第一高校本日の主役である鈴音が会場に到着したのは予定より一時間早い、午前11時だった。達也は控室で鈴音、摩利、真由美の三人を出迎えた。
「予定を繰り上げたのには、何か理由が?」
「予定より尋問が早く終わってね」
「また尋問してたんですか?しかも、この日に?」
「本当は昨日までに済ませたかったんだが」
「中々許可が出なくてね・・・家の名でごり押しできないし」
「明日でも良かったんじゃ」
「君らしくなく楽観的だな」
「えっ?」
「関本と平河妹の狙いはコンペの資料だった。資料を狙っていた以上、コンペの当日に背後組織が新たな行動を起こす可能性は決して小さくはない」
「まぁ、可能性としては有りでしょうね」
「あくまで、可能性の話だが、無視もできない」
「それで、何か分かりましたか?」
「あぁ。関本はマインド・コントロールを受けていた形跡がある」
「・・・本格的ですね」
この情報には達也も驚いた。四月の『ブランシュ』の事件以来、一校では生徒に定期的なメンタルチェックが義務付けられているからだ。
「メンタルチェックには引っかからなかったんですか?」
「チェックは毎月月初。関本はその後にコントロールを受けた可能性が高い」
「凄腕ですね・・・薬物ですか?」
「さぁな?あたしも、真由美もその方面の専門家じゃないからね」
「精神科の先生の話じゃ通常の手段では無い事は確かよ。もしかしたら本物の『邪眼』かもしれない」
「先天的な系統外魔法の使い手・・・」
「背後組織はこっちが考えていた以上に過激な手段を採ってくることもあり得るわ。リンちゃんには私達が付いているから会場には目を光らせていて、ってはんぞー君には伝えてるわ。達也君も気を付けてね」
「はい」
達也が真由美と摩利から関本に関する報告を受けていた頃、響子も風間からある報告を受けていた。
「呂剛虎に逃げられた?本当ですか。それ」
「横須賀に向かっている途中の護送車が襲撃を受けた。生存者もいない」
「呂剛虎の死体も無かったんですね。それにしても、何で、この日に護送なんて・・・」
「所詮、高校生レベルの行事だということだろう」
「・・・失礼しました!」
「だが、君の指摘も理解できる。なにがしかの意図があるんだろう。幸い保土ヶ谷ので予定されていた新装備テストのおかげで出動準備は整っている。出発を繰り上げて、今日そちらに向かう事にした。到着予定時刻は15時だ」
真由美からの変更指示を受けた服部は、そのことと、合わせて聞かされた尋問結果について報告する為、桐原と共に克人の元を訪れた。
「了解した。服部と桐原は二人一組で会場外周の監視に当たってくれ」
「了解です!」
「ところで、お前達、現在の状況について、違和感を覚えた点は無いか?」
「違和感、ですか?」
「・・・横浜という都市の性格を考慮しても、外国人の数が少し多すぎる気も・・・」
「桐原はどうだ?」
「そうですね・・・会場内よりも町中の空気が、妙に殺気立っているように思います」
「・・・服部・桐原。午後の見回りから防弾チョッキを着用しろ。他の隊員にも通達しろ」
時刻は午後3時第一高校代表チームのプレゼンテーションが予定通り始まった。
加重系魔法の技術的三大難問の一つ『重力制御型熱核融合炉』を発表のテーマに掲げた一校のプレゼンは大きな注目を浴びていた。会場には魔法大学関係者や民間研究機関の研究者も大勢集まっている。大勢の観客を前にプレゼンする鈴音、五十里が機器を操作し、達也がモニターと起動式の切り替えを行う。
「現時点では、この実験機を動かし続けるためには高ランクの魔法師が必用ですが、エネルギー回収効率の向上と設置型魔法による代替で、いずれは点火に魔法師を必要とするだけの重力制御型熱核融合炉が実現できると確信しています」
鈴音が締め括ると同時に、会場には割れんばかりの拍手に包まれた。その後、舞台袖で発表に使った機器を片付けていた達也に後ろから声が掛けられる。
「やってくれたね。見事だった、と言わせてもらうよ」
声をかけたのは発表を次に控えた第三高校の吉祥寺真紅郎だった。
「俺はサブなんだが」
「でも、『ループ・キャスト』を使ったアイデアはキミが考えたんじゃないのかい?」
「・・・ご慧眼恐れ入るよ。カーディナル・ジョージ」
「でも、僕達も負けないよ、いや、今度こそ君に勝つ」
舞台から撤収しようとした達也に真紅郎から声が掛かる。達也が気の利いたセリフでも返してやろうかと、足を止め振り返ったその時、轟音と振動が会場を揺るがした。