Side 無月
翌日、クラス代表には織斑が就任したという発表が山田先生からされた。今夜就任パーティをやるという話らしいが、俺は参加する気がなかったので断った。
放課後となり、俺は自分の部屋に戻ってきていた。今日は特に修業をする予定もない。いつもこなしている筋トレとチャクラコントロールの訓練をするだけだ。早速筋トレをしようとしたが、それは叶わなかった。
コンコンコン
来訪者が来たからだ。誰が何の目的できたのかわからないが、一応出ることにする。邪魔だったら追い返せばいいだけだ。
「・・・誰だ?」
そこに立っていたのは青い髪をした上級生だった。こいつは知っている。更識楯無。この学園の生徒会長だ。
「生徒会長が俺に何の用です?」
「あら、私を知っているの?嬉しいわ」
にこやかに言うがたぶん俺を探りに来たのだろう。それにこの前尾行してきた奴と同じ気配だ。俺には特に予定がない。相手でもしてやろうか。
「まあ、立ち話もなんなんでどうぞ」
「そう?ならお邪魔するわ」
そういって部屋に案内する。とりあえずコーヒーでいいか。俺はコーヒーを入れて会長に出した。
「聞いていた性格とずいぶん違うわね。人と話すのは苦手なんじゃなかったの?」
やはりこちらの情報は収集済みらしい。だったら話が早い。
「まあ、来客は丁寧におもてなししないといけませんから。それに一体何の用でしょう?隠れて動いた成果はありましたか?」
会長が驚いた顔をする。普通、ばれているとは思わないから仕方ない。さて、どう出てくるか。
Side 楯無
「―――隠れて動いた成果はありましたか?」
驚いた。まさかこの間の尾行が私の仕業だとばれているなんて。だったらこれ以上の腹の探り合いは不要なのかもしれない。
「あなたに興味があってね。ちょっとお話がしたかったのよ」
今回の目的はこれに尽きる。それに彼の性格上正面突破が一番有効に思われた。下手に策を練ると裏をかかれそうで怖い。
「調べても何も出ませんからね。それでどうしたいんです?」
彼について調べようとしてもこれといった情報はない。学校すら碌に通っていなかったのだ。両親は交通事故で死亡しているらしく、自宅でずっと生活していたようだ。
「うーん、このままお話ししてもいいんだけど、あなたの実力の方に興味があってね。ちょっと手合わせしてもらえないかしら?」
「嫌ですね。あなたは俺に勝てないでしょうし、戦う意味もわかりませんから」
仮にも私は学園最強である生徒会長。それに政府の対暗部用暗部・更識家の当主でもある。新入生にここまで言われて黙っているわけにはいかない。
「あら、ずいぶんな自信ね。ならその手並みを見せてもらうわ。もう武道場は抑えてあるの」
「だから嫌だと言っているでしょう?」
「そこまで嫌がるのは負けるのが怖いのかしら?おねーさん、少し自信があるの。あれだけ俺様キャラを演じていたら負けるのはカッコ悪いしね」
安い挑発だとは思うが、乗ってきてくれることを祈るしかない。
「・・・はあ。仕方ないですね。その代わり俺に負けたら今後一切俺に関わらないでください。これを約束してもらえなければやりません」
「いいわ。もし私が勝ったら1つだけ言うことを聞いてもらうわよ」
こうして私と霧雨くんが模擬戦をすることになった。
Side 無月
会長の挑発に乗り、俺と会長が模擬戦をすることになった。武道場は本当に抑えてあったらしく、俺達は着替えて向かい合っている。
俺は会長の構えを見た。自信があると言っていたのは嘘ではないようだ。あんな約束をしたのには理由がある。あの会長は関わらない方が良いと考えたからだ。それにおそらく堅気ではないだろう。
普通に生きていたらあのような気配の消し方は出来ない。何より他人を自分のペースに巻き込むのが上手い。関わりを持ったが最後、面倒事に巻き込まれるのは目に見えている。
俺はさっさと勝負を決めてしまいたかった。写輪眼を発動し、チャクラを全身に廻らせる。
「じゃあ、1回勝負でいいですね」
「ええ、行くわよ」
そう言って会長は踏み込みをしようとするが、そんなことをさせる気はない。
ヒュッ
俺は会長の後ろに回り込み、背中に向かって掌打を打つ。会長は何が起きたのかを瞬時に判断し、掌打の逆方向に跳ぶ。良い判断だ。だが、力はそれなりに乗せた突きだ。ダメージは負っているだろう。
「っ!一体何をしたのかしら?」
「後ろに移動して攻撃しただけですよ。こんな風に」
再び会長の後ろに移動する。チャクラによって瞬発力を大幅に強化しているので、瞬間移動にしか見えないだろう。背後を取られたことに気付いた会長が慌てて俺から離れる。
「ほら、何もしてないでしょう?」
攻撃すればすぐに終わっただろうが、あえて攻撃しなかった。
「信じられない・・・あなた、本当に人間なの?」
「人間ですよ。まあ、会長にはもう関係のないことです」
「どういうこと?」
さっきした約束をもう忘れたのだろうか?なら思い出させてあげるしかないか。
「もう会長が俺に関わることはないですから」
「っ!?」
そして俺は移動する。会長は目で追うことを諦めたのか、俺が先ほどと同じように後ろに現れると予測し、蹴りを放ってくる。だが・・・
ドスッ!
「がはっ」
俺は会長の蹴りを左腕で防ぎつつ、がら空きになった腹に掌打を叩きこんだ。一時的に呼吸ができなくなった会長が床に手をつく。
「これで終わりですね。では約束は守ってくださいよ、‘学園最強’の生徒会長?」
そう言い残し、立ち去ろうとするが、
「まだ、終わりじゃないわ」
歯を食いしなりながら会長が立ちあがった。圧倒されながらも戦う意思を失わない。昨日の金髪とは大違いだ。こういう人は嫌いじゃない。
「なんでそこまで頑張るんです?あと100回やっても俺が100回勝つでしょう。それにそこまで必死に俺に向かってくる理由もないでしょう?」
「・・・あなたの目的は復讐って聞いたわ!もし学園に害を及ぼすような存在なら見過ごすわけにはいかない!」
生徒会長の意地ね。人は大切なものを守る時、本当に強くなれる、か。力だけが強さではない。今の会長の・・・いや、楯無さんの姿の事なんだろうな。
「楯無さん。あなたの懸念はもっともですが、別に生徒を殺そうとかそういうわけではないので安心してください」
「なら、あなたの復讐って一体何なの!?」
さて、どう答えたものか?この人には嘘をつきたくないが、全てを言う必要もない。
「楯無さん。あなたは本当に人が憎いと思ったことがありますか?それこそ自分の人生を懸けて復讐をしたいと思うようなことが」
そう言って脳裏に浮かぶのはあの2人。絶対に許すことは出来ない。それにこの世界の元凶たるISもだ。
「・・・ないわ。けど、それがどうしたっていうの?」
「俺にはそれがある。それだけのことです」
「復讐をして一体何になるっていうの!?復讐なんて虚しいものでしかないわよ」
虚しさか。そんなことはわかっている。だが、関係のないことだ。奴らを断罪できればその後の事はどうにでもなるだろう。
「なら、少し昔話をしましょうか・・・昔、ある家庭がありました。少年は人と違う力を持っていましたが、家族はそんなことを気にするわけでもなく、少年に愛情を注ぎました。少年はそれが嬉しく、とても幸せな日々を送っていました」
「・・・・・・」
俺を受け入れてくれた両親。優しい母と日々俺を楽しませてくれようとした父。あの頃は幸せだったと思う。今まで感じたことのない暖かさだった。
「ですが、その幸せな日々は長く続きませんでした。突然発生した事件とも事故とも似つかないことに少年の家庭は巻き込まれ、両親は死亡し少年は負傷しました。相手を裁く術を持たなかった少年は力をつけ、いつの日か相手への復讐することを誓ったのでした。めでたし、めでたし」
復讐の対象はISを当然のごとく受け入れたこの世界。少なくとも織斑千冬と篠ノ之束は断罪して見せる。
「・・・それがあなただって言うの?」
「さて、どうでしょうね。俺であるにせよ、ないにせよ、楯無さんには関係のないことですよ」
キッと俺を睨む楯無さんだが、何も言うことは出来ない。そして話の間に回復したのか立ち上がり、再び俺に挑もうとしてくる。
「素晴らしい精神力です、楯無さん。あなたの事が気に入りましたよ。ですが、もう時間ですね」
俺は印を結び、金縛りの術を使用する。
「う、動けない!?一体何をしたの!?」
ピタッと会長は構えを取ったまま動けなくなる。会長なら10分もすれば動けるようになるだろう。
「10分もすれば動けるでしょう。それと俺に関わるなと言ったことは撤回しましょう。部屋に来ていただければお茶でも出しますよ。それじゃあ、また」
「くっ!ま、待ちなさい!!」
待てと言われて待つ者がどこにいるというのか?俺はそれに応じることなく踵を返し、自室へと戻っていった。
Side 楯無
ドサッ
霧雨くんにされた金縛りのような現象がなくなり、私は武道場に座り込んだ。
「霧雨無月・・・彼は一体・・・」
彼との勝負は試合にもならなかった。それほどまでに私は圧倒されたのだった。瞬間移動のような動きは目で追うことすらできず、軽く放ったであろう掌打は相当に重い一撃であった。
学園で私に勝てるのは織斑先生ぐらいと思っていたが、彼の強さは想像を超えていた。今になって体に震えがくる。本気であれば私なんて軽く殺すことができていたはずだろう。
今回殺されなかったのはこれが模擬戦であったことと彼にその気がなかったからだ。もし任務で遭遇していたらあっさりと殺されているだろう。運が良かったとしかいいようがない。
だが、それよりも気になることがあった。彼の目的だ。
「復讐・・・でも一体誰に?」
彼の経歴は一通り洗った。両親は交通事故で亡くなったのではなかったか?あの口ぶりでは相手はわかっているはず。それが裁かれていないという。だとすれば相手は一体どうしたというのか?国外逃亡でもしたのだろうか?
ただ、全てを鵜呑みにするわけにはいかない。彼は全てを話してはいないだろうし、何より根拠もない推測は当てにならないからだ。
「・・・なんで復讐なんか」
仕事柄、復讐の場面に遭遇することがある。しかし、その末路は全て悲惨なものだった。復讐を達成しても、復讐した相手の側から逆に復讐をされ、その連鎖が永遠と続く。どこかでそれを止めなければ憎しみの連鎖が続くのだ。
「・・・人生を懸けて、か」
本来の彼は復讐に身を投じるような人間ではなかったはずだ。それは手合わせをして良くわかった。それに話をしている時の悲しそうな目。あれが全てを物語っているように思う。
彼は危うい。復讐をすることによって何が起きることになるのか全てわかった上で復讐をしようとしているだけに。だが、まだ間に合うのではないだろうか?学園への脅威云々は抜きにして私は彼を放っておけなくなってきていた。
「どうにかして彼を止めることは出来ないのかしら」
自分でも彼の事がどうしてそこまで気になるのかわからない。しかし、放っておくことができないと思う。ならばここは自分の思いに従うべきだろう。
私は動くようになった体を起こし、武道場を後にした。
戦闘描写ってこんなに難しいんですね。