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なかなか返信できていなくてすみません。
Side 空
私が自分という個体について認識した頃、私は薄暗い場所にいた。暗い室内に薄汚れた壁。ベッド以外に何もない部屋に私はいた。
『検体番号1003。早く入りなさい』
検体番号1003。これが私。いつものように何の感情も込められていない声が私を呼ぶ。
『おい!さっさとしろ!!』
すぐに怒鳴り声が響く。逆らってもロクなことにならない。それがわかっている私は急いで研究所に入っていく。
「今日は何をするのです?』
いつもされるのは投薬に運動実験。他の検体もいるが、滅多に会うことはない。
「質問は許されていない。黙って従え」
「・・・はい」
返ってくるのはいつもこの答え。それが当たり前だったし、何の疑問もなかった。
「ちっ!失敗か。常時発動じゃあ、何の意味もねえ!こいつも失敗だ!!なんであいつのように上手くいかねえんだ!!」
「1003・・・この役立たずが!」
「ぐぅ!」
近くにいた主任という立場の研究者に思いっきり頬を殴られる。こんなことは日常茶飯事だ。私はすぐに立ち上がる。
今日行われたのは、目にナノマシンを入れる投薬実験。ヴォ―ダン・オージェと呼ばれる物らしく、動体視力の爆発的な向上が望まれるらしい。
私は両目に入れるのは、成功例があるからだと聞かされた。最高傑作と言われた個体は両目に持っていたらしい。その最高傑作に類似した能力を持つ私に投与して似た個体を作るのだという。
後日、ナノマシンを投与された私はヴォーダン・オージェのオンとオフの切り替えができなくなっていた。超高速で動く物体を見切るために投与されたそれは日常生活では邪魔以外の何物でもない。
そして尋常ではないほど疲労が溜まる。私が活動可能な時間は大幅に減り、施される実験もどんどん少なくなっていった。
私は見えすぎるヴォーダン・オージェ対策のために目を閉じた生活を始めるが、真っ暗な世界は慣れないものだった。
「1003。お前はもう実験をする必要はない」
どういうことなのだろうか?私は話しかけてきた研究員の次の言葉を待つ。
「今日から3日後に処理される」
処理という言葉が響く。以前ならもっと恐怖を感じたのだろうか?実験に不要になった検体は処置室に連れていかれる。どういう場所か詳しくは知らないが、処置室に連れていかれた者で帰ってきた者はいない。
私の隣の部屋にいた検体も処置室に送られたが、その日以来姿は見ていない。
ただ、私にとってはどうでもいいことだった。私の世界には色がない。どこまでも深い闇があるだけなのだから。
◇
ウーウーウー
ドオンッ!ドゴオオオオンッ!!!
処置室に送られる当日。けたたましいサイレン音と共に建物に大きな衝撃が起きた。自分の部屋でじっとしていた私には何が起きたか全く分からなかった。
「襲撃だ!データを全て消せ!バックアップがなくても構わん!」
主任の怒鳴り声が響き、悲鳴があちこちで聞こえる。
「あいつだ!あいつが来たんだ!!」
「もう無理です・・・ぎゃあっ!!」
ドオオオンッ!
再び大きな揺れ。どうやら近くで爆弾か何かが落ちたようだ。この部屋もそのうちに崩れてしまう。私はどうなるのだろうか?
ドゴオオン!!
「うわっ!」
次は私の部屋が崩れて天井が落ち始めた。私はベッドの下に入ったことまでは覚えているが、そこまでだった。
「うっ・・・ここは?」
私は意識を取り戻した。ここは地下にある研究所のはずなのに肌寒い。それに明るい。うっすらと目を開けるとそこに広がっていたのは天井ではなく、見たこともないくらい美しい青い空だった。
地下に存在していたという研究所の中では空をいうものを見たことは一切ない。知っているけど知らないもの。空とは私にとってそういうものだった。
「・・・これが空」
倒れていた体を起こす。するとさっきまで自分がいたはずの部屋はどこにもなく、瓦礫と化した研究所があった。ところどころ炎が見え、黒煙が立ち込めている。それだけで襲撃を受けたということだけがはっきりとわかった。
研究所へと続く道を歩く。研究所であったらしいこの場所は、原形すら留めていない。歩いていると何かにぶつかった。
「これは!?ひっ!・・・うっ・・・おぇぇ!!」
それを見た瞬間。私は思わず胃の中の物を吐き出してしまった。私のぶつかったモノは変わり果てた主任の姿だった。辺りを見渡すと見たことのある研究者達が全員、主任と同じように死んでいた。
ある者は銃で撃ち抜かれ、ある者は首を斬られ、またある者は手足がなくなっていた。初めて見る人間の‘死’に私は足元がすくんでしまった。
「んー?そこにいるのは誰かなー?出ておいでー?」
「っ!?」
不意に声をかけられる。聞いたことのない声だ。私は足の震えを何とか抑えて、声のかけられた方向へと歩いて行った。すると、そこには白いワンピースを着て、頭に兎の耳をつけている女の人が立っていた。
「おっかしーなー。研究所にいた奴らはみんな片付けたはずなんだけど。うーん・・・、まぁ、いいや。それでキミは誰?名前はあるんでしょ?」
その人は私に向かってゆっくりと歩きながら話しかけてきた。変に明るい口調で話す人だと思う。
「・・・検体番号1003」
「違う違う!そんな番号じゃないよ!キミの名前は?」
これは名前ではないようだ。これ以外の名前・・・。どうしても浮かばない私はふと、どこまでも青い空を見上げた。
「そら・・・空です。あなたはどうしてここに?私を助けてくれたのですか?もしかして天使様ですか?」
昔に読んだ本に困った時に助けてくれる天使というものが存在すると書いてあった。もしかするとこの人が天使なのかもしれない。
「私が天使?あーはっはっは!!面白い!面白いよ、キミは!!」
女の人は突然、お腹をかかえて笑いだした。
「あ、あの・・・」
この人は私をどうするつもりなのだろう?それを聞こうと口を開くが、その前に女の人が話し出した。
「いいよ!キミを連れて行ってあげるよ!私の言ったことを忠実に再現する私の‘モノ’になれるなら、ね」
そう言って女の人は手を差し伸べてきた。
「・・・はい」
私は迷わずその手を取った。この人なら私の居場所をくれる。そう信じて疑わなかった。
「あの・・・名前・・・名前を教えてもらってよろしいですか?」
廃墟と化した研究所から引き上げる時、前を歩いていた女の人に尋ねた。
「ああ、私?私は―――世界一の科学者、篠ノ之束さんだよ」
それが、私と束さまの出会いだった。
◇
後になってわかったことだが、私が受けていた実験は後期アドヴァンスド計画と呼ばれるものらしい。かつてのアドヴァンスド計画は、史上最高と呼ばれた個体の脱走によって計画は頓挫したそうだ。
だが、研究にとり憑かれた一部の研究者たちが地下に作った施設で秘密裏に研究を続けていたのだという。だが、その計画も束さまによって跡形もなく葬り去られたということだそうだ。
それ以後、私は束さまの助手として命令されたままに全てをこなしてきた。料理だけは上手くできなかったが。
だが、私はこんなところで苦戦している。そのようなことは許されない!!
「私の存在意義は束さまの道具になること・・・こんなところで負けるわけにはいかないのです!!」
私はゴーレムⅣに搭載された切り札ともいえるワン・オフ・アビリティーを発動させた。
Side 無月
「―――こんなところで負けるわけにはいかないのです!!」
「その炎は・・・」
俺と一度距離を取った空が自分に言い聞かせるように叫ぶと同時に空のISは両手に天照に似た黒い炎を纏った。
「うわあああああっ!!」
そして空は瞬時加速でこちらに向かってくると拳を振り下した。直感的に受け止めるのは避けた方がいいと判断し、回避に徹する。
ドゴオオオンッ!!!!
そしてこの判断は正しかったようだ。振り下ろされた拳は地面に大きなクレーターを作り、地面を溶かしていた。
「地面が溶けるとは・・・」
「あっはっはっは!!キミが無人機を倒した能力を真似て再現してみたんだよ!さすが天才の束さんだね」
遠くで見ていた篠ノ之束が狂ったような笑い声をあげながら言う。
一度見ただけの天照を再現した技量は腐ってはいるが天災ということか。だが、目が気に入らない。空を見る目が。
「くーちゃん。早くそいつを殺してよ・・・さあ!!」
「はい!束さま!!」
空は両手だけではなく、さらに両足にも黒炎を展開した空が俺に向かってきた。
◇
Side 空
「本当に何者です?このゴーレムⅣは束さまの専用機・白椿に次ぐ性能を持つ機体。それがどうしてあなたには通用しないのです?」
私は目の前で戦っている男が理解できなかった。霧雨無月。この男は束さまのレーザーを避けながら私と戦っている。
それにも関わらず私のワン・オフ・アビリティー・炎獄の攻撃が全く当たらなかった。掠りさえすればそれだけで相手を戦闘の継続が困難になるほどのダメージを与える威力を有している攻撃なのに、だ。
この世界に束さま以上の科学者が存在しない以上、霧雨無月の機体性能は私よりも低いはず。それにゴーレムの稼働率だって80%を超えている。なぜ?という疑問しかない。
「それはお前自身にある」
「・・・何を言っているのです?」
攻撃を当たらない理由が私にある?つまり私が霧雨無月より劣っているから?
「お前は実戦経験が無いに等しいだろう?それどころか人間相手の戦い自体したことがないんじゃないか?」
「・・・それがどうしたというのです?」
私は勢いの乗った拳を繰り出すが、拳は空を切り、逆に拳を受け、弾き飛ばされる。
「どうして・・・?」
私にとっては忌まわしいヴォーダン・オージェを用いた攻撃さえ当たらない。それと実戦経験がどう関係するというのか!?
「実戦には呼吸、というものがある。当然、その駆け引きもな。お前の攻撃は純粋すぎる。そんなんじゃあ、お前の拳は俺には届かないよ」
「そんなはずは・・・痛っ!!」
炎獄を纏っていた手足に鋭い痛みが走る。こんな現象は今まで一度もなかった。一体何が起きているのか?私の攻撃が当たらない事もそうだが、わからないことだらけだ。
「やはり・・・空といったか?そのワン・オフ・アビリティーはもう使わない方が良い」
「どういうことです?」
この男は何を言っているのだろう?
「・・・エネルギーが黒炎を纏った部分に過剰に供給されている。そのワン・オフ・アビリティーは使用者の身体を蝕む欠陥品だ。このまま使用を続ければ手足が動かなくなるぞ!篠ノ之束から何も聞かされていないのか?」
「束さまがそんなことをするはずがない!はあああああっ!!」
私は痛みを堪えながら両手を腰に構え、エネルギーを溜める。
「まだわからないのか!須佐能乎!!」
霧雨無月は山伏を模した巨大な像をISから放出した。だが、そんなものは関係ない。これで吹き飛ばせばいい。
「炎獄龍砲!!」
「八坂ノ勾玉!!」
私の両掌から黒炎に身を包まれた龍が飛び出し、霧雨無月の山伏の手からは勾玉が何個も放たれ、両者がぶつかったとき、巨大な爆発が起きた。
「・・・互角!?」
炎獄龍砲は私の中では最高の威力を誇る攻撃だったが、霧雨無月はまだ存在していた。だが、まだ負けたわけではない。痛みを堪えながら、私は炎獄を発動し、霧雨無月に挑むために構えをとる。
「もういいよ、くーちゃん」
先ほどから戦闘を静観していた束さまによって止められた。私のことを心配してくれたのだろうか?だが、私はまだ戦える。まだ束さまのために働くことができる。
「ですが、私はまだ戦えます!」
私は戦闘の継続を望んだ。確かに劣勢だ。ワン・オフ・アビリティーも通用していない。だが、束さまの命令を果たすことはまだできるはずだ。しかし、束さまが続けた言葉は私にとって全く予想外なものだった。
「違うよ・・・もうキミはいらないんだよ」
小さな声だ。だが、どこまでも響くような声で、私の時間は止まった。