これとあともう一つ普通の幻想入りも書く予定。
夜の帳が下りた街。
家路に着く者。酒の席へと向かう者。夜の時間を謳歌する者。十人十色千差万別、そこには人の営みがある。
そんな営みから外れた街路樹の裏。
「はぁ、はぁ…!?」
「おいコラー!待ちなさいっての!」
迷路の様な細い路地を走る二人。
一人は男。ダンボールを踏み潰しゴミ箱を跳ね除け角をトップスピードで曲がる。
「チッ、アイツ意外と速いわね!」
一人は女。悪態をつきながらも、決して見失わない速度で男を追い続ける。
しかし、その逃走劇も終わりを迎えることになる。
男が逃げた路地の先、その向こうに明かりが見えた。この道は真っ直ぐ行くと大通りに通じている。そしてこの時間帯、大通りは仕事終わりのサラリーマンなどでごった返しており、紛れて仕舞えば捕まることは無い。
(へっ、どうやら俺にもツキが回ってきてるみたいだな……っな!)
だが、ここで邪魔が入った。
路地からの死角。左の道の角からふらりと少女が現れたのだ。
金髪の、どこか近寄りがたい雰囲気のある少女。が、そんなことはどうでもよかった。大通りまでは目と鼻の先。依然、後ろから聞こえる喧騒がある限り、ここで止まるわけにはいかない。
「悪いな嬢ちゃん!どけ ───
ふと、考えた。どうして彼女はこんなところにいるのだろうと。
ここは大通りに近くてもやはり路地裏。
ましてやこんな少女が来る理由が思いつかない。それならばなぜ……?
想像が現実味を帯びてきた、そんな0.1秒。男の世界はガラリと変わる。
視界は少女から夜空へ、体はまるで重力を失ったかのように軽く。
が、すぐに暗転。身体への重みも先程以上なものへと変わった。
動かない。動けない。動かせない。唯一動く瞳ももう少しで閉じてしまう。
薄れていく景色の中、最後に見た光景は後ろから追いかけてきた少女と路地から現れた少女。そして見知らぬ少年がハイタッチをする姿だった。
★
「暇だわ」
本日の宇佐見蓮子の放課後最初の一言はそれだった。空のティーカップの端をついばみ、カチカチ音を鳴らす様は誰が見ても不満げな表情だ。
「もう蓮子ったら。昨日も同じこと言ったじゃない」
そしてその対面、本日のマエリベリー・ハーン。通称メリーの、放課後これが最初の一言。紅茶を一口飲み呆れた顔で蓮子を見つめている。
少女達はテーブルを挟みながら話す。
紅茶のおかわりを貰った蓮子は、しかし口をつけず椅子にもたれかかる。
「だってー、昨日のアレも違ったしさ〜」
「結局ただの強盗犯だったものね」
「そうよ!なにが『神出鬼没!謎の黒い怪人』よ!ホント、損したわ」
「能力持ちでもなかったわね」
ぶーっと口を膨らませる蓮子が持っているのは今日のネットニュース記事。その一面にはデカデカと新発表された最新デバイスのことが載っておりひったくり犯など小さく片隅に追いやられていた。
期待していた分の落胆と無駄な時間を過ごした勿体無さから、二人の間になんとも言えない沈黙が生まれる。
チクタク チクタク
「あーあ、面白いことないかしら」
チクタク チクタク
「暇だー……」
チクタク チクタク
「…………」
無言無音。沈黙。
「 ── っていうか……
アンタはさっきからなんで絡んでこないのよ!」
斜め45度、渾身の振り下ろしから入れたらハリセンが後頭部向かって白い軌跡を描く。スパーーッン。
こ う か は ば つ ぐ ん だ !
かなり気持ちよく入ったハリセンの持ち主は、それでも納得いかないようで腕を組み被害者である男を睨めつける。
対して男の方は、頭をさすりつつも同じように睨めつけ、そしてまたもや作業という名のデスクワークへと視線を戻す。
それにまたもや筋を立てる蓮子。
「大体なに?こんな美人が二人もいるのにいつまでも資料と睨めっこなんて。……ハッ!アンタまさか……!?」
「おい待てこら!俺の第一声をツッコミにするんじゃない!読者様方にキャラが定着するじゃないか!それから俺はホモじゃない!」
「何バカなこと言ってんの?それに私は一度もホモなんていってないわよ。自分で言うところが尚のこと怪しいわね」
はぁ、と男はため息を吐いた。こうなっては何を言ったも無駄なことは分かってる。
メリーに投げた救助の視線もニコニコとこちらを見ながら流されてしまった。
はぁ、ともう1度肩を落とす。
…………。
さて、そろそろ三人称で語り継ぐのも面倒くさ(ゲフンゲフン 飽きてきた方も多いだろう。ここらで一旦やめにして、自己紹介へと移らせていただく。
俺の名前は
まぁ、俺は二人と違って仕事をしながらの参加になるんだがな。
「……アンタ何ボーっとしてんのよ?そんなに痛かった?」
「ん?別に痛くは無かったよ。ただ自己紹介してただけだ」
「自己紹介?誰によ」
「そりゃお前、俺らのことをどこかで見てる超常的なお方相手に決まってるだろ?」
「え、マジで!どこ?!神様妖怪様幽霊様!?」
「いや、冗談だから落ち着け……」
いい歳こいてキラキラと目を輝かせやがって、まるで夏休みの少年じゃないか。
それとメリーさん?さっきからニコニコ笑顔でずっとこっち見るのやめてくれませんか?固まってますよ死んでるんですか本当に大丈夫ですか息してますか?
ピンポーン
と、本格的にメリーの表情筋が心配になってきた頃、チャイムの音が鳴った。それまでドタバタしていた蓮子も大人しくなる。
メリーは、いつの間にやら奥に引っ込んだようだ。相変わらず空気の読めるお人で。蓮子もすこしは見習えばいいと思う。
まぁ、そんなことはどうでもいい。
「ほらお客さんだ。お前も奥に下がってろ」
「あら、いいじゃない。丁度暇してたところよ。ナイスタイミングだわ」
「………じゃあ給仕係でもしててくれ。出来れば余り話には入ってこないように」
未だ陰らない目の輝きに頭を痛めつつも、待たせるわけにはいかずドアノブへと手をかける。
捻る。回す。押す。
さて、今日はいったいどんな厄介ごとやら……って、俺も人の事は言えやしないな。
「ようこそ、阿蒼探偵所へ」
だってこんなにもワクワクしてしまっているのだから。
★
今回の依頼主は主婦だった。
依頼内容は、『消えた息子を探して欲しい』……数週間前に行方不明になった息子の捜索だそうだ。
少年の名前は
聞くところによると彼は真面目で夜遊びも殆どないような今時珍しい程の優等生だったらしい。そんな彼がある日、忽然と姿を消した。気づいたのは昼過ぎ、学校から連絡があってからという。
勿論警察には連絡し捜索依頼も出したが、数日経っても音沙汰無しだったそうだ。そんな時、阿蒼探偵所の噂を聞きつけてきたとか……
「……お母様、大変心配していたわね」
「そりゃそうでしょ。今の世の中、監視カメラが届かないところなんて殆どないのよ?それこそ衛生からの中継も入れたらこの世に隠れられる場所なんてないわ。そんな世界で警察が数日経っても見つけられないなんて、それこそ神隠しみたいなものでしょ」
暗い表情のメリーに蓮子は淡々と告げる。彼女は他人に興味がない。が、だからと言って人情のない人間ではない。蓮子には蓮子で思うところがあるんだろう。
それを口に出さないだけで…
「………っておい。なんでお前らがここにいる?」
何食わぬ顔で混ざっている二人に問う。というかというか何時からいた?
「別にいいじゃない。私も蓮子も暇なのよ」
「そーだそーだ!刺激を提供しろー!」
ストライキ起こすな。メリーに至ってはさっきまでのくらい顔はどこにいったんだよ?
……あーあー!周りの人から煙たい目で見られてるからやめなさい!
「……まぁ、今更言ったところで、か……だがついてくるんだったら協力はしてもらうぞ」
「分かってるって!ほらほらキビキビ行くわよー!」
「あ、待ってよ蓮子ー!」
「へいへい」
そうして歩き出す。ったく、ここの責任者は俺の筈なんだがな……
……………………………………
……………………………
………………
一通り聞き込みをし、三つのことが分かった。
まず一つ、古賀真斗はやはり素行のいい優等生だったようだ。同じ学校の生徒からも評判が良く、次期生徒会長の有力候補とも呼び声の高い生徒だったという。
そして二つ、最近彼の学校ではある『おまじない』が流行っているそうだ。
といってもこの科学の時代、ひと昔のおまじないなんて流行るはずもない。
どうやらパソコンを使って行うもののようで彼の学校では殆どの生徒がやっているらしい。
そして最後。この三つ目が中々キナ臭い。
「……まさか他にも行方不明の生徒が居たなんてね」
メリーがボソリと呟く。
そう、実は彼の学校では他にも居なくなった生徒が居たのだ。
時期は約三ヶ月前から、現在では約6名の生徒が行方不明となっている。
こんな事なら、もっと大々的にニュースなどで取り上げられても良いのだが……
「あのクソ学校。全部秘匿してやがったわね」
「事件性は高いが証拠は無い。時期もバラバラ。おまけに学年学級もバラバラ。学校側としては公にするよりも隠す方が都合がいい訳だな」
「ま、アンタの前で隠し事なんて無意味だけどね」
「……あんまし褒められたことじゃないがな。だが、今回の事で少なくともニュースには取り上げられることになるだろうな」
「6人目だしね。古賀真斗君の知名度も中々高いようだし、もう隠せないでしょう」
学校を後にしながら三人でそれぞれ意見を言い合う。
しかし、どうもキナ臭い。面倒な匂いがプンプンする。
古賀真斗の他にもいた行方不明者。これをまだ6人と考えるか、もう6人と考えるか。
それ以前にこれが全て同一の事件である可能性も少ない。判断材料が少な過ぎるな。
じーーー
そうして考え込んでいると、蓮子が横から覗き込んでいるのが分かった。
「…………なんだよ」
「べっつに〜?ただアンタ、久しぶりにいい顔してるなと思っただけよ」
「そうかぁ?いつも通りの仏頂面だと思うがね?」
「ま、その通りね」
「…おい!」
なんなんだよこいつは。つか近かいよ。
蓮子は笑いながら数歩前へと出る。
「ま、いいわ。アンタがやる気を出す事なんて稀だし、それにこの件。面白そうだわ」
「面白そうってお前なぁ」
「───この件、全て同一犯よ。間違いないわ」
「…………」
急に真面目な顔になった蓮子が、静かに言う。
こいつの勘は、よく当たる。しかも面倒くさい事に関しては、ズバ抜けて。
「……そうか分かった。その線で捜査しよう」
「ふふっ、相変わらず紅弥くんと蓮子はラブラブね」
「ちょ、メリー!そんなんじゃないっていつも言ってるでしょ!」
「うふふ分かってるわよー。照れ隠しなのよね?」
「違うってば〜!」
せっかくカッコ良かったのに、台無しだぜまったく。
でもまぁ、メリーのお陰で空気が和んだのは事実だな。少し張り詰めてたし。
ホント、よく空気が読める奴だよ。
「ま、なんにしても捜査は明日からだ。今日はこれで帰ろう」
「そうね、ってやば!今日見たいテレビがあるんだった!メリー早く帰るわよ!」
「ちょ、急に走らないでよ蓮子!!」
そう言って蓮子達は駆けていった。
ったく元気だね。近所迷惑だけにはなるなよ?
そうして、古賀大和失踪事件捜査の1日目は夕暮れとともに幕を閉じた。
そう、この時はまだこの事件が俺を、そして蓮子とメリーの運命を狂わせる、その序章であるとは……誰も予想すらしていなかったのだった。
主人公の能力がなんなのか当ててほしい