今日は日曜日だが達也は学校にいかなければならない。勿論、補習ではない。単に、本番まで一週間に迫った論文コンペの準備があるからだ。しかし、達也は学校とは違う方向を愛車の大型電動二輪で深雪を乗せて走っていた。目的地はFLT第三課。八雲の助言に従いレリックを返す為に、勿論、解析作業も行うのだが。襲撃の可能性を考え公共機関は使わなかった。ついでに言えば公共機関を使えばFLTまで大きく遠回りをしなければならないという理由もあった。目的地までの所要時間は約一時間。達也にしては珍しく休憩の為か早朝営業の喫茶店でバイクを止めた。飲み物だけを注文し、テーブル席に着く。
「尾行されている」
席に着くといきなり深雪にこう告げた。
「気が付きませんでした。どの車ですか?それともバイクですか?」
「イヤ、カラスだ」
「・・・? 使い魔ですか?」
「あぁ、それも化成体だな」
「・・・では、国内の術者ではありませんね。・・・何者でしょうか?」
「正体までは分からないな」
そう言いながら達也は深雪の手を握る。
「だが、このままラボまで連れて行く訳にはいかない」
「・・・」
「・・・深雪?」
「えっ?あ、はい、そうですね」
「化成体の座標はここだ」
達也は自分の視た化成体の座標をサイオン信号に変換して深雪の手を通して深雪の中の魔法演算領域に送り込んだ。本来、魔法師同士イメージの共有はできないが二人は身体の接触があればサイオン信号化したイメージを互いにやり取りができる。
「お前が撃ち落とせ」
「・・・畏まりました」
「この状況下で俺の力を知られたくない。お前だけが頼りだ」
深雪は上手く狙撃が出来るか不安だったが達也のこの一言で吹っ切れた。深雪は達也の手を握ったまま、CADを使わずに魔法を発動した。深雪の魔法発動にタイムラグはあり得ない。
達也の眼は使い魔の身体が瞬時に凍り付き術式が凍結し、化成体を構成するサイオン粒子が粉々になる様を捉えた。
「・・・しかし中途半端だな」
「・・・?何がですか?」
「尾行はアレ一つ。しかもアレは遠隔術式だった。レリックを狙っているにしては奪い取ってやるっという執念の様なものが感じられない」
「しつこいよりはいいのでは?それにお兄様のガードは堅いですから、相手も手を出しにくいのでしょう」
「まぁ そう云う事にしておこうか」
その一方 尾行相手の陳は『尾行が消されました』の報告に不快感を募らせていた。
「それで行き先は?」
「FLTに向かっているものと推測されます」
「到着予定は?」
「約40分後です」
「なら到着予定に合わせサイバー隊にFLTに対する攻撃支持を出せ」
達也がFLT第三課に着くと三課はいつも以上に騒がしかった。
「悩む前に回線を切れ!」
「侵入経路確定!カウンタープログラム起動します!」
「朝からハッキングですか?」
「そうなんですよ。全く、どこのモノ好きだ。ここにハッキングなんて・・・お、御曹司!すいません。お出になっているのに気付かず。おい!御曹司がいらっしゃったのを知らせなかった間抜けは何処のどいつだ!」
その声に所員の手が止まるが、
「手を止めないで!モニターは続行してください!」
達也の声に、所員の手が動き出す。
「状況は?」
「ハッキングはハッキング何でしょうけど」
「けど?」
「ハッキング技術は高いけど、何を知りたいのかさっぱりで、特に対象を絞ってる訳でもなく、手あたり次第って感じで」
「本物のハッカーですか?」
「個人の仕業とは思えませんね。侵入の手口が組織的でしたから。相手が国家組織って言われても違和感ない感じでした」
「そのくせ目的がハッキリしない?・・・あぁそうだ。流失したデータは?」
「それが流失したデータは無い様で」
「・・・ハッキングはどれ位続いてるんですか?」
「十分程ですね」
つまり、達也がくる直前に始まったらしい。
「不正アクセス、停止しました」
「油断するなよ。今日一日、今の監視体制は維持する」
同時刻 八ッカーside
「FLTのカウンター攻撃です」
「予定通り回線を遮断しろ!」
「どう出ると思う?」
「分かりません」
「十分も不正アクセスを阻止できなかったんだ。ラボのセキュリティーに疑念くらいは抱くだろう」
「確かに」
「セキュリティーの不確かな施設に預けようとは思うまい」
「論理的にいえばそうでしょう」
「そう言えば、周の奴が例の小娘の様子を見に行くらしい」
「それで?」
「その前に消してくれ」
「是」
呂剛虎は陳の命令に素直に頷いた。
日曜であっても学校に行くのに今の姿では行く事は出来ない。二人は着替えの為に自宅に戻った。すると自宅の電話にメッセージが入っていた。
「お兄様。本家からですか?こんな忙しい時期に一体どんな命令を・・・」
「いや、本家からじゃないよ」
四葉本家からのメッセージだと勘違いした深雪に差出人の名前を見せる。
「平河小春・・・平河先輩!?」
「折り返し連絡が欲しいそうだ」
達也が返信ボタンを押すとワンコールで繋がった。
「もしもし、司波君?御免なさい態々」
「此方こそすみません。朝は家を空けていたので」
「それはいいの。私の方から電話してってお願いしたんだし」
「先輩 それで・・・」
「この前は、その・・・妹が迷惑を掛けてごめんなさい」
「未遂ですし、俺はサブですから」
「でも、色々と騒がせちゃったし、私が不甲斐ないばかりに、私には謝る事しかできないけど・・・本当に御免なさい」
達也は謝罪など望んではいなかった。また、グダグダと自虐の念を聞かされても鬱陶しいだけだ。また、千秋の行動を本心から気にしたことも無かった。
「ほんとに気にしてませんから・・・じゃあそれでは」
早く通信を切りたかった達也だが、
「待って!司波君」
「何ですか?」
「ええっと、これでお詫びになるとは思わないけど、千秋がコンタクトしていた悪い人とのログを見つけたの。あの子のPD(プライベート・データ)も含まれてるけど、この際、司波君に預けます。忙しい中、話を聞いてくれて有難うございます」
小春は達也の反応を待たずに電話を切った。
「・・・まぁ。使える物は使わせてもらおう」
しかし、達也でもアクセスポイントのログファイルだけを手掛かりに、ネットワークの中で狐を狩り出す技術は無い。ただ、それが可能であろう人物に心当たりはあった。