゃろうに」
「っ!!」
次の瞬間、工藤の持っていた刀が消え、アサルトカノンが展開され箒が撃たれた。
「箒っ!」
あれはラビット・スイッチか?展開して撃つまでが早すぎる。明らかにシャルを超えている。俺は急いで箒の援護に向かおうとする。
「お前の相手は私だ。近接戦闘が得意なんだろう?かかってこい」
目の目に立ち塞がったのはアーデルハイド。そしてさっきまでの赤い目が金色に変わっていた。
「ヴォーダン・オージェか」
「ラウラ・ボーデヴィッヒのものと一緒にはするなよ?私は本当の適合者。あんな奴の飾りとは違うんでな」
「黙れ!!」
ラウラをバカにしたこいつを許すわけにはいかない。俺は雪片を展開して瞬時加速で接近し、戦闘を開始した。
Side オータム
「始まったみたいだな。私の相手はお前らか?」
私はペアではなく単独での戦闘だ。私の相手は教員たちだ。正直、面白い相手ではない。まだロシアとやっていた時の方が面白かった。
「1人でノコノコ来るなんていい度胸ね。何人を相手にするつもりかしら?」
誰かわからないがもう勝った気でいやがる。もし相手が私じゃなく、無月だったら立ち上がれないくらいにボコボコにされているな。こいつらは私たちの情報を持っていないのか?私のISは1対多を想定されている。それに訓練機なんて相手にもならない。
「はっ!勝手に言ってろ!行くぜ!アラクネ!!」
『了解しました。マスター』
私はアラクネを第3世代機に変えた時、戦闘補助のAIを試験的に導入していた。アラクネのベースは変えていないが、8本の装甲脚はある程度伸縮が可能で、AIの補助もあってそれぞれを独立して動かすことができる。
どっちかというともうクモではなくなってしまった。アラクネは8本の脚ではなく、8本の手になっているが、この際関係なしだ。要するに勝てばいいのだ。
「くらいなさい!」
1人がライフルを撃ってくる。だが、それはアラクネの展開した盾に阻まれ、別の手に展開したレーザーライフルを撃ち返す。向かってくる相手には4本のガトリングを展開し撃ち続ける。
「おらおら!どんどん行くぜ!!」
ガトリングを放ちながら両手にレーザーブレードを展開した私は一番手前にいる女に突っ込んでいった。
Side 山田真耶
ついに戦いが始まった。この作戦司令室はシュヴァルツェ・ハーゼの数人と私と織村先生がいるのみであとの人員は戦闘を開始していた。遊軍扱いとなるシュヴァルツェ・ハーゼはまだ動いていない。彼女らは押され始めた戦場に投入することになっていた。
「・・・教え子たちが戦っているのに何もできないなんて」
「山田先生、それぞれが自分の持ち場で戦っています。直接戦闘するだけが戦いではありません」
「そうですよね」
織斑先生も私と同じ気持ちだろう。暮桜を再起動させた織斑先生は贔屓目なしに見て学園で一番の、いや世界でもトップクラスの実力者。しかし、ここには織斑先生の他に指揮をとれる者はいない。織斑先生も戦っているのだ。
「山田先生、今戦っている暁は何人です?」
「はい・・・7・・・8・・・9人です」
それが一体どうしたのだろうか?この人数は戦闘が確認された情報とも合致している。
「・・・霧雨はその中にいますか?」
「ちょっと待って下さい」
モニターを切り替えながら戦闘の様子を見る。だが、どこを探しても彼の姿は見当たらなかった。
「彼はいないようです」
霧雨くんはなぜこんなことを?理由がまったくわからない。2年前に突然、地下研究所のデータを盗んで専用機持ち達と交戦し、織斑先生を意識不明の重体に追い込んだ後、行方をくらましていたのだ。
「どこにいる?奴は何を企んでいる?」
織斑先生が思案を巡らす。
「っ!織斑先生!鳳さんとオルコットさんが押され始めました!!」
モニター越しで2人が劣勢に立たされていた。相手は大きなランスを駆使して鳳さんを狙う。そしてオルコットさんの攻撃が当たっていない。
オルコットさんはフレキシブルを2年の終わりに習得してから距離を取った戦いは得意だったはず。その得意な距離で押されている。
鳳さんは龍砲が敵に当たっているようだが、そのうち敵に距離を詰められて龍砲が有効に使えていなかった。
「やむを得ん。クラリッサを向かわせろ」
「はい!クラリッサさん!運動場の方へ向ってください!」
しかし応答がない。なぜ?
「クラリッサさん!応答してください!クラリッサさん!!」
何度呼びかけても返事すらない。
「どうした!?」
「クラリッサさんが応答しません。遊軍のシュヴァルツェ・ハーゼも同様です!」
交戦に入ればその連絡もあるはずだが、それすらなかった。
「しまった!霧雨の狙いはこれか!」
ダンッと織斑先生が机をたたく。
「どういうことです?」
「あいつはどういうわけかこちらの布陣を読んでいた。そして遊軍の存在を知っていたのだろう。おそらく霧雨はシュヴァルツェ・ハーゼを撃破した。クラリッサからの応答がないのはそのためだ」
「・・・そんな」
あり得ない。こちらの布陣を知っていたこともそうだが、この短時間でシュヴァルツェ・ハーゼを撃破するなんて。あそこには6機のISを配置していた。1人でどうこうできる相手ではないはずだ。
「くそっ!」
織斑先生が悔しそうな表情するが、すぐに抑え、再び手を考え始める。私にできることは今のところ状況分析だ。せめてみんなの役に立てる情報を集めよう。そう思い相手の戦力分析を始める。
戦況は確実に動き始めていた。