達也は帰宅してすぐに、テレビフォンに向かった。呼び出し先は本日二度目の番号だ。
「もしもし」
「司波です」
「あら、一日に二度も電話をくれるなんて珍しいわね」
呼び出したのは藤林響子。いつもは目立たない恰好をしている彼女だが、テレビフォンに映る彼女は珍しく着飾っていた。
「デート中でした?」
「残念ながらお仕事よ」
「そうですか」
「フフッ 安心した?」
「(・・・はぁ~酔ってるな)」
響子がいつもと口調が違うのはアルコールが入っているに違いないと達也は踏んだ。
「あ~あ、どっかに達也君みたいなカッコいいオトコノコがいないかしらね」
「そうですか。実はご相談したいことがあるんですが、明日にした方がいいですか?」
達也は響子のセリフを完全に無視した。
「大丈夫よ。今は一人だから、込み入った話でも大丈夫よ」
「実は今日、学校で強盗に遭いまして」
「強盗? 今朝相談してもらった件よね?ついに実力行使?」
「ええ、催眠ガスを使われました。幸い、未遂でしたが」
「御免ね。私達が無理を押し付けているから・・・」
「その際に盗難未遂の現場の映像に記録しました」
「へぇ~どうやって」
「自立可能なセキュリティー端末に記録させました」
「・・・あ!3Hね。へぇ~達也君そういう趣味があったんだ」
「違います。3Hは学校の備品です。映像をお預けしますので調べていただけますか?」
「そんなに怒らなくていいじゃない。・・・で何が映っているの?」
「実行犯と使用ツール。それからハッキングを仕掛けられたCADのログも添付しておきます」
「・・・成程、要はそろそろ狐を仕留めろと」
「そんな偉そうな言い方をするつもりはありませんが、内容はその通りです」
「気にしなくていいわ。そろそろ方を付けるように言われてたし、前に貰ったログで絞込もできてるから、一両日中には捕まえられると思うから、吉報を待っててね。」
次の日 深雪が電車から出てくるのを待っていた達也は、二つ後ろの車両にクラスメイトを見つけた。無効を達也の視線に気がついた様だ。
「お兄様 どうかしましたか?・・・」
降りて来た深雪が、ある一点から視線を外さない事を不思議に思い、達也の視線を追った。兄妹の視線の先、エリカとレオがぎこちない愛想笑いを浮かべていた。
「・・・なぁ、お前等なんでこんなに早いんだ」
現在の時間はいつもより一時間以上早い。
「いよいよ今週一週間だからな。朝から色々予定を入れなきゃならないんだ」
「レオこそどうしたんだ」
達也には次の日曜日に論文コンペを控えているという理由があるが、レオにはそれがない。
「エリカも今朝は随分早起きね」
「アタシは大抵、早起きだけど」
「じゃあ今朝は西城君の方が早起きだったのね」
「ちょっと深雪!アタシが毎朝コイツを起こしに行ってるみたいな言い方、止めてくれない!」
「そうだぜ!どっちかっつうと俺の方が起きるの早かったんだ」
「・・・」
「・・・な、何か言ってよ」
「まぁ、早起きは三文の徳だよな・・・」
気まずい雰囲気の中、深雪と別れ、教室で幹比古に会う事で話題を変える事に成功した。
「達也、昨日は大変だったんだって」
「随分と耳が早いな」
「皆 驚いているよ」
「だが、これでもう心配はないと思うぞ」
「でも実行犯が捕まっただけでしょ」
「単独犯とは思えないからね。一体背後にどんな組織が付いているのか」
「だったら本人に聞いてみたらどうだ?」
「そうね。締め上げて吐かせてやる」
「え!? でもエリカちゃん、関本先輩は・・・」
「分かってる。八王子の特殊鑑別所にぶち込まれてる。簡単には面会はできない。でも、全く手が無い訳でもない。いざとなればこっそり忍び込んで・・・」
「おいおい、そんな無茶しなくても先輩はまだ一校生扱いだから、学校の委任状があれば面会は可能なはずだ」
「それは知ってるけど、その委任状の管理は風紀委員長がしてるんでしょ」
どうやらエリカは花音と関わりたくない故に犯罪まがいの手段の提案をしたようだ。
「それでも、鑑別所に忍び込むより簡単だ」
放課後 風紀委員会本部
「ダメ!」
関本への面会申請に対する花音の答えはシンプルだった。
「・・・理由は?」
「ダメなものはダメ!」
花音は頑なに「ダメ」を繰り返す。
「ですから、何故です?理由も無に門前払いでは納得できません」
「ホントに私が申請を拒否する理由が分からないの?」
「はい、全く、見当もつきません」
「・・・はぁ~、面倒になるから」
「・・・はぁ?」
「面倒になるから!」
「何を根拠に・・・それに面倒な事って何ですか?」
「じゃあ、何も起きないって言える?君たちが動き回って!」
「・・・」
「自覚が無い様だからハッキリ言ってあげましょう。司波君!君はトラブルに愛されているの!アンタ自身にその気が無くても、落ち度が無くても、トラブルの方からアンタに寄ってくるんだから、この忙しい時期に仕事を増やさないで!」
とんでもなく理不尽な理由だが、花音には抗弁を許さない勢いもある。何より、花音の言い分を完全に否定できない自分がいた。
「花音、 流石にそれは言い過ぎじゃないか?」
「でも、摩利さん」
「達也君は当事者なんだから、自分で聞きたいと思うさ」
「それでも、認められません」
「私と一緒ならどうだ。あした、真由美と関本の様子を見に行く予定なんだ」
「・・・摩利さんが一緒なら・・・」
「達也君もそれでいいね。流石にみんなで一緒にはいけないけど」
「構いません」
魔法大学付属病院
千秋は窓の無い病室でため息を吐いた。如何やら暇で暇で仕方無い様だ。なんせ、彼女は病気でなければ怪我人でもない。イヤ、怪我はしていても入院するものではない。先程、様子を見に来た看護師が今日の面会は全面中止だと伝えて来た。昨日、賊の侵入を許したのだ。用心の為の措置であろう。しかし、彼女にとってはどうでもいい事だった。なんせ、自分に面会に来る人がいる筈がないと思っている。千秋は昨日の襲撃の事を看護師に聞こうとしたが、彼女は何も話さなかった。千秋もしつこく聞こうとはしなかった。千秋には大体予想は付いていた。昨日の襲撃者の目的が自身であることに。この病室のドアがこじ開けられようとしたのだ。普通に気付く、あの連中が自分を消しに来たのだと。彼等とは仲間ではない一時的な協力関係だからこそ情報漏洩を恐れた彼らが自身の暗殺を考えるのは妥当だと思っていた。
だから、自分の病室の扉がノックされても驚かなかった。既に、午後の巡回は終わっている。医者も看護師も来ることはない。ナース・コールも押していない。そして、今日は面会禁止だ。その状態で彼女の病室を訪れるのは誰なのか。だが心当たりある。連中が今度こそ自分を消しに来たのだと、そう思い千秋は覚悟を決めて扉を開けた。
「(御免ね。お姉ちゃん。さようなら)」
「お加減はどうですか?千秋さん」
「周さん!?」
死を覚悟して扉を開けた先に姿を見せたのは暗殺者ではなく周だった。
「どうして!今日は面会中止なのに?」
「とっておきを使いました」
「・・・魔法ですか?」
「ちょっと違いますけどね」
「あの、周さん、ごめんなさい、色々と力を貸してくれたのに」
「気にしないで下さい。私の事なんて忘れてくれて構いません」
「忘れる」
「そう、忘れなさい」
「そう・・・忘れる。うん・・・分かった・・・忘れる」
千秋は自身に忘却を命じた。