達也の周りは敵だらけ   作:黒以下

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九校戦編 前編 其の六

司波家 地下一階    

 

時刻は既に深夜を過ぎていた。しかし、達也はまだ寝ていない。 

 

「お兄様、失礼いたします。コーヒーをお持ちしました」

 

「丁度、良かった?」

 

達也は珍しく驚いていた。

 

「あぁ、それ、もしかして『ミラージ・バット』のコスチュームか?」

 

「正解です。如何でしょう」

 

深雪はその場で回って見せる。

 

「あぁ、良く似合ってる」

 

「有難う御座います?」

 

今度は深雪が驚く。

 

「お、お兄様!」

 

達也はただ笑っていた、空中で足を組んだ姿で。

 

 

「飛行術式、遂に常駐型重力制御魔法が完成したんですね」

 

「まぁ、何とかね」

 

「流石はお兄様です。お兄様はまたしても不可能を可能になされました。私はお兄様の妹である事を誇りに思います」

 

「これでまた一歩目標に近づけたよ」

 

「おめでとう御座います、お兄様」

 

「喜ぶのはまだ早いよ。まだ、碌な実証実験もしてないし」

 

「それは私が」

 

「なら、やってみるか」

 

二人は実験の為に移動した。

 

司波家 地下二階

 

「それでは、始めます」

 

深雪は達也に渡されたCADサイオンを注入する。すると体が浮いた。深雪は初めての感覚に少々戸惑っている様だ。

 

「起動式の連続処理が負担になってないか?」

 

「大丈夫です。頭痛も倦怠感もありません」

 

「なら、ゆっくりでいいから水平移動してくれ」

 

「かしこまりました」

 

そして深雪は落ち着いた様子で水平移動をしてみせる。

 

「どうだ、魔法の断続感はないか?」

 

「ありません。タイムレコーダー機能も完璧かと」

 

「このシステムの要は発動中の魔法の発動地点を正確に記録する機能だ。こう云ったのは人間より機械に任せる方がいい」

 

深雪は既に話を聞いていない。飛行魔法に夢中の様だ。それ程、広くない実験室の空中に浮かんでいた。

 

翌日の空模様は良くなかったが、季節は六月。降りしきる雨、梅雨の時期には良くある風景。そんな休日、達也と深雪はとある場所を訪れていた。

 

FLT 開発センター

 

本来、学生が来る場所ではない。見つかればつまみ出されるだろう。しかし、二人がそんな事をされる心配はない。

 

FLT 第三研究室

 

二人が部屋に入ると、

 

「あ!御曹司」

 

「いらっしゃませ」

 

「お邪魔します。牛山主任は?」

 

「はい、はい、お呼びですか?」

 

「すみません。忙しい処を」

 

「いけませんねぇ~此処にいるのはアンタの駒なんだから、あんまり遜り下り過ぎちゃ~いけません」

 

「駒って・・・先の事は分りませんよ」

 

「それで ご用件は?俺達の顔を見に来たんじゃないんでしょう」

 

「実はこれの事で」

 

達也が見せたのは昨日深雪が使用したCADだ。

 

「これ、この間の飛行デバイス?」

 

「主任の試作用ハードに常駐型重力魔法の起動式をプログラムしたものです」

 

「これ、テストは・・・」

 

「一応、二人で・・・ですが俺達は一般的とは言えませんから」

 

「なぁ、お前等。T-7の型はいくつあったっけ?」

 

「十機です」

 

「バカ野郎。なんでもっと補充しとかねぇんだよ。取り敢えず、あるだけ全部持ってこい!飛行術式だぞ。分かってんのか、また、此処で現代魔法の歴史が変わるんだ」

 

それから暫くしてテスターを集め実験が始まる。

 

「実験準備完了」

 

「実験開始」

 

テスターの一人がCADにサイオンを注入する。

 

「飛翔を確認」

 

「反動による床面、設置圧の上昇は観測されません」

 

「上昇加速度の誤差は許容範囲以内です」

 

「CADの動作は安定しています」

 

次々に入る報告、今の処、悪い結果は観測されていない。

 

「上方への加速度減少、ゼロ。等速で上昇中、上昇加速度、マイナスにシフト、上昇速度、ゼロ、停止を確認。水平方向への加速を検知」

 

「続けろ」

 

「う、動いた!」

 

「と、飛んでる!」

 

「加速停止、毎秒一mで水平移動中」

 

「テスター1より観測室へ・・・僕は今、空中を歩いて・・・イヤ、空を飛んでる。僕は自由だ!」

 

その報告を聞き。他のテスターが行動を開始する。

 

「浮いてる」

 

「やったぞ、成功だ!」

 

「おめでとう御座います。御曹司」

 

「有難う御座います」

 

「ですが、起動式の連続処理は負担が大きいですね」

 

「まぁ、一般はこれが普通でしょう。お二人と違ってサイオン量は少ないですから」

 

「CADのサイオン自動吸引スキームをもっと効率化しないと」

 

「それはコッチでやりましょう。ハードで処理すりゃ少しは楽でしょ」

 

「良かった。考えは同じみたいですね」

 

「じゃあ、俺達はこれで」

 

実験が終わり二人は部屋を後にする。

 

「一応、本部長には連絡したんですが」

 

「気を使わなくてもいいですよ」

 

「そうですか?」

 

二人は早く帰りたかった。此処には会いたくない者がいるからだ。だが最後の最後で会ってしまう。無言で向かい合う二組。最初に話しかけたのは。

 

「これは、これは深雪様。御無沙汰しております」

 

「えぇ、久しぶりねぇ、青木。それに、お父様も」

 

「あぁ」

 

二人の前に立つのは実の父、達郎と四葉本家執事の一人、青木と云う男。

 

「ねぇ、青木。此処にいるのは私だけじゃないでしょう。それとも、眼を悪くして見えてないのかしら?」

 

「ご冗談を!私にもそれの事は視えております」 

 

「なら、挨拶ぐらいしたらどうなの?」

 

「お言葉ですが深雪お嬢様。私は四葉家の執事で御座いますれば、一介のボディガード如きに礼を示せと云われましても秩序と云うものが」

 

「私の兄でしょ」

 

「それでも深雪お嬢様は四葉家時期当主の座を家中の皆より望まれている御方。お嬢様の護衛役に過ぎぬ、そこの出来損ないとは立場が違います」

 

「青木さんは自分が何を言っているかお分かりですか?」

 

「何だと!」

 

「今の発言は他の候補者に失礼でしょう?それとも叔母上は後継者を指名したんですか?」

 

「真夜様は、まだ何も」

 

「へぇ~たかが序列四位のアウター風情が憶測でものを言うんですか」

 

「憶測ではない!心を同じくする者同士、思いは通じる。心を持たぬ似非魔法師のお前には解らんだろうがな!」

 

その時、廊下の床が凍り付き始めた。深雪の魔法が暴走していた。

 

「青木、貴方、死にたい様ね」

 

深雪は達也をバカにされると処構わず相手を殺したくなる衝動に駆られる。相手が誰であっても。

 

「やめろ、深雪」

 

「心を持たない似非魔法師を作ったのは現当主の真夜とその姉の深夜ですよ。四葉の手に依って作られた俺を批判すると云う事は四葉の研究理念を否定する事だとわかってますか?」

 

「お前達、もう止めないか。大人を悪く言うものではない。まぁ、お前達の気持ちも分からんではないが」

 

二人は無視して進む。そして振り返り様に。

 

「アンタに俺達の気持ちは分からないだろ」

 

それだけ言って帰った。深雪は兎も角、達也は何も思っていない。いまさら仕方のない事だ。達也にとって大事なものは深雪の存在だけなのだから。

 




原作ではFLTに行くのは七月みたいですね
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