「なんだ そんな事か?」
あずさが悩んでいたのは『加重系統魔法の技術的三大難問』に関するレポート。
「毎年必ず出る課題じゃない」
「重力型熱核融合炉の実現と慣性無限大化による疑似永久機関の実現は解るんですけど、汎用的飛行魔法がなぜ実現できないのか上手く説明できないんです」
現代魔法で飛行するには・加速・減速・上昇・下降をする度に、新しい魔法を作動中の魔法に重ね掛けしなければならない。必要になる干渉力はその度に増大していく。重ね掛けは精々十回が限度。故に現代魔法での飛行魔法は実現できない。
「重ね掛けが必要なら発動中の魔法をキャンセルして新しい魔法を発動すればいいと思うんですけど」
「でも、その位の事なら誰かが実験しても可笑しくないんじゃない?」
「その様な実験が一昨年イギリスで同じようなコンセプトで行われていますね」
「結果は?」
「失敗ですね」
「理由は?」
「詳しく書かれてませんね」
「達也君はどう思う?」
真由美は達也に話を振る。答えを求めてはいない。ついでみたいなものだ。
「その実験は基本的な考えが間違ってます」
「え?」
「魔法式は魔法式に作用できません。それは領域干渉でも同じ魔法式を直接消しさる術式でない限り、対抗魔法であっても、この原則の例外じゃないんですよ」
「つまり、この実験は余分な魔法を掛けたから失敗したの?」
「そうです。実験を企画したイギリスの学者は対抗魔法の性質を理解できてなかったんでしょう。全く、学者が聞いて呆れますよね」
達也の開設終了と同時にお昼休み終了の予鈴がなる。それはあずさにとって終わりを告げる鐘の音だ。
「あ!あーーーー」
放課後 部活連本部
現在、此処では主に九校戦に関するミーティングが行われている。本来、ここに達也は係わり合いがないのだが無理やり連れてこられた。本部の空気は非常に悪い。本来、九校戦の集まりは一科生の集まりだ。しかし、そこに、いるはずのない二科生の達也がいることが原因だろう。
「なんで ウィ・・・じゃない二科生のそれも一年がいるんですか」
「静粛に!」
「生徒会は1-E、司波達也君を技術スタッフとして推薦します」
「なんで、二科生なんかを」
「だが風紀委員なんだろ?」
「それとこれとは別だろ」
「そうだ。CADの調整なんかできるはずない」
珍しく肯定する意見があったが、やはり否定の意見が多い。
「納得がいかない奴がいるようだな。まぁ、技能が分からないからだろう。実際に確かめるのが早いな」
「具体的にはどうする」
「CADの調整をさせればいい、何なら俺のCADを」
「危険です。下手なチューニングをされたらケガだけじゃすみません」
「彼を推薦したのは生徒会ですから私が」
「なら、俺のを頼む」
発言者は桐原、剣術部の騒動を知っている者達は桐原の行動に驚く。
「失敗したらケガだけじゃ済まないんだぞ」
「調整するのは桐原先輩のCADだとして俺は何をすれば?」
「そうだな・・・」
課題が発表される。
「課題は競技用CADに桐原先輩のCADの設定をコピーして即時使用可能の状態にする。但し、起動式には手を加えない・・・でいいですね」
「それでお願い」
達也の顔が優れない。
「普通はスペックの違うCADの設定をコピーなんてしないんですが、まぁ、安全第一で行きましょう」
達也の言葉に数人が反応する。
「ふーん、少しは知識があるらしいな」
「そうなのか?」
「そうなのか?って、お前な~。まぁ、知識があっても調整ができるかどうかわかんねぇけど」
調整が始まる。
「では一度測定をしますので」
「わかった」
桐原は調整期機に手を着く。測定は直ぐに終わる。
「もう、結構ですよ。先輩」
達也の作業が始まる。しかし、その作業工程は可笑しなものだ。
「アイツ、なにやってんだ」
達也の眼の前の画面には数字の羅列が高速で流れ、それと同時にウインドウが閉じたり開いたりを繰り返す。
「ねぇ、彼何やってるの?」
「う~ん。見た処、完全マニュアル調整じゃないかな?」
「それって、すごいの?」
「まぁ、そんな簡単にできる事じゃないよ」
「終了しました」
達也の調整が終わる。
「桐原、どうだ」
桐原がCADを起動させる。
「う~ん。問題ないですよ。いつも通りです」
「確かに多少の腕はあるようですけどウチの代表レベルでは・・・」
「私は司波君のチーム入りを支持します」
「中条、お前、何言ってるか分かってるか?」
「そうだよ、こんな奴を入れようとするなよ」
「何をいってるんです!彼が見せてくれた技術はとても高度なものです。全てをマニュアルで調整するなんて真似簡単にできることじゃありません。勿論、私にも無理です」
「いくら高度な技術でも時間がねぇ~」
「俺なら効率化を重視するけどな~」
彼らは達也の代表入りを避けたい様だ。しかし、彼らの言い分は達也の代表入りを避けるには少々弱い様に思える。
「桐原のCADは競技用の物よりハイスペックな物です。にも関わらず使用者にその違いを感じさせないのは高度な技術と云っていいいのでは?」
「それは・・・」
「会長、私も司波達也のメンバー入りを支持します」
「何言ってんだ服部。まさか、アイツを認めるのか?」
「・・・九校戦はウチの威信を掛けた大事な大会です。一年だとか前例がないとか、そんな事を気にしてる場合じゃない。 実力があるなら入れるべきでしょう」
彼らは服部と桐原の器の大きさが分かっていなかった。
「服部の指摘はもっともだ。司波には実力がある。十分な技量も示した。俺も司波のチーム入りを支持しよう」
克人の発言以降反対の意見は出なくなった。達也のチーム入りが決定した。
司波家 夕食後 リビング
その日珍しく電話が掛かる。相手は風間玄信と云う達也の知り合い。
「久しぶりだな、特尉」
「毎回言ってますが、一般回線に割り込むのはやめてください」
「特尉、君の家のセキュリティーは厳しすぎないか?」
「最近のハッカーは見境ないですし、つまらない事で足元を掬われるなと叔母上がうるさいので。まぁ、ウチにも見られたくないモノがありますから」
「フフッ、そうだな」
「・・・で、要件は?」
「サード・アイのオーバーホールが完了した。近日中にソフトウェアのアップデートと性能テストをして欲しい」
「なら明朝、行きましょう」
「こらこら、これを理由に学校を休もうとするな」
「コッチも事情があるんですよ」
「そうか、なら真田に話は通しておこう」
だがこれで話は終わらない。
「君も九校戦に出るらしいな?」
電話の相手が数時間前に決まった事をなぜ知っているのか気になったが、答えてはくれないだろう。
「会場は例年通り富士演習場だが、気を付けろよ、達也」
「何かあったんですか?」
「該当エリアで国際犯罪シンジケートの構成員らしき人物が目撃されている」
「分かっていてそのままですか」
「すまんな、簡単な事でもなさそうなんだ」
「それで正体くらいは分かってるんですか」
「壬生が調べてくれた」
「壬生って壬生勇三さん?」
「あぁ、アイツは内閣の情報管理局で主に外国犯罪組織の担当だ」
「へぇ~」
「アイツの話じゃ無頭竜(ノー・ヘッド・ドラゴン)ではないか、と云う事だ。他に分かれば後で連絡しよう」
「有難う御座います」
「師匠に宜しくな」
「はぁ~、面倒事に巻き込まれなければいいけど」
達也に新たな災難がふり掛かろうとしていた。
前編は 其の十までに終わるだろうか?