横浜 桜木町駅前広場
「・・・で?何で和兄貴がここにいるわけ?」
「何で、とは心外な。心優しい兄が、愛する妹の手助けに来た事になんの不思議がある?」
「心優しい!? どの面下げてそんな空々しいセリフを」
「ダメじゃないか。エリカ。女の子がそんな下品な言葉を使っちゃいけないぞ」
「アンタが、あたしに、言えた義理か!」
「けど、手助けに来たのは本当だ」
「藤林さんを見つけた、ついで、でしょ!」
「折角、良いものを持ってきたのに」
「いらないわよ。そんなもの」
「先ずは物を見ろ、今のお前に必要な物だ」
「!! 大蛇丸! 何故ここに・・・」
寿和が差し出した細長い袋とシルエットにエリカは絶句した。
大蛇丸 全長180センチ、刃渡りだけで140センチ。千葉家が作り出した最強の武器。刀剣型武装デバイスの最高傑作の一つ。
「愚問だな。大蛇丸は『山津波』の為だけの刀。だが、『山津波』を使えるのはお前だけ、親父でもなく修次にも使えない。だから、これはお前の為の刀だ」
その頃、停止した直立戦車のコックピットには啓が乗っていた。
「何か分かった?」
「ダメですね。僕も詳しくは知りませんが、この機体は中古市場に出回ってる旧型でしょう。国籍を特定できる様なものも無いみたいですし」
「兵器に中古市場なんてるの?」
「戦闘機にだってありますよ。局地戦なら昔の兵器も現役だと思います。現時点で大亜連合の工作員の可能性が高いみたいですが、黒幕を特定するなら、直接パイロットに聞くのが一番でしょうね」
縛り上げられている直立戦車のパイロットを稲垣と摩利が尋問していた。
「どう?」
「ダメだな。・・・クソッ。こんなことなら、もっと、強い香水を持ってくれば」
「仕方ないでしょ。そんな事、言ったって」
「仕方ない。拷問でもするか」
「イヤ、それはちょっと・・・」
「大丈夫。一切傷痕を残さず苦痛だけを与える自信がある」
「そうじゃないでしょ。・・・取り敢えず摩利。貴女、少し休んだら」
「ぐっ!・・・そうさせてもらう」
そう言った摩利は近くのベンチに向かって歩いて行った。ベンチの近くでは鈴音とほのかが地図を広げていた。鈴音が端末に呼び出した地図をほのかが光を屈折させて投影している。その地図には、桜木町から山下町までの海岸通り地区の詳細が、そして、新たに、船と人の群れと街並みが映し出された。
「凄いな」
「あっ!渡辺先輩」
摩利の登場に一瞬映像がぼやけたが、すぐに、鮮明な映像が映し出された。
「何か分かりましたか?」
「イヤ、残念ながら全く、しかし、コッチは成果ありみたいだな」
「えぇ、光井さんの御かげで、現状における敵兵力と動向がおおよそではありますが把握できました」
「そんな・・・私のしたことなんて」
「謙遜するなこういう時には情報力が状況を左右するんだからな」
「ありがとうございます」
国際会議場で深雪達と別れた達也は大型装甲トレーラーの中にいた。
「どうかな」
「・・・流石ですね」
開発されたばかりのムーバル・スーツを前に真田に対して達也は正直な感想を述べた。
「サイズは合ってるはずだから、早速着替えてくれないか」
「分かりました」
「防弾、耐熱、緩衝、対BC兵器はもとより、簡単なパワーアシスト機能も設計どおりに付けておいたよ。飛行ユニットはべるとに、緩衝昨日と組み合わせて射撃時の反動相殺としても機能するように作ってあるから、空中での射撃も可能だ」
「設計以上の性能ですね」
「ありがとう」
「では早速だが、特尉は柳の部隊と合流してくれ。柳の部隊は瑞穂埠頭へ通じる橋の手前で敵の足止めをしている」
「柳大尉の現在位置はバイザー員表示可能だから」
「了解。それでは出動します」
達也は飛行魔法様用のCADのスイッチを入れ、軽く地面を蹴り、そのまま空へ駆け上がった。飛行魔法で出せる速度は、魔法師がこの魔法に何処まで習熟しているかで決まる。飛行魔法を一から作り上げた達也は誰よりもこの魔法を熟知している。
高速で過ぎていく景色。動体視力も鍛えている達也だが肉眼だけでなく、『精霊の眼』をレーダーとして併用し飛行中の障碍物に意識を配る事も忘れなかった。そのおかげで無人偵察機を発見。達也は偵察機の探知範囲外から分解魔法・雲散霧消を発動し、偵察機を消失させた。
達也が柳と合流した時、戦闘は既に終わっており、柳は負傷者の治療に当たっていた。
「特尉か、ちょうどよかった」
「負傷者の状態は」
「弾は抜いた。後を頼めるか」
「了解です」
達也はシルバー・ホーンを抜いて負傷者に向けて引き金を引いた。そして、負傷者の傷が無くなった。
ほのかの魔法で情報を得た鈴音は兵力が思ったより少ない事に気づいた。
「それにしては戦線が派手に広がってる気が」
「現状、戦線と呼べるものはありません。内陸部の戦闘は点でおこなわれています。潜入したゲリラ兵が交通と通信を混乱させ、上陸部隊が直接的な目標の制圧に当たる。・・・これが侵攻軍の基本戦術でしょう」
「敵の目標って何かな?」
「一つはやはり魔法協会支部、もう一つは海路で脱出を試みる市民を狙ってる様にみえますね。多分、人質が欲しいんでしょう」
「敵の目的に人質が入るなら、守りの薄いこっちにも来るかもしれないな。・・・よし、私は花音の方へ加勢に行ってこよう」
「あの、私も迎撃に回ります。フロントは無理でも、バックアップくらいなら」
「ダメよ。光井さんはヘリが来た時に手伝って貰わないと。それにみんなの役目は迎撃じゃなくて警戒よ。私達はプロじゃないから無理に戦う必要はないし、むしろ戦う事より逃げる事を考えるべきよ」
真由美の言う警戒チーム、もとい、迎撃チームは鈴音が予想した侵攻経路に二手に分かれていた。深雪・エリカ・レオ・幹比古のチームと寿和・啓・花音・桐原・紗耶香のチームだ。
大型特殊車両専用駐車場
ここでの戦闘は終息していた。
「もう終わりか?」
「これで終わりかどうかなんて僕達に分かるはずないよ。情報がないんだから」
「ジョージ」
「タイヤの交換が終わったよ。早くこの場を離れよう。将輝も早くバスに戻って」
「ジョージ、俺はこのまま魔法協会支部に向かう」
「何言ってるんだよ将輝!無茶だ。第一何のために」
「援軍に加わる為だ。この状況を協会の魔法師が座視してるはずがない。義勇軍くらい組織して防衛線に参加してるに決まっている」
「だからって」
「俺は『一条』だからな。協会に対する責任だってある。知らないフリして逃げる訳にはいかないんだよ。一条の長男としては」
「だったら、僕も行くよ」
「勿論、私も行くわよ」
「私も、じゃなくて『私達も』でしょ、愛梨」
将暉と真紅郎の会話に突然混ざる声。その主は一色愛梨と十七夜栞。
「はぁ~お前等まで。この街は、まだ戦場だ。何が起こっても不思議じゃない。正直言って、先生や先輩達だけじゃ無事に脱出できるか心配で集中できない。信頼できて、頼れる仲間がいないと」
「・・・分かったよ、将輝。皆は僕達が無事に脱出させるから、将輝も無事に帰って来て」
「あぁ」
「無理はしちゃダメよ一条君」
「金沢で待ってるわ」
「あぁ、行って来る」
そう言って、将輝は更なる戦場へと向かった。