事態が終息に向かって動き出していた頃、密かに魔法協会関東支部に向かうトレーラが一台。そのトレーラーの中には大亜連合特務部隊上校 陳 祥山と彼が信頼する呂剛虎を含む部下20名が乗り込んでいた。
「我々はこれより作戦案二号を実行する」
真由美たちを乗せたヘリを覆う重苦しい空気は美月によって破られた。
「どうしたの?美月」
「えっと、ベイヒルズタワーの辺りで、野獣のようなオーラが」
「野獣?」
幹比古が確認の為に呪符を使ってベイヒルズタワー周辺を視た。
「あっ!敵襲」
「本当に?」
「でも敵は義勇軍が押し返してるんじゃ」
「少人数による背後からの奇襲です。凄い力を感じます。戻りましょう。協会が危ない」
「真由美お嬢様。協会より十師族共通回線に緊急通信が」
通信機からは協会員の助けを求める声が、如何やら長くは持たない様だ。
「名倉さん、協会にヘリを向けて」
「畏まりました」
陳の率いる奇襲部隊はバリケードを次々に突破して協会に迫っていた。その様子を上空から見ていた真由美たち。また、摩利は奇襲隊の中で一番目立つ白い甲冑の兵士を見て愕然とした。
「何でアイツが!」
「あの時の・・・呂剛虎だっけ?・・・逃げられちゃったんだ」
「呂剛虎!?」
「知ってんのか?」
「えぇ、強敵よ」
「へぇ~」
一方、押し寄せて来る部隊を見下ろしていた深雪がCADを手に取る。しかし、それは真由美に止められた。
「深雪さん!? ストップ。ストップ」
「何ですか?」
「深雪さん、何するつもり?」
「あぁ、心配しないで下さい。一撃で終わりますから」
「・・・だ、ダメよ。万一打ち漏らしがあったら深雪さんの責任になっちゃうから」
「・・・(打ち漏らしなんてする訳ないじゃない)では私は何を?」
「深雪さんは支部のフロアを守って、これは貴女にしか頼めないわ」
「承知しました」
「桐原君と壬生さんは深雪さんと柴田さんの護衛を」
「はい」
「了解です」
「五十里君と花音ちゃんと吉田君であの白い鎧以外の敵を抑えてくれる?」
「はい」
「分かりました」
「任せて下さい」
次々に指示を出していく真由美。そして次に摩利に視線を移す。
「摩利」
「分かっている。あの男は私達で倒す。エリカ・西城、お前達にも手伝って貰うぞ」
「言われなくても」
呂剛虎はバリケードを破り協会に迫っていた。そして彼は最後のバリケードの前で憎むべき小娘と再会した。呂剛虎は思いがけない再戦の機会に歓喜し、摩利に襲い掛かった。
摩利は協会で調達した三節刀を右手構え、左手にCAD。腰には小刀2本と様々な薬品のシリンダー容器を挿したベルトを巻き、戦闘用スーツを身に纏っている。
摩利に襲い掛かろうとする呂剛虎に横からエリカが『山津波』で切り掛かる。躱しきれないと悟った呂剛虎は両手腕を掲げ大蛇丸を受け止める。すると背後からのレオの奇襲。『薄羽蜻蛉』で両足を刈り取ろうとする。呂剛虎はそれを躱しレオに反撃を試みる。しかし、それは真由美の魔法で阻まれてしまう。再度レオが攻撃に移る。今度は魔法を使った一撃。
「パンッツアー」
しかし、レオの音声入力の前に呂剛虎の双手突きが決まり、レオはバリケードの車両に激突させられた。エリカも再度、『山津波』で切り掛かる。呂剛虎はそれを鮮やかに躱す、しかし、エリカもそれで終わらない。
『山津波・燕返し』 慣性を復元せず振り下ろし、切り返しと同時に慣性を戻す。
しかし、重さはあっても、速度の足りない斬り上げでは、呂剛虎には意味をなさない。エリカは呂剛虎の掌打の反撃を受け、レオと同じくバリケードに激突した。
呂剛虎は直ぐに意識を摩利へ戻した。だが、その僅かな時間が両者にとって命運を分けた。呂剛虎が摩利を視界に収めた時、摩利は既に、右手を振り抜いていた。その指に挟まれた三本のシリンダー容器を見て、呂剛虎は物理的に息を止めた。自分に苦杯を嘗めさせた術式を忘れてはいなかった。摩利の気流操作で容器から飛び散った薬品が混じり合う事でその効果を発揮する。酩酊感を与える刺激が呂剛虎を襲う。しかし、対毒訓練を経ている呂剛虎は直ぐにそれを克服する。しかし、その時には既に、三節刀が迫っていた。呂剛虎はそれを回避しつつ、摩利を蹴り上げる。摩利の身体が簡単に吹き飛んだ。
摩利を蹴り上げる際、彼の目は上空に白い塊を捉えていた。子供の拳大の目に見える速度で落下してくるドライアイス。呂剛虎はそれを掌打で迎え撃つ。ところが、彼の拳と接触する直前、ドライアイスは二酸化炭素に戻った。気化膨張による衝撃波が呂剛虎を襲う。
『ドライ・ミーティア』 二酸化炭素の収束・凝結・加速・昇華の四工程からなる魔法。衝撃波と二酸化炭素中毒で敵を行動不能にする術式。
こうして、世界屈指の近接戦闘魔法師は、十代にして世界屈指の遠隔精密射撃魔法の使い手、七草真由美の切り札『ドライ・ミーティア』で止めを刺された。
陳 祥山は魔法協会支部へと通じる廊下を一人進んでいた。一階からエレーベーターもエスカレーターも使わずに普通の足取りで進んでいるのにも関わらず、彼はここまで誰にも見咎められてはいない。彼は易々と協会支部に到着した。ドアに手を掛けるが当然の如く鍵が掛かっている。彼は慌てることなくカード・キーのパネルに端末を押し付ける。端末から電子金蚕が取り付き、鍵システムを蝕んだ。鍵が壊れた事で警報が鳴り響いたが、彼はそれを気にすることなく協会支部に足を踏み入れた。
「ようこそ、魔法協会関東支部へ、最も、此処は私の部屋ではありませんし、私も貴方も本来入れる場所ではないのですが」
「・・・!司波深雪」
「私をご存知ということは、ここしばらくお兄様に付き纏っていたのは貴方でしたか」
「何故、此処に?術が通じなかったのか?」
「そんなことはありませんよ。奇門遁甲。実に勉強になりました。方位に気を付ける様に警告を受けていなければ私は今、こうやって貴方とお話しできなかったでしょう」
「警告だと?」
「えぇ。只、方位に気を付けろと、だけ言われても、それだけでは意味が解らなかったんですけど、方位に気を付けなければならないのなら取り敢えず360度、全てを警戒していれば何とかなるかと思いました」
「ば、ばかな・・・」
「兎に角、貴方が覗きの張本人なら、貴方にいなくなってもらえばしばらくは安心できるでしょう」
この時ようやく彼は気付かされた。自分の体温の異常な低下に、しかし、既に手遅れだった。足はすっかり、床と共に氷漬けにされて動かせず、体温低下で身体の自由が利かない。足元の凍りが徐々に彼を包み込もうとしていた。
「色々とお疲れでしょう。どうです?しばらくお休みになられては。ご安心を、今回は特別です。ずっと目が覚めないということはありませんから」
その声を最後に彼の意識は強制的に闇に閉ざされた。