移動中の車内で不機嫌なのは真由美だけではない。
「随分、不機嫌だな。花音」
「だって、折角、今年は啓と一緒だと思ったのに」
「はぁ~少し位我慢しろよ」
摩利の隣は、二年生 千代田 花音。百家の人間であり、同じ百家の五十里 啓の許嫁だ。
「なんで、スタッフは別なんですか? 移動中に作業なんてできないし、このバスもまだ乗れるじゃないですか!」
摩利は暫く花音の愚痴を聞かされることになる。
一方 その後方でも、
「深雪 お茶でもどう?」
「大丈夫よ。私は誰かさんみたいに炎天下の下に居た訳じゃないから」
「・・・」
ほのかは地雷を踏んだ。そして、隣からの舌打ち。隣の雫が睨む。その顔は、
「(なんで、達也さんの事を思い出させる様な事を言うの!)」
と言っている様だ。
「大体、外で待つ必要ないじゃない。態々、自分から雑用を買って出なくても」
「それが達也さんのいい処でしょ。皆がやりたがらない事を率先してやるなんて中々できることじゃないよ」
「そ、そうね。お兄様は変な処でお人好しだから」
「(ナイスだよ。雫)」
ほのかは心の中で叫んだ。
その後、深雪の気を反らす為に九校戦の話をする事に。
「雫は毎年、見てたのよね」
「うん。今年は見られる側」
「ウチは三連覇が掛かってるんだよね」
「頑張らないとね」
「今年もウチが優勢だって聞くけど」
「そうでもないよ。今年は三校に一条の跡取りや一色のご令嬢なんかも出るみたいだし」
「でも九校戦には他のナンバーズも来るでしょ。十師族だって一条以外にも来るよね」
「それはそうだよ。今年は一体どのくらい集まるかな」
十師族。それはこの国の誇る最強魔法師集団。
しかも十師族を名乗れるのはナンバーズの中でも限られる。現在の十師族は、
四葉
七草 十文字
九島 五輪 一条
三矢 二木 八代 六塚
十師族は表向きの権力を持たないが裏では司法当局も凌駕する程の影響力がある。4月の事件も十文字家が介入した為その多くが語られていない。そして、そんな彼らにとっても九校戦は大事な行事だ。将来の有能な配下を見つける為に。
一年生が決意を新たにしている頃、今回が二度目の参加である花音はそんな気になれない。そんな花音の眼に衝撃の光景が飛び込む。反対車線の車が一校選手団の乗っているバス目掛けて車線を飛び超え。バスに突っ込んで来ようとしていた。
「あ、危ない!」
花音の叫びは直ぐに知れ渡る。炎上しながら近づく車それをどうにかしようとそれぞれが独自に動き出す。
「吹っ飛べ!」
「消えろ!」
「止まって!」
流石に一科生だけあって対処は早い。しかし、
「バ、バカ! 止めろ!」
「落ち着きなさい!」
この状況下での魔法の重ね掛けは良くない。彼らは対処の仕方を間違えた。摩利は急ぎこの現状を打ち破るれる者の名を呼ぶ。
「十文字。押し切れるか?」
真由美ではなかった。彼女では力が足りない。
「防御だけなら兎も角、消火にまで手は回りそうもない」
唯一この場で頼れる克人も余裕がなかった。
「なら、私が消火を担当しますから会頭は防御に専念して下さい」
「で、できるのか?」
深雪が優等生なのは知っている。しかし、こう云うのは経験がものを言う。この状況で深雪が適格な魔法が発動できると思えなかった。
「この位で、慌て過ぎでは?」
「な!」
摩利は深雪に言われ始めて気付く。自分も必要以上に焦っている事に。
徐々に近づく車。その車には余計な魔法の重ね掛けがされている。車を消化するには重ね掛けされている以上の事象改変の力が必要だ。しかも、素早く。摩利は不安だったが、
「!!」
なんと深雪の魔法が発動する前に重ね掛けされていた魔法が吹き飛んだ。
その後、深雪と克人のお陰で大惨事は免れた。
「(術式解散(グラム・ディスパージョン)過保護が過ぎますよ。お兄様。あの程度の事、何ともなかったのに)」
それから暫くして全員が平静を取り戻した。
「皆、大丈夫? 十文字君有難う。お陰でバスは無事だったわ。それに深雪さんも素晴らしい魔法でした」
「有難う御座います。ですが、対処できたのは鈴音先輩がこのバスに減速魔法を掛けて下さったお陰ですから。サポート有難う御座いました」
摩利はこの発言に驚いた。自分は車だけを気にして、バスの事を考え無かった事。深雪だけが減速魔法に気が付いていた事に。
「それに比べて、お前は」
「痛ッ」
摩利は花音に雷を落とす。摩利は珍しく本気で怒っていた。仕方ないそれ程危険だったのだから。
「一年が焦るのは仕方ない。だが二年のお前が真っ先に引っ掻き回すとはどう云う了見だ!」
「だって、私が一番早かっ・・・」
「早けりゃいいて訳じゃない!勝手に動く奴があるか!結局、お前の魔法は余計に事態を悪化させただけだろ!」
「す、済みませんでした」
「緊急の時程、先ずは落ち着く。連携も忘れない事」
摩利は花音を叱りながらも別の事が気になって仕方がない。
「(魔法式を吹き飛ばしたのは誰だ?真由美じゃない。アイツなら魔法式を打ち抜くだろう」
摩利の頭の中に一人の生徒の顔がちらつく。
「(アイツにできるのか?例の力技?しかし、アイツがいたのは後方。視えない場所にいて、あんなに性格に魔法が発動できるのか?)」
だが確証も何にもない。
九校戦選手団 宿舎
事故後、深雪達一校選手団を乗せたバスは無事に宿舎に着く事ができた。
バスから次々に降りていく一校生。多くの者がもうすぐ始まる九校戦に期待を膨らませる中、ただ一人彼は気分が優れない様に見える。親友として無視できそうにない。桐原は声を掛ける。
「どうしたんだよ。服部」
「・・・イヤ、別に」
「少なくとも、好調には見えねえぜ?」
「ちょっと、自信を無くしたよ」
「オイオイ、頼むぜ!お前は明後日から競技だろ」
「さっきの事故・・・」
「危なかったよな~」
「あの時、俺は結局、何もできなかった」
さっきの事故を思い返している服部の視線の先には深雪がいる。
「手出ししなかっただけ他の奴より増しだろ。それに渡辺先輩だって」
「あの人はアノ場合、動くかないのが正解だった。自分じゃあの状況に不向きだと分かったから会頭に任せた。彼女も勝手に動かずに自分の役割を果たした。そりゃ、単純な力比べじゃ俺は勝てん。だが魔法師としての優劣は魔法力だけで決まるものじゃないだろ。大事なのは質じゃなくて資質じゃないのか?」
「!!」
桐原は服部の言葉を聞き逃さなかった。
「けど魔法師の資質まで年下の女の子に負けたと思うと自身を失わずにいられないよ」
「あんなのは場数がモノを言うからな。そんな事で張り合うなよ」
「別に張り合おうなんて」
「兎に角、あんな事は二度と起きて欲しくないが、今度、何か起きたら、その時はお前はお前のできる事をすればいい」
「確かに、あんなのは二度と御免だな。でも、今度何かあっても彼女は冷静に対処するんだろうな」
「ハハッ。かもな、しかし驚いたぜ」
「何が?」
「魔法師の優劣は魔法力で決まるものではない・・・か」
「な、なんだよ?」
「そんなセリフがお前の口から出たって知ったら、会長、泣いて喜ぶんじゃねえの?」
「ッ・・・」
服部は恥ずかしくなったのか宿舎へ急ぐ。
折角だから其の十まで書いてみようかな?