第一高校警戒チームで、最初に敵の接近に気づいたのは幹比古だった。
「! 来た」
風に乗せてばらまいた呪符により喚起された精霊が敵の映像を送ってきたようだ。
「直立戦車・・・さっきのとは違って随分、人間的な動きだ」
「人間的?」
「もうすぐ見える・・・そこ!」
幹比古の声と共に、ビルの陰から直立戦車が姿を見せる。無限軌道を備えた短い脚部。前後に長い胴体部。右手にチェーンソー、左手に火薬式の杭打ち機。右肩に榴弾砲、左肩に銃機関銃。
だが、直立戦車が視界に入ると同時に、深雪が魔法を発動する。3輌の機体の足が止まる。しかし、深雪の魔法は行動停止を目的とした凍結魔法だけではない、『凍火(フリーズ・フレイム』との同時行使で火器の機能も停止した。
火器が封じられたと見るや、レオが飛び出す。手にする獲物は、双頭ハンマーに似た短いスティク。全長約50センチ、グリップが約30センチ。ハンマーヘッドから突き出た先端、約10センチ。ヘッド部分がモーターの駆動音を立て、スティクの先端から薄く、黒いフィルム。モーター音が止まった直後、フィルムが2メートルの刃に変わる。そして、鋭い刃が凍り付いた装甲板を切断する。
『薄羽蜻蛉』 硬化魔法により完全平面状に固定された、カーボンナノチューブ製シートの刀身。千葉一門の秘剣。術の名であり、特殊武装デバイス。
更に、エリカの大蛇丸が振り下ろされ、装甲が断ち切られる。
加重系・慣性制御魔法『山津波』 自分と刀に掛かる慣性を極小化して敵に高速接近し、インパクトの瞬間、消していた慣性を上乗せして刀身の慣性を増幅し対象物に叩き付ける秘剣。
もう一方の警戒チームも直立戦車相手の戦闘に突入していた。此処では五十里が予め地下3メートルの地層に振動を遮断する壁を作って、地面を媒体とする魔法が得意な花音のサポートと同時に索敵も行っていた。
「来たよ」
現われた2輌の直立戦車に向かって花音が魔法を発動する。
『振動地雷』 千代田家の『地雷原』のバリエーションの一つ。地面を液状化し、敵の足を止める魔法。
そこに、寿和の秘剣『斬鉄』を極限まで昇華させた『迅雷斬鉄』。桐原得意の『高周波ブレード』。更に紗耶香の小太刀による投剣術が装甲を切り裂いた。
達也は柳の部隊が戦闘で破壊した装甲車の残骸をあさっていた。そして、その中から一辺30センチ程の立方体の箱を取り出した。
「これですか」
そう言って、達也はディスプレイの中の真田に向けた。
「そう。それが『ソーサリー・ブースター』だよ」
「只の箱に見えますが」
「接続も操作も百パーセント呪術的な回路で行われるから、機械的な端子は存在しないんだ」
「装甲車の対物防御魔法はブースターで増幅されていたということか?」
「そうだと思う」
「敵の正体がハッキリしたな」
「なら、大亜連合の偽装戦闘艦を堕としますか?」
「港内ではマズいよ。港湾機能に対する影響が大き過ぎる」
「なら乗り込んで制圧か?」
「それは後回しだ。それより、桜木町駅前広場で民間人が避難民用のヘリを手配している。現在地の監視は鶴見の部隊に引き継いで、駅に向かい民間人の脱出の援護をせよ」
「了解しました」
「それと、ヘリを呼んだ民間人は七草 真由美・北山 雫だ。両名から要請があったら助力は惜しまない様に」
最後の風間からの報告に達也は咳き込みそうになった。
敵の正体に関しては深雪達も同じ推測に至っていた。
「この直立戦車、機械的なコントロールだけで動いてたんじゃないと思うんだ」
「つまり、何らかの術を併用していたということですか?」
「ええ、そうです」
「それって、どんな魔法?」
「多分、剪紙成兵術の応用だ」
「・・・?」
「それって陰陽道系の人型使役術式じゃ・・・元は道家の術だとか」
「そうです。紙を人の形に剪み切り、精霊を宿して兵と化す術」
「じゃあ、相手は大亜連合?」
「そうだと思う」
「えっ?柴田さんに来て欲しい?・・・まぁ理由は分かりました。でも一応、本人の意思を確認してから・・・そうですね。直接説明した方がいいでしょう。柴田さん。ちょっと」
「・・・?何でしょう?」
「深雪さん達から連絡があって、柴田さんに来て欲しいそうです。理由は直接説明するとのことですから、それを聞いた上で判断して下さい」
「あっ!柴田さん?」
「吉田君?」
「柴田さん、君の力を貸して欲しい!」
「えっ? 力って?」
「敵は古式魔法で機甲兵器を動かしてるんだけど、僕の使う魔法とは性質が違うから敵の術式をうまく捉えられないんだ。でも柴田さんの眼なら敵の動向を僕より早く捉えられることができるだろうし、魔法の核となっている部分も見つけられる筈なんだ。核さえ見つかれば僕の魔法で敵の魔法を無効化できる。だから、柴田さんにこっちに来て欲しい。勿論、今いる場所より危険だけど、僕が守るから」
「-っ!」
「良かったわね美月。フフッ。吉田君が守ってくれるそうよ?」
「-っ!」
「-っ!!」
「勿論、私も二人の空間に邪魔者を入れないように頑張るから」
「と、兎に角、ディフェンスは全員でカバーするから」
「わ、わかりました。今からそちらに向かいますね」
美月は真由美に一礼して幹比古たちの元へ駆け出した。
美月が幹比古達の元へ駆け出して、しばらくすると雫の端末に着信があった。
「黒沢さん・・・うん、そう」
雫が通信を切るとほぼ同時にヘリのローター音が聞こえて来た。
「七草先輩。ウチのヘリがもう直ぐ来ます」
「分かりました。北山さんは女性と子供連れの家族を優先して収容して下さい。稲垣さんは同じヘリに乗ってサポートをお願いします。私も市原と手伝いますので。光井さんは周囲の警戒をお願いします」
北山家のハウスキーパーである黒沢が上空に姿を見せ、着陸しようと高度を落としている時、突如、季節外れのイナゴの大群が現われた。たかがイナゴといえどエンジンの吸気口に飛び込まれては厄介なことになる。
「なんでこんな時に?」
「もしかして、あれって、化成体?」
不自然な現れ方をしたイナゴに向けて、雫はポーチから取り出したCADを空に向ける。
小型拳銃方の銀色のCAD。九校戦後に達也から購入したシルバーモデル。インストールされているのはループ・キャストの『フォノン・メーザー』
「ダメ。数が多すぎる」
雫が空に向かって引き金を引く度にイナゴの群れは消えていくが、それは大群のほんの一部に過ぎなかった。排除しきれないイナゴの大群が遂にヘリに迫った。ほのかもそれに気づいてはいるが、彼女の魔法は敵の迎撃に向いていないし、雫の魔法との相克を恐れ、手が出せない。
イナゴの群れが減りに取り付くのが見えた、その時、イナゴの大群は消え失せた。そして、それと同時に黒尽くめの人影が、銀色のCADを構えて浮いていた。
「達也さん・・・?」
そして更に黒尽くめの人影は増え、一つの集団を形成し、ヘリを守る様に陣を組む。ヘリは再び降下を開始した。
「化成体による攻撃を撃退。ヘリの降下を援護します」
「護衛は他に任せ、特尉は術者の探索、これを排除せよ」
「了解」
柳の指示を受け、達也は眼を凝らして引き金を引いた。
「何者ですかね、彼らは」
気味悪そうに尋ねた稲垣に真由美は一言。
「味方です」
と、短く答えた。