達也の周りは敵だらけ   作:黒以下

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来訪者編 始まり 其之ニ シリウスの任務

太平洋を隔てた北米大陸中部は、まだクリスマスイブの前の夜。日付もそろそろ24日に変わろうとしていた。そんな中、USNA南部有数の大都市、テキサス州ダラスの街角の暗躍する影があった。ビルの屋上から屋上へと跳び移って行く人影。そして、その影を追う複数の影。

 

「止まりなさい。アルフレッド・フォーマルハウト中尉!最早逃げ切れないのは分かっているはずです」

 

逃走者の正面に、目の周りを覆う仮面を付けた小柄な人影が立ち塞がる。投降を呼びかける甲高い少女の声。

 

「一体どうしたんですか?フレディ。1等星のコードを与えられた貴方が、なぜ脱走をするんです」

 

「・・・」

 

しかし、答えは返ってこない。

 

「この街で起きている連続焼殺事件も、貴方のパイロキネシスによるもの、と言う者がいます。まさか、そんなことはしていませんよね」

 

パイロキネシス 発火念力 体系化された現代魔法ではなく、かつて超能力と呼ばれた属人的異能力。

 

「・・・」

 

「答えなさい!」

 

答えは言葉以外で返って来た。少女が咄嗟に飛び退った。肩に巻いていたストールを残して。少女のストールが何の火種も無く燃え上がった。少女や中尉を包囲する者達が身に着けていたストールを始めとした防寒具は寒さを防ぐ為でなく、視線をキーとして発動するこの男の能力から身を守る為だ。

 

ストールの炎が消えると同時に、男の周りから一切の光が消えた。中尉を包囲していた一人が領域魔法『ミラー・ケージ』を発動した。

 

『ミラー・ケージ』 対象を中心とする一定の相対距離で光の進行方向を逆転させることで、外界から光の入らない、完全な闇の中に閉じ込める領域魔法。

 

また、他の者が視線をキーとする異能を封じ込める為の防御術式を展開する。

 

「連邦軍刑法特別条項に基づくスターズ総隊長の権限により、フォーマルハウト中尉。貴方を処断します」

 

その宣告と共に、フォーマルハウト中尉に別の魔法が襲い掛かる。それと同時に仮面の少女スターズ総隊長アンジー・シリウス少佐が自動拳銃を突き付ける。強力な情報強化により一切の魔法干渉が無効化された銃弾がフォーマルハウト中尉の心臓を一発で貫いた。

 

 

 

任務を終えて基地に帰投したアンジー・シリウスことアンジェリーナシリウスは制服のまま自室のベッドに寝転がった。そのまま寝がえりを打ち、うつ伏せに、顔を枕に押し付ける。処刑任務は何度経験しても慣れない。最初の頃の様に任務終了後に吐く事は無くなったが、それは心の痛みに身体が慣れたからに過ぎない。むしろ心の痛みは大きくなっていく一方だった。同胞を処刑する。それが総隊長シリウスのコードを与えられた者の任務だと聞いても実感が無かった。与えられた名誉だけに舞い上がって、理解していなかった。同胞を殺すという意味を。

 

不意に呼び鈴の音が聞こえた。

 

「どうぞ」

 

「失礼しますよ。総隊長」

 

彼女の部屋に入って来たのはスターズのナンバーツー第一隊の隊長、ベンジャミン・カノープス少佐。

 

「総隊長。もう準備は終わっているんですか?」

 

「えぇ、大体は」

 

「さすがに手際がいいですね」

 

「これでも女の子ですから」

 

「女の子だからというのは余り関係ない様な気もしますが・・・日本人の血ですかね」

 

「日本人だから几帳面というのは昔の話だと思いますよ」

 

「それはまぁ、兎も角、暫くは因果な任務のことは忘れて、のんびりと羽を伸ばしてください」

 

「休暇じゃなくて特別任務ですけど」

 

お気楽なカノープスのそそのかしに彼女は唇を尖らせた。

 

「むしろ憂鬱です。容疑者が戦略級魔法師かどうかを探り出すなんて。二人の内のどちらかが、というならまだしも、二人とも該当者でない可能性も高いとか。それに何故、私が不慣れな潜入捜査なんて・・・年齢制限があるにしろ、専門の訓練を受けたものは沢山いるんじゃ・・・」

 

彼女に与えられた新たな任務は十月末に極東で起こった大爆発を引き起こした戦略級魔法とその術者の正体を探ること。情報部が絞り込んだ51人の容疑者の内の二人が東京の高校に通う学生だった為に偶々同い年の彼女に潜入捜査が命じられた。

 

「まぁまぁ。それだけ一筋縄では行かない相手だと考えているんでしょう。ターゲットが推測通りの相手なら、戦略核を凌駕する危険な魔法の使い手ということになります。しかも、我々の調査でも正体を完全につかませなかった相手です。諜報能力の高さより戦闘力の高さを優先したのも理解できます」

 

「それは分かってますけど」

 

「容疑者が高校生だから同じ高校生として接触するというプランは少々安直なものだと思いますが、調査に当たるのは総隊長だけじゃありませんし」

 

「それも分かってますけど」

 

「じゃあ、こう考えましょう。総隊長の役目は、容疑者に接触して揺さぶりを欠けることだと」

 

「まぁ、妥当ですね。私の諜報技能は素人同然ですし」

 

「だったら余計気軽に楽しまなければ損ですよ。その方が相手も隙を見せてくれるかもしれませんし」

 

「はぁ~そうですね。弁の言う通りかもしれません」

 

大きくため息を付きながらカノープスの正面に立ち上がる。

 

「ベン、留守中のことはよろしくお願いしますね」

 

「お任せ下さい」

 

慈しみのこもった笑顔で敬礼するカノープスに彼女は感謝の笑顔で答礼した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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