達也の周りは敵だらけ   作:黒以下

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少しずつ少なくしていきます


入学編 中編

その後、達也は摩利に風紀委員本部に連れられた。

 

「委員長、ここ、片付けていいですか? 魔工師志望としてこの状況は」

 

「魔工師!アレだけの対人戦闘スキルがあるのに?」

 

「ここと同じで俺じゃ上位ランクは取れませんから」

 

「すまない」

 

「構いませんよ」

 

「処で、君を入れた理由だが」

 

「イメージ対策ですよね。でもダメですよ」

 

「なぜ?」

 

「摸擬戦の事を忘れたんですか?」

 

「ッ・・・だが一年は歓迎だろ」

 

「二科の方は分かりませんけど、一科の一年はダメでしょう。昨日も『お前を認めない』と言われましたから」

 

「もしかして、森崎のことか?」

 

「知ってるんですか?」

 

「彼も教職員推薦枠で入るんだ」

 

達也は片付けていたCADを落とす.

 

「君も慌てるんだな」

 

本部のドアが開く。風紀委員であろう生徒が二人 入ってきた

 

「本日の巡回、逮捕者ありません」

 

「あれ?片付いてる?渡辺、お前がやったのか?」

 

「いや、手伝って貰った」

 

「新入りか?でもそいつどこかで」

 

「辰巳先輩、彼は例の」

 

「あぁ、服部をフライングで倒した文無しか?」

 

「先輩、その言い方はダメですよ」

 

「お前等、そんなんじゃ足元掬われるぞ」

 

「僕は沢木碧だ」

 

握手を求める手には力が、眼には敵対心が宿っていた。彼は正義感が強いのだろう。疑惑のある達也を不審がっている。このまま誤解されるのも良くない。達也は単純な力を見せる事にした。

 

「ぐっあ?」

 

沢木は油断していなかったが簡単に達也に投げられた。

 

「それみろ」

 

「おいおい、沢木を簡単に投げやがって。なぁ、コイツ何者だ」

 

「彼は九重八雲のお弟子さんだ」

 

「何と!それなら、服部が負けたのも頷ける」

 

「まぁ、二科だろうが何だろうが強い奴は大歓迎だ。俺は3ーCの辰巳鋼太郎だ。宜しくな」

 

「先程は済まなかった許してくれ。改めて、2ーDの沢木碧だ。宜しく」

 

「司波達也です。此方こそ宜しくお願いします」

 

司波家 地下室

 

「お兄様、お時間宜しいでしょうか?」

 

「あぁ、入りなさい」

 

「失礼します」

 

「どうした?」

 

「CADの調整をお願いしたいのですが?」

 

「設定が合って無かったか?」

 

「滅相も御座いません。お兄様の調整は完璧です」

 

深雪のCAD調整は定期的に行っているのだが。

 

「対人戦闘のバリエーションを増やしたいのです。本日の試合を拝見して、痛感しました。私には一瞬で相手を無効化する術式が欠けている事を」

 

「確かに相手の不意を衝くのも一つの戦法だが、お前の減速系魔法が有れば必要ないだろ。お前は俺と違って絶対的な力もあるんだから」

 

「それは、お兄様も同じでしょう」

 

汎用型は特化型と違い、最大99の起動式を格納できるが才能の有り過ぎる深雪には少ない数だ。

 

「お前もCADを二つ持つのがいいんだろうが」

 

「二つのCAD同時操作ができるのはお兄様くらいです。それに、今の私の制御力では無理な事は知っているでしょう」

 

「でもなぁ」

 

「ダメでしょうか?」

 

「ダメじゃないさ。じゃあ起動式の整理から始めよう。測定するから座って」

 

CADの調整は自宅で簡単に出来るものでもない。しかし、司波家には研究機関並みのCAD調整装置がある。測定が済むと達也は直ぐに作業に入る。だが長く続かない。深雪に後ろから抱き着かれた。

 

「み、深雪?」

 

「狡いです。私がこんな恥ずかしい思いをしてるのにお兄様は平気な顔して、私では異性に入りませんか?」

 

「入ったら、まずくないですか!深雪さん?」

 

「お兄様は深雪より、会長ですか?それとも、委員長ですか? 本日は随分親しくされてましたね」

 

「お前、聞いてたのか?」

 

「まぁ!やっぱり。お兄様は年上の女性に弱いですものね?」

 

「なぁ、深雪? 何を誤解してるんだ?」

 

「美人の先輩に鼻を伸ばすバカ兄貴にはお仕置きです」

 

達也は深雪の使おうとしている起動式を見た

 

「(オイオイ、『お仕置き』レベルじゃないだろ?)」

 

達也は覚悟した。しかし、目覚めた達也に傷一つ無い。

 

「なにするんだよ」

 

「ですから『お仕置き』です」

 

「勘弁しろよ」

 

翌日の深雪は寝不足だった。理由は分かっている。

 

「(昨日の出来事。慌てるあの人が可笑しくて、珍しくて、可愛いとさえ思えて、ついつい、調子に乗ってしまった。だがこれは恋愛感情ではない。あってはならない。あの人は実の兄。私はあの人に命を貰った。失ったはずの命を 私はあの人に何も求めない。多くの人は私を『天才』と呼ぶが本当の『天才』はあの人だ。まぁ、あの人は次元が違うが。今の私はあの人にとっての鎖、でも、いつかは鎖を解く為のカギになる)」

 

深雪は誓いを新たに朝食の準備を始める。

 

入学 四日目

 

今日から新入部員勧誘期間だ。美月とレオがクラブを決める中 エリカは迷っていた。

 

「達也君はクラブきめた?」

 

「いや、まだ、だけど」

 

「じゃあ、二人で回らない?」

 

「これから委員会なんだが?」

 

「え、そっか・・・じゃあ私帰ろうかな・・・」

 

達也は普段から他人に鈍感だがエリカの機嫌が分からない程ではない。

 

「どの道、委員会で巡回するから、その付き添いじゃダメか?」

 

「じゃあ、三十分後に教室の前で」

 

今日が風紀委員の初仕事だ。教職員推薦枠で選ばれたからには、職務を全うしようと心に誓う森崎。だからこそ満を持して開けた先にいた人物には驚きを隠せない。

 

「なぜ、ウィードのお前がいるんだ!ここは選ばれた者だけが来る処だぞ」

 

「先輩達より後に来た上に禁止用語をこんな処で使うなんて、非常識が過ぎるぞ」

 

「うるさい!だから、なんでお前が」

 

「彼も選ばれたからだろ。ほら、早く席に着け。ミーティングを始める」

 

風紀委員の活動が始まる。

 

「さて、今年も新入部員勧誘期間がやって来た。期間中は厄介な事に新入生に活動内容を分り易くするデモンストレーションの為にCADの使用が許可されている。このため毎年、魔法競技部で新入部員の取り合いで魔法の打ち合いになる。この現状を打ち破る為の我々『風紀委員』だ。さて、今回から新たにメンバーが加わる。紹介しよう、1-A、森崎駿と1-E、司波達也」

 

「役に立つんですか?」

 

「司波に負けたのは服部だけじゃないぜ?」

 

「うん。彼は強いよ」

 

「!! 沢木。お前も負けたのか?」

 

「二人の腕前は見た。さて紹介も終わったから。新人以外は活動を始めてくれ」

 

本部に残ったのは3人になった。

 

「まずは、これを」

 

摩利が渡したのは腕章とレコーダー。

 

「レコーダーは胸ポケットに、違反者を見つけたらスイッチを入れてくれ」

 

「分かりました」

 

「基本の見回りは一人で、それから一々CADの使用許可は取らなくていい。正し、不正使用は他の生徒より重い処罰を受ける。退学も念頭に置いておけ」

 

「質問いいですか?」

 

「どうした?」

 

「CADは委員会の備品を使っても?」

 

「知ってると思うがアレは旧式・・・君は『シルバー・ホーン』を持ってるだろ」

 

「シルバー・ホーン?」

 

森崎もその名を知っていた。彼も特化型CADの愛用者だ。因みに彼の実家は要人警護で有名だ。その中に『シルバー・シリーズ』を使っている者もいる。

 

「中条先輩に聞いてないんですか?アレは確かに旧式ですけどエキスパート使用の高級品ですよ?」

 

「アイツは怖がって来ないよ。成程、そう云う事なら好きにしてくれ」

 

確認を取った達也はCADを二つ取る。達也は本部を離れて直ぐ森崎に絡まれる。

 

「お前がCADの同時操作なんて出来るはずがない。サイオン波の干渉で使えなくなるのが落ちだ。調子に乗るな」

 

「やれやれ、困った奴だ」

 

達也が教室に着いた時エリカは昇降口にいた。目の前は既にお祭り騒ぎ。

 

「うわっ!これじゃあ、帰れないじゃん」

 

「じゃあ、どうするんだ?」

 

「達也君?」

 

「遅れて済まない」

 

「アレ?謝るの?」

 

「遅れたのは俺だ。だが、遅れたのとエリカが約束の場所に居なかったのは別問題だと思うが」

 

「うっ! ごめ・・・ねぇ、達也君って性格悪いって言われない?」

 

「そんな事はない。人が悪いとは良く言われるが」

 

「そっちの方が悪いよ! まぁ そんな悪い人と一緒に回ってあげるんだから感謝なさい」

 

エリカはこの時まで機嫌が良かったが。

 

「ちょ、離してください」

 

非魔法競技部がエリカの取り合いを始めたのだ。

 

「(オイオイ、やり過ぎだろ)」

 

突然、エリカの周りの人垣が崩れる。

 

「走れ」

 

達也はエリカを引っ張る。ここまで来れば・・・と思ったが。

 

「エリカ 大丈ー」

 

二人同時に固まる。仕方がないエリカの着衣が乱れ下着が見えている。

 

「み、見るなー」

 

エリカの悲痛な叫びと同時に破裂音がした。

 

第二小体育館

 

二人は第二小体育館に来ていた。現在は剣道部のデモンストレーションが行われている。

 

「ここにも、剣道部があるんだ?」

 

「あっても可笑しくないだろ?」

 

「魔法が使える人は剣術の方に流れるんだよ」

 

そんな会話をしていると、周りが騒がしくなる。

 

「なにしてるの?桐原君?」

 

「何って、手伝いだよ」

 

「何も此処までしなくても」

 

見ると剣道部員が倒れている。

 

「コイツが倒れてるのは弱いからだ。仮にもレギュラーがなさけねぇ。次はお前がやるか?」

 

「剣技で私に勝てると思ってるの」

 

「あ、彼女、壬生紗耶香じゃない。それに、桐原武明」

 

「知ってるのか?」

 

二人が静かに向き合う。試合が始まった。

 

「へぇ~壬生先輩強いんだな」

 

「なんだか別人見たい。たった二年であれだけ、腕を上げるなんて」

 

決着が着いた。両者同時かと思われたが桐原の小手は浅かった。

 

「負けを認めなさい。真剣ならその腕 使いものにならないわよ」

 

「真剣なら・・・そんなに真剣勝負がお望みか?だったら、真剣で勝負してやるよ」

 

桐原は袖に隠れていたCADを操作して紗耶香に切り掛かる。上手く躱して様に見えても紗耶香の胴着は切れていた。

 

「どうだ壬生。真剣の切れ味は」

 

いきなりの魔法使用とそれと同時に発生した不快音に生徒達が騒ぎ出し、気分の優れない者達も出始める。

 

「竹刀であの切れ味。そしてガラスを引っ掻いた様な不快音。間違いない。あれは振動系近接戦闘魔法『高周波ブレード』」

 

「これが剣道と剣術の差だ」

 

壬生はもう一度竹刀を構える。

 

「ダメ!危ない」

 

エリカが叫ぶ。しかし、達也の行動の方が早かった。達也は二人の間に割って入る。

 

「誰だ?」

 

桐原の疑問は一つではない。達也が腕を交差させると同時に桐原の魔法が発動しなくなり、不快音も消えた。しかし、生徒達の気分は優れない。それどころか悪化している様だ。気分が回復したのは達也が桐原を組み伏せた後だ。

 

「一体、何が?」

 

「誰だ?アイツ」

 

「見ろ! 風紀委員だ」

 

「でもアイツ、エンブレムがないぞ」

 

「ウィードが風紀委員?」

 

「あ!アイツ。服部をフライングで倒したって云う」

 

「なに?アイツが!何故あんな奴が風紀委員をしてるんだ?」

 

達也はヤジを気にする事無く仕事をする。

 

「此方、第二小体育館。逮捕者一名、負傷していますので担架をお願いします」

 

「おい、どう云う事だ」

 

「桐原先輩は魔法の不適正使用の為、同行を願います」

 

「なんで、桐原だけ、壬生も同罪だろうが」

 

「壬生先輩は被害者でしょう?」

 

「なんだ?その口の利き方は?ウィードが調子に乗るな!」

 

「風紀委員が喧嘩売ってどうすんのよ」

 

「風紀委員の前で禁止用語ですか?」

 

桐原と同じ剣術部員であろう生徒が達也に襲い掛かる。

 

「ぐっあ!」

 

しかし、彼も桐原、同様に達也に組み伏せられる。

 

「すみません。此方、第二小体育館より再度報告。逮捕者の一名追加ともう一台の担架を追加をお願いします」

 

この状況で他の剣術部員も黙っていられない。まず、二人同時にそしてその後は部員全員で達也に襲い掛かる。

 

「クソッ、ちょこまかと」

 

「すいません、仕事の邪魔なんですが?」

 

「邪魔は、お前だ!」

 

「凄い!誰も達也君に敵わない」

 

紗耶香はこの状況を見過ごせなかった。仮にも騒動の原因の一つは自分だ。何より関係のない後輩が巻き込まれている。紗耶香は助けようとしていた。

 

「待て壬生」

 

「司主将?」

 

「今はここを離れろ」

 

「でも?」

 

「いいから来い」

 

紗耶香は司に従った。一方で剣術部は未だに達也に喰って掛かっている。しかし、達也に触れられずにいた。

 

「クソッツ、このままじゃ剣術部の恥」

 

「これでも、喰らって後悔しろ」

 

彼らは達也に向かって魔法を放つ。

 

「達也君!危ない」

 

「やれやれ、また、魔法の不適正使用ですか?」

 

心配するエリカを他所に達也は平然としていた。魔法は発動しなかった。

 

「なぜだ? なぜ魔法が使えない。俺達はウィードじゃないんだぞ」

 

「き、気持ち悪い、頭が揺れる」

 

「な、なぜだ?ま、まさかお前か?何をした?」

 

「お、おい貴様。今すぐ止めろ!」

 

「お前!こんな事して、只で済むと思うなよ」

 

「済まないのは先輩達の方ですけど」

 

「いいから、止めろ!」

 

「止めて欲しいなら、CADを床に置いてください」

 

「ふ、ふざけるな!なぜ、俺達がお前なんかの云う事を聞かなきゃいけないんだ」

 

「そうですか。ならこのままですね!」

 

その後、直ぐに彼らは気を失う。彼らを見下す様に立っている達也。そしてその風景を興味深く見る者。

 

剣道部主将 司 甲

 

達也は騒ぎの後、部活連本部にいた。騒動の報告の為だ。目の前には3人。真由美と摩利。それともう一人。

 

「以上が騒動の顛末です」

 

「良く十人以上相手に無事だったわね」

 

「流石は九重先生のお弟子さんと言った処か」

 

「あの程度なら、ケガなんてしませんよ」

 

「当初の経緯は視ていないんだな」

 

「はい」

 

「最初に手を出さなかったのはその所為?」

 

「簡単に介入するとややこしくなる事もありますから」

 

「成程。それで連中は?」

 

「保健委員に引き渡しました」

 

「これからどうする。連中の処分は捕まえた君の自由だ」

 

「厳重注意でいいのでは?」

 

「それでいいの?」

 

「・・・達也君が訴追しないならウチとしてもこれ以上の大ごとにはしない。どうする十文字」

 

「(コイツが十文字克人全クラブ活動統括組織『部活連』の会頭。しかも十文字は同じ数字付きの中でも七草と並ぶ名門)」

 

「寛大な決定に感謝する。殺傷性の高い魔法を使ったのだ。本来なら停学でも退学でも可笑しくない」

 

「もう一度確認させてくれ。魔法を使用したのは桐原だけか?」

 

「風紀委員が簡単に魔法を使わせる訳にはいかないでしょう」

 

「そうだな。良し、もういいぞ」

 

「失礼します」

 

報告が終わった頃、日は傾いていた。

 

「深雪の事だから待ってるんだろうな」

 

達也の考えは的中した。しかし、人数までは当たらなかった。

 

「皆で待っててくれたのか?」

 

喫茶店 アイネ・ブリーゼ

 

達也達は喫茶店にいた。達也が待たせたお礼に奢る事にした。

 

「それにしても、良くケガしなかったな?」

 

「あんなもん、刀と変わらんだろ?」

 

「それって、真剣の対処は簡単て事ですか?」

 

「心配し過ぎよ美月」

 

「確かに、達也君も凄かったけど、桐原先輩もトップレベルの剣術使いなんだけど?」

 

「それでも、お兄様に勝てる者はいないわ。お兄様は世界最強クラスの人だから」

 

「でも、高周波ブレードって刀と違って超音波も放っているんでしょう?」

 

「お兄様が優れているのは体術だけではないわ。お兄様は魔法の無効化も得意なの」

 

「魔法の無効化?」

 

「そんなレアスキル持ってんのか?」

 

「ねぇ、エリカ。高周波ブレードの超音波の頭痛より、その後の吐き気の方が強かったんじゃない?」

 

「うん、確かに」

 

「それは、お兄様の仕業よ」

 

「そうなの?」

 

「お兄様。『キャスト・ジャミング』理論はまだ未完成だったのでは?」

 

「キャ!『キャストジャミング』?」

 

「どう云う事だよ」

 

「『キャスト・ジャミング』って魔法の妨害電波の事だっけ?」

 

『キャスト・ジャミング』は魔法式がエイドスに働き掛けるのを妨害する魔法で分類的には無系統魔法の一種である。

 

「本来、『キャスト・ジャミング』を使うには四系統八種類の全ての魔法を妨害する特別なサイオンノイズが必要だ」

 

「それって、特別な石がいるんじゃ?」

 

「アンティナイトだよ。エリカちゃん」

 

「そう、それ」

 

「達也さん持ってるんですか?」

 

「あれは軍事物資だから、民間人が持てる訳ないだろ?」

 

「でも・・・」

 

「・・・此処からはオフレコで頼みたいんだが、俺が使ったのは『キャスト・ジャミング』じゃなくて、その理論を応用した『特定魔法のジャミング』なんだ」

 

「なんだそれ?」

 

「そんな魔法ありましたっけ?」

 

「まさか、達也君が新しい魔法を編み出したって事?」

 

「出来るかもって云う可能性を発見しただけだ」

 

「どうやるんだよ」

 

達也の説明が始まる。

 

「まず、二つのCADを使うと大抵はサイオン波の干渉で魔法が発動しにくい事は知ってるな?」

 

「うん」

 

「その干渉波を利用するんだ」

 

「具体的にどうするの?」

 

「一方のCADで妨害したい魔法の起動式をもう一方でその逆の起動式を展開」

 

「それで?」

 

「その際に発生するサイオン干渉波を『キャスト・ジャミング』と同じ様に相手に放つ」

 

「すると どうなるんだ」

 

「その起動式同士で発生するサイオン干渉波を無系統魔法として放つ事で、元々発動する筈だった二種の魔法と同種類の魔法発動をある程度妨害できるんだよ」

 

つまり今回、達也が行ったのは『振動魔法のジャミング』である。

 

「理屈はある程度解ったけどなんでオフレコなんだ?」

 

「この技術はまだ未完成だし、これを使うと確かに相手は魔法を使いずらくなるけどコッチは完全に使えないからな」

 

「そうですか」

 

「まぁ、それだけが理由じゃないけど」

 

「他にあんのか?」

 

「一番の問題は仕組みその物だ」

 

「何が問題なんだ?」

 

「今や色々な処で魔法は必要不可欠。『キャスト・ジャミング』が余り問題視されないのは『キャスト・ジャミング』に必要な『アンティナイト』の数が少ないからだ。こんなお手軽な魔法無効化技術が広まったら社会基盤が揺らぐだろ。対抗策もない今は公表する気にはなれないよ」

 

「成程ねぇ」

 

新入部員勧誘期間 二日目

 

達也は風紀委員の誰よりも奔走していた。剣道部の騒ぎを聞きつけた一科の上級生達が達也に嫌がらせを始めたのだ。彼らは達也に直接 危害を加えない。乱闘騒ぎを態と起こし、止めに入るために派遣された達也に向かって魔法を放つ。要は誤爆に見せかけるのだ。それでも、達也は挫けない。連行出来る者は連行した。

 

「失礼します」

 

達也は報告書を届けに生徒会室に来ていた。

 

「大活躍の様ですね?」

 

「余り、喜ぶ事じゃないでしょう」

 

達也は不満げだが深雪は達也以上に不満げな顔をしている。

 

「お兄様、正直にお答え下さい」

 

「どうした?深雪」

 

「お兄様!魔法による攻撃を受けませんでしたか?」

 

「イヤ、受けてはいない」

 

「・・・攻撃の意思を向けられた事は否定しないのですね」

 

「まぁ、事実だからな。しかし、お前の感知能力も大したもんだな」

 

「誤魔化さないで下さい」

 

「達也君。大丈夫なの?」

 

「大丈夫ですよ。 だからお前もこんな事で怒るなよ?」

 

「大事な家族が危機に晒されたんです!怒るのは当然です。それも、どうせ理由はお兄様への嫉妬でしょう」

 

「俺の事は誰よりお前が良く解っているだろ。俺は不意打ちなんかに頼らなければならない卑怯者には負けないよ。奴等じゃ俺に傷一つ付けられない。俺を傷つける事の出来るのは、イヤ、本気の俺を真正面から殺せるのは世界中探してもお前だけだろ?」

 

「そ、それは・・・」

 

生徒会メンバーは驚いた。深雪が達也の言葉を否定しない事に。

 

新入部員勧誘期間 四日目

 

「司波です。直ぐ向かいます」

 

今日も達也は乱闘と云う名の嫌がらせに自ら赴く。

 

「サイオン! しかも狙いはまた俺か?」

 

現場に向かう途中に自分に向けられたサイオンを知覚する。達也は落ち着いて『キャスト・ジャミング』もどきを発動する。

 

「待て」

 

見事魔法の発動は無効化したが実行犯には魔法を使った高速走行で逃げられた。だが、手掛かりが無い事もない。

 

「(高速魔法に振り回されない鍛え抜かれた体。だが、トリコロールのリストバンド。これは厄介だな」

 

それから三日後

 

「今日も委員会か?」

 

「イヤ、今日は非番だ。やっとゆっくりできそうだ」

 

「大活躍だったもんね?」

 

「今じゃ有名だぜ?魔法を使わずに並み居る魔法競技者を連覇した『謎』の一年って」

 

「『謎』ってなんだ?謎って」

 

「達也君は魔法否定派の送り込んだ刺客なんでしょ?」

 

「他人事だと思って、この一週間に誤爆のフリした攻撃が何回あったと思ってるんだ。全く、アイツ等も下らない対抗心を燃やすのは勘弁して欲しいよ」

 

「でも、携帯制限が復活したんだから落ち着くんじゃないですか?」

 

「ならいいけど」

 

深雪も達也も自分だけが先に帰ると云う選択肢がない。非番の達也は深雪を生徒会室に送っていた。その途中に声が掛かる。

 

「司波君」

 

声の主は壬生紗耶香。

 

「初めましてって言った方がいいかな?」

 

「そうですね。初めまして。剣道部の壬生先輩ですよね」

 

「二年の壬生紗耶香です。この前は有難う。助けて貰っておいて黙って帰ってごめんね?あの時のお礼も含めてお話ししたい事があるから、今から少し付き合ってくれない?」

 

「生徒会室に用があるので、その後なら」

 

「え、あぁ。じゃあ用事が済んだら来てね。カフェで待ってるから」

 

達也はそれだけ聞くと深雪を連れて歩き出す。

 

「じゃあ 頑張れよ深雪」

 

生徒会室にには直ぐ着いた。達也はその場を離れようとした。

 

「待ってください」

 

「どうした」

 

「不安です」

 

「先輩の事か? どうせ大した話はしないだろ」

 

「本当にそうでしょうか?」

 

「?」

 

「お兄様が名声を博するのは嬉しいです。しかし、その所為でお兄様の本当の力が、イエ、その一部でも知れれば 私利私欲の為に群がる連中が大勢出てきます」

 

心配する深雪に達也は。

 

「たかが、委員会の仕事で『名声を博する』は言い過ぎだ」

 

と言って、

 

「もう いいじゃありませんかそんな事」

 

持っていた鞄で殴られた。

 

「心配するな 俺はお前の為だけにあるんだから」

 

「だから、それが心配なんです!」

 

校内 カフェテリア

 

「お待たせしました」

 

「いいのよ。コッチこそ急に突き合わせてごめんね?」

 

「それで話って?」

 

「えっと、まず改めて。この間は有難う御座いました」

 

「仕事ですから」

 

「本当ならあの程度の事、問題にしなくていいのに、風紀委員は点数稼ぎの為に大ごとにしたがるの」

 

「俺も風紀委員ですが」

 

「あ、ごめ・・・」

 

「先輩はお礼以外に話があるんじゃ?」

 

「司波君。単刀直入に聞きます。剣道部に入らない?」

 

「お断りします」

 

「理由を聞いても?」

 

「聞きたいのはコッチの方なんですが?」

 

「実は司波君に協力して欲しい事があるの」

 

「どう云う事ですか?」

 

「魔法科高校で二科生は魔法実技の授業を受けられない。まぁこれは分かる。実技指導の先生が少ないのは知ってるし、出来ない私達がいけないのも。でもそれだけで、全て決められるのは可笑しいと想うの。魔法だけが私の全てじゃない」

 

「それで?」

 

「今の現状に不満な生徒は多いわ。そこで、私達は非魔法競技部で連携して部活連とは違う新たな組織を作って学校側に考えを伝えるつもり」

 

「何を伝えるんですか?」

 

「え? 何って、それは」

 

「答えられないんですか?」

 

「まだ決まってないだけ」

 

「そうですか。協力するかはそれからですね」

 

達也はカフェを後にする。

 

「達也君。昨日は壬生をカフェで言葉攻めにしたらしいな?」

 

達也は翌日 生徒会室で昼食を取っていた。

 

「誤解ですよ」

 

「目撃者は多数いるが?」

 

「お兄様 昨日は一体何を」

 

部屋の気温が低下する。深雪の魔法が暴走したのだ。

 

「事象干渉力が強いのね」

 

本来、魔法が暴走する事は稀だ。それ程の力の持ち主がいないから。だから深雪の力の異常さが解る。

 

「深雪 落ち着け」

 

達也は深雪を余り怒らない。達也は暴走の原因を知っている。原因に自分の力が関係していることを。だから、強く怒らない。

 

「その件で真面目な話があるんですが」

 

達也は昨日の件の報告をした。

 

「点数稼ぎねぇ。それは奴等の勘違いだ。風紀委員は名誉職だから内点に関係ないよ」

 

「でも、そう思われても仕方ない。イエ、正確にはそう思う様に印象操作してる人がいるんだけど」

 

「正体は解ってるんですか?」

 

「解っていれば止めさせている」

 

「俺が言ってるのは印象操作してる奴等の背後の連中です」

 

「そ、それは」

 

「此処はブランシュの影響を受けてるんじゃないですか?」

 

「なぜ、その名を?情報規制されているのに」

 

「噂の出処を全て隠せる訳ないでしょう?それにこう云う事は隠すべきじゃないんです」

 

「それは、そうなんだけど」

 

「まぁ、此処は国策の機関ですから会長が思い悩む事無いですよ」

 

「慰めてくれてる?」

 

「でも、追い込んだのも司波君なんじゃ」

 

「自分で追い込んで、フォローして、やれやれ、すご腕もジゴロがいたもんだ」

 

「ジゴロ?凄腕の?」

 

「深雪。落ち着けよ」

 

「それで?これからどうするんだ?」

 

「壬生先輩、次第ですね」

 

達也は放課後の風紀委員本部で摩利に頼まれ事務仕事をしていた。

 

「あの人、今までどうやってきたんだ?」

 

順調に片付ける中、端末に呼び出しが掛かる。相手はカウンセラーの小野遥。初対面ではないが、面と向かって話すのは初めてだ。

 

「失礼します」

 

「いらっしゃい。座って」

 

「俺、何かしましたか?」

 

「実は司波君に手伝って欲しい事があるの」

 

「手伝いですか?」

 

「毎年、新入生の何人かに継続的にカウンセリングを受けて貰ってるんだけど」

 

「なぜ、俺に」

 

「特に理由はないけど引き受けてくれない?」

 

「まぁ 俺でいいなら」

 

「じゃあ、質問いいかな?」

 

遥の質問は大したものでは無かった。

 

「じゃあ、これで」

 

「ちょっと待って」

 

「なんですか?」

 

「壬生さんと付き合ってるって本当?」

 

「どこからそんなデマが出てるんですか」

 

「なんだ?デマなの」

 

「デマですが。それが何か?」

 

「本当ならお願いしたい事が有ったんだけど」

 

 

夕食後 司波家 リビング

 

「お兄様、お昼の事ですが」

 

「あぁ、お前も無関係じゃ無くなるだろ」

 

達也の説明が始まる。

 

「確かブランシュは反魔法活動を行っている政治結社ですよね」

 

「奴等は市民運動を自称してるが裏じゃ立派なテロリストだ。そしてこいつ等が校内で暗躍している。委員会活動中に下部組織のエガリテに参加しているだろう生徒を見掛けた」

 

「魔法科高校でそんな事があるのですか?」

 

「奴等は反魔法主義を掲げているが表立って魔法を否定してない。奴等の掲げているスローガンは『魔法による社会的差別の撤廃』なら差別とは何か?」

 

「本人の努力や実力が社会的評価に反映されない事?」

 

「奴等の言う差別は平均収入の格差だ。魔法師の平均収入が高いのは一部に社会に必要とされるスキルを有する高所得者がいるからだが」

 

「魔法が使えない方々は魔法を使うのにも、才能だけではなくスポーツ等と同じで長期間の修学と訓練が必要な事を知らないのでしょうか」

 

「知っているさ 知っていて言わない。都合の悪い事は聞かず、考えずに平等と言う言葉で自分と周りを騙している」

 

「ではウチの生徒達は?」

 

「魔法から離れたくない。しかし、魔法が上手く使えず一人前に見られないのは耐えられない。彼らは第一線で活躍している者が努力と云う対価を払っている事実から眼を背け『魔法による評価』を差別だと決めつける。まぁ、そう云う弱さは俺にもあるから分からなくもないが」

 

「そんな事はありません。お兄様には誰にも真似出来ない才能があるじゃないですか。そりゃ、標準的な才能は欠けていますが、それこそ本当に血の滲む努力を人一倍してきたではありませんか」

 

「それは、俺に別の誰にも真似出来ない才能があったからだ」

 

「ッ・・・」

 

「そうでなければ俺も平等と言う言葉に縋り付いていただろう・・・ではそれを解って先導している奴等の目的は何か?その背後にはこの国を魔法の廃れた国にしたい思惑がある。この国の力が損なわれて得をするのは誰か」

 

「まさか?彼らの背後には」

 

「だろうな。だがそんな事を十師族が簡単にさせないさ。特に四葉は」

 

「四葉、もし、叔母様が介入すれば私達は本家に戻される」

 

「安心しろ深雪。必要なら俺が出る。俺達の今を誰にも邪魔させない」

 

 

翌日の達也は実習室で苦戦していた。今日の実技は二科生でも比較的簡単なモノだが。

 

「940ms 達也さんクリアーです」

 

「やれやれ、三回目でやっとか」

 

「本当に実技が苦手なんですね?」

 

現在の優秀な魔法師の魔法発動速度は500msとされている。今の達也には無理な速度だ。

 

「自己申告は何度もしたよな?」

 

「謙遜だとばかり」

 

「実技が出来てたらこんな処にいないだろ」

 

「でも、実戦ではもっと早くできるんでしょう?」

 

達也は背筋が凍るのを実感した。

 

「なぜ、そう思う?」

 

「だって、達也さん凄く遣り辛そうにしてました。本当はこの程度なら直接魔法式を構築できるんじゃないですか?」

 

「本当にイヤな眼をしてるよな」

 

「ご、御免なさい」

 

「イヤ、視えてしまうのは仕方ないさ」

 

達也は少しだけ真実を話す事にした。

 

「確かに基礎単一系統なら直接魔法式を組むことで、もう少し早くできるけど、それは工程の少ない時だけ。俺には精々5工程が限界だ」

 

「5工程でも戦闘には十分なんじゃ」

 

「俺は戦闘用に魔法を習ってる訳じゃないからな」

 

その日達也はまた紗耶香に呼び出されていた。

 

「私達は学校側に待遇改善を求めるわ」

 

「具体的には何を?確か授業の事はいいんですよね。だとしたらクラブですか?でもたしか非魔法競技部の活動場所と時間は十分確保されてるはずですが?」

 

「司波君も不満があるんじゃないの?」

 

「それは、まぁ」

 

「だったら」

 

「でも、俺は最初から学校に期待してませんから」

 

「じゃあ、司波君はどうして此処で学んでいるの?」

 

「俺が欲しいのは、魔法科高校の卒業資格と魔法科大学や高校なんかにある非公開文献などの閲覧資格だけですから、待遇は気にしてないんですよ」

 

次の日。新たな騒動が始まる。ハウリングが酷く音量が大きいのは彼らが放送器具を使い慣れていないからだろう。

 

「全校生徒の皆さん。僕達は校内の差別撤廃を目指す有志同盟です。僕達は学校側に対し生徒会と部活連に対等な立場での交渉を求めます」

 

この放送に少し遅れて『放送室に集合せよ』と云うメールが届く。現場に向かう途中に深雪がいた。同じ様なメールを受けっとったのだろう。

 

「遅いぞ」

 

彼らが来たときには野次馬の生徒がいた。

 

「すいません」

 

謝っても急ぐことはしない。

 

「状況は?」

 

「電源を切ったからこれ以上の放送は出来ないが彼らはマスターキーを使って閉じこもっている」

 

「明らかに犯罪ですね」

 

「ですから彼らがこれ以上ヤケを起こさない様に慎重に行動すべきです」

 

「此方が慎重になっても奴等の聞き分けが良くなる訳じゃないだろ。此処は多少強引でも早急な解決を目指すべきだ」

 

どうやら、鈴音と摩利では考え方が違う様だ。

 

「会頭はどう考えてるんですか?」

 

このままでは埒が明かないと思い克人の意見を聞く。

 

「俺は彼らの交渉に応じてもいいと思っている。元々彼らの思い違いだ。此方の立場を理解させる事が大事だろう」

 

「なら、このまま待機ですか?」

 

「それに関してはまだ決断できん。このままではいかんが施設を破壊して無理に解決する事でもあるまい」

 

それを聞いて達也が行動にでる。

 

「もしもし壬生先輩?」

 

達也の行動に周りは唖然としている。会話の内容が聞き取りずらい。

 

「会頭は交渉に応じる様です。生徒会の方は・・・」

 

達也は鈴音を見ている。その行動の意味を理解したのか鈴音は首を縦に振る。

 

「あぁ。生徒会も同様みたいです。だから交渉の日時について打ち合わせしたいんですけど?・・・先輩の身の安全は保障しますよ」

 

しばらくして達也の会話が終わる。

 

「今のは壬生か?」

 

「すぐ出るそうです」

 

「そ、そうか?」

 

「安心するのは早いですよ。早く体制を整えましょう」

 

「何の?」

 

「何のって、このバカ騒ぎを起こした連中を捉える体制ですよ」

 

「君が勝手にアイツ等の身の安全を保障したんだろ」

 

「そうです。勝手にですよ。だから俺の言葉に何の効力もありません。元々俺は生徒会の代表でも部活連の代表でもありませんから」

 

「人が悪いですよ。お兄様」

 

「今更だな」

 

やがて放送室の扉が開き中にいた生徒達が拘束される。

 

「ちょっと!これどう云う事、司波君。私達を騙したのね!」

 

「司波はお前達の事を騙してはいない」

 

「じゃあ、交渉はどうなるんですか?」

 

「交渉には応じる。だがそれとお前達のやった事を認める事は別問題だ」

 

「それはそうなんだけど。彼女を離してあげて?」

 

「七草?」

 

「真由美!どう云う事だ?」

 

「学校側は今回の事を私達、生徒会に委ねるそうです」

 

「なに?なんて無責任な」

 

「壬生さん。交渉について打ち合わせしたいから付いて来て?」

 

「分かりました」

 

紗耶香は真由美と放送室を後にする。

 




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