その日の放課後、久々にいつものメンバーが揃って下校していた。
「論文コンペの準備はもう終わったんですか?」
「まぁ、ようやく、一段落ってところかな。まだ細かいことは残ってるけど」
「美月も手伝ってるんでしょ」
「私って言うより、先輩達が」
「コンペに使う模型作りは五十里先輩が中心だからな」
「じゃあ、達也は何をやってるんだ」
「俺はデモ用術式の調整だ」
「・・・普通、逆だと思う」
「まぁ、今更担当を変える必要性もないんだが」
そんな話をしながらでも達也は警戒は怠らない。行きつけの店の近くであろうと。
「(今度の相手は中々に尾行が上手いな。昨日のアイツの様な素人ではないか。まぁ、俺の眼には、ハッキリ見えてはいるが)」
実は、達也は学校を出てから尾行をされていた。しかも、相手は先日花音が取り逃がした相手ではない。達也は会話に参加しながらどう対処すべきか悩んでいたが結局、達也は尾行をやり過ごすことを選んだ。
「寄って行かないか?」
「賛成!」
「達也もまた、明日から忙しくなるだろうしな」
「そうだね」
皆の意見が出た処で、達也は喫茶「アイネブリーゼ」の扉を開けた。残念ながらいつもの席は空いておらず、達也達はカウンター席とテーブル席にバラバラに座る。カウンター席に雫・ほのか・達也・深雪の順で、テーブル席には奥にレオと幹比古。手前にエリカと美月が腰を降ろした。
「相変わらず、モテモテだね。達也君」
「マスターもその髭剃れば持てるんじゃないですか?」
「そうですよマスター。髭の所為で老けてみえます。剃った方がいいですよ」
「なん! 老けて・・・容赦ないね。美月ちゃん。でもやっぱり髭の良さは若者には解らないか」
因みにこの店のマスターの髭のあり、無しについては全員が無しで意見が一致している。
「最近はお勉強の方が忙しいのかな」
しばらく顔を出さなかった理由をマスターが聞いてきた。それに答えたのはエリカ。
「そんなことはないですよ。若干一名危ういのがいるけどね~」
「なんで俺を見るんだよ」
「だってこの中じゃアンタがダントツで頭悪いでしょ」
「てめぇ~」
「ちょっとエリカちゃん」
「レオも落ち着いて」
「達也さんが論文コンペの代表に選ばれて中々集まれないんですよ」
「論文コンペに?一年で?凄いじゃないか」
「メイン執筆者じゃないですけどね」
「確か今年は横浜だよね」
マスターは魔法師ではないが店が魔法科高校の通学路な為に色んな情報が入って来るので自然に魔法師界の事にも詳しくなっていた。
「会場は国際会議場かな?」
「そうですけど?」
「実は実家が横浜でね、近くだから、時間があったら寄って行ってよ」
「寄っていってよ・・・って、もしかして、マスターの実家も喫茶店を?」
「山手の丘の中程にある「ロッテル・バルト」って店だから」
そんな会話をしていると不意にエリカが席を立つ。
「どうしたの。エリカちゃん?」
美月の問いに、エリカは残りのコーヒーを飲んで、
「ちょっと、お花を摘みに」
そう言ってエリカは店の奥に、更にレオが、
「あ! 電話だ」
そう言って店を出る。
「・・・それで幹比古。お前は何をしてるんだ」
達也はエリカとレオと同時に動いた幹比古に気が付いた。
「ちょっとしたメモだよ。書いておかないと忘れちゃいそうで」
「・・・まぁ。やり過ぎるなよ。三人共」
男は只、待っていた。彼が店から出てくるのを。しかし、それはまだ随分と時間がかかると男は見ていた。今時の若者が大人数で喫茶店に入ったのだから。すぐに出てくる訳がない。それでも男は待たなければならない。それが彼の任務だから。男はテイクアウト用のドリンクを飲みながら暇を持て余していた。しばらくして、動きがあった。彼の連れの男子生徒が一人出てきたのだ。男は直ぐにその後ろを注視した。次に出てくるのが彼だった場合を想定して。しかし、出てきたのは、彼の連れの男子生徒(レオ)だけだった。
だから、男は背後に現れた女子生徒(エリカ)に、
「オジサン。アタシとイイことして遊ばない」
と声を掛けられて危うくドリンクを落としそうになった。
「すまないが、私は人を待っているんだよ」
「(この娘は彼の連れの一人・・・だがどうして此処に?正面のドアからは男子生徒だけしか・・・)」
そんな事を考えていると男の前にレオが。男は包囲されていた。
「待ってるって、達也を?」
「誰だね それは」
「アンタ、達也を尾行してたろ」
「観念なさい。どうせアンタはもう、此処から逃げられないんだから」
エリカの言葉で気づかされた。先ほどから通行人が途絶えている事に。
「俺らの意識を無くさないとこの結界からは出れないぜ」
男はドリンクを投げ捨て、エリカに殴りかかる。それを見たレオはエリカを助けようと動き出す。だが男の最初の狙いはエリカではなくレオだった。男はわざと隙を見せレオを懐に飛び込ませた。レオは男のカウンター防げず、吹き飛ばされた。
「(まずは一人)」
そのまま男はエリカにナイフを投げつけた。エリカは持っていた警棒で振り払う。
エリカの正面に隙ができた。このままエリカを攻撃すれば男は逃げられるはずだったのだが、
「うぐっ!」
男は地面に叩き付けられた。レオのカウンタータックルを避けきれなかったからだ。
「あ~痛って。アンタ普通の人間じゃねぇな。ホント何者だよ」
「そう言うアンタも普通じゃないでしょ。さっきのまともに喰らったでしょ」
「クソッ」
「大人しくしろよ。俺達は命までは取らねえよ。ただ、尾行の理由が知りたいだけだからよ」
「分かった。降参だ」
「なら手短に話しな。いつまでも結界は張っておけねぇし」
「ジロー・マーシャル。まず最初に私は君たちの敵ではない。そしてどの国の政府機関にも所属はしてはいない」
「非合法工作員?」
「主な仕事は先端魔法技術が東側に盗みだされない様に監視する事、漏洩した場合はそれに対処する事だ」
「随分と手間の掛かる事をやってるんだんなアンタ達」
「全く最近の若者は平和ボケが過ぎるな。技術の漏洩は時に世界の軍事バランスを壊す事にもなる。この国だけ問題じゃないんだよ。近年はそういうスパイが増えて君達の学校も東側のターゲットになっているんだ」
「平和ボケなんてしてないわよ。現にアンタの尾行には気が付いたし」
「イヤ、まだまだ甘いよ」
服の汚れを払いながら起き上がった男は手に拳銃を持っていた。銃口はエリカを捉えている。この距離で銃を躱せなことをエリカは理解していた。
「あ!」
「てめぇ!」
「最初にこれを使わなかったのが君達の敵ではない証拠だ」
「使えなかっただけでしょ。使えば痕が残るから」
「それもあるが・・・もういいだろう。必要な事は話してやった。結界を解いてくれないか」
「ゴメン・・・ミキ」
エリカの一声で結界が消えた。
「さて、ではこれにて失礼。あぁ、そうだ。お仲間にも学校の中だからと言って安心しないように言っておいてくれ」
結界の消失を確認したジロー・マーシャルは懐から管を取り出し投げつけた。管の小さな破裂音の後、白煙が立ち込めた。視界が回復して辺りを見回すがジロー・マーシャルの姿はなかった。