Side 千冬
「・・・い、一夏?」
時が止まった。そう感じられるほどの時の流れだった。私を庇った一夏がゆっくりと仰向けで倒れた。
「一夏!大丈夫か、一夏!!」
倒れた一夏を急いで抱き起こす。すると一夏は閉じていた目をうっすらと開ける。
「ち、千冬・・・姉・・・だ・・・大丈夫?」
今にも消えそうな声で一夏が応える。
「一夏!しっかりしろ!一夏!!」
「は・・・はは、そんな顔しないでくれよ・・・俺・・・千冬姉を守・・・れたよ」
一夏の顔からどんどん生気がなくなって行く。このままでは一夏が死んでしまう。
「もう喋るな。早く治療を・・・」
早く一夏を治療しなければ。という思いに駆られて救命用具を取りに行こうとするが、一夏が私の手を掴む。
「もう・・・ダメみたいなんだ」
「何を弱気なことを言っている!!」
今ならまだ間に合うかもしれない。
「ごめん。千冬姉・・・千冬姉を・・・1人にしてしまう」
「一夏・・・お前はこんな時まで・・・」
私の心配をするなんて。そして無情にも‘死’は一夏にゆっくりと、確実に近付いていることだけがわかる。
「はは・・・俺が死んじゃったら千冬姉・・・家事・・・できるかな?」
「ああ、やるさ。掃除だって洗濯だって、料理だってやってみせる!だから、一夏。死なないでくれ!!私を・・・私を1人にしないでくれ!!!」
「千冬姉・・・最後に笑ってよ」
溢れてくる涙を止めることも出来ないまま、私は一夏の願い通り、笑って見せた。一夏は私の頬に手を伸ばす。伝わってくる体温は不思議なほど冷たく感じられた。
「千冬姉・・・今まで・・・あ、ありがとう」
「一夏・・・一夏ーーー!!!」
一夏がゆっくりと目を閉じ、伸ばしていた手が力なく落ちて行った。
「どうです?目の前で家族を失った悲しみは?」
霧雨は何の感情も込めずに言う。
「貴様ぁぁぁ!!!」
ガキンッ!!
エネルギーを充填し終えた暮桜で怒りに任せて霧雨を強襲する。だが、その渾身の一撃も何なく止められ、鍔迫り合いとなる。
「貴様だけは許さん!!」
「その言葉はそっくりそのまま返そう。俺の両親はお前に殺された。今のお前が抱いている感情が俺の体験したものだ」
その言葉と同時に霧雨の蹴りが飛んできたので一度距離を取る。
「何故一夏を殺した!!」
こいつの狙いは私と束のはず。なぜ一夏を・・・。
「ただ殺すだけなら簡単だ。現に何度もお前を殺す機会はあった。お前に大切なモノを失う痛みを教えるためだ。失わなければわからない痛みを。そして何もできない自分の無力さを」
それだけ、たったそれだけのためにこいつは一夏を殺したというのか?私は既に動かなくなった一夏に目をやる。
世界でたった1人の私の弟。何があってもこの手で守ろうとした存在。それが失われてしまった。今の私にできること。それは・・・。
「お前を殺して一夏の仇を取ることだ!!」
「来い!」
私は雪片を展開し、これまでにない瞬時加速で飛び出した。
「・・・へぇ」
私の一撃は霧雨のISを僅かにかすめた。その一撃は私の攻撃を避けようとした霧雨の予測を超える一撃となり、攻撃を食らわせたのだった。
「お前だけは許さん!!」
「奇遇だ。俺も同じ感想を持っている」
倒れた一夏に目をやり、私は霧雨と対峙する。殺すなら私を狙えばよいものを・・・こいつだけは斬らなければならない。
「霧雨ーーーーーっ!!!」
私は再び霧雨に向かって行った。そして私と霧雨の最終決戦が始まった。
◇
「・・・どういうことだ」
霧雨と戦い始めてから数分。最初の一撃を食らわせて以来、私の攻撃はまるで当たらないが、奴の攻撃もこちらには当たらない。勝負自体は5分。最初の一撃の分、こちらが優勢かもしれない。だが、気になっていることがあった。
「こいつの動き・・・私と「全く同じだと、か?」っ!!」
戦い始めた時から霧雨の動きが私と全く同じなのだ。私の動きは篠ノ之流古武術を基本とした動き。それを真似できるはずがないのだ。だが、こいつは完璧に同じ動きで私に応戦している。
「・・・ならば!」
私は一度距離を開ける。私のオリジナルの攻撃ならコピー出来ないはずだ。誰にも見せたことのない攻撃・浮舟。
下に構えた刀による初撃で下から上へと敵の武器を弾き、その流れで敵を袈裟がけに斬る必殺の一撃。
説明してしまえばこれまでだが、速度が段違いだ。制御を超えるほどの最大出力の連続瞬時加速によって加速した一撃は相当重く、武器を弾かれない者はいない。その勢いのまま繰り出される斬撃を食らって無事な者はいない。
ISと操縦者諸共葬りかねない威力の攻撃。これならば確実に奴を仕留められるはず。私は雪片を下に構える。すると霧雨は私を真似ることはなく、ただ刀を下に構えるだけだった。
「・・・舐めているのか?!!」
「いいから来い」
そう言ってにやりと笑う霧雨。
「その笑みを消す!!」
私は威力を最大に上げるために連続瞬時加速で霧雨に飛びかかった。
◇
「良い一撃だった。体内門第1門・正門を開いていなければ死んでいたのは俺だったな」
「・・・バ、バカな」
私は完璧な攻撃を繰り出した・・・はずだった。誰にも見せたことのない浮舟。見切ることなどできるはずはない。だが、霧雨は完璧に、しかも私の初撃を信じがたい腕力で止めた上に、私の袈裟切りにカウンターで合わせるという人間離れした攻撃を見せたのだった。
ドカッ!!
「ぐっ!」
繰り出された蹴りを防御することもできず、私は吹き飛ばされるが、なんとか空中で姿勢を整えた。が、そこで機体に限界が来たようだ。
浮舟は機体の限界を超えるほどの速度を要するため、それに使う瞬時加速のエネルギー消費量は膨大なものとなる。1回放てば戦闘の継続が不可能になるほどに。それ故に試合で使ったことはなかった。
必殺の一撃を回避された上に反撃を受けた私の暮桜はエネルギー切れに伴い強制解除されてしまった。
「お前は何者だ!私の攻撃を完璧にコピーした上にあの速度の攻撃にカウンターを放つことなど―――」
できるはずがない。と言いかけるが、それを言うことはできなかった。霧雨の赤く輝く瞳に魅入られてしまったからだ。
このまま斬られるのか、と思っていたが、霧雨はISを解除し、巻物から取り出した一振りの刀をこちらに投げて渡した。この刀には見覚えがあった。
「・・・これは」
「何を驚くことがある?お前の愛刀・桜花だろう?いくらお前でも無抵抗の奴を斬るのは気が引ける。IS戦は既に俺の勝ちだ。これで決着をつけようじゃないか。お前が得意とする剣術で」
ふざけた真似を!
「舐めるなーーーー!!」
私は刀を拾い上げ、霧雨に斬りかかった。
Side 無月
ガキッガキンッ!
刀と刀がぶつかり合う。織斑千冬は織斑の仇を取ろうと刀を振るい、俺は両親の仇を取るために刀を振るう。織斑千冬の剣捌きは大したものだ。気を抜いているとこちらが斬られるだろう。
「うぐっ」
振り下ろしてきた刀の軌道を見切って顔面すれすれの紙一重で回避する。俺の刀で受けられると思っていた織斑千冬の狙いは外れ、体勢がぐらついた瞬間に横から蹴りを入れる。
蹴飛ばされた織斑千冬だが、すぐに立ち上がり、刀を構えてこちらを睨みつけてくる。その瞳は憎悪に染まっていた。
「俺が憎いか?織斑を殺したこの俺が?」
「貴様だけは・・・貴様だけは必ずこの手で斬る!」
肩で息をしながら織斑千冬が吠える。その威圧感はさすがに世界最強と言われただけの事はあった。
「その思いは俺が抱いていたものだ。これで対等か?いや―――」
織斑千冬が駆け、俺の首をめがけて斬りかかる。そして俺はその刀を左手で掴んだ。
「バカな!?」
ピクリとも動かない刀に織斑千冬は戸惑っていた。
「対等なはずがないな。俺は10年間、この時を待っていたのだから・・・」
俺は動きの止まった織斑千冬の首を刎ねるために天牙を横に振るった。
ザンッ!!
◇
「はぁ、はぁ、はぁ」
「・・・よく粘る」
俺が天牙で織斑千冬の首を刎ねようとした瞬間、織斑千冬は咄嗟に頭を下げて回避し、俺の腹に蹴りを入れて後ろに跳んだ。そのため俺の剣は織斑千冬の後ろに束ねてあった髪の毛を斬っただけだった。
「だが、もう終わりだ」
「なっ!?うぐっ!?」
俺は足に溜めたチャクラを一気に放出し、織斑千冬の目の前に現れる。人間の反応速度の限界をはるかに超える速度から放たれる一撃に織斑千冬は付いてくることはできなかった。
吸い込まれるように天牙が織斑千冬の左胸を貫いた。確実に心臓を捕えた。これでは生きていることはできないだろう。俺が天牙を引き抜くと同時に織斑千冬はゆっくりと倒れたのだった。
「・・・い、一夏」
「まだ息があったか」
血を流しながら織斑千冬は織斑が倒れている場所へと這って行こうとする。もう立ち上がることはできないだろう。だが、俺はそれを邪魔しようとは思わなかった。死に行く者の最後の願いは家族の傍で死ぬことなのならばそれでいい。
そう遠くない場所で倒れていた織斑のところまで織斑千冬は辿り着き、織斑の手をとった。
「・・・一夏・・・すまない」
そして織斑の手を握りながら最期の言葉を言い残し、逝った。
「・・・これで1人目、か」
これで残るはあと1人。こちらは探さずとも向かってきているのだろう。空を見上げると巨大なレーザーが降り注いできていた。こんなレーザーを作ることができる人間は世界中を探しても1人しかいないだろう。
「ちーーーーちゃーーーーん!!!!」
第1アリーナに巨大なクレーターを作ったレーザーに続いて2機のISが降り立ったのだった。