達也は無事、摩利に依頼された通りに真由美と下校する事が出来た
「そう云えば 達也君は何処で何をしてたの?」
「資料庫で『賢者の石』に関する文献を探してました」
「一年のやる事じゃないと思うけど」
「日々 才能の不足を道具で補えないかと考えてるんですよ」
「・・・不足って『術式解体』が使える魔法師が何言ってるのよ。九校戦の後夜祭前に、色んな処から声かけられまくってたくせに」
「それでも俺は劣等生なんで」
「達也君さぁ もうそろそろ 自分を劣等生だって言うの 止めなさい。君は実績を残してるんだから そんなんじゃ 両方から嫌われるよ」
「・・・気を付けます」
この会話からしばらくして
「・・・ねぇ 達也君」
「何でしょう」
「ホントは 私が帰るのを待ってたんでしょ」
真由美は達也の答えを待たずに続ける
「摩利に 反対派が襲ってくるかもしれないから家まで送ってやれとか言われたんじゃない?」
「良く解りますね」
「取り敢えず 気づかなかったフリしておくけど」
「でも なんで そんな事を此処で?」
「家まで来る必要がないって事を分かってもらうためよ。 あぁ迷惑だ なんて思ってないから」
「はぁ」
「一人で帰らせるのは危険だって 摩利に言われたかもしれないけど、私が 一人で帰るのは もしもの時に皆を巻き込まない為。『お嬢様』は色んな理由で狙われやすいから それにちゃんとボディーガードもいるしね」
「え? そうなんですか?」
「もう 駅で待ってると思うけど」
「あぁ だから 家まで送る必要がないんですね 駅にボディーガードが来るから」
「そう云うこと」
下校後 司波家 リビング
「お兄様 どうかなさいましたか?」
「あぁ、実は夕方の事で、気になってることがある」
「・・・先輩の護衛の方の事ですね」
駅で待っていた護衛は男性だった てっきり 女性だと思い込んでいたので驚いた
「名倉 三郎さんでしたね・・・名倉 やはり『数字落ち』エクストラ・ナンバーズでしょうか?」
エクストラ・ナンバーズ。数字を剥奪された者の総称。剥奪理由は任務失敗、反逆、無能など様々。他と違い、成果を上げる事が出来なかった者達。彼らは失敗作、欠陥品と揶揄されている。
「現、十師族が『数字落ち』を護衛に使うのでしょうか?」
下校後 七草家 浴室
真由美は浴槽で考えに耽っていた。彼女の眼に映るのは、お湯の中の自分の身体。
貧弱なプロポーションだとは思わない。身長は中三で止まったままだが、既にこれは遺伝だと諦めている
腕と足を延ばす
背の低い割には手足が長いとよく褒められる
視線が 胸にいく
胸も身長の割に大きいと言われる。ウエストも 服で苦労した覚えもない。外見は割とイケてる方だと思っている。しかし、 彼女 司波深雪を前にしてはその自信が揺らいでしまう
彼女の事は新入生の写真資料で初めて知った。写真をひと目見て美少女なのは分かっていたが 実際に見て驚いた。 本当にこんな美少女が存在するのかと、腕も足も不健康そうに見えないギリギリのバランスですんなりと長く美しく、ウエストは折れそうに細く締まりながらも胸と腰周りは女らしい曲線を描いている。何より驚いたのが彼女の身体が左右対称だった事、普通ならあり得ない事だと真由美は知識で知っていた。時折、彼女の見せる仕草に同じ女の自分でさえ見惚れてしまうことがある。彼女を家族に持つ男の子は他の女の子が色あせて見えるのではないのかと思えてしまう
その彼女を家族に、妹に持つ兄 司波達也の方は本当に彼女と血の繋がりがあるのかと疑ってしまうくらいの外見をしている。まぁいい方ではあるが、しかし中身の方は天才と言われる妹以上。今の評価基準は長い時間と手間を掛けて作られているものだが彼の存在はそのシステムに喧嘩を売っている。彼の本来の評価基準はどんなに高く見積もってもCランクだが、実際に彼が自分たちの前で積み上げていく功績はAランクをも凌駕するもの。
彼が普通でないことを今日ようやく確信した。本格的に疑い出したのは九校戦で見せつけられた深雪の圧倒的な魔法力からだが 今日 彼等を名倉に会わせたのは一種のテストの様なもの。『ナクラ』という名にどんな反応を示すか見てみたかった。そして彼が一瞬だけ動揺したのが分った。やはり彼らは普通ではない 一般の魔法師ではない
この時、真由美の頭で 『司波』➡『シ波』➡『四波』 彼等も『数字落ち』なのではないかと考えた。
生徒会長選挙当日 生徒総会前 舞台袖
「達也君 昨日はどうだった?」
「俺が三回襲われ掛けました」
「は?」
「会長のこと 甘く見過ぎてました」
「・・・以上の理由を以って、私は生徒会役員の選任資格に関する制限の撤廃を提案します」
真由美の議案説明が終わると三年の列から手が上がる 一科の三年 浅野という女子生徒
「この制度の変更をすると云う事は採用したい二科生がいると云う事ですか?」
「私は今日で会長の座を退きますから 新たな役員の任命権は私にはありませんよ」
「時期生徒会長に意中の二科生を任命するように働き掛ける事はできるでしょ」
「次の生徒会役員の任命に私は一切、関わりません」
「では次期会長に傍に置いておきたい二科生がいるので、その意向を受けてこの制度の変更を言い出したと?」
「私が今回 この件を議題にしたのは 私にとって機会がないからです」
「役員に任命すべき二科生がいないなら変更の必要はないのでは」
「いる いないの問題ではないと思います。二科生に役員になる権限がないという意志表明は間違っています。間違っているものをそのままにはしておけません。この機会に無くすべきです」
中々優位に立てない浅野の口調はヒステリックに
「そんなの詭弁じゃない! 貴女は生徒会に入れたい二科生がいるから、資格制限を撤廃したいんでしょ!本当の動機は只の依怙贔屓なくせに!」
既にヤケクソなのか浅野の言葉は止まらない
「貴女は 只 そこの二科生を生徒会に入れたいだけでしょ!」
彼女の指示している先には 達也
「昨日もその子と駅まで楽しそうにイチャついてたくせに!」
「(え~!!! どう云う見方をすればそんな風に見えるんだ?)」
そして何故か 真由美の顔は真っ赤である
「(イヤイヤ なんでアンタがそんな顔するんだ 誤解されるでしょうが!)」
思わぬ口撃に真由美は反撃できそうにない だがこの事態は直ぐに収まる
「仰りたいことはそれだけですか?」
発言したのは深雪だった 深雪の冷たく見下す眼は浅野を捕えて離さない 浅野は即座に口を噤む
「只今の発言には個人的中傷が含まれていると判断できます。依って 進行の権限により退場を命じます。不服であるなら、会長が特定の一年生に対して特別な感情を抱いている、という発言の根拠を示して下さい」
浅野は何も答えられない そして会場は静まり変える だが何時までもこの状態は続けてはいけない。そう服部は判断した
「訂正します。退場の必要はありません。ですが質問はこれで打ち切りとさせて貰います。浅野先輩は席にお戻り下さい」
結局 反対派の妨害は不発に終わった。その後の投票の後 賛成多数で生徒会役員資格制度撤廃議案は可決された。