Side 無月
「・・・楯無さんですか」
この水の楯は楯無さんの防御方法。そして俺の目の前にはやはり楯無さんが現れた。
「やっと会えたわね。ここからは私が相手になるわ。織斑くん、あなたは織斑先生を連れてここから離れなさい」
「で、でも、楯無さん」
俺は1人で倒せるような相手ではない。それがわかっている織斑は狼狽する。
「ならはっきりと言うわ。今のあなたははっきり言って邪魔なの。私がここを引き受けるからその間に織斑先生を連れて、回復してきなさい。その間に少しでも対策を立てて来て」
「わ、わかりました」
織斑は織斑千冬を連れてこの場から去ろうとするが、別の影が織斑達の前に立ち塞がった。マドカだった。
「そんな真似をさせると思うか?」
「くっ!」
織斑千冬を庇わなければならないという状況でISもない織斑がマドカを倒すことは不可能だ。だが・・・
「行かせてやれ、マドカ」
Side マドカ
楯無が出現したのを見て私はすぐさまISを展開して飛んできた。無月の復讐の一部が遂げられようとしている今、ここで邪魔をさせたくはなかったからだ。
「・・・だが、織斑千冬を逃すわけにはいかない。これはお前の戦いだ。しかし、ここで逃して後悔することになるのはお前かもしれないんだぞ?」
チャンスとはそう何度も巡ってくるものではない。現に無月はこの日のために何年も準備をしてきた。それを捨てさせることはできない。
「それでもいい。ただ、ここで俺は決着をつける必要がある。それに奴らは後で必ず仕留める。だから頼む、マドカ」
無月が真っすぐこちらを見てくる。ここまで楯無と決着をつけたいか・・・。本来なら止めるべきだ。目標の撃破を優先することが戦いの基本なのだから。だが・・・
「・・・そうか。だが、負けるなよ?」
私は無月の想いを優先した。これは無月の戦い。無月がそう決断したのなら私は黙って見届けてやればいいのだから。
「冗談はよしてくれ。まあ、見ててくれよ」
「わかった。私はお前の戦いを見ていることにする」
私は楯無を一瞥し、元いた場所へと戻って行った。
Side 無月
「話は終わったようね。霧雨くん・・・あなたはここで止めるわ」
マドカは再び屋上へと戻り、俺は楯無さんと対峙していた。そしてスコールから通信が来ており、楯無さんは暴走機の出現と同時にクリア・パッションを発動し、こちらに向かってきたようだった。
「まさかスコールを出し抜くとは思いませんでしたよ。そこまで俺にご執心なんて光栄ですね。追われるのも悪くないですね」
「あら?ずっと追いかけてあげてもいいのよ?」
「変わらないですね。楯無さんは。けど、俺は止まらない。楯無さんでも倒して前に進みます」
俺は新月をしまい、雷遁のチャクラを練り始めた。
Side 楯無
簪ちゃんがマリアと戦い、私はスコールとモンド・グロッソのような戦いを繰り広げていた。
簪ちゃんは本当に強くなった。IS大国を落としたという相手にも怯まずに戦っている。相手の力量は高いが、簪ちゃんも何とか食らいついていた。だが、こちらが劣勢だということは明らかだった。
そして謎の暴走機の乱入。暴走機はスコール達に向かって行ったので一応はこちらの味方らしかった。
簪ちゃんが織斑くんの方に行ってと言い、山嵐を発射した。私は簪ちゃんの剣幕に押され、暴走機の乱入と同時に戦場を抜けだしたが、私が到着したのは織斑先生がやられた直後だった。
霧雨くんはなぜか目の前の織斑先生を逃がし、私との対峙を選んだ。不可解なことだが、織斑先生の復帰がこちらに有利に働くはずだ。
彼は新月をしまい、手で何かを形作る。その後、バチバチバチと彼の体が黒い電気を帯び始めた。私が使うのは水。どうしても電気使いとは相性が良くない。しかし、炎以外の隠し玉があるなんて予想外だ。
「・・・これはまずいわね」
私の役目は織斑先生が復帰するまでの時間を稼ぐこと。
「せめて簡単には落ちないでくださいよ?楯無さん」
「当り前じゃない。ここであなたを止めるために私の2年はあったの。負けるわけにはいかないわ」
だが、私はただの時間稼ぎにはなる気はない。残りのエネルギーは3分の2程度。私にできることを全てやる。
「雷遁・黒斑差!!」
黒い雷を纏った豹が霧雨くんから飛び出し、戦闘が始まった。
◇
「はあ!!」
私はガトリングを発射し、霧雨くんにダメージを与えようとするが、避けられる。ランスで挑んでも全てが弾かれる。
「風遁・練空弾!」
彼が扇を振るうと同時に空気が圧縮された砲弾が飛んでくる。
「くっ!」
私は水の盾を展開し、それを防ぐが私の使う水の量には限りがある。このままでは水が切れるのは目に見えている。
「はあ、はあ・・・」
私は彼といったん距離を取る。余裕があるのか、彼は私を追撃しようとはしなかった。彼とISで戦うのは初めてだが、唖然とするような力量だった。私は敗れはしたが、スコールとだってある程度は戦えていた。それなのにまるで攻撃が通じない。
「楯無さん、もう終わりですか?」
霧雨くんの何の感情も込められていない声が響く。この声からは何も感じ取ることはできない。
「・・・言ってくれるじゃない!」
私は自らのナノマシンを漂わせている場所を確認する。私に打つことのできる手はほとんど残っていない。このクリア・パッションをどう使うかが勝敗の分かれ目だろう。ならば残された策は1つだけだ。
「行くわよ!」
私はランスを展開し、再び彼に接近戦を挑む。
ガキンッ!
「・・・ランスの表面に水を纏わせて新月と打ち合えるようにしているとは」
そう。彼の刀と打ち合うにはただの鉄では難しい。そのため私はミストルテインの槍で使う水の量をコントロールしてランスに纏わせていたのだ。
「それだけじゃないわよ。行きなさい!」
ドシュッ
ランスから無数の矢を模った水が勢いよく飛び出し彼に向かっていく。
「ちぃ!」
彼はこの攻撃を左に飛んで回避する。これを避けるなんて相変わらずとてつもない反応速度ね。けど、予想通り。彼が飛んだ方向。それは私のナノマシンが展開されている場所!
「かかったわね・・・食らいなさい!!」
パチンと指を鳴らすとともに彼の周りに巨大な爆発が発生する―――クリア・パッション。不可視の攻撃であるこれは私の中での切り札だ。これで無傷のようだと。
「・・・うそでしょ!?」
爆炎が消え失せた先にいたのは傷らしい傷を何一つ負っていない彼だった。あれほど策を巡らせてもダメなんて、一体どうすれば・・・。
「えっ!?」
ザシュ
一瞬だった。彼が刀を構えたかと思うと、次の瞬間には目の前に迫っており、刀が私を貫いた。
「命までは取りません。ここで引いてもらえないでしょうか?」
「それは無理なお願いよ・・・」
私は彼の刀を持っている腕をグッと掴む。
「やっと、捕まえたわよ、霧雨くん」
「この状況で何を言って・・・」
私の言っている意味が理解できない彼だが、次の瞬間にはその意味がわかったようだ。なぜなら彼の腹を後ろからランスが貫いていたからだ。そして彼の前にいた私は水となって消えた。
「なっ!?・・・水分身?」
「クリア・パッションを防がれることはわかっていたわ。無傷なのは予想外だったけどね。でもそれを隠れ蓑にして分身を作って様子を窺っていたのよ。さあ、霧雨くん。ここであなたこそ引いてもらうわ」
このまま戦闘を継続することは不可能だろう。
「残念ですが・・・それは不可能なことですね。引くのは楯無さん、あなたなのだから」
そう言うとランスで貫かれた彼は水となって消えた・・・まさか!?
「がぁ!!?」
私の頭上にとてつもない衝撃が走った。私はそれに耐えきることができず、地上へと落下した。そして私の傍には何か文字が書かれた短刀が空から落ちてきて地面に突き刺さった。
「うっ・・・くぅ」
なんとか身体を起こす。すると彼も私を追って地上に降りてきた。
「これも・・・通じないなんてね」
「写輪眼はチャクラ・・・エネルギーの流れを見切る眼。水で作った分身には驚きましたけどね」
まずい。もうエネルギーはほとんど残っていない。私は彼を止められるの?もう、打つ手が・・・。
「楯無さん。あなたは誰のために戦っているんです?」
「誰のためですって?」
質問の真意がわからない。
「俺を止めたいとあなたは言いましたけど・・・それは誰のためですか?世界?日本?それとも学園のため?俺が目的を遂げようと遂げまいとあなたがそこまで必死に戦う理由はないでしょう?」
「私の戦う理由ですって?」
きっかけは生徒会長としてだった。復讐を宣言し、学園の脅威にかも知れないという懸念を持った私は彼と接触した。
彼が学園を襲撃した後は、政府から暗部用暗部である更識家に異例とも言える霧雨無月暗殺命令も出ていた。
しかし、私が戦う理由は日本のためでも戦争に勝つためでもない。この答えは更識家の当主としては失格だ。そんなことはわかっている。それでも私は自分のために戦いたい。
私が彼を止めたいから。好きになってしまった彼に復讐なんて悲しことをしてほしくない!
「私は誰のためでもない。自分のために戦う!」
「・・・良い答えです」
クスッと彼は笑う。が、直後、言いようのない悪寒を感じた。そして彼のISから山伏を象った巨大な‘何か’が現れた。
「須佐能乎・・・両目の万華鏡写輪眼を開眼したものだけが得る究極の瞳術。半端な覚悟でこれを受ければあなたは死ぬでしょう。これは俺の決意。俺は楯無さんを倒してでも前に進む」
「くっ!」
背筋が凍る様な殺気を感じる。言っていることは嘘ではないということだろう。私は再びランスを展開し、ミストルテインの槍を発動する。
もう防御用のナノマシンを攻撃に回しても期待するほどの威力はないだろう。それほどまでに私のエネルギーは残り少ない。けど、ここで引く訳にはいかない。だから、願った。もっと力がほしい。もうISに乗れなくなっても構わない。でも彼を、止めたい!
「レイディ・・・これで最後なの。あなたの力、全て私に貸してほしい」
わかった、と。聞こえた気がした。次の瞬間、ミストルテインの槍が輝き、失った水は再び蘇り、纏った水流はこれまでにない力強い回転でランスを覆った。
「これが私の覚悟・・・私はここであなたを止める!」
「・・・・・・」
彼は無言で須佐能乎と呼んだ山伏の刀を居合いのように構える。もう言葉は不要ということだろう。きっとこの刃は届く。この想いも。そう確信していた。私は瞬時加速で真っすぐ彼に突っ込み、彼は須佐能乎の刀を速く、鋭く振り抜く。
ドゴオオオオオンッ!!!
戦争の音をかき消すような轟音が学園中に響いた。