西暦2095年10月31日。達也は対馬要塞に来ていた。屋上に上がり朝鮮半島を眺めていた達也に通信が入る。
「特尉、作戦室に来てくれ」
達也はムーバルスーツにマスクとヘルメットとマスクを付け入室した。さらに遅れて柳と山中が姿を見せる。
「敵海軍が出撃の準備に入っている。この映像を見てくれ」
壁一面を使った大型ディスプレイに、衛星から撮ったと思しき写真が表示された。そこには十隻近くの大型艦船とその倍に上る駆逐艦・水雷艇の艦隊が出港準備に取り掛かっている様子が写っている。
「今から五分前の写真だ。このままなら、敵は遅くとも二時間後に出港するだろう。動員規模からみて一時的な攻撃ではなく、北部九州・山陰・北陸のいずれかの地域を占領する意図があると思われる」
室内の雰囲気が一気に引き締まる。
「既に、動員を完了している敵艦隊に対し、残念ながら我が海軍は昨日より動員を開始したところだ。現状では敵の海上兵力に、陸と空の兵力で対抗するしかない」
室内の空気が重くなる。
「苦戦は免れない。そこで、この現状を打開する為、我が独立魔装大隊は戦略魔法兵器を投入する。本件は既に統合幕僚会議の認可を受けている作戦である」
達也は内部にある第一観測室に入った。ここは低高度衛星を使って敵沿岸を監視する施設の一つ。達也はムーバル・スーツを身に着けサード・アイを手に観測室の全天スクリーンの真ん中に立った。
このスクリーンは衛星の映像を三次元処理して、任意の角度から敵陣の様子を観察することができるようにしたもの。今は達也の希望により、水平距離百メートル、海面上三十メートルの高さから見下ろした映像が映し出されている。
「特尉、準備はいいですか?」
「準備完了。衛星とのリンクも完璧です」
「マテリアル・バースト、発動準備」
達也はサード・アイを構えた。
鎮海軍港。巨済島要塞の向こう側に集結した大亜連合艦隊。その中央の戦艦に翻る戦闘旗。その旗に照準を合わせる。戦闘旗の重量はおよそ一キログラム。
「準備完了」
「マテリアル・バースト、発動」
「マテリアル・バースト、発動します」
達也はサード・アイの引き金を引いた。達也は約一キロの質量をエネルギーに変えた。
マテリアル・バーストのは発動直後、スクリーンがブラックアウトした。過剰な光量に衛星の安全装置が発動したのだろう。だから彼らは、そこに生じた爪痕しか見る事ができなかった。
鎮海軍港の奥に停泊する旗艦の上に突如、太陽が生まれた。計測不能の高熱は、船体の金属を蒸発させた。急激に膨張した空気が音速を超える。熱線と衝撃波と金属蒸気が艦隊も港湾施設を破壊した。近くのものは、人も物も関係なく蒸発した。少し離れた人やものは、爆発し、焼失した。海面が高熱に炙られ水蒸気爆発を起こす。竜巻と津波が対岸の巨済島を呑み込む。衝撃波が周辺の軍事施設にまで及んだ。全てが収まった時、周りには何も残っていなかった。
「敵の状況は?」
「敵艦隊は全滅・・・いえ、消滅しました。攻勢を掛けますか?」
「不要だ。以後の予定を省略し、作戦を終了。全員、帰投準備に入れ!」
達也はサード・アイを下ろした。ヘルメットの奥のその瞳には、ひとかけらの動揺も存在しない。
灼熱のハロウィン。
後世の歴史家は、この日の事を、そう呼ぶ。それは歴史の転換点であり、歴史の転換点とも見做されている。それは、機械兵器とABC兵器に対する、魔法の優越を決定づけた事件。魔法こそが勝敗を決する力だと、明らかにした出来事。それは魔法師という種族の、栄光と苦難の歴史の、真の始まりの日。
次の章、追憶編ですが、個人的に好きでないのと早く進めたいと思うのでほぼほぼ、カット予定です。