留学生のアンジェリーナ・クドウ・シールズは、第一高校でセンセーショナルなデビューを飾った。それまで、学園一の美少女は深雪だった。これは上級生を含めた女子生徒全員の一致するところだった。だがリーナの編入により「女王」は「双璧」となった。二人が行動を共にする機会が多いから余計に、「司波深雪に劣らぬ美貌」が強く印象付けられた。また対照的な美を持つ二人が並び立つことによって一層輝いて見えた。その美しさだけでも話題になるには十分だったが。
第一高校 実習室
「行くわよ、深雪」
「えぇ、いつでもどうぞ」
向かい合う二人の距離は三メートル。その真ん中で、直径30センチの金属球が細いポールの上に載っている。実習室には同じ機具が並んでいるがクラスメイト達は手を止めて深雪とリーナを見ていた。ただ、2人を見ていたのはクラスメイトだけではない。中二階の回廊状見学席には、この時期、既に自由登校になっっている三年生たちがいた。その中には、前生徒会長の真由美と前風紀員の摩利の姿もあった。
「・・・司波に匹敵する魔法力。・・・本当だと思うか?」
「ある意味、アメリカを代表して来たわけだから、ありえないことじゃないけど、それでも信じ難いわね。深雪さんと拮抗する魔法技能を持ってるなんて」
「やはり、実際にこの目で見ないと」
「だからここにいるんでしょ」
深雪達のクラスがやっている実習は同時にCADを操作して中間地点に置かれた金属球を先に支配するというシンプル且つゲーム性の高いもの。シンプル故に単純な力量さが露わになる。
先月から始まったこの実習。当然の如く、深雪は同級生をまるで寄せ付けなかった。それ程、深雪と同級生との差があった。その事実を聞きつけた真由美と摩利が深雪の相手に名乗りを挙げる。しかし、この二人をもってしても敵わなかった。
勝負は一瞬で着いた。金属球がリーナへ向かって転がった。
「あーっ、また負けた」
「フフッ。これで私の勝ち越しね」
悔しがるリーナと安堵の笑みを浮かべる深雪。
「・・・全くの互角だったわね」
「イヤ・・・術式の発動は留学生の方が僅かながら早かったんじゃ・・・」
「えぇ、でも干渉力で深雪さんが上回っていて、魔法が完成する前に制御を奪い取った。スピードを優先するかパワーを優先するか・・・単純に力量で勝っているというより、作戦勝ちってところじゃない?」
その日の実習は深雪のリードで終了した。
お昼時、いつもの学生食堂。
今日はリーナが同席しているが、これは毎日というわけではない。編入から一週間、彼女には沢山のお誘いがあり、その都度、違う相手と食事をしていた。達也たちと一緒にお昼を食べるのは初日以来のことだ。
「大人気ね、リーナ」
「皆さん良くしてくれるから嬉しいわ」
「でも、リーナは凄いね。まぁ、選ばれて留学してくるくらいだから実力者だと思っていたけど、まさか、深雪さんと互角に競えるなんて」
「驚いているのはむしろワタシの方なんだけど・・・これでも、ワタシ、向こうの学校じゃ負け知らずだったのに。深雪には勝ち越せないし、ほのかには総合力なら負けてないと思うけど、精密制御では確実に負けてる。さすが、魔法技術大国・日本よね」
「リーナ、実習は実習で試合じゃないわ。あんまり勝ち負けなんて考えない方がいいと思うけど」
「でも、競い合うことは大切よ。例え実習でも折角ゲーム性の高いカリキュラムなんだから、勝ち負けに拘った方が上達すると思うわ」
「やってる最中は競争心を持ってもいいんじゃないか。ただ、終わった後まで引きずる必要はないと思うけど。実習は評価に結び付く実技試験とは違うんだから」
「・・・そうね。達也の言う通りかも。ワタシ少し熱くなり過ぎたかも」
「なぁ、リーナちょっと確認したいんだが・・・」
「あら、何かしら」
「アンジェリーナの愛称って普通はアンジーじゃないのか?」
「えっと。普通はそうだけど、別にリーナって略すのも珍しくないのよ。ワタシの場合は向こうの学校にアンジェラって子がいたし、皆もアンジーより、リーナの方が呼びやすいでしょ」
「ふーん。まぁ確かに」
「お帰りなさい、リーナ」
「シルヴィ、先に帰ってたんですか?」
「もう夜ですよ」
色々と寄り道したリーナが帰宅するとシルビィーが出迎えた。リーナは制服のままダイニングに移動した。するとそこに見知った人物がいた。
「ミア、来ていたんですか?」
ダイニングにいたのはミカエラ・ホンゴウ。彼女はリーナ達より先に送り込まれた諜報員の一人。諜報員といっても本職は魔法研究者で十一月にダラスで行われたブラックホール実験にも参加していた程の才媛である。
「ミア、何か分かりましたか?」
「いえ、特には・・・」
「リーナの方はどうです?少しはターゲットと親しくなりましたか?」
「少しは親しくなったとは思いますが・・・肝心な事は何も。もしかしたら先にコッチの正体がバレちゃいそうです」
「・・・何があったんですか?」
「達也にアンジェリーナの愛称はアンジーじゃないのかって聞かれました」
「偶然では?」
「分かりません。さっぱりです。やっぱり向いてないんじゃ・・・」
「・・・」
「・・・大丈夫。相手は所詮高校生。私があのシリウスだなんて本気で考えるはずがありません。仮に疑われても尻尾を掴ませたりはしませんよ」
心配そうな二人の視線に気づいたリーナは自分に活を入れた。