校門を出たレオはエリカの後ろを黙々と歩いていた。二人の間に会話はない。話し掛ける様な雰囲気では無いと思ったからだ。校門から駅までは一本道。余り気分のいいものでは無いが駅に着くまではこの状況が続くのだろうと予測した。故にエリカに話掛けられたのが意外だった。
「レオ」
「!?」
「アンタ。今日、時間ある?」
振り帰ったエリカのレオを見る眼差しは鋼色の気迫に染まっていた。
「どう?」
「・・・特に予定はないぜ」
「だったら付き合いなさい」
一方、花音は啓と共に保健室にいた。エリカが帰って少しした後、花音の元に保険医の安宿からメールが届いていた。だが花音は保健室に入って直ぐ、安宿に疑問を投げつけた。
「先生。何をしてるんですか?」
「何って。介護よ?」
花音が保健室の扉を開けると、もがいている千秋を押さえつけている安宿の姿が眼に飛び込んだからだ。
「・・・はぁ~。その子から話聞きたいんで、取り敢えず、放して・・・じゃない、座らせてあげてくれません?」
「良いわよ」
「・・・で、貴女、一昨日は大丈夫だった?」
「!?」
花音に問われ、千秋は俯いた。
「一昨日といい、今日といい、無茶したわね。一歩間違えば自分が大怪我してたわよ」
花音の口調は問い詰める様なものではなかった。
「でも、これ以上は止めなさい」
「・・・」
「さっき、壬生さんに『何かが欲しい訳じゃない』って言ったらしいわね。じゃあ、何で、データを盗み出そうとしたの?」
「データを盗み出すこと自体が目的じゃありません。プレゼン用の魔法装置作動プログラムを書き換えて使えなくすること。パスワードブレーカーはその為の物です」
「ウチのプレゼンを失敗させたかったの?」
「違います!そんな事はどうでも良かった?」
「・・・?」
「・・・悔しいけど、アイツはその程度の事はリカバリーできる。でも本番直前にプログラムがダメになれば、アイツだって慌てるに違いないって思った!アイツが困っている姿を笑って見てやりたかった」
「なん!?・・・嫌がらせであんな事を?偶々、大事にはなってないけど、成り行き次第で貴女、退学になってもおかしくないのよ!」
「それでも構わないと思いました!アイツに一泡吹かせられるのなら!だって、あり得ない!アイツだけが良い目を見るなんて、私には耐えられない!」
花音は嗚咽を漏らしながら本音を漏らした千秋に困惑した。何故、そこまでの憎悪を抱いているのかが分らなかった。そんな時、
「平河千秋・・・千秋くん、君は小春先輩の妹さんなんだね?」
一部始終を傍観していた啓の言葉に千秋の身体が反応した。
「もしかして先輩がああなっちゃったのが、司波君の所為だと思ってる?」
「・・・だってそうじゃないですか!アイツは事故を防げたのに、そうしなかった。自分の担当選手じゃないから、もし、あの時アイツが関わってくれてれば、先輩は事故に遭わなかったし、二人の関係も今みたいにギクシャクしなくて済んだのに」
小早川景子と平河小春は仲が良かった。景子が代表選手に選ばれて直ぐに自分のエンジニアを小春に頼んだ。小春の技術力を信頼していたからだ。小春も景子が代表に選ばれたことを喜んだ。二人の良好な関係はあの日の本番直前まで続いていた。それが今では二人は顔を合わせる事も無くなっていた。
「あの事故についての責任なら僕にもある。あの仕掛けに気づけなかった技術スタッフ全員にあるのであって、決して司波君一人の責任じゃないよ」
「・・・笑わせないで下さい!『僕にも分らなかった?』 当り前じゃないですか!姉さんにも解らなかったんだから。でもアイツは分かってて何もしなかった。あの人だってそう言ってた!自分には、妹には関係ないからって、関わろうとはしなかったって!」
「・・・」
「本当はやろうと思えば何でもできるのに自分からは何もしない・・・そうやって無能な他人を嗤ってるんだわ。魔法だって術式解体が使えるのに、手を抜いて二科生になって、一科生も二科生も纏めてプライド踏みにじって笑ってる!そういう奴よアイツは・・・」
「ハイハイ、そこまで」
憎悪に塗れた千秋の糾弾に中、安宿の声が遮る。
「ドクターストップ。続きは次回にして頂戴」
「先生・・・」
「彼女の身柄は大学付属の病院で預かります。彼女の家には適当な理由で納得させるから、2人は準備に戻りなさい」
「でも・・・」
「時間がないんでしょ?」
花音の反撃を安宿が打ち切った。