独立魔装大隊は遂に敵の偽装揚陸艦を目視に捉えた。敵戦力は既に壊滅状態。横浜事変は最終局面を迎えていた。
北からの鶴見の大隊。南の藤沢の部隊。西からの保土ヶ谷の駐留部隊が敵の残存兵力に迫っていた。敵は三方からの圧力に耐えきれず、遂に敵は上陸部隊の収容を途中で諦め撤退に掛かった。敵艦が慌てて出港しようとしているのを柳が見逃すことはない。
「逃げ遅れた敵兵は後詰の部隊に任せ、我々は直接敵艦を攻撃、航行能力を破壊する!」
「柳大尉、敵艦に対する直接攻撃はお控え下さい」
「どういうことだ?藤林」
「敵艦はヒドラジン燃料電池を使用しており、湾内で船体を破損させては水産物に対する影響が大き過ぎます」
「では、どうする?」
「退け、柳」
「隊長?」
「勘違いするな。作戦が終了したという意味じゃない。敵残存兵力の掃討は鶴見と藤沢の部隊に任せ、一旦帰投しろ」
「了解です」
風間は真田・藤林・達也を連れベイヒルズタワーの屋上に来ていた。現在時刻は午後6時。
「敵艦は相模灘を時速三十ノットで南下中」
響子が携帯用の小型モニターを見ながら、そう告げた。
「房総半島と大島のほぼ中間地点です。撃沈しても問題無いと思われます」
「サード・アイの封印を解除」
「了解」
風間からカード・キーを受け取った真田が霞ヶ浦の本部から持ってこさせた大きなケースの鍵を開ける。鍵はカード・キーと静脈認識・暗証ワード・声紋照合の複合キー。
「色即是空 空即是色」
「パスワード・認識しました」
中に納まっていたのは大型ライフルの形状をした特化型CAD。
「特尉、マテリアル・バーストを以って、敵艦を撃沈せよ」
「了解」
「成層圏監視カメラとのリンクを確立」
響子がそう告げた時、達也のバイザーに敵艦が映し出された。サード・アイの遠距離照準補助システムの助けを受け、情報体知覚の視力によって照準を合わせる。
「マテリアル・バースト、発動」
達也はそう言いながら、迷わず引き金を引いた。
相模灘を南下中の大亜連合所属の偽装揚陸艦の艦内には安堵感が漂い始めていた。
「やはり日本軍は攻撃してきませんでしたね」
「フン・・・奴らにそんな度胸があるものか」
「ヒドラジンの流失を恐れたのでは?」
「同じことだ。今更環境保護などという偽善に捉われているから、みすみす敵の撤退を許すことになる」
彼らは自分達が何らかの手段で監視されている事を確信していたが、最早攻撃を受けるとは思っていない。
「覚えておれよ。この屈辱は倍にして返してやる」
もうすぐ、大島の東を通過する、というその時、警報が鳴った。それは相思波の揺らぎに対する警報でCADの照準補助システムにロックオンされたことを意味するもの。しかし、辺りを見回しても敵の影はなかった。しかし、突如として甲板に生じた灼熱の光球が全ての可燃物を一瞬で完全燃焼させ、巨大な炎の塊と化して艦を飲み込んだ。
『質量爆散(マテリアル・バースト)』質量をエネルギーに分解する魔法。質量を光速定数の二乗の倍率でエネルギーに変換する。
マテリアル・バーストによる変化はベイヒルズタワーの屋上からでも確認された。
「敵艦と同じ座標で爆発を確認。同時に発生した水蒸気爆発で状況が確認できませんが、撃沈したものと推定されます」
「津波の心配は?」
「大丈夫です」
「約八十キロの距離で五十立方ミリメートルの水滴を精密照準・・・サード・アイは所定の性能を発揮しました」
「ご苦労だった」
一方、深雪は既に、自宅に帰り一人で過ごしていた。そんな深雪の元に一本の電話が入る。掛けて来たのは深雪と達也の叔母。世界最強魔法師の一人、四葉家の現当主。四葉真夜。
「ご無沙汰しております、叔母様」
「遅くに悪いわね」
「いえ、滅相もございません」
「あら、そう?それにしても、今日は大変だったわね」
「別にあの程度、大変というものでは・・・しかし、ご心配をお掛け致しました。申し訳ありません」
「構わないわ。まぁ、無事なようで何より、まぁ、貴方には達也が付いているから心配はしてなかったけど・・・で?その達也は何処に?」
「畏れ入ります。兄は事後処理の為、まだ帰宅しておりませんが」
「はぁ~、全く。あの子と来たら、自分の立場を分かっているのかしら。ガーディアンが主から離れるなんて」
「お心を煩わせ、誠に申し訳ございません。ですが、御懸念には及びません。私も、兄の行動を逐一把握してはおりませんが、兄の力は私を常に守護しておりますので」
「フフッ、そうね。貴女の方から鎖を解く事はできても、達也が自分から誓約を破棄する事はできないものね」
「えぇ、仰る通りですわ、叔母様。兄が何処へ行こうと、兄の一存でガーディアンの務めを放棄する事はできませんから」
「フフッ、それを聞いて少しは安心したわ。そうそう、今度の日曜日に屋敷にいらっしゃい。今日の出来事を詳しく聞きたいし、久しぶりに貴方達と直接会って話がしたいから」
「恐縮です。兄が戻りましたらそのように申し伝えます」
「楽しみにしているわ。じゃあ、お休みなさい。深雪」
「はい、おやすみなさい、叔母様」
画面がブラックアウトするし、通信が完全に切れたことを確認すると、深雪は大きく息を吐き、落ちるようにソファーに腰を下ろした。