監視者の少女を取り逃がしてしまった次の日。達也は昨日の出来事を鈴音に報告していた。
「その子は本当にウチの生徒なんですか?」
「今の段階で断定はできません」
「制服も用意しようと思えばできますし」
「顔は見たんですよね。千代田さんは生徒名簿を閲覧できますから、調べれば直ぐに分かるんじゃ」
「顔を見たと言っても一瞬ですし、それにウチの女子生徒は300人位いますから、ある程度の絞り込みの条件も無しに顔だけで犯人を特定はできませんよ」
「では私達はこれからも受け身で警戒するしかないと云う事ですね」
「ええ。面倒ですが、そうなりますね」
達也が教室に戻ると1-Eにはいつものメンバー。
「あ!達也君。やっと来た」
「何かあったのか?」
「美月がね、今朝から視線を感じるんだって」
「視線?」
「今朝から気味の悪い視線を感じるんです」
「ストーカーの類か。美月も大変だな」
「わ、私をストーキングする人なんかいませんよ」
「そうかな?」
「それにその視線は、なんと言うかもっと大きな網を構えている感じで」
「狙いは生徒一人じゃなく、複数・・・イヤそれともウチにある何か?」
「た、多分。私の勘違いだといいんですけど」
「目的は絞れないけど勘違いではないよ」
「どう云う事だ。幹比古」
「今朝から校内で精霊が不自然に騒いでる。多分、誰かが式を打ってるんだろう。しかも、僕等が使う術式とは違うから、うまく捕まえきれない。誰かが何かを探っているのは間違いない。けど一体何を探っているんだろう」
「ちょっと待て、幹比古」
「何?」
「お前、今、使ってる術式が違うって言ったけど、それって・・・」
「うん、流派の違いじゃないよ。使われている術式はこの国でつかわれる術式じゃないと思う」
「それって他国のスパイってことか?」
「スパイにしては随分派手だな」
達也達が一校を探るスパイの存在に気付いた頃、千葉寿和と稲垣は密入国事件に関する聞き込み調査を行っていた。
「中々、成果がでませんね。目撃者も出てこないみたいですし」
「そうだね。なら捜査方法を変えようか?」
「方法を変える?違法捜査でもするつもりですか?」
「まさか、そんなことはしないよ。只、話を聞きにいくだけさ」
「誰に?」
「その道のプロに」
「何処で?」
「それは着いてのお楽しみ」
そして寿和は稲垣を覆面パトカーに乗せ走り出す。そして、寿和が稲垣を連れて来たのは「ロッテル・バルト」という名の喫茶店だった。
「警部。本当にこんな処にその道のプロが来るんですか?」
「来るんじゃなくているんだよ。僕の言うその道のプロは此処のマスターのことだよ」
そう言って寿和は店の中に入った。
店を訪れたのは平日の昼間。ランチタイムは過ぎてはいるが客の入りは悪くない。稲垣がカウンター席の端に、寿和はその隣に腰を下ろした。寿和の隣には先客がいる様だ。
呑みかけのカップが置いてあるがマスターが片付けていないのを見ると中座しているのだろう。寿和がコーヒーを頼んで直ぐに先客が戻って来た。寿和は顔は正面に向けたまま、横目で隣に座った若い女性を見た。不意に嫌な視線を感じた。稲垣が疑惑の眼差しで寿和を見ていた。
「(別にやらしい目で見ていない)」
彼に眼で訴えたが、それが彼に伝わったかは不安だ。だが、そんな事はお構いなしに隣から小さな笑い声が。
「・・・ごめんなさい。てっきり、話かけられると思ったんですが、女性が苦手なんですか?千葉の御曹司は」
「えっと・・・貴女は?」
「初めまして、千葉寿和警部。私、藤林響子と申します」
寿和は絶句した。古式魔法の名門で尚且つ十師族の九島烈の孫娘が一体自分に何の用があるのかと。