達也の周りは敵だらけ   作:黒以下

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横浜騒乱編 論文コンペ 前日

西暦 2095年 10月29日 土曜日 

 

この日の授業はどのクラスも自習状態だった。一限目が終わるとエリカに声をかけられた。

 

「達也君、明日は何時頃会場入りするの?」

 

「8時に現地集合、9時に開幕。開始30分はセレモニーでプレゼン開始は9時半スタート。持ち時間は1チーム三十分、インターバルが十分で、午前中に4チーム。昼食休憩は12時から1時まで。午後から、残りの5チームのプレゼンがあって終了時間が午後4時10分。そして審査と表彰があるから終わるのは午後6時過ぎかな」

 

「・・・えっと、それでウチの出番は何時なの?」

 

「ウチは最後から2番目、午後3時の予定だ」

 

「発表まで随分時間があるね」

 

「だから、メインの市原先輩は午後からの会場入り予定だ。まぁ俺と五十里先輩は機器の見張りとトラブルがあった時の応急処置に備えて早く行く事になってるんだが」

 

 

「ふ~ん・・・とにかく現地集合なんだ。 デモ機はどうするの?」

 

「既に生徒会が運送業者を手配してるよ。服部先輩も同乗することになってる」

 

「あれっ? 服部先輩て市原先輩の護衛なんじゃ・・・」

 

「当日は七草先輩と渡辺先輩が市原先輩を迎えに行くらしい。・・・で、そんなことを聞いてどうするんだ?」

 

「その見張り番だけでも俺達に手伝わせてくれねぇ?」

 

「別にいいと思うけど、何でそんな面倒なことをやりたがるんだ?」

 

「いやぁ、だって折角、特訓したのに出番がないのは・・・」

 

「そうよ、学校休んで、変な噂まで立てられながらも、コイツしごいたのに出番がないまま、事件は解決してましたじゃ、納得できないわ」

 

「まぁ動機が凄く不純だけど人手は多い方が助かるし、もう何も起こらないとは言い切れないしな」

 

「えっ? 事件は解決したんだろう?」

 

「事件が起こるのは一度に一つ、なんて決まりはないだろ」

 

「それは・・・」

 

「論文コンペが狙われるのは毎年らしいし、当日の帰りに襲われた・・・なんてこともあったらしい。本番前に事件が解決しても本番に別の事件が起きても不思議じゃない」

 

「・・・そうだね、じゃあ僕も見張り番の手伝いをさせてよ」

 

「あぁ、頼りにしてるよ」

 

論文コンペ本番前日の学校を休み、リハーサルを午後に繰り下げて、鈴音は病院を訪れていた。同行者は服部一人。本当ならば一人で来るはずだったのだが、真由美達がそれを許さなかった。

 

鈴音が訪れたのは平河千秋の病室。ドアをノックすると先に様子を見に来ていた安宿怜美が出迎えた。一方の千秋は鈴音の来訪に無反応だ。ただ、そんなことを鈴音は気にすることなく語り掛けた。

 

「平河さん、色々と無茶をしたみたいですが、貴女のやり方では、司波君の気を引くことはできませんよ」

 

鈴音の言葉には慰めも励ましも無く、ただ、冷静に事実を指摘していた。

 

「好意は無論のこと、敵意も悪意も引き出せない。今の貴方は彼にとってはその他大勢の一人」

 

「それどうしたって言うんですか!そんな分かりきったこと、先輩に指摘して貰わなくて結構です」

 

「ただ、貴女の司波君に対する評価はある意味、的を射ていると思います。確かに彼は尊大な人間です。その他大勢がいくら泣こうが喚こうが、彼は気に掛けない。嫌がらせを受けても払いのけるだけ。ハエに集られるのと同じなんじゃないでしょうか?」

 

鈴音の言葉に千秋は俯いたまま悔し気に唇を噛み締めた。鈴音が四月の新入部員勧誘週間を念頭に置いて話していることは彼女にも理解できた。

 

「ところで、貴女は知っていますか?一学期の定期考査の筆記試験で、司波君は二位以下を寄せ付けない高得点でした。とりわけ、魔法工学は満点でした」

 

「・・・それがどうしたんですか」

 

「そして、魔法工学の二位が貴女」

 

「先輩は何が言いたいんですか?」

 

「残念ながら、他の分野で司波君を脅かす事はできません。ですが魔法工学に限って言えば、司波君を追い抜くことができると思いますよ」

 

千秋が勢いよく顔を上げた。

 

「約3週間一緒に作業して見てわかりましたが、司波君はソフトウェアに比べてハードウェアは得意ではありませんね。無論、一般的な高校生の水準を大きく上回っていますが、一年生の内は魔法工学もソフト中心ですが、二年生に上がればハードの比重が増えてきます。貴女はハードウエアの方が得意なのでしょう?」

 

鈴音が言いたい事は二年になればハードの比重が増え、逆転のチャンスがあると云うこと。

 

「悔しいと思う気持ちを持ち続けることができればいつか、成し遂げられるんじゃないですか?だから、明日会場に来てください。きっと得るものがあるはずです」

 

横浜港を望む高層ビル複合施設、横浜ベイヒルズタワー。その最上階に近いバーラウンジで一組のカップルがグラスを傾けていた。

 

「藤林さんのおかげで今回のヤマも何とか目処が立ちました。今日はそのお礼です」

 

「ふ~ん、今日誘っていただいたのはお礼だけなんですね」

 

「えっ!?」

 

「もし、宜しければ、今晩だけでなく明日も付き合っていただけません?」

 

「ほ、本官でよければ、喜んで!」

 

「有難うございます。では、朝8時半に桜木町の駅で」

 

「・・・朝?」

 

「明日の論文コンペのこと、ご存知ありません?」

 

「いえ、存じてますけど」

 

「それに、私の知り合いの子が出るので応援に行きたいんですよ」

 

「はぁ・・・」

 

「できれば部下の方々にもお声がけしてくださいね。CADだけでなく武装デバイスや実弾銃の方もご用意していただけると助かります」

 

「藤林さん!それって・・・」

 

「勿論 何も起きない事を願ってはいますけど」

 

金沢 国立魔法大学付属第3高校

 

今年は会場が横浜だから一校代表チームは現地集合だが、首都圏から離れた各学校の代表メンバーは前日から余子浜入りして宿泊する事になる。

 

「ジョージ! そろそろ時間だぞ」

 

「えっ!もう?・・・分かった、すぐ行くよ」

 

文献に読み耽っていた、第三高校メイン執筆者の吉祥寺真紅郎は護衛の一条将輝によって現実に引き戻された。

 

「吉祥寺君。頑張ってね」

 

「ありがとう。十七夜さん」

 

「私達も当日には応援に行くから」

 

「ありがとう一色さん」

 

「貴方も気を抜かず最後まで吉祥寺君を護衛しないとダメよ」

 

「分かってるって!」

 

「ホントかしら、よそ見してる間に吉祥寺が怪我しちゃうかも」

 

「俺はよそ見なんかしねぇよ」

 

「ホントに?司波深雪に見とれて警戒心が鈍るんじゃない?」

 

「何でそこで司波さんが出てくるんだよ!」

 

「好きなんでしょ、彼女のこと」

 

「そんなこと、今は関係ないだろ!大体、司波さんが会場に来るかどうかは分からないだろ」

 

「司波さんが来る確率は高いと思うよ。今回メイン執筆者じゃなかったけどサブに司波達也の名前がある。一緒に来るんじゃないかな?」

 

「仮に御兄さんがメンバーに選ばれてなくても彼女は後学の為に会場に足を運ぶと思うわ」

 

「もしかして貴方が、吉祥寺君の護衛と共同警備隊に立候補した理由って司波さんに会えると思ったから?」

 

「なん!ち、違う!」

 

「怪し~なぁ~」

 

「おい、早く行くぞ ジョージ!」

 

「あ!待ってよ将輝!」

 

「あ!逃げた」

 

将輝は突然始まった愛梨たちの口撃に敵わず逃げ出した。真紅郎はその後姿を慌てて追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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