2096年一月十四日・渋谷二十三時。
土曜の夜、若者であふれる渋谷をレオは一人ふらふらと歩いていた。目的無く渋谷の街を歩くレオが渋谷を歩いていると見知った顔が横切った。
「あれ?エリカの兄貴の警部さん?」
レオが声を掛けると、隣にいた稲垣から腕を引っ張られる。
「君、チョットと一緒に来てくれ」
「え?何?」
そう言われてレオが連れ込まれたのは路地奥の小さな酒場。
「マスター、上を借りるよ」
「・・・俺、未成年なんだけど」
「西城君、だったね。よく俺らのことが分かったね。ちゃんと気配は消してたんだが」
「・・・もしかして、操作の邪魔しましたか」
「そんな事はないよ。気配を消してたのは余計なトラブルを避ける為で、尾行とかしてないから。ただ、こういう処は警察は目の仇にされるから」
「へぇ~大変ですね」
「警部、彼にも聞いてみては?」
「西城君、今日は何の用で?」
「特に用があったわけじゃないですけど」
「ぶらついてただけ?」
「まぁ、そうなりますね」
「渋谷には良く来るの?」
「良くって程じゃ、たまにきます。そう言えば大晦日もここでフラフラしてたっけ」
「二週間前・・・じゃあ、最近、都内の繁華街で起こってる奇妙な事件は知ってる?」
「奇妙な事件?そんなの毎日起こってるだろ?ところで二人の管轄って横浜の方なんじゃ」
「俺らは警察省の所属でね。日本全国をあちこち異動さ。今は都内の連続変死事件を捜査中だ」
「変死?・・・猟奇殺人か?連続で?・・・っていうか、いいんですか?そんな事を話して」
「いいよ。どうせ明日に成れば分かる事だし」
そう言ってレオの前に端末が出され、数枚の写真を見せて来た。
「一番新しい犠牲者が三日前、道玄坂上の公園で発見された。死亡推定時刻は午前一時から二時の間」
「こんな都心の真ん中で?」
「昼間は都心でも、夜は何が起こっても不思議じゃないよ。この街では」
「聞きたいんだけど、妙な奴に心当たりはない?噂でもいいけど」
「夜中にこの街をうろついてんのは妙な奴ばかりだろ。具体的にどんな奴?」
「犯人の特徴が分かってなくてね」
「ただ、被害者については分かってることもある」
「全員の死因が、衰弱死。かすり傷以上の外傷はない」
「外傷がない?・・・毒?」
「薬物反応はどの遺体も陰性。しかし、傷が無いのに血液の一割が失われていた」
「全員が?」
「そう全員が」
「成程・・・それで変死・・・でもそれじゃ殺人事件というよりか怪奇事件だ」
「怪奇現象に見えても、事件は現実に起きてる」
「それで、こういうオカルトじみた真似しそうな奴に心当たりないかな。特に最近、他所から来たって連中で、妙な噂が立ってる奴等」
「最近の余所者・・・今んとこ、思いつかねぇ」
「そうか。分かった」
「ダチからネタ、仕入れときますよ」
「えっ?それはいいよ。そう言うのは警察の仕事だし、嗅ぎまわって目を付けられたら」
「でも、夜の渋谷だぜ?警察の人が色々聞き出すのは難しいと思うけど」
「・・・イヤ、それはそうかもしれないけど」
「危険な事に首を突っ込むようなことはしませんよ」
「そう?じゃあ」
「警部!?」
「何か分かったらメールをくれよ」
「はい、何か分かったら知らせますよ」
一月一五日 一時三十分
自室で寝ていたリーナは同居人シルヴィーに叩き起こされた。
「何事ですか?」
「カノープス少佐から緊急入電です」
「お休みの処申し訳ありません」
「構いません。一体何事ですか」
「先月脱走した者たちの行方が分かりました」
「本当ですか?」
先月起こったスターズアルフレッド・フォーマルハウトの脱走事件。あの事件は彼を処分するだけでは終わらなかった。なんせ、同時期に七人もの魔法師・魔工師がUSNA軍から脱走したのだから。リーナは日本での潜入捜査の為に後のことをカノープスに任せていた。
「彼らは、今、何処に?」
「日本です。横浜に上陸後、現在は東京に潜伏していると思われます」
「何故日本に?・・・しかも、東京ですって!?」
「統合参謀本部は追跡者チームを追加派遣することを決定しました」
「このことを日本政府は?」
「知りません」
「総隊長。参謀本部は現在与えられている任務を優先度第二位とし、脱走者の追跡を優先せよと」
「・・・了解したと本部に伝えて下さい」
「総隊長。お気を付けて」
週明けの教室は、怪奇事件の話題で持ちきりだった。日曜の朝にスクープ記事が配信され瞬く間に広がったからだ。
「おはよ~達也君。ねっ、ねっ、達也君、昨日のニュース見た?」
「ニュースって、『吸血鬼』の?」
「あれってさ、やっぱり単独犯じゃないよね。プロの組織犯罪かな?アタシは臓器売買ならぬ血液売買組織の犯行説に一票なんだけど」
「でも被害者が抜かれたのは一割だけだろ、血が欲しいなら全部抜くと思うけど」
「テレビで言ってる様にオカルト的な存在による殺人何でしょうか?」
「吸血鬼が本当にいるなら、とうに分かっていそうなものだが」
「じゃあ、達也はあくまで人間による犯行で、オカルト的な事件じゃないと?」
「そういう幹比古はどうなんだ?」
「ただの人間の仕業とは思えないけど、断言はできないし」
「オカルトと言えば、魔法もつい百年前までその類だったけど」
「達也君はこの事件が魔法師絡みだと思ってるの?」
「そんなにハッキリ思っては無いよ。相思レーダーは何の反応も捉えて無かったって聞くし、・・・いや、誤魔化せない訳じゃないか、精神干渉系なら気付かれずに犯行に及ぶことも可能ではあるか」
「イヤですね。人間主義みたいな風潮が強くならないと良いんですけど」
人間主義とは魔法師排斥運動の一種で魔法は人間に許された力ではない。という教えを骨子とし、魔法使用を禁止しようとする運動。人間は人間に許された力だけで生きようという主張から『人間主義』と呼ばれており、アメリカに東海岸を中心に近年勢力を拡大している一派。
「何の話をしてるんだ?」
「遅かったな、レオ」
「ちょっと夜更かし、しちまって・・・で、何の話してたんだ」
「例の吸血鬼事件のことですよ」
美月が会話の内容をレオに教えた時一限目開始のメッセージが表示され、朝のおしゃべりは打ち切られた。