これ、結構強力なんですよね
極めれば肉を貫けるんですから
ほぼ、殺人級の技ですよ
彼女はもう1人、問題がある人の所に向かった
「そこの方、ちょっといいですか?」
「え?はい、何ですか?」
彼女が声をかけたのはそこそこの歳をした男性
「おや…
貴方、眼病なんですか?」
「……はい」
彼の目は絶えず彼方此方に動き回っていた
『眼球震蘯症』
眼球が何らかの原因で意思とは無関係に動く病気だ
彼のはかなり酷いもので、上下左右に大きく動いている
「一体どうしてそのような目に?」
「子供の頃に、その…
崖から落ちて頭を強く打って
それ以来こんな目になってしまいました…
医者にも相談したのですが、治せないって…」
「ふむ、あのめちゃくちゃな動きはその目の所為でしたか」
「こんな目じゃ武術なんて出来ませんよね…
ごめんなさい…」
「別に出来ますよ?」
「え?」
「貴方は元々周りのものが勝手に動いて見えましたか?」
「見えてないです」
「貴方は目の前の人が右往左往してるのを見つめて真っ直ぐ歩けますか?」
「歩けません」
「では、その人を気にせず歩いたら真っ直ぐ歩けますか?」
「それは歩けますよ」
「ではどうすればいいと思います?」
「さぁ…」
「周りのものが動いてると思わなければいいんですよ
貴方の身の周りのものは勝手に動いてるわけではないんですから
目が勝手に動いてないと思えばいいんです
貴方は元の通り、目の動きを気にせずにいればいいんです」
「そ、そんなことで治るんですか?」
「えぇ、体を動かすのは心です
心を正常に保てば、目が勝手に動いても問題ありません」
「ど、どうすればいいですか?」
「まずは心身を統一しなければいけませんね
『一教運動』をやってください
まず、左足を軽く半歩前に出してください」
「は、はい」
「拳を握って腕を真っ直ぐ下に伸ばしてくださいね」
「はい」
「そうしたら1の号令で両手を目の高さに上げるのと同時に腰を前に出してください」
「こうですか?」
「はい
そうしたら2の号令で腰を元に戻して、拳を握って両手を下に真っ直ぐ伸ばしてください
最初の姿勢ですね」
「はい」
「そうしたら腰を右に回して後ろを向いてください」
「はい」
「そうしたら3の号令で先程言った両手を前に出す動きをしてください」
「は、はい」
「そうしたら4の号令で手を戻してください
さっきの動きを後ろを向いてやっただけです」
「は、はい」
「これを繰り返してください」
「は、はい」
「それじゃあ行きますよ〜?
さんはい
1、2、3…」
「うわっ!!」
「おっと危ない」
彼は後ろを向いて腕を上げようとした瞬間バランスを崩して倒れた
それを彼女は受け止めた
「何故、倒れたかわかります?」
「え…えっと…」
「貴方の心が動きと一致してないからです
貴方は振り返った時、心はまだ振り返っておらず、置き去りにされてしまってます」
「う…確かにそうかもしれません…」
「心を落ち着かせてもう一度やってみてください
さんはい
1、2、3、4
1、2、3、4
1、2、3、4…」
彼はさっきとは違い、スムーズに出来ていた
「出来ます!!出来ますよ先生!!
私、こんな目なのに出来ますよ!!」
彼は涙を流して喜びながら運動を続けていた
「その調子ですよ!!頑張ってください!!」
数分間これを続けた
すると今度は彼に『不動の体』を教えた
すると彼はあっという間にそれをものに出来た
彼は目が不自由でありながら、片足で立っていても体がブレず
押されてもビクともしない不動の体をものにした
それで彼に一教の稽古を再びやらせると、さっきとは異なり、自在に技をかけられるようになった
「ありがとうございます先生!!ありがとうございます!!」
彼は土下座して彼女に泣きながら感謝した
「ははは、心さえしっかりしていれば大丈夫ですよ
これからも頑張ってください」
「はい!!」
「(さて、これで全部終わりましたね
今度は別の形稽古をさせましょうか)」
今回の話は藤平光一さんの話を元ネタに書きました
ウィルソン・ラウという元米兵で、眼球震蘯症の人に藤平さんが教えたものです
この方は藤平さんの稽古のおかげで、車まで運転出来る様になったそうです
彼は後にハンドルがグニャグニャに変形するほど大きな交通事故に遭いましたが、無傷だったそうです
彼に警察だかの方が聞くと「心身を統一して無敵の体でいたから平気だった」と答えたそうです
警察の方は誰も彼が運転していたとは信じられなかったそうです
いや〜、氣ってすげ〜な
本当凄いですよ