達也の周りは敵だらけ   作:黒以下

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初めて書きます。投稿の仕方を間違えたようです。長いし読みずらい処もあると思いますがご了承ください


入学編 前編 

2095年春 国立魔法大学付属第一高校入学式の当日 二人は揉めていた

 

「納得できません。なぜお兄様が補欠なのですか?」

 

「そんなに怒るなよ 深雪」

 

新しい制服のに身を包む新入生「深雪」と呼ばれた美少女。その深雪に「お兄様」と呼ばれた達也

 

「新入生総代は私ではなくお兄様がされるべきです」

 

「ここではペーパーテストの成績より実技の成績が優先されて当然だ。それに今の俺の実力で入学できた。俺はそれで十分だよ」

 

「また その様な事・・・お兄様に勉学や体術で勝てる者などいません・・・本当なら魔法だって・・・」

 

「深雪 何を言おうとしてるんだ」

 

「ッ・・・申し訳ありません」

 

「謝るな。お前が俺の代わりに怒ってくれる。俺はそれで救われるんだ」

 

「嘘です・・・お兄様は私を叱ってばかり・・・私がダメな妹だから」

 

「そんな事ない。お前が俺の事を考えてくれる様に、俺もお前の事を思っているんだ」

 

「私のことを想ってる?」

 

深雪の反応を見て また悪い癖が出たと思った。達也は深雪が相手の言葉を自分のいい様に取ってしまう癖があると思っている。それは相手の言葉を正確に理解していないのと同じだ。良いことではない。

 

「それに お前が答辞を辞退しても俺が選ばれることはない。まぁ、この際だからお前の晴れ姿を見せてくれ」

 

「・・・わかりました。行ってきます。ちゃんと見てくださいね!」

 

「あぁ いって来い」

 

入学式まではまだ時間がある。達也は中庭のベンチに腰を下ろす。達也の近くを女子生徒が通る。上級生らしい。

 

「ねぇ・・・あの子ウィードよ」

 

「こんなに早く、補欠が張り切って」

 

この学校は、全生徒が平等ではない。入学時に全てが決まる。魔法科高校は実力主義と言っていい。毎年200人の新入生は優等生(一科)と劣等生(二科)に分けられる。違いはいくつかある。見た目でいえば制服。一校の校章は八枚花弁が使用される。一科生の制服には校章が刺繍されているが二科生の制服にはそれがない。ちなみに深雪にはあるが、達也にはない。そんな違いからか、一科生を花冠(ブルーム)二科生を雑草(ウィード)と呼ぶ。この呼び方は学校側は差別用語として禁止しているが生徒の間では普通に使われている。

 

達也は気にしなかった。だから読書に没頭してセットしたアラームが鳴るまで気が付かなかった。講堂に向かうためベンチから立ち上がる。すると声が掛る。

 

「新入生ですね。開場の時間ですよ」

 

女子生徒なのはすぐに解る。声質と制服のスカートで だが分からない事もある。彼女の制服の裾で見え隠れするブレスレット。彼女が何者か気になった。

 

「(CAD・・・校則じゃ一般生徒は学校に預けるはず・・・イヤ待て!一部の生徒会などに所属する生徒には常時携帯が許されていたっけ・・・)」

 

無視はできない。お礼を言ったらすぐ立ち去るつもりだった。入学初日に、それも役員の生徒に目を附けられるのはゴメンだ。しかし彼女の方から話しかけられ達也は立ち去るタイミングを見失う。

 

「あ!ごめんなさい。私は生徒会長の七草真由美です。よろしくね」

 

「俺・・・じゃない・・・自分は司波達也です。(数字付き(ナンバーズ)・・・しかもあの七草と初日に会うとは・・・)」 

 

実際に見ると聞くではやっぱり印象は違うな・・・達也はそんな事を思っていた。達也は彼女を知っていた。彼女は学外でも有名だから達也が知っていても可笑しくはない。しかし達也にとって彼女は有名人でなく要注意人物の一人だ。

 

現在の魔法師界でモノを言うのは遺伝子や家柄だ。この国で有名な魔法師は苗字に数字が付いている者が多い。特に一~十の数字が苗字に付いている者は数字付き(ナンバーズ)と呼ばれる。他のそれ以外の数字(十一以上)を持つ家系は百家と呼ばれる。目の前の彼女は『七草』つまり、『七』の家系。しかし『七』だからと言って七番目に優秀な家柄ではない。現在 彼女の家はこの国で二番目に優れた魔法師の家系と云われる。因みに達也のような苗字に数字が入っていない家系は一般と呼ばれる。

 

「貴方が 司波達也君?」

 

どうやら彼女も達也のことを知っていた。だが生徒会長の彼女が達也のことを知っていても可笑しくはない。達也は深雪の、新入生総代の兄なのだから。

 

「先生方の間では貴方の噂で持ち切りよ!入試全教科平均98点、特に魔法理論、魔法工学では小論文を含め満点前代未聞の高得点だって」

 

「どんな成績でもペーパーテストですよ。意味のあるものじゃないです」

 

「そんな事ないわ。こんな点数、誰にでも取れるものじゃない。私にも無理」

 

達也は真由美の反応が不思議で堪らなかった。

 

「(こんなに一般を褒めるなんて・・・七草だよな?この人)あの、時間なので・・・」

 

達也は話を切り上げた。

 

「あ!ちょっと」

 

まだ話し足りない真由美の横を通り抜ける。中庭に取り残された真由美。そんな彼女に声をかける者がいた。

 

「生徒会長がこんな所で何してるんだ?」

 

「摩利?」

 

「なぁ、さっきの子」

 

「えぇ・・・新入生総代のお兄さん」

 

「どうだった?」

 

「やっぱり、彼にも差別意識があるみたい」

 

「仕方ないんじゃないか? 彼の場合はいつも優秀な妹と比べられてきたんだろ」

 

「摩利はどう見えた?」

 

「うーん。一言でいえば、似てない、やる気がない、覇気がない・・・かな?」

 

「一言じゃないわよ」

 

達也が講堂に入った時には既に半分の席が埋まっていた。指定席はないが達也は後列に座らざるをえない。なぜなら一科と二科で綺麗に前後で分かれているからだ。しばらくして声を掛けられる。 勿論、ニ科生。

 

「お隣、空いていますか?」

 

「ええ、どうぞ」

 

達也は席を譲る。元々一人だ。隣は関係ない。だが、彼女には連れがいた。

 

「あの、私、柴田美月です。よろしくお願いします」

 

「司波達也です。よろしく」

 

美月と名乗る少女と目が会う。彼女は今時珍しく眼鏡を掛けている。しかも眼鏡には度が入っていない様だ。そんな彼女を見て、達也は思った。

 

「(霊視放射光過敏症?)」

 

病気ではない。感覚の問題。要は人より色々と見え過ぎるのだ。だが見え過ぎるのも良くない。美月にとっても、達也にとっても。達也は不安だった。もし、自分の秘密が見られたらと思うと。達也には秘密がある。一つではない 沢山 それも一つ一つが厄介なモノばかり。

 

「良かったね!これで座れるね!」

 

美月の連れであろう少女が会話に加わる。

 

「アタシ、千葉エリカ。宜しくね! 司波君」

 

「こちらこそ宜しく」

 

「(千葉? 数字付き(ナンバーズ)の次は百家か?しかし、千葉にエリカなんて奴いたか?)」

 

その頃、深雪は舞台袖にいた。一高では新入生挨拶はその年の新入生総代が行う。勿論、今年は深雪。

 

「なぜ私がこんな事。本来はお兄様がされるべきなのに」

 

深雪はまだ納得していなかった。しかし、達也と約束した以上やらないと言う選択肢はない。しかたないので これは自分の義務だ! と思うことにした。

 

入学式が始まる。

 

「次いて新入生答辞。新入生代表、司波深雪」

 

壇上に上がる深雪。その姿を見て言葉を失う者達。達也は答辞を聞いてヒヤヒヤした。深雪の答辞に、皆等しくとか、魔法以外でも、など誇り高い一科と劣等生の二科を同列に扱うような言葉を盛り込んでいたからだ。そんな考えを深雪が持っていると知れば彼女の評価が下がると心配したが彼らは答辞を真面に聞いてなかった。

 

「司波さん。お疲れさまでした」

 

答辞を終え、舞台袖に引っ込んだ深雪に声が掛かる。

 

「会長。お疲れ様です」

 

深雪は直ぐに立ち去りたかったが。会長相手にそれはない。

 

「中々面白い答辞でしたよ。皆等しく、魔法以外でも、随分際どいフレーズを織り込んでいましたね」

 

「ッ・・・」

 

流石にあからさま過ぎたかな?と思った。

 

「別に攻めてないのよ。むしろ、あなたの様な考えの持ち主がいて助かるわ!」

 

「(あの七草の人がこんな事、言っていいのかしら?)」

 

深雪は真由美の考えが分からなかった。

 

達也と深雪にはナンバーズに偏見がある。まぁ誰にでも誤解や偏見はあるものだ。特に二人の育った環境を考えると仕方ない。

 

深雪の周りには既に多くの人だかりができていた。新入生(勿論一科のみ)彼らは各々深雪の気も知らず答辞の感想を述べている。無視は出来ない。これから共に学ぶ者達だ。どうしようか悩んでいると・・・真由美から声を掛けられた。

 

「司波さんはお兄さんと待ち合わせしているのでは?」

 

「・・・え!あぁ はい」

 

思わぬ処から助け船が出た。まさか真由美に救われるとは思わなかった。

 

「それじゃ行きましょう。お話しは移動しながらでも出きますから」

 

「お気遣い頂き有り難うございます」

 

真由美と共に歩き出す深雪。そして、その後に続く一科生。

 

「なぜ。会長は兄の事をご存知なのですか?」

 

「先生方の間でちょっとした噂になっているんです」

 

「はぁ・・・噂ですか」

 

「まぁ あれほどの逸材が現れれば仕方ないのでしょうけど」

 

「はぁ~有り難うございます」

 

 

一方。達也は入学式も終わり自分のIDを受けっとていた。

 

「司波君は なん組?」

 

エリカが声を掛ける。

 

「E組だよ」

 

「え!本当? アタシもだよ」

 

「良かったです。私もなんですよ」

 

「じゃあ、ホームルーム覗いていかない?」

 

「悪い、妹と待ち合わせしてるんだ」

 

「もしかして妹さんは司波深雪さんですか?」

 

「え!じゃあ、司波君は双子なの?」

 

「見えるか?」

 

エリカが返事に困る。しかし達也は気にしない。

 

「俺が4月生まれで、アイツが3月」

 

「それにしても柴田さんは良く分かったね。俺たち似てないのに」

 

「何と言うかオーラが似ています」

 

「へぇ~オーラが見えるんだ。本当にいい目をしてるね」

 

達也は美月の言葉を聞いて冷静ではいられなかった。いきなり流れる険悪な雰囲気にエリカが驚く。これは何とかしなければ・・・そんな気まずい雰囲気の中で明るい声が掛かる。

 

「お待たせ致しました。お兄様」

 

深雪の声に驚いたのはエリカではない。一科生。理由は深雪がお兄様と言った達也が二科生だからだろう。

 

「まじかよ。兄貴の方ウィードだぜ」

 

「よく同じ所に通えるよな」

 

達也は一科生の感想などは気にしない。だがそんな事より気になるのは深雪と一緒にいた真由美。

 

「また、お会いしましたね。司波君」

 

「・・・どうも」

 

「お兄様。そちらの方達は?」

 

「あぁ。柴田美月さんと千葉エリカさん。クラスメイトだよ」

 

「初めまして。司波深雪です」

 

「柴田美月です。初めまして」

 

「アタシは千葉エリカ。宜しくね・・・深雪でいいよね?」

 

「えぇ、勿論。苗字だと呼び辛いでしょうし。それで私は貴方の事はエリカって読んでいいのね?」

 

「うん。勿論・・・深雪って気さくなんだね」

 

「エリカほど見た目通りではないと思うけど」

 

「私は深雪さんって呼んでいいですか?」

 

「えぇ。好きに呼んでかまわないわ、美月」

 

達也は先ほどから一科の表情が優れないのが見えていた。自分たちですら満足に話していないこともあり、深雪が二科生と話す事自体が気に喰わないのだろう。

 

「深雪 お前の用事は済んだのか?まだなら・・・」

 

「大丈夫ですよ。今日はご挨拶だけですから」

 

「会長!!」

 

隣の男子生徒。副会長の服部が驚く。恐らく予想していなかったのだろう。

 

「こちらの予定を押し付ける訳にいかないでしょう?ですから、今日はこの辺で。お話はまた日を改めて。司波君も今度ゆっくり話しましょう」

 

「・・・」

 

去っていく真由美を追いかける服部。彼は去り際に達也を睨み付ける・・・(俺を睨んでも仕方ないだろ)と思う達也。

 

「申し訳有りません。お兄様」

 

「お前が誤る事じゃないだろ」

 

落ち込む深雪。それを慰める達也。それを見て耐えられなくなったエリカ。

 

「ねぇ、もう帰らない?」

 

二人と別れ自宅に着く。深雪は夕食の準備に取り掛かろうとした。だがそこに電話が掛かる。端末に表示された相手の名前は深雪の嫌いな人物の一人だった。

 

「申し訳有りませんお兄様。少々、夕食の時間が遅くなります」

 

深雪は既に不機嫌だ。

 

「気にするな。ゆっくりしてきなさい」

 

深雪が自室に入って今度は家に直接、電話が掛かる。しかも、掛けてきた相手は、居留守も使えない相手だ。仕方なく達也は電話に出ることにした。本来なら深雪が出るべきだが出なければ後で何を言われるか分からない。

 

「こんばんは 叔母上」

 

電話の相手は、達也と深雪の叔母、真夜。

 

「はい こんばんは達也・・・あら深雪はどうしたの?」

 

「申し訳有りません叔母上。先ほど叔母上より先に深雪に電話がありまして恐らくウチの親だと思いますが。そちらの対応をしている処です」

 

「そう・・・まぁいいわ。相手が達也でも構わないから」

 

目の前に映る叔母の真夜は実年齢45歳だ。どう見繕っても30代にしか見えないが・・・まぁ実年齢より若く見られて悪く思う女性はいないだろう。

 

「それで叔母上ご用件は?・・・そもそも この様な時間に電話されて宜しいのですか?」

 

彼女は実業家だ。化粧品やファッション関係の経営者。しかも、彼女自身が若々しいので化粧品の売上などは半端ない。彼女は忙しい人だ。そんな彼女が家に電話を掛ける事は珍しい。元々 司波家に頻繁に電話を掛ける人はいないが・・・それが実の親であっても。実はこの家には達也と深雪だけ。実の親は別の場所で暮らしている。

 

「あぁ 大丈夫よ。心配しなくて」

 

別に心配などしていないのだが。

 

「貴方達。今日は入学式だったでしょう?だから入学祝いに何か送ろうと思って 何か欲しい物がないか聞いておきたかったのよ」

 

「入学祝いですか?しかも、深雪だけじゃなく俺にもですか?」

 

「えぇ、そうよ。何か可笑しい? 貴方達の叔母である私が可愛い甥と姪に贈り物するのが」

 

「本家の方々がうるさく云われませんか?」

 

「フフ・・・本当に達也は心配性ね」

 

「で・・・どうだった?学校の方は?ちゃんと上手くやれそう?」

 

「あの叔母上 まだ初日なのですが・・・」

 

「そうね でも七草とかには気を付けなさい」

 

「七草なら接触しましたよ・・・まぁ俺の方は偶然ですけど、深雪の方はこれからも接点があるかもしれませんね」

 

「ふーん。それで彼女はどうだったの?」

 

「どう?・・・と云われましても、実力の面で言えば、とても優れた魔法師ではありますが深雪に敵うものでは・・・」

 

「そんな事当たり前じゃない・・・そうじゃなくて・・・私は貴方に異性として、どう感じたか聞いてるんだけど?」

 

真夜は珍しく本当に楽しそうだ。

 

「そんな事聞いてどうするんです?叔母上は俺が女性に対して抱く感情は知っているでしょう?」

 

「知っているから心配なのよ。貴方の将来が・・・折角の高校生活なのだから楽しまなきゃ!」

 

「俺と七草の娘では釣り合わないでしょう?」

 

「弘一さんなら家や血筋は気にしないと思うけど?それに貴方の力も気に入るでしょう」

 

「俺は叔母上と違って七草を知りません。七草と関係を築くつもりもないんでしょう?第一俺の力は簡単に見せれるモノじゃないですよ」

 

「そんなに起こらなくたっていいじゃない」

 

「・・・別に怒っているわけでは・・・」

 

「それじゃ、何か他に報告はあるかしら?」

 

「実は叔母上に調べて頂きたい事があるのですが」

 

「あら!珍しい。じゃあ まずは話を聞かせなさい」

 

「本日、知り合ったばかりですが、この二人を調べて頂きたいのです」

 

達也が真夜に見せているのは帰り際に撮った美月とエリカが映っている写真だ。

 

「・・・なんだ、もう見つけてるじゃない・・・嫁候補」

 

「・・・違いますよ。この二人は嫁候補じゃなく危険人物候補です」

 

「危険・・・この子達が?」

 

「まず彼女は千葉エリカ」

 

達也が最初に紹介したのはエリカだ。

 

「ふーん、千葉ねぇ~それで・・・」

 

「ですから、彼女が本物だったら・・・」

 

「別に彼女が本当に百家の娘でも気にする事じゃないわ。千葉が私と貴方達の関係を見抜く事なんて出来ないから。元々、千葉は諜報向じゃないでしょ。心配し過ぎよ」

 

「それでは次にこちらの柴田美月の・・・彼女の眼を調べて頂きたいのですが・・・」

 

「眼?・・・彼女は貴方と似たような力でもあるのかしら?」

 

「それは解りませんが 彼女は霊視放射光過敏症の様です」

 

「別にその位・・・」

 

「ですが、彼女には他人のオーラが見えるようです」

 

「ふーん。オーラねぇ~。確かに見え過ぎるのは良くないわ」

 

「わかったわ。調べさせておくから。ついでにもし危険だった場合はこちらで消しておいてあげる」

 

「そこまでしなくても大丈夫ですよ」

 

「あら、遠慮しなくていいのよ」

 

「大丈夫です。叔母上より俺の方が消すのは得意ですから」

 

「そうね。だったら判断は任せるわ。私からは以上よ」

 

「自分からもこれ以上の報告はありません」

 

「それじゃ、おやすみなさい達也。深雪にもよろしくね」

 

「はい、お休みなさいませ叔母上」

 

こうして達也の長い一日が終わる。

 

翌日、司波家の朝はいつも早い。

 

「今日は早いんだな」

 

「今日は私も御一緒しようかと」

 

達也も深雪も早起きだが達也より深雪が早く起きるのは本当に珍しい。

 

「まぁ、深雪が来るのも久しぶりだから師匠も喜ぶんじゃないか?」

 

達也と深雪は早朝から小高い丘の上に立つ九重寺を訪れていた。達也は門の前で立ち止まる。

 

「・・・今日は朝から乱取りか・・・」

 

達也が門を潜ると修行僧達が一斉に襲いかかってきた。達也は焦らず彼らをあしらっていく。達也を見守る深雪に声が掛かる。深雪は振り向いた。しかし、声の主、九重寺の和尚 九重八雲の姿はない。

 

「こっちだよ!深雪君」

 

「ッ・・・先生。いい加減、気配を消して忍び寄るのはやめてください!心臓に悪いです」

 

「そんな事言っても忍び寄るのは性みたいなモノさ」

 

「今時、忍者なんて職種ありません!」

 

「忍者じゃないよ。僕は由緒正しき忍だよ」

 

「先生が由緒正しいのは知ってます。それなのに・・・」

 

言葉が続かない。言っても無駄だ。このやり取りは初めてではない。

 

「・・・それが一高の制服かい?」

 

「えぇ・・・今日は先生に入学の報告を・・・」

 

「いいよね!それ」

 

八雲は話を聞く気がない。なぜか八雲は深雪との距離を詰めていた。イヤな予感がした。また、自分で遊ばれるのではないかと。しかし、達也が八雲を止めてくれた。

 

「師匠、年頃の女の子にそれはまずくないですか?」

 

「やるじゃないか!僕の後ろを執るなんて」

 

それでも八雲は笑っていた。そして簡単に達也から離れる。

 

「もう、体術だけなら敵わないね。さて、そろそろ始めようか?」

 

八雲の指導が始まる。そして、気が付けば達也は地べたに倒れ込んでいる。

 

「大丈夫ですか?お兄様」

 

深雪が膝をついて達也に声を掛ける、別に心配していない。九重寺に通い始めてから毎度お馴染みの風景だ。八雲が達也を指導している場所は室内ではない。勿論、九重寺に道場の様な場所がない訳ではないが、今日は外だ。そんな処に制服で膝を就けば制服が汚れるのは当然だ。

 

「悪いな、制服が汚れたな」

 

「大丈夫ですよ。このくらい。ついでにお兄様のも」

 

そう言って深雪はCADを操作する。そして、達也と深雪の汚れが無くなる。深雪のCADは真由美と同じ汎用型でも一般的に普及しているブレスレットタイプではない。携帯端末タイプである。このタイプの利点を挙げるとすると慣れば片手で操作出来る事だ。

 

「お兄様、それに先生もそろそろ朝食にしませんか?」

 

「うん、そうしようか」

 

深雪は達也と朝食後、九重寺を出る。一度帰った後、達也が制服に着替えるのを待って学校に向かう。この兄妹に学校に行くまでに会話がない事はない。しかし、今日は思い空気が漂っている。そして、深雪が口を開く。

 

「あの・・・お兄様、昨日あれから、あの人達から連絡は?」

 

「いつも通りだよ・・・」

 

「ッ・・・そうですか・・・本当にあの人ときたら・・・自分の立場が理解できないんでしょうか?」

 

深雪が言うあの人と言うのは昨日、深雪に電話を掛けてきた二人の実の父 司波達郎

 

「親父にまた 何か言われたのか?」

 

「入学祝いだとか・・・ですが、叔母さまですら形式的なものとはいえ、お兄様に電話されたのに、実の親が息子に電話の一本もないなんて」

 

「まぁ。仕事を手伝えと言う親父の命令を断ったんだ。それに高校は義務教育じゃないんだから」

 

「何を言っているんですか?元々あの人がお兄様に命令する権利なんてないし、会社だってあの人の物じゃない。あの人は所詮、本家と会社の関係性を隠すためのお飾りなのに・・・だいたい、義務教育でないと言っても15歳が高校に行きたがるのは当然じゃないですか。それに、私の進学が決まった時点でお兄様が一緒に通うことになるのは分かってたでしょうに・・・不満があるなら言えばいいんです。私や叔母さまに直接。まぁ、あの人が本家に楯突くことはできないでしょうけど・・・もし、これ以上くだらない事をするなら叔母様に・・・いえ・・・私が本家に命令してあの人を殺・・・」

 

「深雪、それ以上はやめろ・・・」

 

「ッ・・・申し訳有りません」

 

学校に着いた二人は教室に向かう。本当はまだ達也と一緒にいたかったがそう云う訳にもいかない。深雪は大人しく教室に向かう。

 

「1-Aここね」

 

深雪が教室に入ると歓声が上がる。深雪と同じクラスなのが嬉しいのだろう、逆に廊下からはため息が聞こえる、彼らはA組ではないようだ。教室に入って自分の席に着こうとした深雪だが、深雪は足を止める。深雪の目の前で同じクラスであろう女子生徒が派手に転んだからである。

 

「・・・えっと、大丈夫ですか?」

 

「は、はい・・・だ、大丈夫です」

 

こけた女の子の顔は真っ赤だ。深雪は咄嗟に助けられなかった。彼女が何もない処でこけるから、深雪も周りのクラスメイトも呆気に取られたのだ。

 

「おい、アイツ。今、何も無い処でこけなかったか?」

 

「なんで、あんなのがいるんだ?」

 

「ごめんね!司波さん。この子、本当にドジだから」

 

困惑していた深雪に、女子生徒が声を掛ける。 彼女は転んだ女子生徒を知っているらしい。

 

「司波さん。初めまして、私、北山雫です。よろしく」

 

「えぇ 初めまして 司波深雪です。こちらこそよろしく」

 

北山雫と名乗った小柄な少女。随分と表情が読みずらい。

 

「あぁそうだ・・・ついでに、この子は光井ほのか・・・仲良くしてあげて」

 

「ちょ・・・雫・・・酷い・・・私、初対面なのに・・・私の印象、台無しだよ!」

 

どうやら派手に転んだ彼女は光井ほのかと言うらしい。

 

「目の前で派手に転んだんだから。今さらだと思うけど・・・」

 

「ッ・・・そんな事ないよ。 は!初めまして光井ほのかです。宜しくね!司波さん」

 

「え、えっと司波深雪です。改めて宜しく。あぁ、それから、私の事は深雪でいいわ」

 

「・・・じゃあ、私の事も雫でいいよ、深雪」

 

「わ、私の事も、ほのかって呼んでいいから」

 

「分かったわ。よろしくね!雫 ほのか」

 

「うん」

 

深雪に新しく友達ができた頃、達也にも新しい友達ができようとしていた。

 

「おはよう。達也君」

 

「司波君。おはようございます」

 

達也に声を掛けたのは、昨日、仲良くなったエリカと美月。まだ、知り合って二日目だが、エリカには下の名前で呼ばれた。美月はまだ苗字だが、これは二人の性格の差だろう。

 

「おはよう、エリカ。柴田さんもおはよう」

 

達也は席に着くと早速、作業を始める。

 

「司波君。何をしているんですか?」

 

「何って。履修登録」

 

達也は美月の質問に素っ気なく答える。しかし、達也の回答に返事をしたのは隣の席の美月でもエリカでもない。達也の前に座っていた男子生徒。

 

「すげぇな・・・お前。あぁ・・・わりぃ、今時 キーボードオンリーで、しかもその速さが珍しかったから」

 

「慣れればこっちの方が早いから・・・」

 

「ふーん、そっか」

 

「なぁ・・・処で」

 

「おっと忘れてた、俺は西城レオンハルトだ。宜しくな。親がハーフとクウォーターなもんでこんな名前だが、俺の事はレオって呼んでくれ」

 

「俺は司波達也だ、宜しくなレオ」    

    

「OKだ!宜しくな達也」

 

レオと達也は直ぐに仲良くなった勿論 美月も しかしエリカとは馬が合わないようだ・・・。

 

お昼時 達也はエリカ達と昼食をとっていた。勿論レオも一緒だ。そこに深雪たちもやって来る。

 

「ご一緒してもよろしいですか?」

 

「あ、深雪こっちに・・・さすがに深雪一人じゃないよねぇ~どうしようか?」

 

エリカたちが使っているのは四人掛けのテーブルだ。深雪一人だけなら何とかなったかもしれないが、深雪を含めて3人はどう考えても座れない。仕方ないので、隣の同じまだ使われていないテーブルをくっ付ける。

 

「なぁ達也。あの子、誰?」

 

レオは二人の関係を知らない。

 

「司波深雪、俺の妹だ」

 

「マジ?」

 

「西城レオンハルトです。宜しく」

 

「司波深雪です。そしてこっちは北山雫さんと光井ほのかさんです」

 

「まずは先に座りなよ。自己紹介は後でもいいじゃん」

 

エリカの言葉で本来なら楽しい食事になるはずだった。自己紹介が行われるはずだったのに邪魔が入る。

 

「司波さん、ここに居たんですか?」

 

他の一科生A組の連中。先頭にいるのは森崎駿。

 

「おい、お前ら何やってるんだ?気が効かない奴等だなぁ。邪魔なんだよ。司波さんが座れなくて困ってるだろう。さっさと退けよ!」

 

「はぁ?あんた何言ってんの?深雪たちの席は確保してあるんだけど?」

 

「司波さんは、その席で食べたがっているんだ。それに僕らも司波さんと食事するんだから、お前らウィードはさっさと退けよ。目障りだ」

 

別に深雪は食べる席を指定していない。ただ、達也の隣で食べたいだけなのだが。

 

「アンタさっきから何様のつもりよ!なんで私たちがアンタ達のいうこと聞かなきゃいけないのよ!だいたい、私たちがまだ使ってるのが見えないの!」

 

「おいおい、お前らウィード風情が僕達ブルームに口答えするなよ。お前たちの都合なんて最初から関係ないんだから。補欠は黙って僕らの言うことを聞けばいいんだよ。なんなら、実力行使してもいいぞ。そうなったら困るの君達だろう?どうせ実力で僕らには敵わないんだから、分かったら早く退けよ」

 

エリカはまだ、反論しようとしていた。もし、本当に相手が実力行使に出ても勝つ自身が彼女にはあるのだろう。しかし、達也がエリカを牽制した。

 

「深雪、俺は済んだから。もう行くよ」

 

そう言った達也だが、彼の手元にはおかずやご飯が沢山、余っていた。

 

「おい!待てよ達也」

 

「ちょ!なんでよ!達也君」

 

達也の行動が意外だったのだろう。エリカは森崎の相手をするのをやめて達也を追いかける。美月とレオもそれに続いた。

 

「全くウィード風情が、まぁいい、とにかく席が空きましたね。我々も食事にしましょうか。ねぇ司波さん?」

 

「結構です!私は入りませんので、皆さんで好きに食べてください」

 

深雪は何も食べず食堂を後にした。深雪は少しだけキレていた。彼女が本気でキレていればこんなものでは済まなかっただろう。深雪が完全にキレていないのは達也が去り際に怒るなと合図したからだ。その後 深雪は昼食を取る気にはなれなかった。お腹が空かない訳ではない、ダイエットもしていない、勿論する必要はない。ただ、達也が満足に食事をしていない事を知っていて自分だけ食べる事が許せなかった。

 

しかし、彼らとの衝突はこれで終わりではなかった。放課後に第二幕が幕を開ける。

 

「・・・謝るなよ深雪」

 

「・・・大丈夫でしょうか?」

 

「いい加減にして下さい!深雪さんは、お兄さんと帰るって言ってるじゃないですか?」

 

「何よ!うるさいわね。ちょっと時間を借りるだけよ!」

 

「そうだ!僕達は話し合うことがあるんだ。邪魔するな!」

 

「邪魔してるのはアンタ達でしょ!深雪の予定をアンタ達が勝手に決めてんじゃないわよ」

 

「そうだぜ!そんな事は本人にちゃんと許可とれよ!」

 

「黙れ!お前たちウィードには関係ないだろ。何度も言わせるな!ウィードが僕達ブルームに口答えするなよ。補欠風情が立場を弁えろ。いったい何様のつもりだよ」

 

中々終わらない言い争いだったが、美月の一言で衝突は避けられなくなった。

 

「立場を弁えろ?貴方達こそ何様ですか、ウィード、ウィードって同じ新入生なのに・・・今の時点で貴方達がいったいどれだけ優れているっていうんですか?」

 

美月の言葉は森崎がキレるには十分過ぎた。

 

「本当に腹の立つ・・・新入生だから同じ?ウィードが僕達ブルームを同列だと思っているなんて、そんなに言うなら見せてやる。実力の差を、もう泣いて謝っても遅いぞ!」

 

「へぇ!おもしれ、泣かせてみせろ」

 

「これが僕達とお前らの実力の差だ!」

 

森崎がCADを抜く。彼の目の前にはレオ。時間は夕方。この時間に一般生徒が自分のCADを持っても不思議ではない。彼のCADは拳銃形態の汎用型よりスピードに優れる特化型のCADだ

 

流石に、これ以上は達也と深雪も黙っていられない、止めなければ・・・と思っていたが・・・森崎のCADはエリカによって弾き飛ばされた。

 

「痛ッ・・・バッ、バカな」

 

「フフッ・・・今年の一科の人は随分と鈍いのね」

 

「ウィードが調子に乗るなよ」

 

キレたのは森崎だけでなかった。このままでは魔法の打ち合いになる。そんな事止めなければ・・・深雪はそう思って達也を見る。達也がその場で片手をかざす。深雪には達也が何をしようとしたか解った。本当は深雪もこの騒動を止めたかった。しかし、この場合は達也に任せるのが一番だと思い深雪は動かなかった。だが、この騒ぎを止めようとしたのは二人だけではなかった。

 

「みんなダメ!」

 

魔法の打ち合いになりそうなのをほのかは止めさせようとした。しかし、ほのかの起動式が撃ち抜かれたのだ。急な事に、ほのかはバランスを崩すが雫により事なきを得た。

 

「やめなさい・・・自己防衛以外の魔法使用は校則違反の前に犯罪ですよ」

 

ほのかの魔法式を撃ち抜いたのは真由美だった。もっとも、現れたのは彼女だけではない。

 

「風紀委員長の渡辺摩利だ。君達、1-Aと1-Eの生徒だな。事情を聴きます着いてきなさい。起動式は展開済みだから抵抗するな」

 

生徒会長と風紀委員長の出現を前に動けずにいる者が多い中、達也だけが動く

 

「すいません。こんなに大ごとになるとは思ってなくて」

 

「・・・どう言う事だ」

 

「森崎君のクイックドロウは有名ですから。一度見せて貰おうと思ったんですが、彼の照準先に人がいたんです。みんなはそれを止めようとしてこんな事に」

 

「・・・なら彼女が、その事態を止めるのに攻撃性のある魔法を使う必要ないと思うが?」

 

「あれは只の閃光魔法でしたけど・・・」

 

「なに!」

 

「攻撃の意思があるなら、さっきの魔法である必要は有りません。さっきのは威力の弱いもので、もし発動していても目くらまし程度のモノで間違っても失明するようなモノじゃないですよ」

 

「君は確か。司波達也君だったね・・・だが下手な嘘は止せ」

 

「嘘?」

 

「君の言っている事は他人の起動式を一瞬で理解しているという事だ。そんな事ありえない。頭のいい君はこの事が常識なのは知っているだろう」

 

「嘘じゃありませんよ。俺はそんな目を持っているので。それと先輩は常識なんていいますけど、自分の常識が通用しない事は良くある事でしょ。それにお二人が来なくても魔法が発動する事は無かったですし・・・」

 

「そんな事どうやって・・・」

 

「どうやってって・・・こう・・・ですけど」

 

達也が片手をかざすと摩利の術式が機能しなくなった。

 

「君・・・今、なにをした」

 

「何って 七草会長と似たようなことですよ。まぁ、俺のは会長と違って、単なる力技ですけど」

 

「達也君!あなた・・・」

 

「騒がれたくないので黙っててくれません?生徒会長は生徒の秘密を守るのも仕事ですよね」

 

「それは・・・」

 

「・・・もういいですよね?」

 

「ちょ・・・ちょと待て話はまだ」

 

「もう、いいじゃない摩利。見学しょうとしてただけなんだから。え~っと 別に生徒同士で教え合う事は禁止されてませんが、今回の様な事にもなりかねませんから今後は控えるように。いいですね!」

 

「会長がこう、おっしゃっていますので今回の事は不問とします。以後、気を付けるように」

 

そう言うと二人は帰っていった。

 

「借りだなんて思ってないからな」

 

「思ってないから安心しろよ」

 

「僕の名前は森崎駿。お前が見抜いた通り、森崎家に名を連ねるものだ」

 

「見抜いたって程の事じゃない。森崎のクイックドロウは有名だからな。俺は知ってただけだ」

 

「司波達也!僕はお前を認めない!」

 

「フフッ・・・」

 

「な、何が可笑しい!」

 

「別にお前に認められなくても構わないよ。支流の森崎の跡取りに認められるより、百家の千葉のご令嬢のお友達になった方が何万倍も得だからなぁ」

 

そういって達也はエリカを見る。

 

「ち、千葉だと。バカな!こいつは二科生じゃないか?」

 

「千葉の娘が一科でも二科でも関係ないだろ。森崎、お前、マイナーなお前の家より ちゃんと魔法師界でも有名な千葉家の事を知らないのか?それにさっきエリカの速さに反応できなかったじゃないか」

 

「そんな事はない。さっきのは油断してただけだ」

 

「自分が強いと言うなら油断なんてするな。第一お前の方が先に仕掛けておいて『油断していた』なんて、言い訳するな。本当に強い奴なら例え油断しても勝てるだけの圧倒的な差があるものだ。お前はエリカより弱い。さっきのが本当の戦場ならお前は何もできずにエリカに殺されていたんだぞ。全てにおいて、一科が優れてる訳じゃない。言い訳は止せ、見苦しいだけだ・・・」

 

「・・・ッ、ウ、うるさい!・・・い、言いたい事はそれだけか!ぼ、僕はもう帰る。これ以上お前らウィードの下らん幻想を聞かされるのは、ごめんだ。いいか、一科が優れているのは成績が証明してくれてるんだよ」

 

「だから、成績が全てじゃないと言っただろ」

 

去っていく森崎の背に達也が呟く。

 

「お兄様 もう 帰りませんか?」

 

「あぁ。そうだな、流石に疲れた」

 

そう言って、帰ろうとした一行をほのがが呼び止める。

 

「あ、あの、さっきは助けてくれて有り難うございました。森崎君はあんな事言ってましたけど、全て丸く収まったのはお兄さんのお蔭です。本当に有り難うございました」

 

「イヤ、あれは自分達の為にやった事だから。お礼を言われるような事じゃ」

 

「でも、結果的にほのかが助かったのは、お兄さんのおかげ」

 

「えっと、深雪と同じクラスの北山さんと光井さん・・・だよね、悪いけど同い年だから、お兄さんはやめてくれ」

 

「じゃあ、なんとお呼びすれば」

 

「普通に達也でいいから」

 

その後。帰り際に立ち寄った喫茶店で、改めて自己紹介が始まった。しばらくして、エリカが口を開く。

 

「それにしても、家の事がバレてるなんて達也君 、いつ気が付いたの?」

 

「最初に会った時はもしかしたら、って程度だけど一応知り合いに調べて貰ったんだ。本物だったらエリカの両親が娘の友達に変な奴がいないか調べられるかもしれないから。生憎、ウチには他人に知られたくない事もあるからね」

 

「大丈夫だよ。心配し過ぎ。アタシの親はそんな事しないから。でも、それって私だけ損してるじゃん。あたしもコネを使って二人の事を調べて貰おうかな?」

 

「やめておけ。千葉は諜報向きの家じゃないだろ」

 

「う!・・・その通り」

 

「それに、本当に俺たちの秘密に行き当たったら、大変な事になるから止めた方がいい」

 

「・・・達也君って一体何者?」

 

「何者でもいいんじゃない?だって、魔法科高校に一般人はいないよ」

 

エリカの質問を雫の言葉が打ち砕く。一方、新入生の起こした騒動の後、真由美と摩利は生徒会室に残っていた。

 

「達也君って差別意識があるんじゃなくて、本当は面倒苦さがりなだけなんじゃ・・・」

 

「おい、真由美。いい加減に教えろ!あいつは何をしたんだ?」

 

「だから、本人も言ったじゃない。只の力技って」

 

「あれが、只の力技な訳ないだろ?あれは何なんだ?」

 

「摩利。私には会長として、生徒の秘密を守る義務があるの」

 

「いいじゃないか。少しくらい」

 

「あれは、少しの範疇を超えてるわ」

 

「そうなのか?」

 

「えぇ、もしバラしたら 何を言われるか・・・」

 

そんな時、生徒会室に来客があった。

 

「何を騒いでいるんだ」

 

「あ、いらっしゃい十文字くん。どうしたの?」

 

「先ほど新入生が騒ぎを起こしたと聞いて、どうなっているのか聞きに来た」

 

「あぁ、それなら、もう終わったから」

 

「それで、逮捕者は出ているのか?」

 

「0人だ」

 

「そうか」

 

「今年は新入生に中々、面白そうな子がいるのよ」

 

「ほう」

 

二人は次の日、生徒会室に呼び出された。

 

「失礼します。1ーA、司波深雪です。1ーE、司波達也です」

 

「良く来てくれました。まずは、座って?」

 

達也と深雪は素直に従う。

 

「えーっと まずは紹介します。書記の中条あずさ、会計の市原鈴音さんです。後は、副会長の服部君と会長である私を含めた四人が現在の生徒会メンバーです。それで今日は深雪さんにお願いがあって来てもらいました。と言うのも、毎年の事ですが、その年の新入生総代には生徒会に入って貰うことが慣例としてあるの・・・そこで今年は深雪さん。我々生徒会は、貴方にも、生徒会に入って欲しいと思っています。深雪さん、生徒会に入ってはくれませんか?」

 

「申し訳有りませんがお断りします」

 

深雪の答えはNOだった。

 

「えぇっと・・・理由を聞いてもいいかしら?」

 

「強制ではないですよね?」

 

「えぇ、そうだけど」

 

「私は生徒会も他の部活も、所属するつもりはありません。それに、私は昨日の騒動の原因ですし・・・どの道、私が入るべきでないかと」

 

「昨日の件はあんまり関係ないと思うけど・・・えっと・・・生徒会は別にしても、深雪さんは部活にも入らないつもりなの?」

 

「部活に興味もありませんし。単に体を鍛えると云う事だけなら、私は学校の部活よりもっといい場所と先生を知っているので。それに、どこにも所属しないことが私たちにとって一番都合がいいんです。私が何処かに所属することが兄の迷惑にも繋がり兼ねないので」

 

「そ、そうですか。仕方ありませんね、残念ですけど」

 

「お力になれず申し訳ありません」

 

「い、いいのよ。強制じゃないんだから」

 

今の深雪の最優先事項は何に置いても、まず達也だ。達也に迷惑が掛かる事などあってはならない。それに達也の立場上、余り離れすぎる事は良くない。何より、新入生総代と言う理由で自分よりはるかに優秀な兄を差し置いて自分が生徒会に入るのは自分自身を許せないのだ。深雪は生徒会入りを蹴った。しかし、真由美の話はまだ、終わらなかった。話の矛先は達也に向けられた。

 

「じゃあ、今度は達也君にお願いがあるの。深雪さんには断られたけど・・・達也君、貴方にも入って欲しいの」

 

「入って欲しいって、二科生は生徒会に入れませんよね?」

 

しかし、これは達也の完全なフライングだ。

 

「そんな事は知っています。非常に残念な事ですが規則によって二科生が生徒会に入る事はできません。でも、達也君にお願いしたいのは生徒会の事じゃなく、貴方には、生徒会推薦枠で、摩利の指揮する風紀委員会に入って欲しいんだけど?」

 

「なぜ、二科生の俺が入らなきゃいけないんです? 実力で劣る二科生の俺には無理ですよ」

 

「そんな事ないはずだ。君の眼と例の力技があれば支障はないだろ」

 

「二科生を選ぶなら俺より、千葉エリカって言う適任者がいるんですけど」

 

「エリカはダメだ」

 

「・・・ダメって、委員長はエリカと面識があるんですか?」

 

「まぁ、千葉家には世話になっているんだ」

 

「摩利が世話になってるのは千葉家じゃなくて、修次さんでしょ?」

 

「ち、違う」

 

「へぇ~先輩の彼氏は千葉の麒麟児ですか」

 

「兎に角、エリカはだめだ。あいつはやり過ぎる。おっと時間だ・・・続きは放課後にしよう。司波もまず今日一日試しに生徒会に入って見ろ。気に入らなければ辞めてくれてかまわないから」

 

結論は放課後まで先延ばしになった。そして事態はとんでもない事になる。放課後の生徒会室には人が増えていた。副会長の服部だ。

 

「よく来たね二人共」

 

「じゃあ、深雪さんはこっちに来て」

 

「あぁそうだ、紹介しますね。副会長の服部君です」

 

「副会長の服部刑部です。宜しくお願いします、司波さん」

 

真由美は二人に紹介したのだが服部は達也を無視した。

 

「ッ・・・宜しくお願いします」

 

深雪はもうすぐ、キレそうだ。

 

「じゃあ、達也君。私たちはこっちだ」

 

「待ってください、渡辺先輩」

 

「どうした?服部」

 

「その一年を風紀委員に任命するのは反対です」

 

「何を言ってる、君にそんな権利はない。任命したのは会長だが?」

 

「過去ウィードを風紀委員に任命した事はありませんよ」

 

「二科生をウィードと呼ぶことは禁止されている。まして私の前で呼ぶとは。摘発対象になる事を知らない訳じゃないよな?」

 

「今更、見繕っても仕方ないでしょ。それに、学校も、一科と二科の差を認めてるんです。それとも全校生徒の半数以上を検挙するつもりですか。風紀委員は言う事を聞かない違反者を実力で取り締まる役職です。実力の劣っている彼ができる事じゃない」

 

「実力にも色々ある。テストだけが全てではない。それに彼には展開中の起動式を一瞬で判断できる目と頭脳がある」

 

「・・・そんな・・・ありえない。基礎単一工程の起動式ですらアルファベット3万字相当の情報量があるのにそれを一瞬で読み取るなんて常識的に考えて、不可能だ」

 

「フフッ・・・彼曰く。そんなのは常識ではなく一種の誤解や偏見だそうだ。自分の常識が通じない事は良くある事らしい、君もそうじゃないのか・・・少なくとも七草や十文字には自分の常識が通じないと思ったことがあるんじゃないのか? 達也君のこの力は役に立つ。今までの真由美の様に起動式を撃ち抜くのでは違反者がどんな魔法を使おうとしたのか解らなかった。しかし、達也君にはそれが解る。今までは厳重注意で済んでいた生徒にも、きちんと相応の罰が下せる。この力が知れ渡れば十分すぎる程の抑止力になってくれる」

 

「しかし、どんな力があっても、実際の現場で違反者を抑えられなければ意味はありません」

 

「そんなのは、一科の一年だって同じだ。そもそも、相手の展開中の魔法より早く自分の魔法を発動できる者がこの学校に何人いると言うんだ。それと私が彼に拘る理由はこれだけじゃない。当校には、お前の言う通り、残念ながら下らん感情の溝がある。風紀委員には一科生だけ。つまり、一科が二科を取り締まりその逆はない。この風潮が拍車をかけている。彼が加入するだけでこの風潮は変わるだろう。私の指揮する委員会が差別意識を助長するのは私の好むと処ではないからな」

 

「彼を風紀委員に入れても現状が改善されるとも思えません。風紀委員に実力の劣っている者が入るべきじゃない」

 

ついにここで達也の静止も聞かず、深雪が割って入る。

 

「待ってください。副会長は兄の事をご存じないはず。なぜ、兄に実力がないと言い切れるのですか?」

 

「司波さん。彼の事は僕も知っていますよ。彼が出来損ないのウィードであることを証明する成績を」

 

「成績だけで兄の実力を誤解するのは止めてください。ここでの成績が悪いのは評価方法が兄の力と合っていないだけです。実戦で兄が負ける事はありません」

 

「司波さん、第一高校での評価方法は国際基準で定められたもの。その成績が悪いと言うことは実戦でも弱いということ。司波さん。彼と君では出来が違うんだ。将来、優秀な魔法師を目指す者が身贔屓なんてするものじゃないよ」

 

「身内だからこそ、妹だからこそ、解っているんです。兄の実力が、服部先輩が相手に、いいえ、一高に兄の相手になる者がいないことも」

 

「いい加減にしろ、出来損ないのウィードがブルームに勝てる訳がないだろ。俺じゃ相手にならないだと?一校に相手がいないだと?口が過ぎるぞ」

 

「先輩こそいい加減にして下さい。今の私にすら劣っている先輩がお兄様に勝てるわけがない。まして本当のお兄様の実力を知らない・・・」

 

達也は深雪の言葉を遮る。

 

「先輩、俺と摸儀戦しませんか?」

 

「何だと、俺に勝てると思っているのか?」

 

「つまらない論戦をするより確かめた方が早いでしょう」

 

「いいだろう。実力の差を、身の程を弁える必要性をお前たちに教えてやる」

 

こうして、服部と達也の摸擬戦が決まった。達也は預けていたCADを深雪を連れて取りに行く。その道中、廊下で深雪は謝り続けていた。

 

「も、申し訳有りませんでしたお兄様」

 

「やれやれ、入学3日目でとんでもない事になったな」

 

「本当に、も・・・」

 

「謝るな、深雪」

 

「やはり、私がお兄様の変わりに・・・」

 

「必要ない。ちゃんと俺がやる。それとも、本気であの程度の奴に俺が負けると思ってるんじゃないだろうな?」

 

「そ、そんな事ありえません。お兄様があの程度の人に負ける訳がありません」

 

「お前も解っているだろう。俺がお前の見ている前で負ける事が何を意味するか。安心しろ、お前が見ている前で俺が誰かに負ける事はない。俺が負ける事は俺自身の、イヤ、お前のガーディアンとしての存在意義に係わる重要な事だ」

 

「お、お兄様、深雪の前で、そのガーディアンと言うのは止めてください。お兄様は、私を守ってくださる騎士(ナイト)です!」

 

「それでも結局、主人の代わりに死ぬのは同じなんじゃ?」

 

「あ!・・・」

 

達也の突っ込みに深雪は反論できなかった。

 

放課後の校舎にアナウンスが流れる。内容は急遽決まった摸擬戦。しかも、対戦相手が一科生の二年生で生徒会副会長の服部と一年生の二科生だと云う。この放送を聞いていた生徒達は生徒会の趣旨が分からなかった。誰も二科生の風紀委員会入りを掛けた試合だと知る由もない。

 

試合会場はグラウンドだ。後学のために見学も許されている。勿論、邪魔をしてはいけない。観覧者は、意外に多かった。一科生、二科生だけでなく教師もいる。

 

試合が始まろうとしていた。

 

「しかし、君が好戦的なのは驚いたよ」

 

「面倒事は早めに終わらせたいんです」

 

「それで・・・勝つ自信はあるんだろうな?服部は集団戦の方が得意だが個人戦でも勝てる奴はほとんどいないぞ」

 

「相手が誰であろうと、深雪の目の前で負けられません」

 

達也は持ってきたケースを開ける。そのケースの中にCADが入っているのだろう。出てきたのは種類でいえば、森崎と同じ拳銃形態の特化型CADだ。しかし、達也のCADの方が大きい様な気がする。しかし、摩利が気にしたのは別の事だ。

 

「いつも、複数のストレージを持ち歩いているのか?」

 

「本来ならストレージを持ち歩く、いいえ、CADを持ち歩く必要もないんですよ。只、それだと、加減が出来ず相手を殺してしまうので、でも今の俺には、汎用型を使いこなすだけの処理速度が無いのでこのやり方に頼らざるをえないんですよ」

 

「・・・これは試合だ。殺し合いじゃないんだからな?」

 

「わかってますよ。」

 

その頃、少し離れた場所で観戦しようとしていた真由美達も深雪に質問をしていた。

 

「深雪さんは、不安ではないのですか?服部副会長は強いです。まぁ、今の彼には司波君に対して、慢心があるように思えます。油断した処を攻撃すれば勝てる確率はあるでしょうけど・・・」

 

深雪には鈴音の回答が可笑しくて堪らなかった。

 

「フフッ、不安なんてありませんよ。私がお兄様の技量を心配する事はお兄様の信頼を欠く事になります。それと、確かに、試合前に相手を油断させ不意を衝くのは立派な戦法とは思いますが、お兄様は相手の油断や隙、慢心の様な不確定要素などに頼る必要ありませんから」

 

「まぁ半蔵君がどんなに早く魔法を発動させても達也君の奥の手には意味ないと思うけど・・・」

 

「その奥の手と言うのは、昨日、司波君がして見せた渡辺委員長の起動式を無効化させたと云う例の力技の事ですか?」

 

「えぇ。そうよ、あれはマグレじゃないんでしょ?」

 

「流石に、会長は知っているですね」

 

「まぁ、あれだけ近くで見た事はないけど」

 

「ですが、今回、お兄様が使う事はないと思いますよ。それとアレはお兄様の奥の手ではなくどちらかと言うと、小手先の技の様なモノです。お兄様がアレを使うのは本当に危険な魔法が発動した時だけ・・・第一、お兄様の目の前で相手が魔法を発動する事はありません。なぜなら、お兄様が早すぎて相手が魔法を発動する前に勝負が付いてしまうからです。そして今回の摸擬戦のルール上相手を殺すことができない・・・相手を殺すことに欠けてはお兄様は様々なバリエーションをお持ちですが、相手を殺せないと云うルールの摸擬戦ではお兄様の行動は限られます・・・そして相手も危険な魔法は発動できない。であればお兄様がアレを使う事はありません」

 

真由美には他に聞きたい事があったが、摩利によるルール説明が行われる。

 

「相手を死に追いやるような術式は禁止。相手への直接攻撃は捻挫以下の範囲であること 蹴りを使うなら今ここで学校指定の物に履き替える事。それ以外の違反は見つけ次第、私が力ずくで対処する・・・では二人共準備はいいか?」

 

歓声が大きくなる。

 

「服部~ちゃんと手加減してやれよ~」

 

「生意気なウィードなんかに容赦すんなよ!」

 

どうやら彼ら(一科の上級生)の中で既に勝者は服部だ。つまり、達也が勝つ事を予想していない。仕方がない。一科生が それも、生徒会副会長を務める服部が、二科の 一年生に勝つことは 彼らの中で常識だ。その考え方に服部も疑問を覚えてはいない 現に服部は達也の倒し方を何度も頭の中で反芻させている。

 

「(魔法師同士の戦いは最初に魔法を当てた者の勝ち。まして相手はウィード、それも、魔法実技がその中でも遅い奴。今の俺は油断も隙も、慢心すらしていない。いくらスピード重視の特化型でも、俺の魔法発動速度の方が早い。開始直後に加重系統魔法を発動すれば相手はその場から動けずそれで試合終了だ 戦う前から勝負は決まっているんだよ!)」

 

そして、試合が始まった。結果は達也の勝ち。しかも、秒殺、瞬殺と言う言葉がお似合いな程、決着は早かった。

 

「しょ、勝者。司波達也」

 

試合開始直後、服部は起動式の展開を素早く済ませ、魔法を放った。しかし照準先に達也はいなかった。いない場所に放っても意味がない。服部は達也を探そうとした。だが彼にできる事はここまでだった。直後に後方から激しい衝撃が彼を襲う。その衝撃で彼は倒れた。きっと、「何やってんだ!後ろだ!」と言う声も聞こえなかったに違いない。勝者である達也は後ろを振り向かなかった。勝敗に興味がないのだ。その光景に誰も言葉が出なかった。そんな中深雪は達也の腕に思いっきり抱き着いた。

 

「流石はお兄様です」

 

決着は着いた。しかし、大勢の生徒(特に一科生と一科の上級生)は納得がいかない様だ。

 

「ふ、ふざけるな!何が摸擬戦だ!今のは明らかにフライングじゃないか!試合開始の前に何か細工したんだ。明らかな不正行為だ。そうじゃなきゃ服部が、ウィードに負けるはずがない。どうして委員長はあいつがフライングした事を何も言わないんです?」

 

この意見に賛成の者が多いようだ。

 

 

「ま、待て!彼は不正行為をしてないはずだ。みんな、落ち着くんだ」

 

この現状は摩利も驚いた。こんな事になるとは思わなかった。摩利は服部に勝てなくても彼が認められるだけの技量を示せば達也が負けてもいいと思っていた。しかし、実際は服部は手も足も出せずに負けた。達也の動きが見えなかったのは摩利も一緒だが・・・それに、試合開始前に何かしたのを見逃すはずがない。魔法の発動兆候を見逃すほど摩利の眼は衰えていないはずだ。しかも、自分より優秀な真由美、冷静な鈴音もいたのだから。周りは既にヒートアップしている。このままでは、魔法の打ち合いになりかねない。真由美も摩利も、これ以上自体が深刻にならないように必死だったが・・・

 

「おい、お前! 何処に行くつもりだ。フライングで勝ったからって調子に乗るなよ」

 

達也は答えなかった。この達也の行為が最悪の事態の引き金になった。

 

「何、無視してんだ」

 

「お、おい。止せ!やめろ!」

 

「貴方達、止めなさい」

 

一科の二年であろう生徒が達也に向かってCADを向け魔法を放つ。それも一人や二人ではなかった。しかし、その攻撃は届かない。深雪が達也に強力な障壁魔法を使っているからだ。深雪の干渉力を超えない限り、達也に攻撃は届かない。何度やっても届かないので彼らは攻撃対象を切り替えた。

 

「先から、お前も邪魔だぞ!大体、一科のお前がなんでソイツを庇うんだ、どけ」

 

これには、達也も黙っていられない。達也は深雪が、深雪は達也が攻撃されるのが許せなかった。最初は防御に徹していたが切がないので二人の反撃が始まる。それは圧倒的なモノだった。達也はただ、CADの引き金を引くだけで、そして深雪はCADを使う事なく、圧縮された空気弾(死なない程度に威力を制御してある。それでもかなりの速度と威力を持つ)だけで一科の上級生を倒していく。倒れずに残っていた彼らは意地になっていた。それ以上自体が急転することはなかった。

 

「そこまでです。やめなさい」

 

その発言者に全員の視線が集まる。その人物は共闘だった。

 

「今すぐ、CADを置きなさい。事情を聴きます。立っている者は全員来なさい」

 

どうやら、これで事態は収まるようだ

 

「今回の騒動に係わった生徒には罰として明日、反省文を提出してもらいます。勿論、気を失っている生徒も含めてです。気が付いたら教えなさい。それから、彼らを運ぶのを手伝ってください。本来であれば、この程度の処分で済まなかった事を念頭に置いておいてください」

 

生徒指導室で事情聴取が始まる。

 

「全く、大変な事をしてくれましたね?」

 

「もしかして、私達は責められているんですか?」

 

「当たり前でしょう?あれだけの負傷者を出しておいて反省する気が無いんですか?」

 

「私達はお互いに守りあっただけです。くだらない嫉妬で目の前の大事な家族が攻撃を受けたんです。反撃だってしますよ」

 

「それに、負傷したのは彼らの自業自得です。相手に攻撃すると云う事は自身にも相手から攻撃を受けるリスクがあると云う事。相手からの反撃ない事はありえません。殺されなかっただけ感謝して欲しいものです」

 

そう言って、二人は勝手にその場を後にする。

 

「ま、待ちなさい」

 

二人が振り向く事はなかった。

 

「な、なんて生徒だ。あれでは退学も仕方ありませんね」

 

「ま、待ってください!彼らの言い分は間違ってはいないと思います」

 

「七草さんは彼らを許すと?どんな理由でもやり過ぎだ」

 

「やり過ぎたのは彼らだけではないでしょう?」

 

「しかし・・・」

 

「彼らを見捨てるのは今後の為に良くありません。力の使い方を教えるべきです」

 

「どうするのですか?」

 

「司波深雪さんは生徒会で、司波達也君は風紀委員で様子を見たいと思います」

 

「二人を生徒会と風紀委員に所属させると言う事ですか?」

 

「はい、目の見える処にいれば抑えられると思います。簡単ではないでしょうけど」

 

「そうですか、それなら、少し様子を見ましょうか?」

 

「有り難うございます」

 

その頃二人は絡まれていた。

 

「退いてくれませんか?」

 

「うるせぇ!口答えすんな!お前、服部に何をした」

 

「やめろ!お前たち、今度は反省文じゃすまないぞ!」

 

「ちっ、行こうぜ!」

 

「全く。あいつ等。君たちも大変だな・・・処で君達に生徒会室に来て欲しいんだが?」

 

「イヤだ・・・と言ったら」

 

「悪いがそれは認められない。先程の摸擬戦の事で聞きたい事がある」

 

「・・・分かりました。今回は大人しくしておいてあげます」

 

「着いてきなさい」

 

3人は生徒会室に向かう。そこには、既に真由美達がいた。

 

「では、早速。さっきのは本当にフライングじゃないんだな?」

 

「えぇ、そうです」

 

「し、しかし 魔法なしであの速度は・・・」

 

「あのレベルの相手にフライングなんてしませんよ」

 

「疑われるのは仕方ないと思いますよ。魔法を使わずにあんな事ができるのはお兄様か先生くらいのものですから」

 

「先生?」

 

「はい、私達は忍術使い、九重寺、和尚『九重八雲』先生に師事しているんです」

 

「何!あの九重先生に?そうか、それで魔法なしであの動き」

 

「では、あの攻撃魔法も忍術ですか?サイオン波を放っただけの様でしたけど」

 

「そうです。あれは振動の基礎単一系統のサイオン波を放っただけで、忍術ではありません」

 

「でも、それだけで・・・」

 

「まぁ酔えば仕方ないですよ」

 

「酔う?一体何に?」

 

「普通、魔法師はサイオンを知覚します。ですが、予期せぬサイオン波にさらされると揺さぶられた様に錯覚するんです。とても立ってられるモノじゃないですよ」

 

「でも、サイオンを知覚できると言う事はサイオンに慣れていると言う事でしょ?慣れている魔法師が倒れる波動なんて?一体どうやって」

 

「それは・・・」

 

「波の合成」

 

ここで鈴音が口を開く。

 

「振動波の異なるサイオン波を三連続で作り出し、その波が服部君の位置にぶつかるように調整し、一種の三角波の様な波動を作り出したんじゃないですか?」

 

「・・・流石に隠し通すのは難しいですね。数少ない戦闘手段を解析されたくないですけど」

 

「しかし、あの一瞬とも言える時間に三回の振動魔法・・・その処理速度で実技評価が低いのは おかしいですね? まさか、司波君。入学試験では手を抜いたんですか?」

 

「大事な入学試験で手を抜く人はいませんよ」

 

「あの~」

 

今度は中条あずさが割り込む。

 

「司波君のそのCADって『シルバー・ホーン』じゃないですか?」

 

「シルバー?それって」

 

「はい、FLT(フォア・リーブス・テクノロジー)専属の『ループ・キャスト・システム』を開発した奇跡のCADエンジニアと呼ばれるトーラス・シルバーです。そんな彼がフルカスタマイズしたCAD。『ループ・キャスト』にも最適化されてるんですよ」

 

「ちょっと、一回落ち着きなさい?」

 

「えっと、そうですねごめんなさい・・・あっ!そう言えば、どうして司波君は『シルバー・ホーン』を持っているんですか?」

 

「おいおい、そんなに不思議な事か?欲しいCADがあるなら買えばいいだろ。そりゃ、天才が作ったCADだから、多少値は張るだろうが」

 

「多少どころじゃありませんよ。それに、簡単に手に入る物じゃないんです!」

 

「ん?どう言うことだ?」

 

「数が少ないんです。特に、シルバーシリーズは。まぁFLTは元々、CAD開発はしてませんでしたし、他のタイプのCADも売ってますから、シルバーシリーズの研究開発に割ける人員がいないのかもしれませんけど。とにかく、シルバー・シリーズは元々そんなに数が出回ってないんです。でも そのくせに警察関係者とか一部の人に使いやすいなんて云われてるから。ネットで見つけても簡単に手が出せる値段でもなくて・・・その中でも、『シルバー・ホーン』は人気が高いし、しかも、司波君の持ってるのは、一番希少価値の高い銃身の長い限定モデルなんですよ。わ、私も欲しかったのに・・・なんで司波君は持っているんですか?」

 

「なんで?・・・って言われても・・・貰ったんですよ・・・入学祝に」

 

「誰にですか?」

 

「誰って、その・・・本人に?」

 

「そうですか。本人に・・・えー!本人に?司波君はトーラス、シルバーを知っているんですか?」

 

「え? えぇ。まぁ」

 

「ど、どうして。イエ、そんな事より一体どんな人なんですか?」

 

「両親がFLTの関係者なもので。勿論どんな人かは秘密です」

 

「そうですか。ご両親が。すいません。流石に教えられませんよね」

 

深雪は達也がそんな事を言うとは思っていなかった。シルバーとFLTと関係があると言う事を話すべきではないからだ。この事は達也の秘密に関わる事だから。

 

「よろしいのですか?お兄様?」

 

深雪が小声で訴える。

 

「下手に隠すよりある程度の情報を与えれば無暗に詮索はしないだろう」

 

「もう 、いいじゃないか?これで連続発動の秘密が解ったんだ。ついでに達也君が入試試験で手を抜いていないことも」

 

「まだですよ。渡辺委員長。司波君が入学試験で手を抜いたかどうかは別として三連続発動の疑問はまだ残っています」

 

「なぜ?」

 

「ループ・キャストはあくまで、『全く同じ魔法を連続発動する』システムですから、『波の合成』に必要な振動波の異なる複数の波動は作れません」

 

「そういえば・・・」

 

「まぁ振動数を変数化すればできなくもないですが・・・その場合は、座標・強度・魔法・持続時間の四つの変数化なんて・・・」

 

言葉が続かない。試合の事とその後の事を思い出して、否定できなくなった。偶然ではない。おそらく、三角波であろう魔法に倒れたのは服部だけではないのを見ていたから。

 

「で、できるんですか?」

 

「なぁ、達也君。そんな事ができるなら、なぜ言わなかったんだ?」

 

「多変数化はどんなに頑張ってもここでは、評価されませんから」

 

誰も、何も言えなかった。扉が開くまで

 

「成程。司波さんが言っていたのはこう云う事か?」

 

「半蔵君?もう大丈夫なんですか」

 

「だ、大丈夫です」

 

「無理しないでくださいね」

 

「服部先輩は無理してませんよ」

 

「どうして分かる?」

 

「入るタイミングを見計らっていましたから」

 

「ッ・・・」

 

達也は服部に睨まれた。悪意ではない。単純に恥ずかしいのだろう。

 

「どうして、わかったの」

 

「気配で分かります。」

 

「そ、そう?」

 

「司波さん。目が曇っていたのは僕の方でした。確かに、『魔法の発動速度』『魔法式の規模』『対象の情報を書き換える強度』も重要だけど、だがそれだけでないのも事実。すまなかった。許して欲しい」

 

「私こそ生意気を申しました。お許しください」

 

それだけ言って彼は出ていった。

 

「まぁ、だいぶ予定は狂ったが司波深雪は生徒会に、司波達也は風紀委員会に入る事になったから概ね良しとしよう」

 

「どう言う事ですか?」

 

「貴方達はそれぞれ、生徒会と風紀委員に所属させて面倒を見ることになったの。これが今回の騒動の貴方達のペナルティーよ。これ位で済んで良かったですね」

 

「だから、俺達が責めれる云われは無いんですが?」

 

こうして、二人は役員になった。

 




今後も宜しくお願いします。
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