いつもの朝、いつもの通学路。深雪と二人で駅を出て友人たちと合流し、学校へ。雫とレオがいないがそれ以外はいつもの登校風景。しかし、今朝はいつもと異なるイベントが達也を待っていた。友人たちと合流する前、改札口の手前で真由美に呼び止められた。真由美の存在には達也も深雪も気付いていたが呼び止められるとは思っていなかった。
「お早う、達也君、深雪さん」
「おはようございます。七草先輩」
「ねぇ達也君。いきなりで悪いんだけど今日の放課後、時間作れない?」
「構いませんが」
「ほんと? 御免ね。急に。じゃあ、放課後にクロス・フィールド部の第二部室に来てくれる?」
「分かりました」
「じゃあ、放課後、また会いましょう」
クロス・フィールド部(魔法戦技によるサバイバルゲームのクラブ)は克人が所属していたクラブだ。その第二部室が部活連の非公式な会合に使われていることは校内で暗黙の了解であり、クラブ引退後も克人がこの部屋を私的に使用していることを達也も知っていた。放課後、達也がクロス・フィールド部の第二部室に行くと案の定、真由美と克人が待っていた。
「独りか?」
呼び出した克人と真由美は達也が一人で来た事に意外感を覚えていた。
「呼ばれたのは俺一人でしょう」
「そうだけど・・・」
「それで、俺を呼び出した理由は何ですか?」
「・・・達也君に聞きたい事があるんだけど」
「何でしょう・・・」
「達也君、昨日の晩、外出しなかった?」
真由美の質問は達也が事前に想定していた範疇に収まるものだった。
「・・・しましたよ」
「バイクで?」
「えぇ」
「・・・何処に行っていたか、教えてくれる?」
「件の吸血鬼と交戦中の吉田に呼ばれて、その場で吸血鬼とそれを追っていたであろう正体不明の魔法師とやり合いました」
「何時からだ?」
「昨日は呼ばれたから駆けつけただけで、俺は吉田と千葉と違って元々、吸血鬼の捜索に加わっていませんよ」
「・・・」
「・・・先輩、腹の探り合いは無意味ですよ。まぁ元々、御二人はそういった駆け引きに向いてないと思いますけど」
「ちょっ!そんなひどい言い方しなくても」
「俺に協力して欲しいのなら、せめてどの程度まで事態を把握していて、どう決着をつけるつもりなのか、それを教えていただけない限り協力もできませんが」
「協力を約束してくれるなら私達が掴んでいる情報を教えられるけど。ただ、分かってると思うけど他言無用だからね」
「了解です。協力しましょう」
「・・・それは私達の捜索隊に加わってくれるってこと?」
「そう理解していただいて結構です」
真由美がもたらした情報の内、達也にとって目新しいのもは三つあった。
一つは被害の規模。これは達也の予想を大きく上回るものだったが、被害数自体に重要性は感じなかった。
二つ目は、この事件が単独犯の仕業とは思えないということ。協力者がいるだろうということは達也も考えていたが、吸血鬼自体が複数存在する可能性は予想外だった。
そして、三つ目は、真由美たちの捜索を妨害する第三勢力の存在。最初、達也も妨害勢力はエリカたちのことを連想していた。だが話を聞いていく内に、全くの別個の勢力だと分かった。
二つ目と三つ目の情報は、流石に達也を悩ませた。あの仮面の女はおそらく妨害勢力に属している。その正体も、ほぼ推測できている。しかし、何故、そんなことをしているのか動機が分からなかった。分かってしまえば簡単な構図、のような気がしてならないのだが、それが達也には余計にもどかしかった。
「それでお二人は吸血鬼を捕まえて、どうするおつもりですか?」
表向きであれ協力すると約束した以上、最終目標の確認を怠ることはできない。
「尋問して、正体と目的を突き止めて・・・その後は・・・」
「処分することになるだろう」
「そうですか。了解です。それで、俺はどうすれば」
「じゃあ、私達に同行してくれないかしら。できれば今晩からー」
「いや、司波は独自に動いてくれ。手掛かりを掴んだら報告してい欲しい」
「分かりました」
そう言って達也は自分の持ち札を明かさず、聞きたい事を聴くだけ聞いて部屋を後にした。そして達也の足音が聞こえなくなったところで真由美が口を開いた。
「十文字君。どうして達也君に別行動させるの?」
「その方が効率がいいと考えたからだ」
「でも今のままじゃ、千葉家に与するかもしれないわよ」
エリカたちが通達に逆らう形で別行動しているのは真由美も把握している。十師族はリーダーではあっても支配者ではないので、そう簡単に強制はできないし、ペナルティも与えられない。だが、勝手に突っ走られるのは不都合であり迷惑だ。エリカと幹比古は兎も角、せめて達也と深雪は目の届くところに置いておきたかった、というのが真由美の本音だ。
「こちらが本当の事を言わなければ、そうなっていた可能性もあるだろうが、我々が誠意を見せている間は、司波も我々を裏切らんだろう」
達也はクロス・フィールド部の第二部室を離れて急ぎ生徒会室に向かった。深雪が昼食を取らずに待っていると思ったからだ。達也が急いで生徒会室の扉を開ける。すると達也が最初に声を掛けられたのは深雪でもほのかでもなくリーナだった。
「ハイ、タツヤ」
「やあ、リーナ、どうしてここに?」
「ちょっとした用事よ。でも、もう済んだから。私はこれで失礼するわ」
「あぁ、そうか、じゃあまた」
「お帰りなさいませ、お兄様」
「お帰りなさい達也さん」
「あぁ、すまない。待たせたね」
達也が席に座るとほのかが調理パネルを操作し、深雪が飲み物を用意する。達也は大人しく支給されることに撤した。
「なぁ深雪、リーナの用事って何だったんだ?」
「あぁ、実は留学期間中、リーナを臨時の生徒会役員にしてはどうか、と学校側から提案がありまして」
「そう言えば、所属クラブが決まらなくてトラブルの兆しが、とか言ってたな」
「勧誘合戦が水面下で結構激しくなってるみたいで」
「リーナの留学期間はこの一学期間で終わりなんだから、協議会には出られないだろ」
「もっと別の種類の下心があるみたいですよ」
「リーナの写真集を作って売りさばこうと考えてる人達がいるみたいです」
「・・・写真部なんてウチにあったかな?」
「正確には美術部の写真チームです。リーナを軽体操部に入れて、それを写真に撮ろうとしてたみたいです」
「ハハッ、成程、確かに絵になりそう・・・」
「オニイサマ?」
深雪に疑わしげな目を向けられたので咄嗟に反対側に目線を逸らしたが、反対側にいたほのかも同じ様な目で達也を見ていた。
「!!、・・・売り物にするのはどうかと思うが・・・」
「・・・」
「いや、今のは言い方が悪かったな。すまん」
「兎に角、似たような話があちこちであって、リーナ本人だけじゃなく勧誘に無関係な部員にも火の粉が飛びそうな状況になって来てて・・・」
「それで、リーナを生徒会役員に?」
「えぇ、生徒会活動を理由にすれば、どのクラブも勧誘は諦めるでしょうから」
「それでリーナ本人は何て?」
「余り乗る気ではないようです」
「放課後、時間を取られるのを嫌がっている感じですね」
深雪とほのかの答えに、達也は「そうだろうな」という表情で頷いた