摩利と別れた後、達也は啓と花音と共に論文コンペで使用する3Dプロジェクター用の記録フィルムを買いに駅前の文具店に来ていた。
「も~う。購買で買えればこんな所まで来なくて済んだのに」
「でも、入荷待ちするだけの時間は無いからね」
「だからと言って態々、先輩達が付いてこなくても」
「司波君だけに任せるのは悪いよ。それに、サンプルを見ておいて損はないよ」
「それは・・・」
「? どうしたの?」
達也は会話しながらもある視線に気づいた。
「いえ・・・どうも監視されてるみたいで」
「監視!スパイなの!何処!」
達也の言葉を遮り花音が声を張る。その瞬間、視線が遠のいた。
「どっち!」
花音は達也の眼を見て駆け出した。
「花音 此処で魔法は」
「分かってる。私を信用しなさい」
信用していないから啓は態々、声に出したのだが。
花音は同世代トップクラスの魔法師であり、同時に陸上のスプリンターでもあった。
彼女は徐々に監視者と距離を詰めていく。逃げ出した監視者は小柄で驚くことに花音と同じ服装をしていた。その事に意外感を覚えたが花音は足を止めなかった。花音はその少女の顔を見ようと更に近づいた。しかし、花音の眼に映り込んだのは少女の顔ではなく小さなカプセルだった。
「くっ!!」
咄嗟に防御態勢を取った花音。少女はスクーターで逃走を図ろうとしていた。
「逃がさないわよ!」
花音が魔法を発動させようとする。しかし、それを達也が阻止した。
「ちょっと!何するのよ 逃げられちゃうじゃない」
「その心配はないよ 花音」
啓は走り出していたスクーターに魔法を放った。
放出系魔法 伸地迷路 (ロード・エクステンション)
摩擦力をゼロにすることにより車輪で走行する輸送機械を行動不能・制御不能に追い込む魔法。
逃げられない。達也も啓も花音でさえ、そう思っていた。しかし、事態は急転した。
彼女が本来あるハズの無いスクーターのとあるボタンを押したことで。少女がボタンを押すと後部座席からロケットエンジンが顔を出し、スクーターは急発進。三人は監視者の小さくなる後ろ姿を唖然として見送ることしかできなかった。
「・・・な・何を考えてるのよ。あの子」
「・・・もし、スクーターが転倒してたら・・・」
「・・・死んでましたね。アイツも含めて此処にいた全員が」
東京 池袋の外れにある古いビルの一室
表向きは貿易商の事務所とされる部屋には旧式のモニターがびっしりと並び、その中の一つワゴン車をモニターしている画面。
「大丈夫なのか?あの小娘」
スクーターを乗り捨てた少女は協力者の用意していたボックスワゴンに乗っていた。
画面を見ていた男は少女の身を案じてはいない。少女がへまをして、その所為で自分達の尻尾が捕まれないかを案じていた。
「あのワゴンの運転手等を用意したのは周大人なので、我々の存在は知らないはずです」
「アイツの仲介か。何処まで信用したものか」
しかし、現状 男は彼を信用せざるえない状況だ。
「ところで、レリックの方に何か動きはあったか?」
「FLTから持ち出された形跡はありませんが現所在は不明です」
「FLT・・・Four・Leaves・・・四葉。忌々しい名だ。本当にあの四葉とは関係ないんだな」
「はい、詳細に何度も調べましたが、何の繋がりも出てきていません。調べて分かった事は、この国の魔法関連企業は四葉や八葉の名称を好んで用いることです」
「フン!全く。紛らわしい」
「取り敢えず、司波小百合の監視は怠るな。・・・そういえば彼女が昨晩、訪れていた家があったが」
「どうやらあの家には夫の連れ子の兄妹が棲んでいる様で」
「ふ~ん」
「二人共 魔法大学付属第一高校の一年生で兄が司波達也。妹が司波深雪」
「司波達也?その名前、何処かで」
「さっきの少女。現地協力者の報復対象です」
「ふむ。魔法大学付属高校か」
「どうされました」
「よし、ならば魔法大学付属高校を活動対象に追加。そして小娘への支援も強化。武器も持たせろ。それから・・・」
男は続けざまに支持を出し、後ろを振り向く。
「呂上尉!」
そこには大柄な男が一人。
「現地で指揮を執れ!余所の犬が嗅ぎまわっているようなら排除しろ」
大柄な男は黙って頷いた。