雫と稲垣を乗せたヘリが無事飛び立った後、遅れて真由美の呼んだヘリが到着。到着したのは軍用の双発ヘリ。雫の手配したヘリよりも一回り大きい。真由美はヘリの大きさを見て、残りの市民の収容も問題無いと踏んだ。ただ、ヘリは一機ではなかった。もう一機、戦闘ヘリが随従していた。そして、真由美の通信ユニットに着信があった。
「真由美お嬢様、ご無事でいらっしゃいましたか?」
「問題ありません。名倉さんはどちらに?」
「私は戦闘ヘリの方に、お嬢様もこちらで脱出するよう旦那様から仰せつかっております。」
「・・・分かりました」
真由美は通信を切る。そして、
「じゃあ、りんちゃん。ヘリも来たし、残りの市民の収容を終わらせましょうか?」
「そうですね」
真由美の声に鈴音が振り返る。しかし、その時、
「動くな!」
背後から鈴音の首に腕を巻き、もう片方でナイフを突きつける男。
「・・・成程、この為の布石でしたか」
「頭の回転が速いな」
「機動部隊で戦力を前方に引き付け、更に脱出を待って人数を減らせるだけ減らした後、ターゲットを確保するとは、なかなか手の込んだ真似を」
「最初から、脱出を許すつもりは無かったが・・・支障のない作戦に切り替えただけのこと」
「私を狙ったのはエネルギー供給の安定化の為ですか?」
「それだけではない、不甲斐ないが、本作戦に先立ち大勢の仲間が高速されている。お前にはその開放の人質になってもらう」
「私一人では政府は動きませんよ」
「そうでもあるまい。-動くなと言った」
後ろ手にこっそりとCADを操作しようとした真由美に警告を放つ。真由美は諦めて両手を挙げた。
「若い娘を人質に取れば日本政府は動くだろう」
「その後は私を本国へ拉致する手筈ですか?」
「そうだ」
「しかし、それでは、人質交換にはならないのでは?」
「それは・・・お、お前、何をした?」
そこまで、喋って、男はようやく自分がしゃべり過ぎている事に気が付いた。イヤ、そもそも、いくら人質を取っていても悠長に会話していた自分が信じられなかった。
「作戦は悪くなかったですが、ターゲットが良くありませんでした」
鈴音は顔の前のナイフをどかし、首に巻かれた腕を解く。
「私はCADを使った魔法こそ平凡ですが、無媒体で行使する魔法なら目の前のお嬢さんより上なんですよ」
「か、身体が・・・」
「随意筋を司る運動中枢を麻痺させました。貴方の身体はしばらく自由に動きません」
「く、クソッ」
「難点は効力が表れるまでに時間が掛かることですが、貴方がおしゃべりな方で助かりました。あぁ、言っておきますが、貴方が口を滑らせたのと、私が使った魔法とは無関係です。要するに貴方が軽率だということです」
そう言いながら、鈴音は冷たい笑みを浮かべ、立ち去った。
その頃、一条将輝は中華街の手前で義勇軍に加わっていた。敵が往来する真っただ中を、真紅の花を咲かせながら侵攻軍と交戦中の集団に合流した。将輝はここに来るまでに『爆裂』連発で消耗していた。その上、敵は既に機甲兵器の攻撃から魔法攻撃に切り替えている。『爆裂』は機甲兵器には有効でも、古式魔法によって作られた幽鬼の幻影には意味をなさない。将輝は得意魔法を封じられた状態で幻影の攻撃を凌ぎながら敵の魔法師を探していた。
駅前広場ではようやく、残りの市民の搭乗が完了していた。
「じゃあ、リンちゃん。頼んだわよ」
「真由美さんも無理はしないで下さい」
鈴音と市民を乗せたヘリが上昇する。その周りを黒の兵士が守る。ヘリが安全高度に上昇すると黒の兵士は海岸方面に飛び去った。
「私達も行きましょう。深雪さんたちと摩利たちと合流しなきゃ」
達也は鈴音の乗ったヘリと真由美の乗ったヘリを黙って見送った。
「(しかし、市原先輩があの「一花」の人だったとは)」
鈴音の使った魔法は一花が番号を剥奪されエクストラとなった原因。あの魔法は一花家の先天的な素質に大きく依存するもの。彼女が一花の血をひくものであるのは間違いないだろう。
「北山雫・七草真由美の搭乗を確認。取り残された市民もいません」
「了解した。護衛対象の戦闘領域離脱を確認後、隊へ合流してくれ」
「了解です」
魔法協会の組織した義勇軍は後退を余儀なくされていた。対峙した部隊が主力部隊だったからだ。装甲車と直立戦車の混合部隊。また、義勇軍にとって何より厄介なのがその部隊に同行している多数の魔法師。
『禍斗』と呼ばれる犬に似た魔物を真似た化成体、と『畢方』と呼ばれる鶴に似た魔物を真似た化成体を形成する古式魔法が義勇軍に襲い掛かる。
「クソッ! 後退だ!」
「防衛ラインを立て直す」
後退を決意した義勇軍。しかし、後方から響く声が、
「後退するな!」
そう言って、後退しようとしていた義勇軍に一喝したのは克人だった。克人が現われたと同時に襲って来た化成体が押し潰されて消える。
「奮い立て!魔法を手にする者達よ。卑劣な侵略者から祖国を守るのだ!」
その声と同時に一台の直立戦車が潰れる。そしてもう一台。残りの直立戦車が克人に機銃を向けるも『ファランクス』には意味をなさなかった。克人の参戦で戦況が逆転した。
一方、幻影の攻撃に手を焼いていた将輝は魔法師を探すのを止め、敵を纏めて鏖殺する方向に切り替えた。
『叫喚地獄』 体液を振動させ熱っする加熱魔法。
『叫喚地獄』は情報強化を纏っていれば効きにくい。逆に言えば『叫喚地獄』を喰らっても生き残っているのが魔法師ということになる。
「(見つけた)」
逃走する魔法師に向け、特化型CADの引きがねを引く。敵の魔法師は降伏する暇なく将輝に打たれた。
将輝の魔法で義勇軍が勢いをとり戻した。