『……ふむ、君も駄目か』
声が聞こえる。言葉の意味はまるで理解出来ないが、そこに倒れている先程まで動かしていた人形、アリーナで学んだ戦闘などから、もしかしなくとも何かしらの試験だったのかもしれない。
『そろそろ刻限だ。君を最後の候補とし、その落選をもって、今回の予選を終了しよう。』
だが、例えそうだったとしても、今の自分には関係のない話だろう。自分の操作していた人形は崩れ、自分は地に伏している。体は動く事を拒否しており、痛みが全身を這い回っている。……自分は、敗北したのだ。
『──さらばだ。安らかに消滅したまえ』
──いやだ、死にたくない。今の自分はそれしか考えれない。しかし、どれほど生存本能が働こうと、体が動かないのではどうしようもないではないか。
どうしてこうなった?何も変わりない日常に違和感を持ったのが始まりだったのだろうか。まるで機械──いや、正しく機械だったのだろう。あの柳洞一成を見た今なら分かる。あれはプログラムされた行動しかしない、生命の欠片も感じれない物だ。
頭痛と違和感の原因を探った結果が、この有り様だ。自業自得、というやつだろう。真実を知ろうとし、目を背けなかったのは自分なのだから。
伏したまま辺りを見渡せば、月海原学園の生徒が何人も倒れている。指1つ動かさない死体の山は、まるで墓標のようだ。彼らも違和感を感じ、ここに辿り着き、そして敗北したのだ。
そして先に来た彼らの末路がそうなら、自分の末路も同じ。誰にも看取られず、大量の死体に新たな1つが加わるだけ。
今の自分は、魂を必死につなぎ止めている状態だ。少しでも力を抜けば、苦痛から解放される。──ああ、それでいいような気もする。起き上がろうとも成果は無く、返ってくるのは激痛のみ。二度、三度起きようともなにも変わらない。なら、楽になったほうがいい。
だがふと、1人の生徒を思い出した。特徴的な赤い制服。高貴さを感じさせる黄金の髪。平凡な自分では一生掛けても届かない、太陽のような少年。
『お別れを言うのは間違いだ。今の僕は理由もないのに、また貴方に会える気がしている。だから、ここは──また今度、と言うべきでしょうね。』
彼は言った。『また今度』と。再会しようと。では、今の自分はなんだ?生を諦め、起き上がる事も諦め、目を閉じようとしている。
諦めていた四肢に、再び力を込める。激痛が走る。走る。走る。だが止めない。止めたくない。少年の言葉は、約束でもなんでもない。ただの推測、期待に過ぎない物だ。だが何故か、その期待を裏切りなくなかった。
『……うん?』
力をもっと込めろ。自分はこんな所で終われない。苦痛で顔が歪むのが分かる。だが、それでも。あのままでは何もしなくとも死んでいた。この行為が死期を早めるなど承知の上。だが、諦めたくない。この抗い、これを通してこそ自分だ。無意味に死ぬか、何かに抗って死ぬか。どちらが良いかなど、問われるまでもない──!
『へえ。随分と粘るじゃない』
どこからか声が聞こえた。女性の物のそれは、自分を試しているような声色だ。
『もう貴方で最後だし……。その足掻きぶりも、少し気に入ったわ』
声が鮮明になっていくと同時、力が戻る感覚に襲われる。が、同時に痛みも増していく。だが関係ない。立てる力が戻ったのだから、痛みなど気にしていられない。さあ立ち上がれ。意地を見せろ──!
『さあ、死にたくないなら強く願いなさい。生きたいと──』
声に言われるまでもない。自分は生きる。まだ何も分かってないのだ。何故こんな事になったのか。それを知るまで、自分は終われない。
瞬間、広間にあった巨大なガラスの3枚の内、左右が割れ、光の柱が生まれた。痛みは絶え間なく続いている。しかし何故かあれを見逃してはならないと感じ、尻餅をつきながらも光を見つめる。
光が次第に収まると、1つの存在が見えてきた。第一印象は黒。黒いコート、黒い甲冑。美しく、しかしどこか暗い顔。手に持っている旗には、竜の紋様が描かれている。女騎士、だろうか。
その存在感は圧倒的。道中で遭遇したエネミー、それを倒す為に使っていた人形など比べるまでもない、暴力の塊。そんな存在は此方を向き、近付いて、一言。
「問うわ。貴方が私のマスターかしら?」
言葉の意味は分からなかった。だが、この問いに答えなければ死ぬという確信があった。同時に、答えれば助かるかもしれないという希望もあった。これは賭けだ。どうなるか分からない。なにかとんでもない事に巻き込まれた事も分かっている。だが、今はただ生きたかった。故に答える。
「俺が……俺が、君の、マスターだ!」
激痛のせいで上手く言えなかったが、なんとか言葉を紡いだ。その無様な返答に彼女は、祝福するような、それでいて嘲笑うような笑みを浮かべた。
「ふふ、いいわ。私はサーヴァント、アヴェンジャー。ここに契約は完了した。精々私を楽しませなさい?」
アヴェンジャーと名乗った彼女の言葉に呆然としていると、ふと右手の甲に別の痛みが走る。反射的にそこに見ると、そこには見慣れぬ三画の赤い紋様があった。
「それは令呪。それがある限り、貴方は私を従える事が出来る。大事に使うことね」
後ろでカタカタと音がなった。振り向けば、自分を倒したあの人形がいる。未だ走り続けるこの痛み、死の断片は、全てあの人形が与えたものだ。思わず恐怖し、身が強張る。
「あら、契約に水を差すなんて不粋なガラクタね。ちょっと物足りないけど、初戦なら丁度いいかも。マスター、命じなさい。貴方が命令し、私が従う。簡単でしょう?」
……正直、よく分かってない。サーヴァントという意味も。この令呪とやらがどういった物なのかも。しかし、彼女は命じろと言った。この命令が、生を繋げれるのなら。なら、答えは簡単だ。
「……あいつを倒せ、アヴェンジャー!」
その言葉を聞くと、彼女はごく自然に腕を振った。すると、人形の足下から炎が燃え上がり、人形を燃やしていくではないか。
焼かれながらも徐々に近付いてくる人形だが、自分とアヴェンジャーの目の前に来る頃にはボロボロだった。おぼつかない足取りで、小突いたら倒れそうである。激痛に襲われている自分と同じようだった。
形を保っていた人形も、アヴェンジャーが腰に差していた剣を人形に突き立てると、内側から炎が溢れ崩れていく。あっけない最後だった。
「もうお終い?人形は駄目ね。悲鳴が聞こえないもの」
最後に少し物騒な言葉が聞こえたが、気にしない。彼女に感謝の言葉を伝えようとするが、途端に令呪の痛みが増した。激痛に耐えてきたが、そろそろ限界かもしれない。その時、あの声が届いてきた。
『手に刻まれたそれは令呪。サーヴァントの主人となった証だ』
痛みはどんどん増していく。しかし、彼の言葉は聞き逃せない物だ。倒れるのは、全て話を聞いてからでなければ。
『使い方によってサーヴァントの力を高め、あるいは束縛する、三つの絶対命令権。まあ使い捨ての強化装置とでも思えばいい』
サーヴァント。恐らくアヴェンジャーの事だろう。彼女への、絶対命令権。しかし命令しても効果が薄そうな気がするのは、気のせいなのだろうか。
『ただし、それは同時に聖杯戦争本戦の参加証でもある。令呪を全て失えば、マスターは死ぬ。注意することだ。』
聖杯戦争という言葉がどこか引っかかるが、思いだせない。とはいえ、命令権は三回。しかし全て失えば死ぬということは、実質二回のみ、ということだろう。
『まずは、おめでとう。傷つき、迷い、辿り着いた者よ。ここがゴールだ。少々予想外のサーヴァントだが、それもまた面白くなるだろう』
痛みで意識がぼやける。それを必死に堪えるも、そろそろ限界が近付いてきた。
『随分と未熟な行軍だったが、だからこそ見応え溢れるものだった。誇りたまえ。君の機転は、臆病ではあったが蛮勇だった』
その声を聞いていると、何故か癪に触る。声的に三十代半ばの男だろうか。場所的に
『私の
そこが限界だった。最早声は欠片しか聞こえない。最後に、聞こえてきたのは──
─ではこれより、聖杯戦争を始めよう─
─いかなる時代、いかなる歳月が流れようと、戦いをもって頂点を決するのは人の摂理─
─月に招かれた、電子の世界の
幕は上がった。最弱の魔術師と、別世界にて聖杯によって創られた特異なサーヴァント。
彼等の行く末は、まだ誰もしらない──
出たら続くかもしれない。なお更新速度はお察し
どうしてムーンセルに邪ンヌがいるとかのツッコミは無しでお願いします……