Side マドカ
「なっ!?マドカ!?それに楯無さん!?」
珍しく無月が狼狽している。それはそうだろう。全員を送ったはずなのに、残っている者が居るのだからな。
私は無月が印を結び、天送の術が発動される瞬間、私は術式から抜け出していた。
楯無がいるのは予想外だったが。
「あなたがやりそうなことぐらい想像がつくわ」
楯無が予感的中と書かれた扇子を見せる。どこから出したんだ?
「その通りだ。私が‘一番’長い間お前といたんだ。考えていることぐらいわかる」
「何ですって?」
不本意ながら楯無がいるこの状況。私は一番、という言葉を強調する。
「楯無さんのISはエネルギーが切れているはず。なのにどうして・・・」
確かにそうだ。私はまだエネルギーが残っているが、楯無は無月に破れている。シールドエネルギーがない以上、邪魔でしかない。
「ふっふっふ・・・」
楯無は心配無用と書かれた扇子を見せた。だから、どこから出したんだ?
そう考えていると、楯無を光が包み、ISを装備して見せた。シールドエネルギーがなければ、ISの装着などできない。
そしてISを一旦解除する。楯無がISを装着したということ、つまり、楯無のISはエネルギーが回復しているということだ。
「保険よ、保険。負けたときに備えて携帯用のエネルギー回復装置を持っていたの。負けることが前提のことだから、嫌だったのだけど、役に立ったからいいわ」
半分も回復しないけれど、と楯無は付け加える。確かに各国とも携帯用の回復装置は試作していると聞くが、回復量が多くないため、試作品の域を出ないという。
それを楯無は持っていたということか。準備のいいことだ。それをウインクをしながら無月に言う楯無。それを見て私はムカムカした。そして思う。やはりこいつには負けられない、と。
「まぁ、お前がいても戦力にはならんのだろうがな・・・」
「むっ!」
ピクッと楯無が反応する。
「あら?貴方のような‘お子様’がいても誰かがお守りをしないといけないのよ?」
「なっ!?」
そうやって出るとこが出ている自らのスタイルを楯無は強調する。女の私から見てもわかる。こいつのスタイルはモデル並だということが。
何より・・・私が一番気にしていることを・・・。
「おいおい、頼むから状況を・・・」
私と楯無が睨み合いをする中、無月が何かを言っているが、頭に入ってこない。
「うむ、些細なことに目くじらを立てても仕方がない。無月、この戦いが終わったら2人で、ご飯でも食べに行こう。今回は私のおごりだ。いつもお前に払ってもらっているのは申し訳がない」
「ああ、そうだな・・・」
無月が声を絞り出したような返事をする。若干声が震えているのは気のせいだろうか?それにピクリと楯無が反応する。ふふふ・・・悔しいか、楯無よ。
「なんですって!?・・・まぁ、いいわ。なんていっても彼は私をお姫様抱っこで家まで送ってくれたのだから」
くっ!聞き捨てならないセリフが・・・。
「楯無・・・どうやらお前とは決着をつけないといけないようだ」
「霧雨マドカ・・・奇遇ね。私も同じことを思っていたところよ?」
『いつまで遊んでいるのかな?』
「「あっ!?」」
篠ノ之束の声が聞こえ、1機の無人機がレーザーを放つが、私がそれをビット攻撃で相殺し、楯無が飛んで槍で貫き無人機を戦闘不能にする。
「今ならすぐに送ることができる!俺は2人を失いたくない!」
無月が懇願するように言う。
「それは私も同じよ。あなたを失いたくない。これは更識家の当主じゃなくて、更識楯無個人の想い。だから私はあなたと一緒に戦うわ。それに・・・置いていかれるのはもう嫌よ」
「・・・楯無さん」
そして、楯無はチラッと私の方に視線を向ける。
「何より、あなたには負けないわよ?」
「その言葉、そっくりそのまま返してやろう」
そう言って楯無は手にランスを展開し、飛び出していく。私も遅れるわけにはいかないな。
「・・・マドカ」
無月はすがるような目でこちらを見る。
「お前はせっかく自由を手に入れたんだ。ここでそれを捨てるな!」
「はぁー・・・」
私は思わずため息を吐く。こいつは何もわかっていないな。
「無月。あの日、私が言った言葉を覚えているか?」
思い出すのは、無月との初めての出会い。私にとって無月はただの捕縛対象。敵同士だったあの時はこんな風に共に行動することになるとは思わなかった。
無月が体内にあったナノマシンを除去してくれたことで私は助かり、自由を得た。
「だがーーー」
全く、こいつは何もわかっていないな。私は無月に笑顔を向け、言う。
「私はお前についていくんだ。最初から・・・最後までずっとな」
「・・・マドカ」
認めよう。私はこいつが好きだ。だから一緒にいたい。それがどんな状況でも関係ない。
ただ生きていた私に生きる楽しさを教えてくれたのは無月だ。そしてそれをこれからも続けたいのだ。
「・・・生きるぞ、無月」
「そうだな」
そしてサイレンと・ゼフィルスを展開して無人機の一団へと向かっていく。
「雷切バーストモード!」
バチッバチチチチチチチッ!!
雷切の纏う電気が一層激しくなり、千鳥の鳴き声のような音が生まれる。消費するエネルギーを度外視したバーストモード。威力は桁が違う。
「はあああああっ!!」
向かってきた無人機を一刀両断する。視界の端では楯無がこれまで以上の回転をするランスで無人機を貫いていく。
「風遁・螺旋手裏剣!」
そして無月は周囲を気にする必要のない大技を駆使して私たちよりも多い数の無人機を相手にしていた。
3人対250機。絶望的ともいえる戦力差。だが、その3人は世界最強の一角。最大の戦いの幕が開けた。
◇
Side 無月
「くそっ!」
無人機による一糸乱れぬ連携が次々と迫ってくる。俺はその動きを写輪眼で先読みして避けていく。
隙を見つけては新月で斬り、千鳥で貫くが、無人機はコアを潰さない限り動き続ける。
何よりも厄介なのが篠ノ之束だった。自身が動けないという欠点を護衛ISのイージスとマテリアル・ハイで防ぎ、俺には数で押し潰そうと次々と無人機を差し向ける。
ワン・オフ・アビリティー『完全なる支配者』。傀儡の術の奥義ともいえるその絶技を篠ノ之束は完璧に使いこなしていた。
Side マドカ
「楯無さん!・・・天照!!」
ゴウッという音と共に楯無の背後を狙った無人機が燃え上がる。無月の天照。無月自身が最強と称する物理攻撃は消えない黒炎を伴って無人機を破壊する。
「はぁはぁ・・・ありがとう」
「いえ」
肩で息をしながら無月に礼を言う楯無。機体も所々損傷しており、エネルギーもあとわずか、か。
ただ、楯無は既に一度限界を越えた状態で無月と戦っている。少しの間気絶していただけで、ほぼ連戦ともいえる状態だ。
しかも相手は1発1発が必殺ともいえる威力を有する無人機。想像以上のプレッシャーにこれだけの数。精神的にも大幅に削られるだろう。
私も楯無のことばかり言っていられない。無人機による執拗な攻撃は確実に私のエネルギーを削り、私自身の体力を奪っていた。
「はぁはぁはぁ・・・まずいな」
雷切によるエネルギーの消費と機体へのダメージが深刻な状態に陥ってきていた。
右から来る無人機の腕を回避し、すれ違いざまに腕を切り飛ばす。それだけで動きを止めるはずもなく、残った左腕でレーザーを放ってくる。回避しようにも左右から迫ってくる無人機に対して私はさらに上空に飛ぶ。
「そうだねー、そこしか避ける場所はないよね?」
「・・・篠ノ之束!」
上空で待ち受けていたのは篠ノ之束自身が特別製というイージス。思ったよりもずっと速いイージスが振りかぶった拳を回避する余裕はなく、左腕でガードをする。
「ぐがぁっ!?・・・対IS兵器だと!?」
ボキリと鈍い音が聞こえた。それが腕が折れた音だと気づくことに時間はかからなかった。鋭い痛みが全身に駆け巡る。
「もうその腕は使い物にならないよね?」
勝ち誇った笑みを浮かべる篠ノ之束。その隙を見た楯無がガトリングの弾幕を浴びせるがマテリアル・ハイに防がれる。
「舐めるなよ?」
確かにこの左腕を使うことはできないが、腕が1本使えなくなったくらいで負けるような鍛え方はしていないのだ。
来るであろう追撃を後ろに飛んで回避し、すかさずビット兵器による砲撃を浴びせる。防ごうとしても無駄だ。フレキシブルを操る私の攻撃を回避することなどできない。
相手の動きを予測する技術は写輪眼やヴォーダン・オージェを持つ無月やアーデルハイドには及ばないが、徹底的に鍛えてきた。
私の放った攻撃はイージスを守ろうと囲んだ無人機の間を掻い潜って吸い込まれるようにイージスに炸裂する。
「バカな・・・」
だが、そこにいたのは傷らしい傷を負っていないイージスだった。
「あっはっは!まだ束さんが特別といった意味をわかっていないようだね?そんな攻撃でダメージを与えられるわけがないじゃないか!」
「・・・化け物め」
「最初に落ちるのはキミだね・・・ちーちゃんもどき」
篠ノ之束の操るイージスは傷を負った私を狙い始めた。向かってくる無人機は10機ほど。上下左右を包囲しながら突撃を仕掛けてくる。これはまずいな。
「マドカ!!」
私の状況のまずさに気づいた無月がこちらに向かって突撃を敢行するが、元より無月は私たちの何倍もの無人機の相手を一手に引き受けていたのだ。
壁のように迫り来る無人機の前に私のところまで駆けつけることは難しいだろう。
「霧雨マドカ!」
楯無もこちらに来ようとするが、その動きも封殺される。
「こんなところで終われるか!」
私のビット兵器は全部で8機ある。全ての砲撃を1発ずつ当てて、残りを斬れば包囲を抜けることができる。極限まで集中力を高め、操作に集中する。
1発、2発と確実に無人機に当てていく。放たれるレーザーを避け、ビット攻撃を当てていく。8機全てに直撃させ動きを止めることに成功し、目の前に迫った無人機の首を飛ばし、回転切りの要領で後ろの無人機を斬る、これで包囲を抜け出すことができると思った。
「わかっていたよ・・・10機を相手にしても突破するだけならできるってことはね」
「後ろにもう1機だと!?」
先ほど切り捨てた無人機の後ろから現れたのはいるはずのない11機目。その腕には鋭い剣を有していた。
振り切った雷切では間に合わない。しかも無人機は切ることではなく、突くことにのみ集中している。斬るよりも突く方が早いのは自明の理。動かない左手では守りようがなかった。
ああ、ここで終わるのか、と思う。この刃を避けることはできないだろう。切っ先は私の心臓に向けられている。
だが、不意に目の前に見覚えのある短刀が現れ、黒い影が視界を覆った。それが誰なのか、頭ではなく、本能で理解していた。
「無月ーーーーーっ!!!」
ゆっくりと時間が流れ、無人機の剣が無月を貫いた。切っ先から滴る赤い血が影分身ではなく、本体の無月だということを物語っていた。