達也の周りは敵だらけ   作:黒以下

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来訪者編 吸血鬼事件 追跡・捜索 其之一

達也たちがレオを見舞っていた頃、リーナはマクシミリアン・デバイス東京支社にいた。ここはミカエラ・ホンゴウの勤務先であり、今回の脱走兵追跡部隊の秘密拠点の一つでもある。

 

マクシミリアン・デバイス東京支部 会議室

 

「少佐、昨晩は危うい処をありがとうございます」

 

「二人共、昨晩のダメージはどうですか?」

 

「メンテナンスを受けましたので、任務に支障はありません」

 

「そうですか、では昨晩の詳しい報告を」

 

「イエス、マム」

 

「デーモス・セカンドを捕捉した我々は、事前に与えられたデータに従いキャスト・ジャマーを使用しました。ですが、キャスト・ジャマーはデーモス・セカンドに対し、有効ではありませんでした」

 

「キャスト・ジャマーの作動が妨げられたのですか?」

 

「いえ、キャスト・ジャマーは正常に作動していました。・・・本人の弁によれば、彼はCADを必要としなくなった・・・と」

 

「CADを必要としない・・・彼がサイキック化していたと?」

 

「肯定であります」

 

「現に彼はCADを使用せず、軌道屈折術式のみを使用しておりました」

 

「他の魔法を使わなかったということですね」

 

「肯定であります」

 

「また、彼の身体能力は強化を受けた我々を上回っていました」

 

「彼の想子波特性は変わっていなかったのですね?」

 

「少なくとも、我々に識別可能なものでした」

 

「私は彼を追跡中、彼の仲間と思しき者と接触しました。その者の想子波特性は観測できましたか?」

 

「・・・申し訳ありません。認識できませんでした」

 

「そうですか・・・如何やら過去のデータには当てはまらないようです。今後、脱走者を捕捉した場合は追跡に留め、直接手を出さないように。今後は私が直接、対処します」

 

「イエス、マム」

 

 

 

九重寺 

 

その日も達也は八雲を相手に毎朝恒例の組み手で相変わらず組み伏せられていた。

 

「あの・・・師匠。今のは?」

 

いつもと同じく組み伏せられた達也だが、今日はいつもと違う事があったのを、その眼で視て気付いていた。

 

「いや、まさか『纏衣の逃げ水』がやぶられるとは思わなかったよ」

 

「さっきのはいつもの幻術じゃなかったでしょ」

 

「やっぱりわかっちゃうのか」

 

「君の持つその眼。視ただけで術式を読み取ってしまう力は、相手にとって脅威そのものだ。でも、それを逆手にとる手段が無い訳じゃない」

 

「さっきの幻術がその手段なんですか?」

 

「纏衣は本来、この世のものならざるモノの眼を誤魔化す為の術なんだけど・・・」

 

「この世のものざるモノの眼?」

 

「ん?どうしたの?・・・ああ、成程。僕達が相手にするのは、人間ばかりじゃないよ。この世のものならざるモノの相手はそれ程珍しい事じゃないよ」

 

「俺が聞いた話じゃ、本物の魔性に遭遇するのは極めて稀な事だと・・・」

 

「聞いた話?・・・あぁ、吉田家の次男かな。まぁ、彼の言ってる事も間違いじゃないけど・・・君にしては切り込みが浅いんじゃない?」

 

「・・・幹比古の言った事は間違ってはいない・・・でも完全に正しくも無い?・・・本物の妖魔・化生と遭遇、つまり、偶然出会う事は極めて稀であっても、偶然でなければ・・・何者かの作為の下でならば決してめずらしくない?」

 

「う~ん、辛うじて及第点かな?・・・達也君でも先入観の罠は避けられないらしい」

 

「先入観?」

 

「達也君も、一度や二度は、この世ならざるモノたちと接触した経験があるはずだけど」

 

「えっ?」

 

「分からないか・・・じゃあ、君たち現代魔法師がSB魔法と呼ぶ魔法は、一体何を媒体としたものかな?」

 

「・・・あ!」

 

「精霊も立派に『この世のものならざるモノ』だよ」

 

この八雲の言葉は達也にとって完全に盲点だった。

 

「ああ、知性の有無とか意志の有無とかは二の次だよ。細菌には知性も意識もないけど、人の身体に入り込み肉体の機能に干渉して健康を害する。ウイルスに至っては不完全な増殖能力しか持たない。それでも、たとえ学問的には厳密な『生物』に該当しないとしても、人の肉体を蝕む『生き物』であることに異論はないはずだ」

 

「現象から切り離された孤立情報体に過ぎない『精霊』も『この世ならざるモノ』だと?」

 

「正確には、肉を持つ生き物ならざるモノ。と呼ぶべきなんだろうけどね。・・・それに『精霊』に意志がないなんて誰が確認したんだい?」

 

「・・・確かに誰も確認してませんね」

 

「少しは理解できたかな?」

 

「師匠、もう一つ質問していいですか?」

 

「・・・聞こうか」

 

「現代魔法においては、精霊は自然現象に伴ってイデアに記述された情報体が、実体から遊離して生まれた孤立情報体と言う事になっています。そしてもとになった現象を記録している為に、魔法式で方向性を定義することにより、その情報から現象を再現することができる。これが精霊魔法の解釈とされてます」

 

「大体それで合ってると思うよ」

 

「なら、人の幽体に寄生して人間を変質させるパラサイトは一体何に由来する情報体なんですか?」

 

達也は幹比古の話を聞いて、パラサイトは人間の構造情報に干渉する情報体ではないのか・・・と考えていた。

 

「パラサイト・・・彼らが何に由来する情報生命体なのか、残念ながら僕にも解らない。人の精神に干渉するのだから、精神現象に由来するものだとは思うけどね」

 

「精神に由来する情報生命体・・・」

 

「僕は人型の妖魔も動物型の妖怪も、情報生命体である妖霊がこの世の生物を変質させたモノじゃないかと考えてる。そして、物理現象に由来する精霊がこの世界と背中合わせの影絵の世界を漂っているように、精神現象に由来する妖霊は精神世界と背中合わせの写し絵に世界からやって来るんじゃないかと思うんだ。遭遇例が少ないのは存在しないからでなく、僕達がまだ、精神を観察する術を十分に持たないからじゃないかな。ロンドンに集まった連中からすれば異端の思想なんだろうけど、それが僕の偽らざる自説だよ」

 

この八雲の自説を聞いて、さすがに、古式魔法の大家の称号は伊達ではない。達也は久しぶりに、そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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