風も雲も一つとして無い晴れた空に、敵艦載機が耳障りな音を立てて飛んでいく。
あたしは岩場の陰からそれを見て、ほっと息を吐いた。
「行ったみたい」
しかしわたしと違い、同じく身を縮めている雲龍姉ぇと天城姉ぇの表情は暗い。
「ほかの僚艦は?」
「みんな通信途絶」
「残ったのは、私たちだけ……」
「そうだね」
と言って場の空気がさらに沈んでしまったことに慌ててしまう。
「だ、大丈夫だよ! こっちには空母が三隻!」
「艦載機はほとんど残ってないけどね」
雲龍姉ぇは嘆息する。
「『昔』だって僚艦がいないなんてことよくあったじゃない。今回だってなんとかなるよ!楽勝だよ!」
「楽勝って……貴女、戦ったことないでしょう」
「雲龍姉ぇは痛いところを突くね……」
でも! とあたしは鼻息荒く二人を見やる。
「戦った経験がないからこそ敵の裏を突けると思わない?」
「思わない」
「雲龍姉ぇ~」
「まぁでも、このままじっとしていてもどうしようもないですし……。葛城、なにか策があるの?」
天城姉ぇは落ちついた声音であたしに問うた。
「うん。ある」
あたしは背筋を伸ばして日々薄い薄いと言われている胸を張る。
「はい」
あたしは二人に向けて手を開いた。
「……なに、その手は」
「二人の残った艦載機ちょうだい」
「なにするのよ?」
「いいからいいから」
「えー」
「雲龍姉様」
「わかった。ちゃんと使いなさいよ」
あたしは二人から残った艦載機を受け取ると、ボウガン型の射出機に装てんする。
「それで、策は? 勝てるの?」
「うん。あっと言わせてやるんだから」
「だから作戦」
「作戦は――」
あたしは豊かな新緑を思わせる迷彩色の着物をはだけ、主機を唸らせて岩陰から躍り出た。
「特攻だよ!」
雲龍姉ぇが目を白黒させる。
「貴女特攻したいだけでしょ!?」
「天城姉ぇ、帰ったら……お昼のカレー楽しみにしてるね!」
「フラグかしら?」
困惑する姉二人を残しあたしは敵艦隊めがけて突っ込む。
「うおおおお!」
叫びながら、がむしゃらに艦載機を射出。
「わったぉ!?」
ボウガンの反動で体勢を崩して海面に転がりそうになる。
「いけいけー!」
艦載機は青い空に吸い込まれるように飛んで――
「あ……」
そのまま空中で爆散した。
「うそ!」
あっという間に敵側の艦載機が大挙して押し寄せてくる。
しかもやたら精度の高い敵水上艦の砲弾というおまけつきだ。
「うわ! わわわわ!?」
至近弾や敵機の魚雷、急降下爆撃。一瞬であたしの周囲数十メートルは地獄絵図へと変貌した。
「ううう!」
艦隊の総攻撃ともいえる攻撃に、たった一隻の空母の障壁が耐えられるはずもなく。あっという間にあたしが展開した防御障壁は砕けて、主機が爆発。苦し気な音とともに黒い煙を吐き出した。
「やばいやばい……」
推進力が目に見えて無くなったエンジンをむりやりかけて少しでも敵艦隊に近づく。
せめて、せめて一矢を報いたい。
だって、あそこには、瑞鶴先輩がいるのだから。
「見えた」
遥か前方。敵艦隊が姿を現した。
レンジ内!
「稼働全艦載機! 発艦――きゃあ!」
まさに艦載機を射出しようとしたその時、目の前に突如現れた駆逐艦の砲撃でボウガンが弾け飛ぶ。
「はい、今日の演習は終わり」
艦隊旗艦で、秘書艦でもある時雨が研ぎ澄まされた刃のように鋭い眼光で、わたしを見上げた。
ぐり、とお腹に砲塔が押し付けられる。
「あ、ごめんなさい――」
咄嗟に出た最後の言葉は、なぜか謝罪だった。
時雨の12.7cm連装砲が火を噴いた。
かくして、本日行われた午前の演習は完膚なきまでに叩き潰されて終了したのだった。