達也の周りは敵だらけ   作:黒以下

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横浜騒乱編 論文コンペ 当日 其之一

全国高校生魔法学論文コンペディション開催日当日。達也と深雪は予定通り会場に到着した。時間通りに着いたとはいえ、何故か、達也と深雪が最後の様だ。

 

「お兄様、そろそろ」

 

「俺が何とかしなきゃいけないのか?」

 

「余り時間を掛けるのも・・・」

 

会場に入った達也の視線の先では、エリカと花音が険悪な表情で睨み合っている。

 

「どうしたんですか?」

 

「あっ! 達也君!おはよー」

 

「ー司波君。この聞き分けの無いお嬢さんに、貴方から何か言ってくれない」

 

「・・・(はぁ~)」

 

「じゃあ、後は俺が話しますんで」

 

達也は、エリカと花音を引き離し、ロビーの隅にある、ソファーにレオとエリカを座らせた。

 

決まりの悪そうな二人を前にして、

 

「何も正面からぶつからなくても」

 

「ごめんなさい。結局、達也君の手を煩わせちゃって」

 

「別に、警備って張り切らなくても、客席から応援してくれれば良いよ。何か起これば、その時に協力しても、文句は言われないだろう」

 

「そっか!協力か」

 

達也の言葉でふさぎ込んでいたエリカに笑顔が戻る。

 

「始まるまで楽屋に遊びに来ればいい、友達なんだから遠慮はいらない」

 

開幕時間が迫ると、どこの学校の控室も賑やかになっていた。遥が会場に足を運んだのは、一校の職員としての、仕事ではなく、公安の情報員としての仕事がらみだった。四月の事件で、公安(遥の所属部署)は達也に興味を向けていた。しかし、彼を探ろうとすれば必ず圧力が掛かると上司から聞かされた。それが逆に興味を深めた様だ。しかし、正規の情報員は動かせないので、遙に司波達也の調査任務が回ってきたのだ。勿論、遙は何度も拒んだ。達也が只者ではないのは分かっている。忠告も受けている。あの八雲から、

 

「今すぐにでも、達也君の調査は止めた方がいい。僕も庇いきれなくなる」

 

遥は達也の正体は知らないが、あの八雲にそこまで言わせる時点で、達也の正体がとんでもない事は予測できる。上司の興味本位で自分が狙われるなどあってはならない。だが、そんな事を聞き入れて貰ってなかった。達也の正体を調べようと専門家があらゆるデータベースを調べても手掛かりは無かった。専門家でも調べきれなかった達也の正体。しかも、その辺のスキルの無い遥には直接監視するくらいしか手立てが無かった。しかし、彼女の監視は無駄にはならなかった。達也を監視して直ぐに、、達也に来客があった。相手の年恰好は明らかに高校生ではない。大学生でもないだろう。恐らく、イヤ、彼女は自分と同年代。忘れもしない。当時、九校戦で第二高校を優勝に導いた立役者。

 

「・・・エレクトロン・ソーサリス。藤林響子!」

 

一校 控室

 

今現在、司波兄妹だけしかいない控室に藤林響子が訪ねて来た。

 

「久しぶりね!深雪ちゃん」

 

「はい、ご無沙汰しておりました。響子さん」

 

「・・・ウチの控室に来ていいんですか?」

 

「大丈夫よ。技術士官の肩書きを持ってる私が、九校戦で高度な技術を披露した君の元を訪れても、不思議じゃないと思うけど」

 

「・・・で、本当の目的は?」

 

「いいニュースと悪いニュースどっちから聞きたい?」

 

「悪いニュースから」

 

「はぁ~、じゃあ、いいニュースから。例のムーバル・スーツ。完成したって。夜にはこっちに持って来るって真田大尉から伝言」

 

「流石ですね」

 

「じゃあ、今度は悪いニュース。例の件。どうもこのままじゃ終わらないみたい」

 

「何か問題が?」

 

「詳しい事はコレを見て」

 

そう言って、響子は達也にデータカードを渡す。

 

「コッチでも幾つか保険を掛けておいたけど」

 

「俺達も準備だけはしておきます」

 

「何も起きないのが一番だけど、・・・もしもの時はお願いします」

 

 

8時45分 

 

響子の持ってきた。データに目を通していると、五十里が花音を連れて、やって来た。

 

「司波君。交代しようか」

 

機材の見張り番はプレゼンごとに交代で行う。順番も打ち合わせ済み。

 

「お願いします」

 

達也は五十里と別れ、深雪と共に客席に向かった。しかし、2人はロビーで足止めを喰らう。

 

「司波さん!」

 

呼び止められたのは深雪の方。呼んだ声の主は、左腕に『警備』の腕章を着けた第三高校一年の一条将輝。

 

「一条さん」

 

「お、お久しぶりです。司波さん。こ、後夜祭のダンスパーティー以来ですね」

 

「・・・ええ。此方こそ御無沙汰しております。見回りご苦労様です」

 

「は、はい!有難う御座います!」

 

「十三束君も頑張って下さいね」

 

「え!あ、はい!」

 

コンペ 会場 客席

 

警備と張り切るなと言われたエリカだが、観客に徹するつもりは無い。エリカは不審人物に目を光らせていた。

その際、見知った顔を発見してしまう。

 

「げぇ!何でアイツがこんな処に?」

 

「あれっ?ねぇエリカ。あそこにいるのって?」

 

如何やら幹比古も気が付いた様だ。

 

「エリカちゃん、お知り合い」

 

「違う、見間違いだった」

 

エリカは他人のフリをすることを選んだ。

 

 

「深雪、十三束鋼のこと知ってたんだな」

 

「まぁ、顔と名前くらいは。お兄様こそ、彼をご存知だったんですね」

 

「そりゃ、十三束家の『レンジ・ゼロ』は有名じゃないか」

 

百家最強の一角を占める十三束家。その中に生まれた異端の魔法師のことは、情報通でなくても知る者は多い。

 

「何の話?」

 

そこに割り込んだのはエリカだった。

 

「エリカ。一人か?・・・レオは?」

 

「・・・達也君。アイツとアタシをワンセットにするのは止めてくれない?アタシはアイツに技と獲物を与えただけで、それ以上の関係なんて全く!何もないんだから!」

 

「そんなに怒らなくても・・・」

 

「だいたい、アタシは・・・」

 

エリカは達也の顔をみて赤くなる

 

「・・・?どうしたエリカ?」

 

達也は自分の顔を見て真っ赤になったエリカが急に黙ったのを不思議に思い続きを促したが、

 

「・・・もういい」

 

エリカは顔を背けた。

 

「・・・他の連中は?」

 

「クラスの皆は殆ど来てないよ。まぁウチが午後からって分かってるからだろうね。でも、美月とミキは来てるよ。二人で仲良く前の方に座ってる」

 

午前九時。全国高校生魔法学論文コンペディションは厳粛な雰囲気で開幕した。形式重視の開会の辞が終わり、最初の発表校、第二高校のプレゼンが始まった。

 

会場に来ていた遥は喫茶室でだらけていた。ターゲットの達也はしばらく行動を起こさないし、元々、発表を真面目に聞く気もない。このまま時間を潰して済めば楽な仕事だったのだが、突然掛けられた声に、驚いた。

 

「少し、宜しいですか?」

 

遥かに声をかけたのは響子だった。

 

「え・・・えぇ。どうぞ」

 

「有難うございます」

 

「・・・」

 

「・・・流石にそんなに見つめられると恥ずかしいんですけど」

 

「・・・はっ! 御免なさい」

 

「いえ、『ミズ、ファントム』に関心を持って貰えるのは光栄なことですし」

 

「・・・『私如き者のことを『エレクトロン・ソーサリス』がご存知とは、此方こそ光栄です」

 

響子が口にした異称『ミズ・ファントム』は余り広く知られているものではない。非合法の諜報活動に手を染めている者の間でだけ囁かれている、正体不明の女スパイに対するコード・ネームだ。

 

「それで、どうのようなお話しでしょう」

 

「これ以上申し上げなくてもお分かりでしょう?」

 

「・・・すみません。私は貴女の様に優秀ではありませんでしたから」

 

「ご謙遜ですね。大学も研究所も優秀な成績で卒業されてますのに、それに貴女のことは九重先生も高く評価されていましたよ。」

 

如何やら、情報収集では響子が一枚上手の様だ。

 

「お互いの領分を守りましょう、と提案を」

 

「・・・意味が良く解りませんが」

 

「ハッキリ申し上げて宜しいんですか?」

 

「・・・ッ」

 

「大丈夫ですよ。貴女にお咎めが来ることはありませんから」

 

そう言って響子は喫茶室から去って行った。響子との初接触は遥の完敗だった。

 

「・・・(でも収穫が無かった訳じゃない)」

 

遥はそう心の中で呟きながら雪辱を誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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