達也の周りは敵だらけ   作:黒以下

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横浜騒乱編 横浜事変 状況把握

雫のアクセスコードを使ってVIP会議室のモニターに受信した警察のマップデータは、海に面する一帯が危険地域を示す真っ赤に染まっていた。そして赤い領域は内陸部へ拡大している。

 

「何これ!」

 

「酷ぇな、こりゃ」

 

「状況はかなり悪い。グズグズしてたら捕捉される。だが、脱出するのも簡単じゃない。兎に角、陸路は無理そうだな」

 

「ってことは、海か?」

 

「どうかな、出動した船で全員乗れるかどうか・・・」

 

「じゃあ、シェルターに避難だね」

 

「それが一番だろうな」

 

「じゃあ、急いで地下通路に」

 

「いや、地下じゃなく上を行こう」

 

「え?何で?・・・あっ、そっか・・・」

 

皆を地下通路へ先導しようとしたエリカを止めた達也。その行為に疑問を感じたエリカだが再度マップを見る事でその疑問を払拭させた。

 

「ただ、避難する前に時間が欲しいな」

 

「何故です?」

 

「デモ機のデータを処分したい」

 

「あっ!そうか。それが敵の目的かもしれないしね」

 

 

 

「司波、吉田」

 

エレベータホールからステージ裏へ回る通路で克人に声を掛けられた。

 

「十文字先輩」

 

克人は服部と沢木を従えていた。

 

「お前達は先に避難したんじゃないのか」

 

「念の為。デモ機のデータが盗まれないように消去しに向かう所です。・・・彼女たちはバラバラに行動するよりもいいかと」

 

「他の生徒は中条達と地下通路にー」

 

「地下通路!」

 

「どうかしたのか?」

 

「いや、地下通路は直通じゃないので、他のグループと鉢合わせした場合・・・」

 

「遭遇戦の可能性があるということか」

 

「服部、沢木!直ぐに中条達の後を追え」

 

「はい」

 

 

 

ステージ裏

 

「何をしてるんですか!」

 

達也たちがステージ裏に着くと鈴音と啓がデモ機を弄り、それを真由美・摩利・花音・桐原・紗耶香が取り囲んで見守っていた。

 

「お前達も避難していなかったのか?」

 

「リンちゃんと五十里君を残して行ける訳ないでしょ」

 

「ここは僕達でやるから、司波君は控室の方をたのめるかな」

 

「できれば、他校のもお願いね」

 

「こっちが終われば私達もそっちに向かう。そこで今後の方針を決めよう」

 

そしてしばらくして、達也たちは再度、控室に集まった。

 

「さて、これからどうするか、だが」

 

「港内に侵入した敵艦は一隻。東京湾に他の敵艦は見当たらないそうよ。上陸した兵力の具体的な規模は分からないけど、海岸近くは殆ど的に制圧されてるみたい。陸上交通網は完全に麻痺してる」

 

「彼らの目的は何なんでしょう?」

 

「横浜を狙ったということは、そこにしかないものが目的だったんじゃないかしら。まぁ京都にもあるけど」

 

「魔法協会支部ですか?」

 

「正確には協会のメインデータバンクかな。重要なデータは京都と横浜で集中管理してるから。でも、コンペに集まった学者さんを狙っているって線もあるけど」

 

「避難船はいつ到着する?」

 

「沿岸防衛隊の輸送船があと10分程で到着するみたいだけど、避難に集まった人数に対して収容力が十分じゃないわ」

 

「状況は聞いてもらった通りだ。シェルターの方はどの程度の余裕があるか分からないが船の方は乗れそうにない。だから、私はシェルターに向かった方がいいと思うんだが、皆はどう思う?」

 

「あたしも摩利さんに賛成です」

 

三年生は既に摩利の意見で一致しているらしい。そして、摩利の提案に花音が賛同する。他の二年生も他に選択の余地がないと考えているようだ。そして、一年生達の目は達也に向いていた。回答を求める摩利の視線を受けた達也。しかし、達也の眼は全く別方向に向いていた。

 

「お兄様!?」

 

「達也君!?」

 

達也の手にははいつの間にか抜いた『シルバーホーン』。そして達也は躊躇なく引き金を引く。放った魔法は『雲散霧消』(ミスト・ディスパージョン)四葉本家から第三者の前で使用する事を禁止されている機密魔法。しかし、秘密を守りながら今の事態に対処するのは難しかった。気付いたのは偶然に近い。八雲に鍛えられた直感が彼にそれを教えてくれたのかもしれない。達也は常に八雲から『精霊の眼(エレメンタル・サイト)』に頼り過ぎるな、と諭されていたから、突然、背後から襲ってきた強烈な危機感に眼を向けて、『雲散霧消』発動に踏み切った。時間が有れば深雪に対処させられたが、この瞬間に装甲版で覆われた大型トラックの突入に対応できるのは達也の魔法だけだった。高さ四メートル、幅三メートル、総重量30トンの大型トラックを丸ごと照準に収め、達也は分解魔法『雲散霧消』を発動した。トラックは一瞬で消え、消えた運転席からドライバーが放り出される。

 

「・・・今の、何?」

 

本来なら達也が壁に『シルバー・ホーン』を向けて何をしたか分かる者は、いつもの一年生メンバーに分かる者はいない。だが、その場には知覚系魔法『マルチ・スコープ』の使い手、七草真由美がいた。達也が危惧した通り、真由美は今の光景を視ていた様だ。

 

「・・・あっ!大変。今度はミサイルが・・・」

 

達也の回答を待っていた真由美が新たなビジョンに蒼褪める。会場に向かって飛来する小型ミサイル。達也が迎撃用の魔法を放とうとしたが、今回は達也が手を出す前に解決した。ミサイルが着弾する前に横から打ち込まれたソニック・ブームにより、空中で爆発した。安堵した二人は視点をもとに戻す。それと同時に控室に入って来た女性に声を掛けられた。

 

「お待たせ」

 

「えっ?えっ?・・・な、何で響子さんがここに・・・」

 

「お久しぶりね、真由美ちゃん」

 

控室に入って来たのは軍服をまとった藤林響子だった。

 

 

 

一方、克人は逃げ遅れがいないか桐原と確認を行っていた。そんな克人もミサイルの飛来を確認していた。克人が障壁魔法で防ごうとしたが、ミサイルは障壁に当たる前に爆発した。そして、後方からの僅かなエンジン音に振り返るとミサイルランチャーの様な物を構えた国防陸軍の大尉であろう人物が近づいてきた。

 

「国防陸軍第101旅団独立魔装大隊所属大尉・真田繁であります。お怪我はありませんか?十文字家御当主」

 

「はい、ありがとうございます」

 

「では、十文字殿、お手数ですが此方に」

 

克人は自分に何の用があるのか分からなかったが、軍人に迷惑もかけられないと思い。桐原を連れ、真田の後に続いた。

 

 

 

控室に入ってきた響子は一人ではなかった。響子の後ろから、少佐の階級章を付けた男性が入って来る。

 

「特尉、情報統制は一時的に解除されています」

 

その言葉を聞き達也はため息を付きながらも敬礼で応じた。その行為に深雪以外の全員が、ちょうど部屋に入って来た克人と桐原も驚きを隠せなかった。

 

「国防陸軍少佐、風間玄信です。藤林、状況の説明を」

 

「現在、我が軍は、保土ヶ谷の部隊が侵攻軍と交戦中。また、鶴見と藤沢から一個大隊が当地に九校中。魔法協会関東支部は独自に義勇軍を編成し、自衛行動に入っています」

 

「さて、特尉、現下の特殊な状況を鑑み、別任務で保土ヶ谷に出動中だった我が隊にも防衛に加わるよう、先ほど命令が下った。国防軍特務規則に基づき、貴官にも出動を命じる」

 

この言葉に真由美と摩利が揃って口を開き掛けたが風間がそれを封じた。

 

「国防軍は皆さんに対し、特尉の地位について、守秘義務を要求する。本件は国家機密保護法に基づく措置であることをご理解頂きたい」

 

だが、それでも怯まない者がいた。深雪である。

 

「待って下さい、風間さん。貴官にも、お兄様にも出動を命じるとは一体どうゆうつもりですか?」

 

深雪が起こっているのは達也が強制的に出動を命じられている事と、まるで達也が最初から国防軍に所属している様な言い回し方だ。達也は正式な国防軍所属の兵士ではない。あくまで、四葉から貸し出されている協力者である。達也は四葉の所有物であり、国防軍が勝手に命令できるものではない。

 

「ウチに喧嘩でも売っているんですか?」

 

「深雪君、申し訳ないが既に上の許可は取ってある」

 

「ッツ・・・」

 

流石に風間の言っている、上が誰の事を指すのかは一瞬で理解させられた。そして、一瞬怯んだ深雪の隙を突いて

真田が達也に話しかける。

 

「特尉、君の考案したムーバル・スーツを準備してあります。急ぎましょう」

 

「悪い、皆。聞いての通りだ。皆は先輩達と一緒に避難してくれ」

 

「特尉、皆さんは私と私の部隊がお供します」

 

「そうですか。では宜しくお願いします」

 

「お任せ下さい特尉、でも無理はしないでくださいね」

 

達也が響子に同級生と先輩達の事を任せ部屋を出ようとした時、深雪に呼び止められた。

 

「お待ちください、お兄様」

 

達也に声を掛けても、呼び止めるのが目的ではなかった。

 

「こんな状態の私をおいて行かれるおつもりですか?」

 

「深雪・・・お前、何を・・・」

 

「安心して下さい。お兄様を止めるのは諦めましたから」

 

「だったら」

 

「これから戦場に赴かれるお兄様は兎も角、避難を始める私達も戦闘に巻き込まれることがあるかもしれません。それではお兄様が安心できませんよね」

 

「それはそうだが」

 

「私達が今の状態でも不覚をとる事はないと思いますが、もしもの時の為に、常に全力を出せる状態になっていた方が良いと思うのですが・・・」

 

「深雪、何もこんな時に・・・」

 

「これは私の我儘ですから、何より、私も全力で立ち向かいたいのです」

 

「・・・はぁ~、分かった。もう、どうにでもなれ・・・」

 

そう吐き捨てながら、達也は片膝をつく。深雪は腰を屈め、達也の頬に触れ、額に接吻る。変化は突然に訪れた。激しい粒子が達也の周りから溢れ出す。あり得ない量の活性化した想子が達也の周りに吹き荒れる。

 

「それじゃあ、行って来るよ」

 

「負けたら承知しませんよ」

 

最愛の妹に見送られながら、達也は戦場となった横浜の街に出陣した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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